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パンデミックは本当にインターネット世界を変えたのか? 伝説的なゲームデザイナーで“ディープな趣味人”のラフ・コスター氏が語る
1997年にサービスが始まったこのMMORPGは日本でも話題となり,今に至るまで語り継がれる幾多の伝説を産み出してきた(4Gamerのアーカイブには本作の10周年企画,20周年企画,25周年企画が残されているので,“幾多の伝説”の具体的な内容についてはそちらをご覧いただきたい)。
ウルティマ オンライン10周年特別企画「元GM覆面座談会」――今だから言えるあのときのUO(第二夜)
オンラインゲームを少しでもかじったことがあれば,老いも若きもその名を知っている「ウルティマ オンライン」(UO)。日本でのパッケージ発売から10周年を迎えたUOだが,あの当時,一つのタイトルがこんなにも長く続くと誰が考えていただろうか。そんな本作を,日本での黎明期から支えていた元GameMaster達に集まってもらい,色々な思い出話を聞く機会を得た。古参も新規も必読の,およそ2時間40分におよぶ座談会の内容を,三夜にわたってお届けしよう。
20年の月日が流れるMMORPG「Ultima Online」の世界。かつてのブリタニア人が,初心に返るつもりで戻ってみたら変化に戸惑った
1997年10月にサービスが始まったMMORPG「Ultima Online」は,まもなく20周年を迎える。現在もなおサービス運営が続いているということが驚異的な本作だが,“今のブリタニア”ってどうなっているんだろう? なんとなく気になったので新キャラを作って遊んでみた。
[インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る
2022年は,MMORPG「ウルティマ オンライン」(Ultima Online)のサービス25周年という記念すべき年である。そこで今回は,UOの日本展開における最重要人物であるSage Sundi氏へのインタビューをお届けしよう。オンラインコミュニティを軸に,さまざまな話を聞いてきたので,黎明期のMMORPGに興味のある人はぜひ一読してほしい。
そんな伝説的な(かつ今なおサービスが続く)作品のリードデザイナーを務め,その後も「Star Wars Galaxies」の制作チームを率いた人物が,Raph Koster(ラフ・コスター)氏だ。氏は今なおゲームデザイン,インターネットサービス,インターネット文化といった分野における第一人者であり,かつディープな趣味人としても知られている。
そんなKoster氏に,ゲーム開発者向け情報サイト「Game Developer」(リンク)の編集者として活躍するBryant Francis(ブライアント・フランシス)氏が,パンデミック後のオンライン世界について何を感じているのか,ざっくばらんに聞く「Game Design Career Fireside with Raph Koster with Bryant Francis」がGDC Showcase 2023で開催された。
Fireside Chatということで明確なテーマが設定された対談ではないが,冴え渡るKoster節の一部なりともお伝えできれば幸いだ。
ドラゴン退治に負けない魅力を持つもの
Francis氏は,Koster氏の経歴を踏まえたうえで,「近年において急激に注目を集めるに至った『メタバース』についてどう感じているか」を質問することで,対談をスタートした。
メタバースについてKoster氏は「良くも悪くも複雑な気持ち」を感じているという。大前提として「多くの人々が大きなコミュニティプラットフォームで交流を持とうとしていることは嬉しいこと」としたうえで,Web技術やWebサービス経由でこの手のサービスを展開している人々が「この文化の歴史をあまりよく知っているとは言えない」という点を指摘した。
Koster氏にとってみると,ビジネス絡みのバズワードの動向はともかくとして,こういったサービスにおいて最も重要なのは「技術基盤の上で花開くユーザー・クリエイティビティ」だという。
この最も古典的な例がMUD(Multi User Dungeon)であるし,またいわゆる「メタバース」前史に存在するさまざまなサービスにしても,「非常にワイルドかつクリエイティブな環境」だった。だが,このワイルドさやクリエイティブさがあふれる世界は,次第に「普通」な世界へと変わっていってしまった。結果,世界の予測可能性が高まり,世界はどんどんつまらなくなっていった。
また,いわゆるバーチャルな世界とは「仕事や写真を共有するためだけの世界ではない」と指摘する。Koster氏にしてみれば,これは「デジタルで作られた魔法の世界」であり,「友達と一緒に,本来ならば絶対になれない,誰かになる」世界なのだ。Koster氏はこの点について「ロールプレイ」の重要性を大いに強調する。
この主張に対しFrancis氏も,ロールプレイの価値を認めつつも,その一方で,MMORPG,つまり「ロールプレイングゲーム」を冠するゲームが,どんどんロールプレイが難しい環境に変化していったという点を指摘した。
例えば「Ultima Online」で鍛冶屋を営むとなれば,そこには自分の家もあれば店もあり,鍛冶屋としての生活があった。だが「World of Warcraft」の鍛冶職は,そのようなロールプレイが促進される方向には発展せず,よりゲームシステムとして磨かれる方向へと進んだ。
これについてKoster氏は,そもそもRPGはアナログで遊ばれていた時代からして戦闘に集中する傾向があったと語る。TRPGはアナログのウォーゲームから発展したものだったゆえ,これはある程度まで不可避なことでもあったというわけだ。
この点について氏は「TRPGにもロールプレイはほとんどなく,ダイスロールがたくさんある状況というのはあった(ナラティブ・スプリット)。つまりTRPGにおいても,ロールプレイとゲームの間で発生する緊張関係はずっとあった」と指摘した。
TRPGがコンピュータに渡ってからも,「コンピュータは数字を処理するマシンであるがゆえに,ゲームの側面を強化する傾向にある」とKoster氏は語る。しかしながらコンピュータRPGの世界においては,ロールプレイがしっかりと可能になるようになるまで,TRPGで見られたような「ロールプレイとゲームの間の緊張関係」や「ロールプレイ不足」といった問題が広く議論されることもなかった。
そしてまたKoster氏は,パンデミック下においては「あつまれ どうぶつの森」という形で,ロールプレイが大いに花開いたと語った。この点について氏は「我々はずっと『家を飾り付ける』『衣装を仕立てる』『さまざまなものをクラフトする』といった要素には大きな需要があると訴えてきた。それらにはドラゴンを殺すことに負けない,高い需要があるはずだと。だがこの主張はずっと『そんな馬鹿なことがあるか』と批判されてきた」と指摘したうえで,「時代が我々の正しさを証明した」と語った。
ちなみにこの点についてFrancis氏は「ファイナルファンタジーXIV」をもう一つの成功例として挙げていた。氏の友人たちはハウジングに熱中し,自分たちのホームの中でファッションショーを楽しんでいるというのだ。これに対しKoster氏は「Yoshi(FFXIVのプロデューサーの吉田直樹氏のことと思われる)は偉大なロールプレイヤーだからね!」と語っていたのが印象的だった。
もっとも「あつまれ どうぶつの森」や「FFXIV」のヒットが無条件でこの主張を裏付けているわけではないと,Koster氏は自ら補足もしている。それはロールプレイを主体とした仮想空間を大規模に成功させるためには,これまではボトルネックとなる要素がいくつもあったという問題だ。
さまざまな分野において,より適切な技術基盤(インターネット環境の大規模な普及,高速なライブチャット,多くのプレイヤーに接触できる手段など)が必要だったというわけだ。
バーチャルとリアルの,曖昧な境界
続いて話題は「パンデミックによって,オンライン世界のデザインになんらかのアップデートはあったのか」という点に移り変わった。
この問いに対しKoster氏は「パンデミックによって人々は新しい体験をすることを求められたが,その体験は必ずしも完全に新しいものではなかった」と語った。オンライン世界,つまり「別の世界」で暮らすということに魅了されていた人々は,パンデミック以前にも存在したからだ。
だがこの「別の世界で暮らす」というのは,例えば映画「マトリックス」で示されたように「完全に別の世界に移住してしまう」という状況とは異なっているとKoster氏は語った。1990年代からずっと起こってきたのは「バーチャルとリアルの境界線が曖昧になり続けること」だったというのが,その主張だ。
パンデミックはこの曖昧な領域に全人類を押し込み,そこでさまざまな言論が生まれた。だがこの曖昧な領域を趣味で楽しんでいた人々にとってみれば,そこにはなんら新しさはなかったとKoster氏は指摘する。
「SFであるガンダム世界においては昔からこのようなテクノロジーが存在してきたが,それに対して現実世界のサービスを想起させるものがオーバーラップしてきた」というのは,まさに「バーチャルとリアルの境界が曖昧になっている」状態でもある。
なおガンダムの話題が(しかも最新作の話題が)出たことでKoster氏も「そういう話をしても大丈夫な場なのだ」と思った(……か,どうかはわからないが),Francis氏が示したものと同じような事例はもっと昔からあったと語り,その作品として「Serial Experiments Lain」の名前を(「この対談を聞いている人の中に見たことがある人がいるかどうか分からないが」とオタク特有の前置きをしつつ)挙げた。
「Serial Experiments Lain」では,登場人物が「気をつけろ,PKが来る」といった趣旨のセリフを言うシーンがある。だがこの「PK」という言葉は,「Serial Experiments Lain」放映時においては到底メジャーな言葉とは言い難かった(現代においても「誰もが無条件で知っている」言葉ではないだろう)。
にも関わらず,海を渡った日本で作られたアニメのなかに「PK」というオンラインゲーム用語が使われていたことは,Koster氏らにとって衝撃的だったという。「俺たちは世界を変えてしまった!」という実感がそこにはあったそうだ。事実,「新しい言葉を定着させた」というのは,「世界を変えた」という評価が適切だろう。
ちなみにKoster氏は「Serial Experiments Lain」にかなり入れ込んでいるようで,Francis氏が「後になってファンが作った英語字幕のなかにPKという言葉が紛れ込んだのかもしれないですね」という指摘をしたところ,「日本語でもPKと言っていたし,それ以外にもオンラインゲームの用語が多用されていた」とLainの先進性を熱弁していた。どうやらLainファンの挙動は日米でそこまで差がないようだ。
Lain以外にもKoster氏は「ソードアート・オンライン」にも言及していたが(主人公らのことを「素晴らしいロールプレイヤーだ」と絶賛していた),MMORPGを世界に普及させたゲームデザイナーは,今なおこのジャンルの最先端をさまざまな方面から研究し続けているのだなと思い知らされる,大変興味深い脱線となった。
さて,いささか話がズレはしたが,最終的にKoster氏は「ソーシャルメディアが現実世界に影響を与えているように,ゲームもまた現実世界に影響を与えてきた」と語った。「リモートワーカーが実際にそうなっているように,我々はいまや普通の日々を,デジタルなアバターを身にまとって暮らしている」のである。
インターネット・カルチャーに対するKoster氏の知見と洞察の深さには定評があるが,この対談はあらためて,氏がシーンの最先頭集団にいることを感じさせるものだったと言える。次はぜひ,「Serial Experiments Lain」の制作陣や,「ソードアート・オンライン」の作者・川原 礫氏を交えた対談を聞いてみたいと思う。
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スター・ウォーズ ギャラクシーズ
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