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[CEDEC 2023]VR開発についてのあらゆる話題を議論。「VRプロダクト開発ラウンドテーブル2023」レポート
本セッションは,主にVRヘッドセットを用いるプロダクト開発に関する意見交換の場として実施されたもので,プラットフォームやデバイス,ゲームエンジンなど,6つのテーマが扱われた。セッション中はオンラインホワイトボードのMiroが使用され,テーマについての意見を,受講者が書き込めるようになっていた。
1つ目のテーマは「VRプラットフォームやデバイスの概況」について。
まずは,中地氏から「どのデバイス向けに開発している人が多いのか」という疑問が挙がり,今は「Meta Quest 2」だろうという話題に。現在,SteamVR上のシェアではQuest 2が40%ほどを占めており,これから開発しようという人も,まずはQuest 2への対応を考えるのが良さそうだ。
その流れで,来年リリースが予定されている「Apple Vision Pro」についても触れられた。古林氏はリリースが楽しみだとしつつ,値段の高さを考えると,利益というよりは会社のPRなどの目的が主になるのではと意見を述べ,中地氏もそれに同意していた。
また,渡部氏によると,中国のPico Technologyが開発している「Pico」シリーズは,アメリカで一般発売されておらずまだまだ不利な状況であるものの,Meta Quest(Quest 1)ほどのシェア率に伸びているという。Picoがハンドトラッキング機能に注力する方針であることも踏まえ,今後注目のデバイスであるようだ。
2つ目のテーマは「ゲームエンジンの最新状況」について。
古林氏は,ゲーム,エンタメ業界にはあまり影響はないとしつつ,見過ごせない話題として,Unityの新たなライセンス形態「Unity Industry」について触れた。Unity Industryは,製造やエネルギーなどの産業に特化した企業向けのライセンスで,売上が一定以上の場合,契約は必須とのこと。これにより,大企業が研究開発等でUnityを選択しづらくなるのではと,中地氏も触れていた。
また,これに追随する形で,UnityのURP(描画方式のひとつ)が,Quest環境で重い,という話題に。古林氏によると,これはかなり長い期間,問題とされているものの修正されず,現在URPを選択しづらい状況なのだという。一方で,Apple Vision ProがURPを採用しており,Questとの兼ね合いが今後の懸念になりそうだとのこと。
続いて,「Unreal Engine」のVR関係トピックとして,Nanite(ナナイト)とLumen(ルーメン)がUE5にてVRに対応したことが挙げられた。またUE5.3ではステレオレンダリングの最適化もされ,PC限定ではあるものの,VR開発で充分活用できるエンジンであるとのことだった。
最後は,オープンソースの無料ゲームエンジン「Godot Engine」の話題に。Godot Engineは,Godot 4からOpenXRのモジュールが標準搭載され,さまざまなHMDなどで動作するようになったという。まだ動作が不安定だが,オープンソースということもあり,将来的な選択肢としては充分に考えられると話していた。
3つ目は「マルチプラットフォーム対応のプラクティス」。これは,複数のプラットフォームに対応したVRプロダクトを開発する場合のノウハウについて話し合う,というテーマだ。
まずは,会場にどの程度マルチプラットフォームで開発をしている人がいるかを確認してみると,意外と少ないという結果に。「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」でマルチプラットフォーム展開をしているMyDearestの中地氏も,「基本的にはQuestファースト」と述べており,Questを固定プラットフォームとして開発している人が多いようだ。
マルチプラットフォーム開発で考えなければいけないのが,非VRプラットフォームへの対応だ。VRプラットフォームだけで互換性を持つならば,UnityのXR Interaction ToolkitとOpenXRのプラグインで基本的には対応可能だ。しかし,非VRにまで対応しようとするとそう簡単にはいかず,各社が独自に対応している現状だという。
なお,Apple Vision ProはXR Interaction Toolkitに対応しているとのことで,比較的開発はしやすそうではあるものの,モーションコントローラが無い点をどうするかは今後の課題とのことだ。
4つ目のテーマは「AIがもたらすVR開発の影響について」だ。
古林氏としては,3Dでの開発では物量をAIでどうにかしたく,生成AIはプロシージャル技術などの延長線上になるではないかと考えているという。
しかし,実際にAIを運用してみようとすると,例えばテキストから画像を自動生成する際,りんごを表示するために“Apple”と入力して,企業のAppleが出てきてしまうなど,権利問題の面から様子見している状況だという。
5つ目のテーマは「ネットワーク・マルチプレイヤー対応について」だ。
登壇者の3名は,実際にマルチプレイヤー用のアプリケーションを制作している経験は少ないものの,今後マルチプレイヤーへの対応はほぼ必須と考えているのだという。
そんな中ひとつの手段として挙げられたのが,既存のメタバースプラットフォーム上への展開だ。例えば,VRChat上でサービスを展開すれば,アバター機能とマルチプレイヤー機能を最初から使える状態での運用が可能になる。一方で,運営会社との契約が必要であったり,開発環境に制限を受けたりと,デメリットがあることも考慮しなければならないとしていた。
6つ目のテーマは,これまで話してきたこと以外での話題とし,さまざまなテーマが受講者から寄せられた。
まず取り上げられたのは,ロケーションベースのVRについてだ。コロナ禍によりかなり規模が縮小してしまった展示系のコンテンツだが,昨年あたりからその数は増加傾向にあるとのこと。とはいえ,現在成功と呼べるほど集客できているのは,東京タワーで運営されている「RED°TOKYO TOWER」くらいではないか,という話題も出た。
関連する問題のひとつとして「偉い人をその気にさせる技術」という題材にも触れられた。ロケーションベースの展示の場合,あくまでプロモーションを目的とした場合は話が通りやすいが,収益を目的にしたプロダクトになると,どうしても話がストップしてしまう(VRで儲かるのは難しいと思われている)のだという。
このほか,XRビジネスによるマネタイズはどうなのかという話題に対しては,近年,企業側でもVRは役に立つと思われ始めているという。例えば,従業員の訓練などにVRを利用することで,コストの節約に繋がり,それだけ利益が出せる,といった具合だ。そういった面では,以前より確実に需要が増えているとのことだった。
話題は尽きないものの,ここで終了の時間に。最後に古林氏は,今回の議論で新たな情報を持ち帰ってもらえれば嬉しいとし,セッションは締めくくられた。本セッション中のMiroには,大きなテーマから小さなテーマまでさまざまな話題が挙げられており,XR分野に見られるさまざまな問題や展望は,まだまだ議論の余地がありそうだと感じられる内容だった。
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