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札幌に拠点を構えるベテランゲームクリエイター3名が語る,札幌でのゲーム開発の今。「Sapporo Game Camp 2023」基調講演レポート
登壇したのは,ロケットスタジオ代表取締役社長の竹部隆司氏,ハ・ン・ド取締役執行役員の三上 哲氏,スマイルブーム代表取締役の小林貴樹氏。全員がゲーム業界で30年以上のキャリアを持つベテランクリエイターだ。地元札幌からゲームクリエイターを目指す若者に向けた,「札幌のレジェンドクリエイター達が語る,札幌のゲーム開発のあの時,そして今」をテーマとした講演のレポートをお届けしよう。
「Sapporo Game Camp 2023」公式サイト
北海道のレジェンドクリエイターたちから送られた,ゲーム開発者を目指す若者への言葉
最初に,最近の若いゲームクリエイターの傾向について語られた。
「昔と比べると,みんないい子でやる気もある」と話すのは竹部氏だ。ただ,近年のSNSやコロナ禍を経て,発信することに対する恐怖感,リアルに会えなくなった精神的な不安を持つ人がいる一方,炎上を恐れずにやりたいことをやっている人もおり,「“傾向”という言葉でくくれるほど偏っていないと感じている」とも話していた。
小林氏は,例として大学で講師をしているときの話を挙げた。小林氏によると,「ゲーム」という言葉を掲げると,講義に集まる生徒が大幅に増える傾向にあるそうだ。また近年入社してくる学生は,家庭用ゲーム機よりもゲーム用PCを使っており,PCのスキルがあるぶんスムーズに実務へ進められるという。
そういった若手社員たちをみて,「彼らが持っている面白い部分を発揮できる会社にしていくこと」を会社全体で目指していこうと考えたそうだ。
三上氏は,「昔と比較すると何でも揃っている今の環境は,やる気があれば何でもやれる。しかし,そのぶん新しい技術がどんどん発展するので,覚えなければならないことも多い。その中で自身が得意なものを見つけられる人が強い」と話す。
また,札幌で未来のゲームクリエイターをサポートする立場として,今の恵まれた環境を,札幌の学生たちに活用させてあげられていないことへの危機感があるとも語った。
コロナ禍によってオンライン面接が一般化した今,それらに対する抵抗がない人が多い。そういったオープンな環境がありながら,関東や関西の学生に比べるとそれを生かせていないと感じているという。その理由に札幌の企業と学校が上手く連携できていないことを挙げ,それを反省点に,今後は自信も含む各所が積極的に動いて連携を強めていくべきだと述べた。
竹部氏は,若いゲームクリエイターに向けた取り組みについて語った。
学生は,ゲーム会社に就職をしたときから,ゲームを購入して遊ぶ「消費者」から,ゲームを作って送り出す「提供者」としての立場が生まれる。ロケットスタジオでは,その意識を高めるための研修期間を設けているという。技術は,最初から基礎力が高いに越したことはないが,日々の実務でも身に付くもの。それとは別で,まずクリエイターとしての意識の持ち方を伝えることも重要だと考えているそうだ。
小林氏はその話を受けて,「(消費者が提供者になると)『ここの鋭角に突っ込むと何か起こるのでは』『続編を作るならきっとこうするはず』という分析を優先するようになり,遊びとしてゲームを楽しめなくなる」と一同の笑いを誘う。場を和ませる返しではあるが,純粋にゲームを楽しむ気持ちを持ちながらプロとして活動することの大変さも感じさせる言葉だ。
続いて,各社が札幌以外の拠点を持っている理由が語られた。
ロケットスタジオ,ハ・ン・ド,スマイルブームの3社は,それぞれ札幌を本拠地としながら首都圏に支社を構えている。その大きな理由はやはりアクセスで,東京のクライアントとコンタクトが取りやすく,ビジネスのハブとして大きなメリットがあることを挙げた。
では,なぜ本拠地を首都圏に置かないのか。それは,リモートワークの発展もあり,どこで作ろうとゲームを世界に向けて発信できる環境があるからだ。三上氏は「拠点を札幌に置いておくことはずっと変わらないだろう」と話し,また小林氏は,「(スマイルブームは)現在フルリモートで動いており,社員の中には地元の山梨で仕事をしているスタッフもいる」とリモートワークでのゲーム開発の現状を語った。
また3名の登壇者は,「札幌は食べ物が美味しいので,クライアントが積極的に来てくれる」と,笑いを誘いつつ真面目に札幌に本拠地を構える利点を語っていた。その話しぶりからは,札幌に拠点を置く大きな理由に“札幌愛”があるのではないかとも感じた。
近年,急激に発達したAIに関する各々の考えや取り組みも語られた。
最新の技術を貪欲に取り込んでいく傾向があるゲーム業界だが,AIの場合,この技術をどのように活用するかはもちろん,「そもそも機械学習のためのデータの,権利面の取り扱いはどうすべきか」といった諸問題も抱えている。面白いコンテンツを作るためには,もう少し考え方のスクラップ&ビルドが必要だと竹部氏は話す。
三上氏は,情報過多で覚えなければならないことが多い現代において,「AIが発展して仕事が楽になるなら積極的に取り入れていきたい」と,自身の考えを述べた。小林氏は,それに向けた動きを行っており,その一つとしてNintendo SwitchのJoy-Conを使った操作の検証を,AIに担当させるための実験を進めていることを話した。
また,AIの使い方も独自の理解を進めており,将来的にはプログラマーがコードを書かなくなくてもいい環境を構築したいとのこと。人間の役割は「学習元がないところを生み出すこと」をメインに,人員は積極的にプランニングへと割り当てる。そしてそれ以外の部分をAIに任せて,(権利関係にも対処しつつ)“ほしいものがあれば出てくる”ような環境づくりを目指しているそうだ。
最後に,聴講者に向けてメッセージが贈られた。
竹部氏は「とにかく出力をしてほしい」と,自身が作ったものをアウトプットすることの重要性を語る。天才や化け物と呼ばれるクリエイターも,その多くは過去にありとあらゆる失敗をしており,それらの経験によって何が起きても処理ができるスキルを身に付けている。もし失敗したとしてもそれは恥ではなく,知見を得られたとポジティブに捉えてフィードバックすることが大事だとメッセージを送った。
三上氏は,「企業を利用するぐらいの気持ちで行動してほしい。それによって何かしらが見えてくる」と,積極性の重要さを語った。札幌のゲーム企業は仲がよく,若いクリエイターからの要望を企業間で紹介しあう例もあるくらい,横のつながりがあるという。それを,遠慮をせずに活用してほしいというわけだ。
小林氏は,「開発したゲームを実際に販売するまでを経験しておくこと」を強く推奨した。ゲームを作り,各プラットフォームのストアに乗せて販売する。このプロセスを学生のうちに体験しておくことは大きく,ゲーム内容や売れ行きに関係なく,その経験はクリエイターとしてはもちろん就職活動でも大きな強さにつながると伝えた。
そして,「チャレンジする機会や,チャンスを生かせる場所がある今がとてもうらやましいし,だからこそ活用してほしいと感じる」と来場者に向けてメッセージを贈り,トークを締めくくった。
札幌に拠点を構えるベテランゲームクリエイター3名が語る,札幌でのゲーム開発の今。「Sapporo Game Camp 2023」基調講演レポート
札幌で2023年10月6日〜8日に開催された「Sapporo Game Camp 2023」にて,札幌を拠点とするゲーム企業のクリエイター3名による基調講演が行われた。業界歴30年以上のベテランクリエイターたちが,会場に集まった学生たちに向けて“札幌でのゲーム開発の今”を語った講演をレポートしよう。
「Sapporo Game Camp 2023」現地レポート。100名超の参加者によるゲームジャムやプログラミング講座,トークセッションなどを実施
2023年10月6日〜8日に北海道・札幌で開催された,札幌市と札幌に拠点を持つゲーム会社13社によるイベント「Sapporo Game Camp 2023」のレポートをお届けしよう。100名以上が参加したゲームジャムを筆頭に,クリエイター育成と業界活性化を目的としたプログラムが3日間実施された。
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- ライター:稲元徹也
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「Sapporo Game Camp 2023」公式サイト
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