インタビュー
ブロックチェーンゲーム市場はすでにレッドオーシャン?投資家が見るブロックチェーンゲーム市場の現状と展望
そこには自社の製品/サービスを展示してアピールする企業や,Web3.0に関連した知識を身につけるために講演を聞きに来た人,資金調達に向けて投資家を探す起業家など,さまざまな人がおり,ある種異様な熱気につつまれていた。外国人の参加者も多く,2割程度は国外から来た人達だったという。
そんな様々な人達が参加するイベントの取材を通し,4Gamerというゲーム情報サイトではあまり縁がない,主に投資をなりわいとしている人達に会う機会を得られた。
どんなに優れたアイデアがあっても,高い技術力を持っていても,先立つものがなければ何も始まらない。もちろん,規模の小さいゲームであれば,100%自己資金で開発することも可能だが,基本的にはある程度まとまったお金を得たうえで,ゲーム開発は始まる。つまり,ゲームに投資をする人達は,いわばゲーム制作における源流みたいなものだ。
ゲームの開発が本格的に始まる前にお金を出すということは,そのゲームが本当に面白いのか,そして売れるのかどうかの確証がない状態で判断を問われる。ある意味,もっともシビアにゲームを見ている人達ともいえるわけだ。そんな彼らが,今のWeb3.0/ブロックチェーンゲームをどう見ているのか。有象無象のプロジェクトが世界中で立ち上がる中,なにを判断基準に投資するか否かを決めているのか,といった疑問を以下の4名に投げかけてみた。
・doble jump.tokyo Head of Investments 岡田一輝氏
・Emoote General Partner Yuji Kumagai氏
・Arriba Studio Founder/CEO 佐藤 崇氏
・Oasys Head of Business Development Dominic Jang氏
Web3.0 /ブロックチェーンゲーム市場の現状
Arriba Studioの佐藤氏は,現在のWeb3.0が置かれている状況を,インターネットの黎明期に似ていると表現した。確かにインターネットという言葉が世に出始めたころは,なんだか怪しそうだとか,クレジットカードの情報を入力して,実物を見もしないで物を買うなんて信じられない,といった声も多かったと記憶している。
似ているのは世間の反応だけではなく,さまざまなサービスが提案されては消えていく,そんな状況も今のWeb3.0業界と同じような雰囲気はあるだろう。
OasysのJang氏によると,Web3.0が黎明期であることは間違いないが,さらに細分化すると発明期に該当するという。さまざまなビジネスモデルが誕生しては消えていくなか,サステナブルなゲームモデルが試される時期で,この淘汰の時期を乗り越えたゲームモデルが,ブロックチェーンゲームのスタンダードになり得るだろうと予測した。
EmooteのKumagai氏は,2022年に盛り上がった「STEPN」を例にあげ,ポンジ・スキームだと揶揄されることもあったが,それはまだブロックチェーンゲーム市場が成熟していなかったからだと指摘する。遊ぶ側の人達も,作る側の人達も,誰もがトークノミクスに慣れていなかっただけで,その存在を否定していたわけではないという。
STEPNや「Axie Infinity」は,いわゆるオワコンというレッテルを貼られがちだが,一度ヒットするとその影響は大きく,STEPNではファンベースのオフラインイベントなどが今でも行われていると,岡田氏は語っていた。
ブロックチェーンゲームを語るうえで,なにかと出てくる「Play to Earn」や「○○ to Earn」といった言葉だが,その流行は一段落したと4名は見ている。もちろん,そういうシステムを否定するわけではないが,決してメインにはなりえず,あくまでも副次的要素にとどまると見ているようだ。もちろん「稼げる」というのは,なかなかキャッチーな言葉だが,そこをメインにして人を集めるゲームは寿命が短く,投資対象としては魅力がないのだという。
また岡田氏は,ブロックチェーンゲーム市場はすでにレッドオーシャンであるといい,簡単に稼げるという意識で参入すると痛い目を見ると指摘していた。
Web3.0 /ブロックチェーンゲーム市場の展望
それでは,これから先のブロックチェーンゲーム市場はどうなっていくのだろうか。Kumagai氏は,Web3.0の市場はブロックチェーンゲームが牽引するとし,新しいユーザー体験を提供してくれるゲームの登場に期待しているという。
ここでいうWeb3.0とは,思想や概念的な話であり,ガラケーからスマホに変わったときのようなメディアの変化ではないからこそ,どんな体験をユーザーに提供できるのかが,ヒットするかどうかのカギになるそうだ。
また岡田氏は,ゲームの開発費は年々高騰しており,大手ゲーム会社ではいかに開発費をかけたかどうかの勝負になりがちという状況のなかで,スタートアップ企業がゲーム市場に参入するのであれば,ニッチな層を狙ったゲームを開発するなど,王道から外れることも重要だと指摘した。
では,この市場がさらに拡大するには何が必要なのだろうか。岡田氏は,ブロックチェーンゲームを始めるときの手間をいかに軽減できるかどうかが,カギになってくると語る。ゲームに特化した暗号資産ウォレットなど,使いやすいツールが出てくるかで展望は大きく変わると考えているそうだ。
一方でKumagai氏は,いかに面白く,そして新たなユーザー体験を提供してくれるコンテンツが出てくるかどうかが重要だと考えている。コンテンツが面白ければ,ユーザーは多少の手間を乗り越えてくるという見立てだ。実際STEPNがはやったときは,それまでウォレットなんて作ったことがなかった人が,STEPNの噂を聞きつけ,遊び始めたこともあり,「Contents is King」というのは間違いないと感じたそうだ。
また,Kumagai氏はブロックチェーンのイメージがあまりよくない現状でも,NFTのメリットを強調。プレイヤーが普通に遊んでいたら,仕組み的にはNFTでした,みたいなことがこれから3〜5年ぐらいで起こると予想していた。
岡田氏は,今年多くのゲーム会社大手が第1弾のブロックチェーンゲームが出したり、参入を発表したりしているのは、業界にとってはいい兆候ととらえている。今後継続的にタイトルをリリースしていく中で,短期的なバズりに留まらない長期的なマスアダプションへの道を共に模索していきたいと考えているそうだ。
4名の話を聞くと,ブロックチェーンゲームが一般層に広まるには,まだ数年単位でかかりそうだと改めて感じた。だが,ゲーム業界以外の流れを見ていると,NFTという言葉をあえて使わずに,その仕組みを使ったエンタメを提供している大手企業なども現れている。ゆえに,ゲームでもNFTといった言葉が使われなくなる可能性もあるだろう。さらに長期的に見ると,ブロックチェーン技術を使ったゲームが当たり前になり,ブロックチェーンゲームという呼称自体が消えてなくなっているかもしれない。
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