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どうすればWeb3は大衆に浸透するのか?「WebX」のセッション「Web3マスアダプションの鍵となるのは何か?」をレポート
Web3がビジネスや社会に与える影響や期待
セッションは,森川氏による簡単な説明のあと,そもそもWeb3がビジネスや社会にどういう影響や期待があるのか,そして各社はどういう取り組みをしてるのか,という話から始まった。
最初に話を振られた荒木氏だが,セッション名のテーマについては,よく議論があり,見も蓋もない話だと前置きをしながら,毎回“時が解決するだろう”と回答しているのだという。
その理由としては,インターネットが社会生活に溶け込むまでの経緯を例に出しながら,新しいテクノロジーが生まれてから社会に浸透するまでは,思った以上に時間がかかると考えているからだそうだ。そして,Web3に関するさまざまな課題をみんなが解決に向けて努力しているからこそ,そのうち(時が)解決すると考えているようだ。
また,GREEはインフラよりも,アプリケーションレイヤーでエンターテインメントに出資して,ブロックチェーンゲームを作っていくので,長期で続けることが大事だと考えているという。そして,市場の発達と浸透を見ながら,着々と提供できるように作っていくとのことだった。
その回答を受けて森川氏は,Web3が持続的に存在しうるマーケットであると考えているということかと質問したところ,荒木氏はそれに同意。さらに,ゲームはテクノロジーの影響を受けやすいため,5〜10年に1回くらい大きな技術変化が起こり,ビジネスモデルそのものに変革がもたらされていると述べた。
Web3も同様で,すべてがそれに塗り替えられるとは思っていないとしつつ,まだなかった新しいゲーム仕様が生まれると考えていて,それは不可逆な変化だと思っているとのことだ。
続いて森川氏は,Web3を推進する子会社として7月11日に社名が発表(関連ページ:NTT docomo報道発表資料)されたNTT Digitalの遠藤氏に話を振った。
これを期に社名を憶えてほしいと遠藤氏が話すNTT Digitalだが,同社ではウォレットという切り口から業務を受けて,取り組んでいこうと考えているのだという。多様に広がるプロトコルとブロックチェーンをうまく統合的に束ね,それを抽象化して提供することで,提供される側はサービスに集中し,NTT Digitalはしっかりとしたインフラを構築していくといった形で,Web3を盛り上げていきたいとのことだ。
また,Web3に対する期待値については,トークンが持つ力に期待しているという。トークエコノミクスと言われるところで,外部不経済や経済合理性の外にあったような課題・問題を解く,1つのカギになり得るのではないかと考えているそうだ。
マスアダプションということを考えると,多くの人に使ってもらうファクターも大事だが,日々の生活の中で長く使ってもらうこととの掛け算の積分値だと考えているそうで,荒木氏の言うように,それなりの時間がかかるため,NTT Digitalとして,しっかりとしたものを作っていきたいとこのことだ。
これを受けて,NTTという日本を代表する大企業がWeb3に取り組むことは意義深いと話す森川氏だが,意義や役割というところで何かNTTグループとして認識しているイメージがあるのかと質問したところ,すでに認められている価値やサービスがブロックチェーンになっていき,少しずつ変わっていく形でマスアダプションは成立していくのではないか,と遠藤氏は述べた。
ガンガンと話を深掘りしていく森川氏だが,ようやく最初の質問における最後の回答者である中村氏へと話を振った。
中村氏によると,メルカリグループはもともと,R4DというR&Dの研究機関で,ブロックチェーンをどういう風に活用していくのかといった研究を,2017年くらいからしていたのだという。当時は,この技術が本当にマスアダプションされて世の中で活用され始めると,メルカリが淘汰されてしまうのでないかと考え,大きな課題となっていたそうだ。
中村氏は当時,メルカリXというブロックチェーン上で動作するメルカリを作って,P2Pでやり取りができるようなプロトコルを研究・開発していたそうだが,ユーザーインタフェースとユーザーエクスペリエンスの部分が明らかに悪く,メルカリの面白さや便利さを越えられるほどのソリューションではなかったという。
そのため,より分かりやすく,理解しやすくして,さらに暗号資産やブロックチェーンが何なのかを,まず人々に知ってもらう必要があるとして,交換事業に舵を切って,これまで研究を進めてきたそうだ。
実際に現在のメルカリアプリでは,ビットコインの売買ができ,まったく暗号資産やブロックチェーンに関連してこなかった人に知ってもらえる機会を提供できるようになったとしている。
一方,中村氏は最終状態がどうなるのかというと,Web2とWeb3のどっちが良い悪いではなく,Web3の世界もあるし,Web2の世界も同時に存在すると思うと意見し,Web2ゲームも絶対に残るので,プレイヤーのユースケース(利用目的など)に合わせて,行き来が簡単にできる仕組みを作っていくことが大事だとした。
マスアダプションのために,次に大事だと思うこととは
質問が一巡したところで森川氏は,メタバースがフィジカルな経済世界からデジタルに移り,トークンなどを含めたトークンエコノミクスによる新しい経済の形となる中で,ユーザーは何が嬉しくて,何を得られるのかを荒木氏に質問した。
荒木氏は,ゲームという分かりやすいケースだと,いまゲームを始めることのハードルがすごく上がっているのだという。新しいゲームを出しても手に取ってくれる人が減っており,しばらく遊んだら元のゲームに戻ってしまうプレイヤーが多いそうだ。そのため,いかにほかのゲームからプレイヤーを奪い取るかということになるのだという。
なぜこのようになっているのか。F2P型のゲームは時間かお金をかけてキャラクターを育成することが多く,ゲームの中に努力の結晶が溜まっていくので,新しいゲームを遊びたい気持ちがあっても,かけた時間などを考えると,安易に辞められなくなってしまうそうだ。
それがWeb3になると,新しいゲームに移行するのがすごく簡単になるという。ただ,よく言われるゲームのキャラクターやデータのアセットを別のゲームで使えるというのは,これはほぼ嘘だと荒木氏は断言した。曰く,ゲームのアイテムに価値を与えるのは,ゲームデザインであり,両方のゲームがサポートしないと使えないからだ。
ここで言う簡単さとは遊んでいるゲーム内でアセットを売って,そのお金で新しいゲームを始めることで,かけた情熱や時間,お金が無駄にならないということを指しているようだ。
続けて森川氏は,NTTグループは通信やプラットフォームなどで日本国民を支えているが,Web3が普及したときに日本国民は何が嬉しいと思えるかという質問を遠藤氏に投げかけた。
遠藤氏は,インフラの立場というところで,少し抽象的な概念になるかもしれないと述べつつ,これまでは物を作って売る人(企業)と,それを消費する人という二項対立のあいだで事業があったが,今後は仮にマスアダプションみたいなものが成功すると,それぞれの立場の境界線が薄くなって,ボーダーを越えられる気がするという。
例えば,一般消費者は消費しながら企業を応援していくという形になるかもしれないし,逆に企業は一般消費者のアイデアを企業活動に使うというみたいに,そこのボーダーがなくなっていくというのが面白いと思っているそうだ。
話は変わって,メルカリにおけるビットコイン取引サービスのユーザーが50万人を突破したことで,ビットコインの投資者層ではない人も増えていると思うと森川氏が話し,そういう人たちがビットコインに触れて,どう動いて,何が嬉しいのか,という質問を中村氏に投げかけた。
中村氏によれば,50万人突破のリリースを出したのが6月のことで,現時点では約8割ぐらいが,まったく暗号資産に触ったことがない人だったという。
その中で一番ポイントになるのは,こんなに簡単だったのか,持ってみたら普通に動くのが面白い,といった意見が出てきたことだ。
一方,メルカリでは,多くのユーティリティを提供できているわけではないので,まだそこに留まる状態であるという。ただ,ハードルの低さを感じてもらったり,ビットコインを戻して決済に利用したりといった,通貨的に活用するような概念に,少しずつ近づいてきているという感覚があるそうだ。
最後に,マスアダプションは時間が解決するのではないかという話もあったが,次に大事なことはなにか,ということを一言ずつコメントしてほしいと森川氏が求めた。
荒木氏は,新しいプラットフォーム,新しいブロックチェーンのような,見知らぬものを使ってでもやりたいと思ってもらえるユースケースアプリケーションを目指したい。それがマスアダプションに求められることだと考えていると述べた。
続く遠藤氏は,これをやればマスアダプションになるといったカギはないと思っていると話す。仮設と検証を繰り返して地道な作業を続け,そこで得られた知見をみんなで協議しながら,着実に進めていくことが重要だと語った。
最後に中村氏は,マスアダプションはインターネットと似たように,アプリケーションコンテンツでキーソリューションが出てきて突破するのか,ユーザーインタフェースが良くなって解決していくのか,その裏側にあるインフラがしっかり整っていくのか,結局ピースが揃わないと達成できないと思っていると話す。
しかし,この会場にいるメンバーが,それぞれのピースだとして,自分の役割をしっかりこなしていくことでつながっていくとし,我々でやっていきましょうと述べてセッションを締めくくった。
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