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[TGS2022]TikTokとゲームはどこまで距離を詰めたのか。TikTokの現状も示された対談をレポート
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印刷2022/09/21 13:32

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[TGS2022]TikTokとゲームはどこまで距離を詰めたのか。TikTokの現状も示された対談をレポート

 東京ゲームショウ2022の初日となる2022年9月15日,TikTok for Businessブースにおいて,「ゲーム業界でのTikTok活用の可能性」と題した対談が行われた。

 近年,TikTokはその存在感を大いに高めており,ゲームの領域においても「Among US」がTikTokを用いたプロモーションをヒットさせるなど,積極的な利用例が増えている。その一方で,プラットフォームの特性としてモバイルゲーム(とくにハイパーカジュアルゲーム)領域に対する影響力は高くても,よりコアなゲーム(コンソールなど)のユーザーとは乖離があるように感じるのは筆者だけではないだろう。

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 しかしながら実際にはTikTokがゲームユーザーに与える影響は,そのようなイメージとはいささか違った状態にあるようだ。しかもその変化は,この数年の間(厳密にはこの1年)で変化しているという。以下に,対談を通じて示されたさまざまな数字を見てみよう。

 なお,本対談はあくまでマーケティングの専門家に向けたものであったため,対談における最も重要なポイントは,プロモーション戦術やそのための各種TikTok側での機能拡張に関するものであった。しかし本記事では「今のTikTokがどのような層に対してリーチしているか」にとくに注目したい。


ユーザー層が成熟しつつあるTikTok


 対談に登壇したのはブシロード 海外HQの森下 明氏と,TikTok for BusinessのPatrick Chen氏だ。まずはChen氏からTikTokの現状を端的に表現する数字が示された。「Global MAU 10億人突破・Global Download 1位獲得」という数字は,超巨大プラットフォームとなったTikTokを象徴するものと言える(関連リンク1関連リンク2)。森下氏はこの数字に対し「非常にしっくりくる数字」と評価すると同時に,「TikTokはとても成長しており,競合と比較しても成長率が高いと認識している」と語った。

左から,TikTok for BusinessのPatrick Chen氏,ブシロード 海外HQの森下 明氏
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 そのうえで,TikTokのパブリックイメージとしては「利用者に若者が多い」(Chen氏)という見解がある。だが実際にはユーザーの37.7%が25〜44歳となっており,また25歳以上のユーザー数増加率は15%と,ユーザー年齢層の上昇が明確に認められる。

 またTikTokは「意外性の高い,面白いショート動画が次々に見れるサービス」というエンターテイメント・プラットフォームとして受け入れられているところは変わらないが,それだけでなく,情報発信プラットフォーム,ユーザーに具体的なアクション(購買行動など)を促すプラットフォームとしても強く認識されているという。

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 これらの現状に対し森下氏は,大前提としてTikTokは「今ではマスに受け入れられているプラットフォーム」であると語ると同時に,その大きな特徴として「YouTubeへの送客が優秀」であると指摘した。そしてTikTokのユーザー層の広がりを裏付ける事実として,ブシロードが保有するIPをTikTokで宣伝すると,そのIPのメインターゲットがどういう層であっても,一定レベルでYouTubeへの流入が起こるという点を指摘した。

 そのうえで森下氏が語った「アニメのタイトルを成長させていくにあたり,かつてはテレビだけで十分だったが,現代においてはYouTubeなど,さまざまなメディアを活用する必要がある」「この現状に対し,コンテンツの認知を高めるのがYouTubeで,コンテンツに対するアテンションを高めるのがTikTokだ」という分析は,実感している人も多いだろう。


「TikTok売れ」の波がゲームにも


 さて,TikTokの影響力が拡大するに従って,「TikTok売れ」という言葉も生まれている。一般的にはコスメ商品などで見られるものだが,書籍の世界においてもこれが発生したのは記憶に新しい。

 この「TikTok売れ」に対し森下氏は「インフルエンサーが自然に使うプロダクト,つまり飲料や口紅といった商品は,TikTok売れを前提としているものも増えている」「プロダクトの設計段階からTikTok売れを意識したネーミングをするといったケースも増えている」と指摘。同時に「TikTok売れは再現性(こうすれば必ずTikTok売れが起こる,という法則)に謎が多い」とも語った。

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 ゲームの領域においても「TikTok売れ」は観測できるとChen氏は指摘する。
 例えば「PICO PARK」は2021年からゲーム実況を通じて一気に伸びたタイトルだが,TikTokでも南米において「#PICO PARK」のハッシュタグが付いた動画がトータル3億再生されるという形で猛烈なバズを発生させた。

 また「Among US」もゲーム実況を通じてブレイクした作品だが,TikTokにおいてはゲーム動画だけでなく,関連動画も爆発的な広がりを見せている。「#AmongUS」が付いた動画はトータル600億再生と桁違いの流通をしているが,これにはゲームの動画だけでなく,

  • TikTokのクリエイターが「Among US」の世界観を使って作ったオリジナル動画
  • 「Among US」のさまざまな状況をコスプレで実際に演じた動画
  • ゲームとは距離のある企業(コスメ会社など)とのコラボなど文化的クロスオーバー

 という形で,いわば二次創作・三次創作を通じてブランドが浸透していった結果であるとChen氏は指摘した。「PICO PARK」にしても「Among US」にしても,ゲームそのものにカジュアルゲーム的なシチュエーションの面白さがたくさんあるのが強みではあるが,600億再生レベルともなると,そういったN次創作を引き出す広がりが重要になってくるというわけだ。これは「TikTok売れ」を誘発するにあたっても重要なポイントになると,Chen氏は指摘している。


TikTokユーザーはコンソールゲームが好き?


 巨大な広告プラットフォームともなったTikTokだが,ユーザーの多様化は広告の成長率にも見て取れる。「ゲーム広告の売り上げがこの2年で2.5倍になった」というのは,その端的な事例だろう。

 また動画コンテンツの成長率にもユーザーの多様化は顕著に現れている。教育・スポーツ・ゲームといったカテゴリのコンテンツは軒並み成長率が200%を超えているほか,景色や旅行・アニメと漫画・ITと科学といった領域も170〜180%の成長率を示している(もっとも成長率の話なので,コンテンツの実数との間には乖離があり得るが)。

 ともあれ,このようにしてユーザーもコンテンツクリエイターも多様化しているという現状は,広告出稿側に立つと,そのすべてが良い話というわけでもなくなってくる。ユーザーがTikTokに何を求めるかが多様化し,コンテンツ制作側も多様な動画を投稿するということになると,TikTokユーザーの母数がどんなに多くても,ある特定のプロモーションがユーザーを獲得していく難度は上昇してしまうからだ。

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 となると,とくにゲーム産業にとって大きな問題となるのは,「TikTokユーザーはどれくらいゲームが好きなのか」という点になる。10億MAUのほとんどがゲームに大した興味を持っていないというのでは,ゲームの広告を出稿するメリットは低いというわけだ。

 この点について,「モバイルゲームに対する関心がとても高い」(課金率も高い)というデータは直感的にも納得しやすいと同時に,ハイパーカジュアルゲーム領域におけるさまざまな実績がそれを裏付けるデータだとも言える。上記の「Among US」にしても,モバイル版があればこそTikTokでもブレイクしたというのは,分かりやすい因果関係だ。

 このことは,TikTokユーザーがゲームに対して示す「みんなでゲームをするのが好き」「ゲームで競い合うのが好き」「はやっているゲームは一度はプレイしてみる」といった,少なからぬモバイルゲームに顕著に見られる要素を好む態度からもうかがえる。

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 だが興味深いことに,調査対象をコンソールゲームにしてもなお,TikTokユーザーのほうが非TikTokユーザーよりも「関心が高い」という結果が出ている。コンソールゲームに対する課金額(ゲーム本体やアプリ内課金)が高いだけでなく,実プレイ時間においてもTikTokユーザーは高めな数字が出ている。

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 この現状について森下氏は,「TikTokが真にマス化している」ことをその原因の一つとして指摘している。もはやTikTokはLINEのような,半ばインフラ化した定番アプリと同じレベルに至っているからこそ,「普段から生活にスマートフォンが浸透している人(つまり“普通のスマホユーザー”)」のデータが,TikTokユーザーの行動データとして現れてくる,というわけだ。


完全にマスにリーチしたTikTok


 対談で示されたデータなどをまとめると,以下のようになる。

(1)ユーザーの性別バランスや年齢層に変化が生じており,よりバランスが取れ,成熟した市場へと変化している
(2)ユーザーはゲームに対するコミットメントが強い
(3)ユーザーはコンソールゲームへの関心も高い

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 そのうえで,これはあくまでマーケティングの話となるが,森下氏が対談中に何度も示した「マーケターがCPI(消費者物価指数)やLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を見て,プロモーションの変数だけをいじってどうにかできる範囲には限界がある」「マーケターがプロダクトの内容にまで踏み込み,データをもとに適切な改善案を出せるようにならねばならない」という指摘には,個人的には大いに首肯できるところがあった。

 事実,大きな成功を収めているゲームを,非常に能力の高いマーケターが支えているケースは珍しくない。その代表例は「This War of Mine」(11 bit studios)で,個人的にはむしろインディークラスの作品のほうが,実力あるマーケターがプロダクトを一緒に作って成功する事例が多いように感じる。

 もちろんこれは,どんなマーケターでもプロダクトに口を出すべきだ,という話ではない。森下氏の言葉を借りれば「戦闘力の高いマーケター」でなくては,現場を混乱させるだけになるのは明白だ。だが「開発とマーケを渾然一体とさせるのが大事」(Chen氏)という見解は,チームや企業の規模の大小を問わず,今後より重要性を増していくのではないかと思わされる対談だった。

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