映画「テトリス」をApple TV+で観た。実話に基づく1988年の舞台裏もだが，80年代風の任天堂＆山内 溥社長のインパクトもスゴい

　1988年。パズルゲーム「テトリス」を世に出すべく，鉄のカーテンに覆われた当時のソビエト連邦にわたり，背後に迫るKGBを出し抜きながら，このゲームを大衆に広めるために奔走した男たちがいた――。

　といったイントロダクションだけでもそそられる，日本でも知らぬ者はそんなにいない名作ゲーム「テトリス」の権利問題をめぐった，当時の実話に基づいて描かれるバックグラウンドムービー「Tetris」が，本日（2023年3月31日）よりApple TV+で公開中だ。

　制作はApple Original。動画の尺は約1時間58分となる。

（C）2023 Apple Inc.

　監督はジョン・S・ベアード氏，脚本はノア・ピンク氏が担当。主演はテトリスを見いだしたアメリカのビデオゲームセールスマン「ヘンク・ロジャース」を演じるタロン・エガートンさん，テトリスの考案者「アレクセイ・パジトノフ」役のニキータ・エフレーモフさん，日本人俳優も，ヘンクの妻役「アケミ・ロジャース」役の文音さんらが参加。

　作中では，あまりの面白さに（みんなハマりすぎて）ソ連を破壊しかけたとされるテトリスをめぐり，同作が世界的に成功するまでの舞台裏が，それぞれの登場人物の視点から描かれていく。

　また作品自体も“日本向け”と見られる部分が少なくないため，日本のゲーマーに向けられた外国の映画，などと思っても違和感はない。


　テクノロジーの最先端がゲームであった時代。1988年。

　アメリカでビデオゲームのセールスマンをやっていたヘンク・ロジャース（※）は，囲碁のゲームが当たらずに消沈していたところ，5分遊んだだけでその魅力が伝わってきた「テトリス」に魅入られた。
　そして，この作品をなんとしてでも世界に発信したいと，販売元になるための権利を取得すべく，危険を冒してソ連に足を踏み入れる。

※「テトリス」の日本向け市場の販売元になった人物

　現地では，テトリスの考案者であるアレクセイ・パジトノフ（※）と協力し，裏切り者の悪役や，思いがけないヒーローたちとの出会いをとおして，フィナーレまで手に汗握る展開を繰り広げていく。

※ソ連の政府機関で働くかたわら，趣味でテトリスを制作した人物

　舞台は冷戦時代でのソ連とあり，秘密警察のソ連国家保安委員会（KGB。ケージービーともカーゲーベーとも）が命を狙いにくるなどのスリラー要素がある。またテトリスを取り巻く権利問題が，ソ連の社会構造を浮き彫りにしていく多重構造のストーリーも知的だ。
　とはいえ完全なるノンフィクションでは（さすがに……？）ないため，脚本や演出，派手なアクションなどでエンタメ映画らしさが多分に付加されており，いい意味で楽しく見られる作りである。

　加えてドット風の画面演出をはじめ，当時の日本の風景として「80年代風の任天堂」「逸話どおりの山内 溥（元）社長が登場」といった要素も取り入れられており，見どころはさまざまだ。
　とくに任天堂の協力体制は，各種タイトル面や「ゲームボーイ登場」などで随所に見られる。というか本当に，日本のゲーマーとしてはおそらく“当時の山内社長の再現”のインパクトがもはや東映Vシネマなのだが，サプライズゆえにか，権利問題を取り巻く映画内容ゆえにか，広報面で画像をいっさい目にできないので，見たい人は観るほかない。


　なお，ストーリーラインや展開のオチは“実話ベース”とあり，テトリスの逸話を調べたことのある人は先が読めるかもしれない。

　日本においてのテトリス問題についても，当時は任天堂やセガの間であれやこれやがあったというエピソードを知る人も多いだろう。

　といっても「知ってるからツマンナイ」となるような品質ではないし，知らなかった人は前述したイントロだけでも興味関心が刺激されているだろうしと，実話系映画としての魅力を損なうものではない。


　今回はApple Japanより，主演タロン・エガートンさんと監督ジョン・S・ベアード氏のインタビュー映像，“役のご本人さま”であるヘンク・ロジャース氏＆アレクセイ・パジトノフ氏の対談映像を提供された。

　とくに対談では「日本でテトリスが成功したときの感想」や「日本のゲーム市場をどう見ているか」など，ゲーマー的に気になるトークが繰り広げられている。ついでに作中の山内社長の姿についても，「見事な演技で本人かと思いました（笑）」とコメントされている。




　販売記録は5億本以上。テトリスという世界的知名度を誇る名作を主題に，Apple TV+が仕上げた肝いりのオリジナル映画作品。

　Apple TV+自体は，「Apple製デバイスの購入特典」「7日間の無料トライアル」「月額900円〜1200円のサブスクリプション」（Appleの複数サービス利用に応じて価格は変化）で視聴可能だ。
　当然のことながら，本映画以外の作品も多数配信されている。

　すでに誰しも，あっちこっちで利点がさまざまな動画サービスに推しと一言を持っているだろうが。週末にモノは試しも一興だろう。

「Apple TV+」公式サイト（日本）

「Tetris」Apple TV+