インタビュー
[CJ2023]中国市場でのPlayStationビジネスと「原神」の大きな影響を,SIE上海代表に聞いた
ChinaJoy 2023公式サイト
4Gamer:
本日は中国市場でのPlayStationビジネスについて,お話をうかがえればと思います。まずは自己紹介をお願いします。
江口达雄氏:
SIE上海代表の江口です。ここに来る前は台湾SIEの代表を務めていたのですが,2019年に中国に移動し,現在に至ります。
4Gamer:
日本のSIEにいらっしゃったことはないのでしょうか。
江口氏:
そうですね。もともとソニーにはずっといて,ラップトップPCやカメラ,テレビ,工場で使う設備の部署などを転々としていました。台湾に移ってPlayStationに携わってからは,もう11年になります。
SIE上海には2つの大きなミッションがあり,1つは当然,PlayStationを中国市場で普及させること。もう1つは,中国のデベロッパ,パブリッシャのゲームを発掘し,中国だけでなく世界で販売できるようにしていくことです。これらを達成させるために,日々活動しています。
4Gamer:
2019年というと,私が最後にChinaJoyに来たのもその年です。まだPS4の頃で,PlayStationブースでは「原神」がかなり早いタイミングで出展されていたのを覚えています。
江口氏:
最速のタイミングでしたね。
4Gamer:
当時は,中国市場においてコンソールゲームが一般的ではかった時期だったかと思いますが,コロナ禍になり,PS5の発売があり,時間も経ちました。現在の中国市場でのPlayStationの立ち位置は,どのようなものになりましたか。
江口氏:
ビジネスとしては順調に伸びています。中国では法律でコンソールゲームが規制されていたので,それが緩和された後,2014年にPS4を発売しました。その後2021年5月に,グローバルから半年ほど遅れてPS5を発売しています。それほど発売時期にズレがなかったおかげか,非常に好調なスタートとなり,同時期の比較でいけばPS4の倍のペースで普及しています。
ただご存じの通り,中国のゲーム市場は世界最大ですが,ほぼモバイルゲームですね。
4Gamer:
あとはPCですよね。
江口氏:
はい。なので,その中でコンソールゲームを扱う我々は,まだまだマイノリティです。「コンソールゲームという新しい遊び方があるよ」と,普及活動している段階ですね。
4Gamer:
会場でPlayStationブースを見てきたのですが,「PlayStation PC GAMES」(PCで遊べるPlayStationタイトル)のコーナーがあったのが,中国市場らしいなと感じました。
江口氏:
中国では,過去作であってもゲームを発売するには審査を受けなければならないので,海外ほど正式にPC版タイトルを出せていないんです。今はその準備をしていて,これから出したいと思っているタイトルを,いくつか試遊で並べてみました。
4Gamer:
中国市場でPS4やPS5を所持している人たちは,どのようなタイトルやジャンルを好んでいるのでしょうか。
江口氏:
トップクラスに遊ばれているのは原神ですね。
4Gamer:
そうなんですか。中国はモバイルとPCが強い市場ですから,PlayStationのみで遊べるタイトルではないのが意外です。
江口氏:
中国のほとんどのゲーマー,とくに原神を遊ばれている若い世代の皆さんは,家のリビングで大画面でゲームをするというライフスタイルがありません。コンソールゲーム機がなかったので,経験したことがないんです。ゲームとはモバイルで,電車の中や空き時間で遊ぶものです。
しかし,原神はマルチプラットフォームで,アカウントも共有できますから,PlayStationがあれば家に帰ってから大画面で遊べます。
4Gamer:
なるほど。我々にとっては慣れたプレイ環境ですが,中国の皆さんには新鮮なんですね。
江口氏:
また,原神は基本プレイ無料で,ライブサービス型のタイトルです。中国市場の皆さんはそうしたタイトルに慣れているので,比較的好まれるという傾向もあるかと思います。
原神以外で人気なのは,サッカーやバスケなどのスポーツタイトルですね。
4Gamer:
予想外のところで,中国の原神人気の強さを知りました。今回のChinaJoyでは,ホビー系の出展も併催されているので,原神グッズで溢れていないかと期待していたのですが,まったく見かけず残念でした(笑)。
江口氏:
先週,上海で「Bilibili World」というアニメやコミックなどの複合イベントが行われ,そちらでは大々的に販売されていましたね。このイベントには,SIE上海も試遊メインのブースを出展していたのですが,本当にすごい熱気でした。うちのブースにも,常に行列ができていましたし。
4Gamer:
ゲームイベント以外でも,積極的に出展されているんですね。
江口氏:
はい,ブランディングの一環で参加させていただきました。少し話がズレてしまいますが,本当にすごいんです。アニメやコミックのイベントということで,日本愛に溢れています。日本の声優さんのイベントとなると,ステージ前に何千人と集まって,日本語で応援していますし,大勢いるコスプレイヤーさんのクオリティも高く,会場を見ていてとても感動しました。
4Gamer:
来年はぜひ現地で見てみたいです。
日本はもともとコンソールゲーム市場ですが,近年Steamを中心にPCゲームが広く遊ばれるようになったことや,海外展開を考えてといった理由で,PC版も同時に発売するメーカーさんが増えました。中国市場では逆に,もともとPC向けに作っていたメーカーがコンソール向けに展開するようになるといった変化はありますか。
江口氏:
それに関しては,ここ3年ぐらいで中国市場で起きている面白い変化をお話ししましょう。また原神の話になりますが,原神の成功は中国のゲーム業界に大きな衝撃を与えたんです。名前の通り「Genshin Impact」です(笑)。
4Gamer:
(笑)。
江口氏:
中国市場は非常に大きなゲーム市場ですから,これまで中国メーカーさんは中国国内向けにゲームを作っていました。
4Gamer:
つまりモバイルゲームやPCゲームですね。
江口氏:
はい。ただ,以前ほど成長市場ではなくなり,落ち着いてきたので,そろそろ海外に目を向けたほうがいいのではないかと思われ始めたんです。そんなときに原神が大成功したため,大きなメーカーから小さなメーカーまで,どうやったんだとmiHoYoさんが成功した要因を研究を始めました。
そうして挙がった理由が,中国だけでなくグルーバル同発で展開すること,そしてコンソール含むマルチプラットフォームでの同発です。
4Gamer:
なるほど。展開の仕方に注目したわけですね。
江口氏:
コントローラ操作の作り込みや,大画面に耐えうる作り方などは,miHoYoさんにとっても未経験の分野でした。我々SIE上海は,原神を開発されている段階から「一緒に作りましょう」と数年間ご協力させていただき,PlayStationでも同時に展開することが決まったんです。そして発売後,日本やアメリカでも成功し,やはり世界で売っていくにはコンソール市場に目を向ける必要があるのではないかと考え始めました。
実際,原神の成功後,コンソールゲームを展開したいから相談に乗ってほしい,PlayStationさん一緒に作りましょうといってくださる中国メーカーさんが,非常に増えました。
4Gamer:
SIE上海さんとしては,開発当時,今のようなヒットを飛ばすと分からなかった原神に注力していたわけですよね。その取り組みの成果は,今お話しいただいたとおりですが,そもそも,miHoYoさんと協力することになったのは,どういった経緯だったのでしょう。
江口氏:
当時,SIE上海に「これは素晴らしいゲームだ。絶対にPlayStationに持って来たい」という情熱を持った担当者がいたんです。会社もそれをサポートして,2019年のChinajoyでのPlayStationブース最速出展などにもつながっています。
4Gamer:
ということは,もともとSIE上海さんのほうから持ち掛けた話だったんですね。
江口氏:
そうです。もちろん,グローバルのSIEの皆さんも手伝ってくださいました。miHoYoさんも,SIEと一緒にやったから成功したという話をいろいろなところでしてくださっているので,本当にありがたいです。
最初にお話ししたミッションのとおり,ここから,第二,第三の原神のようなヒットタイトルが,中国から生まれてほしいと思っています。
4Gamer:
中国からのタイトルの発信という意味では,先日,発表会があったとおり(関連記事)「China Hero Project」を展開されていますよね。
江口氏:
はい,2016年の発足から現在も続けていて,第3期タイトルの発表となりました。これまでChina Hero Project第1期,第2期で入選した合計13本タイトルのうち,7本が発売されています。去年PS5版を発売した「フィスト 紅蓮城の闇」など,Metacriticで80点を取るタイトルなども出てきて,着実に取り組みの成果が残せていると感じています。
第3期の募集を始めてから,応募の数がものすごく増えました。第1期,第2期でサポートを続けてきたことや,原神のヒットがあって,China Hero Projectへの注目がより高まっているのではないでしょうか。
4Gamer:
このまま中国からヒット作が出ていけば,海外からのChina Hero Projectへの注目も高まりそうですね。
江口氏:
いずれは,中国人によるPlayStationワールドが広がっていくことを目指したいです。
長い目でそうした文化を作っていくにあたって,SIE上海だけでは難しいですから,いろいろな協力会社さんに参画していただいています。実はCRI・ミドルウェアさんやデジタルハーツさんなど,パートナー企業のほとんどは日系企業です。良いゲームを作ってほしい,日本や世界の人に遊んでほしいと,我々と同じ思いで協力してくださっています。
4Gamer:
China Hero Project以外にも,SIE上海さんが実施している中国市場向けに取り組んでいることがあれば教えてください。
江口氏:
中国の皆さんに受け入れられるための,ユニークなマーケティングはありますね。中国には,KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーがたくさんいます。彼らと一緒にPlayStationの楽しさを普及することが,非常に重要です。
4Gamer:
ほかの国よりもインフルエンサーの影響力が強いということですか。
江口氏:
はい。広告というものを消費者が信用しなくなってきているんです。なので,本物のゲーマーのKOLに「モバイルゲームとPlayStationの体験はここが違う」といったことを話してもらうとか,そうした施策が必要になります。「そこから?」と思うかもしれませんが,そこからなんです。
4Gamer:
そのぐらい,コンソール市場というものが中国にとっては新しい文化ということなんですね。
今後,中国市場でPlayStationプラットフォームをより根付かせるために,どういったことが必要だとお考えですか。
江口氏:
大画面で遊ぶ,コントローラで遊ぶ,家族で遊ぶといったライフスタイルを,いかに日常の娯楽にしていけるかだと思います。ビデオゲームと聞いて,中国の皆さんがパっと思い浮かべるのはモバイルゲームですし,1人で遊ぶものだと思っています。もちろんオンラインではつながっていますが,同じ画面で一緒に遊ぶことはないじゃないですか。
4Gamer:
同じ画面で隣り合って遊ぶというのは,コンソールならではの楽しさですね。
江口氏:
そうした「なぜコンソール」というところを,アピールしていく必要があります。もちろん,モバイルゲーマー,PCゲーマーの皆さんに,そこをやめてコンソールゲーマーになってくださいと言うつもりはありません。そっちはそっちで素晴らしいものですが,そこにPlayStationが加わることで,「こういう遊び方もできますよ」と伝えていく活動が,鍵になるのではないでしょうか。
4Gamer:
中国でコンソールゲームが普及して,面白いタイトルが生まれて日本にも届くことを期待しています。
本日はありがとうございました。
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