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今,ゲーム関連書籍は世間的にどういった位置付けなのか。著者3名が意見を交わした「黒川塾 九十三(93)」聴講レポート
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印刷2023/11/18 10:00

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今,ゲーム関連書籍は世間的にどういった位置付けなのか。著者3名が意見を交わした「黒川塾 九十三(93)」聴講レポート

 2023年11月15日,東京都内でトークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 九十三(93)」が開催された。このイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものだ。

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 今回のテーマは「ゲーム書籍は売れるのか 〜ゲーム考古学 著者に訊いてみた」。2023年に相次いでゲーム関連書籍を出版し,反響を呼んだ奥成洋輔氏鴫原盛之氏をゲストに迎え,ゲームの歴史的な価値やゲーム関連書籍の意義などについて意見を交わした。

(左から)奥成洋輔氏,鴫原盛之氏,黒川文雄氏
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ゲーム書籍出版の経緯


 奥成氏は,1994年にセガ・エンタープライゼス(当時)に入社し,2005年以降は同社の過去タイトルの復刻プロジェクトを数多く手がけてきた。2023年7月3日には白夜書房より,個人名義で書籍「セガハード戦記」を執筆している。奥成氏によると,書籍の執筆はあくまでも副業であり,「メガドライブミニ」シリーズなど一連の復刻プロジェクトを1冊にまとめた経験を本業に生かしたいと語った。

 今回,奥成氏が「セガハード戦記」を執筆したきっかけは,2020年にセガの設立60周年を記念してリリースした「ゲームギアミクロ」について,白夜書房のWebサイト「ミライのアイデア」からインタビューを受けたことだという。その約半年後,白夜書房の編集者から「本を書かないか」とオファーを受けたそうだが,当時は「メガドライブミニ2」のプロジェクトが始まっており,奥成氏は無理だと考えていた。
 しかし「メガドライブミニ2」の宣伝にもなることから,試しに「ミライのアイデア」で連載してみて,反響があったらそれを書籍化するという形で話がまとまったそうだ。ただ,本業と副業の両立は難しく,また連載の書籍化にあたって加筆・修正が必要だったため,「メガドライブミニ2」のリリースから半年以上経ってから「セガハード戦記」は出版された。

 ちなみに,黒川氏は9月8日に4Gamerの連載をまとめた「ビデオゲームの語り部たち 日本のゲーム産業を支えたクリエイターの創造と挑戦」をDU BOOKSより出版しているが,何社かに企画を持ち込んだところ,ことごとく「ゲームの書籍は売れない」と断られたという。

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 鴫原氏は,1993年に「月刊ゲーメスト」で攻略ライターとしてデビューし,2004年よりフリーライターとして活動している。近年は文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業のゲーム関連分野などに参加し,ゲーム産業史のオーラル・ヒストリー収集およびアーカイブ関連の仕事も手がけている。

 鴫原氏は8月29日,Pヴァインより「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」を出版しているが,そのきっかけは「ニューラリーX」や「リブルラブル」などの楽曲を手がけた大野木宜幸氏が2019年に亡くなったことだった。それまで効果音しかなかったゲームに楽曲を入れた,いわばゲームミュージックの開祖とも言える大野木氏の伝記を書きたいと考えた鴫原氏は,2020年から大森田不可止氏ら当時のナムコ関係者にヒアリングを始めたが,コロナ禍により一旦中止。2021年に入ると小野 浩氏や大森田氏といったナムコ関係者の訃報が相次ぎ,コロナ禍が落ち着いたところであわててヒアリングを再開したそうだ。

 2022年,鴫原氏は複数の出版社に書籍「大野木伝」の企画を持ち込んだが,やはり断られたとのこと。そこでゲームミュージック研究の第一人者として知られる田中"hally"治久氏に相談したところ,Pヴァインを紹介されたそうだ。同社の担当者から「『大野木伝』では売れるかどうか分からない。ナムコ初期のアーケードゲーム全般にフォーカスしたほうがいい」と提案され,出版に漕ぎ着けた。


ゲーム産業におけるジャーナリズム


 続いての話題は「ゲーム産業におけるジャーナリズムとは」。奥成氏は黎明期のゲームメディアにて,ゲームに収録されているほぼすべての画像が掲載されているケースがあったことに言及した。しかし,1987年に雑誌「ハイスコア」が「ドラゴンクエストII」の掲載規制に反する画像を載せたため,エニックス(当時)から裁判所に仮処分申請を出されたことをきっかけに状況は一変。ゲームメディアはゲーム会社にどこまで公開していいのかを確認するようになり,次第に「今月はここまでOK」という規制が形成されていったのではないかと経緯を推察した。

 鴫原氏は,「ゲーメスト」の攻略記事を執筆していたときのエピソードを披露した。アーケードゲームもまた,掲載可能な範囲をゲーム会社が定めていたが,それはタイトルの寿命を縮めないため──ひいてはゲームセンターに利益をもたらすためと説明され,すごく納得できたという。

 また奥成氏は,1990年代中盤のセガサターンとPlayStationによる次世代ゲーム機戦争の当時,セガサターン専門誌だけで7誌あり,ゲームメディアが盛り上がっていたと語る。全誌が独占情報を欲しがるため,それぞれに切り分けて情報を出していたそうで,その頃が一番,ゲーム会社の声が強かったのではないかと述べた。

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 ゲームの攻略本に話題が移ると,奥成氏は「使命を終えつつある」と評した。今やSNSなどでゲームの情報を交換できたり,攻略動画が配信されたりして,プレイヤーが悩む機会がなくなったこと,そしてゲーム自体が親切になり,イベントを見逃したり,アイテムを取り損ねたりしても,すぐにやり直せるようになったと指摘する。
 またオンラインゲームの場合は,本を作っている間にアップデートが行われると意味がなくなってしまう。インターネットを使う機会の少ない人達,たとえば小学生が好んでプレイする「Minecraft」や「ポケットモンスター」などでないと,攻略本を作りにくいだろうと見解を示した。

 鴫原氏は,誰もが絶対に売れると思うようなタイトルでないと,まず攻略本は出ないと述べた。また,攻略本ならではの付加価値を持たせる必要があるという話になると,奥成氏は自身が関わった攻略本で最も売れたのは「新世紀エヴァンゲリオン 2nd Impression バイブル」だと明かした。同書は攻略本を名乗りつつも,ゲームのフィルムブックのような内容であり,「エヴァンゲリオン」のファンが手元に欲しくなるものだったそうだ。

 さらに鴫原氏は,2000年代のあるときから格闘ゲームのムックが売れなくなったことに言及した。その理由は,ムックに掲載されているデータを読者がブログなどで公開してしまうからだという。


出版してよかったこと,苦労したこと


 次の話題は「出版してよかったと思うこと」。奥成氏は,自身が常々考えていたことをまとめる作業ができたことを挙げた。昨今,セガは負けハードばかり作っていたというイメージが強調されがちだが,たとえば敗北した戦国武将にもファンがいるように,結果だけでなくそこに至った経緯や背景などを踏まえてゲームの歴史を語りたかったそうだ。

 また奥成氏は現役のセガ社員であり,かつ他社の事情は伝聞や書籍を通じてしか知らないため,執筆にあたってはフラットに書くことに努めたという。「どんな歴史や戦争の話でも,お互いの言い分があるので,ゲーム機戦争もそういう視点で若い世代に楽しんでほしい」と話していた。

 鴫原氏は「私的なこと」と前置きしたうえで,「お世話になっていたナムコOBの皆さんに,歴史を記すという形で恩返しができた」と語る。とくに企画の発端となった大野木氏の情報をまとめることができたのは大きかったという。さらにゲームミュージックが世間に知られるきっかけとなったアルバム「ビデオ・ゲーム・ミュージック」に関わった人達や,当時存在したゲームミュージックのファンクラブの人達に直接話を聞く機会が得られ,貴重な成果だったと強調した。

 黒川氏は,4Gamerの連載「ビデオゲームの語り部たち」第1回にて池袋・ロサ会館を取り上げているが,ロサ会館自体よりも,オーナーが何を考えて始めたのかに興味があったという。第2回以降も人物にフォーカスできたことを,よかったと話していた。

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 逆に苦労したことを聞かれると,奥成氏は「1冊の本としてバランスを取ること」を挙げた。最後は明るい話になるようにしたかったため,セガがドリームキャストをもって家庭用ゲームハード事業から撤退する時点で終わるのではなく,その後に会社が好転するところまで書くことにしたという。しかし,セガハードの歴史としてはセガサターンがピークであり,書籍として読ませるための起承転結のバランスに苦労したそうだ。またWeb連載とは異なり,文字数に制限のある書籍でしっかりまとめることはいい経験になったと語った。


ゲーム関連アーカイブの課題,デジタル時代に紙の書籍を出版する意義


 ゲーム会社が開発当時の資料などを積極的に保存していないという話題にも及んだ。たとえば往年のアーケードゲーム機や基板を保管し,実際に遊べるイベントを開催している「アーケードゲーム博物館計画」はゲーム会社ではなく,個人の有志によって運営されているプロジェクトだ。

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 その一方で,鴫原氏はバンダイナムコグループがナムコの資料を整理し,保存するプロジェクトを立ち上げたことを紹介した。また黒川氏はかつてゲームギアの取材をしたときに,セガに資料が残っていて助かったと語ると,奥成氏は「そうした資料をどういう形で保管していくのがいいのか,まさに考えているところ」だと答えた。そのうえで「ドライな話をすると,お金を生まないものに企業は予算を出せない。いかにして事業化できるかがキモ。文化事業として,国が補助してくれないものか」と心情を明かす。

 また鴫原氏は,2023年度内に任天堂が「ニンテンドーミュージアム」を,2026年に大和ハウスとコーエーテクモホールディングスの関連会社が「ゲームアートミュージアム」をオープン予定であることに触れ,「そういったプロジェクトが先鞭をつけてくれたらいい」と展望を述べた。

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 「デジタルメディアの時代における紙の本の意義」という話題では,「僕らの世代だと紙で持っていたい一方で,老眼だから文字を大きくできる電子書籍版もほしい」と奥成氏がコメント。実際,「セガハード戦記」の電子書籍版は文字を大きくできるほか,写真もカラーにしてもらったそうだ。
 また奥成氏は「大手出版社にとって,ゲーム書籍は一度終わったものかもしれないが,攻略本ではない,学術的な側面や記録としての側面があるものには年齢の高い層に需要があり,紙の書籍と相性がいい」と語っていた。

 鴫原氏は電子書籍のデメリットとして,運営会社がサービスを終了するなどの理由でアーカイブされないままデータが失われてしまう可能性を指摘する。国会図書館や地方自治体の図書館に保存されるという意味では,紙で書籍を出す意義はあるという。

 奥成氏が手がけた「セガ3D復刻アーカイブス」では,Webメディアによるインタビューを書籍化したことがある。Webで全部読めるのに,なぜ書籍を欲しがる人がいるのか。最初は不思議に思ったが,「形としての残る」「まとめて読むことによって,1つのドラマになる」という説明を受けて納得したそうだ。また電子書籍と同様,Webメディアも運営会社がサービスを終了すれば読めなくなってしまうかもしれない。

 イベントの終盤,奥成氏と鴫原氏はそれぞれに自分ならではの視点と切り口で,新たな書籍の執筆に取り組みたいと展望を語っている。また鴫原氏は,頓挫した国立メディア芸術総合センター事業のような取り組みが将来的に実現したら,ぜひゲーム部門に参画したいと意欲を示した。

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