インタビュー
社長のボヤキ 第4期 いよいよ本気でボヤキ出す
社長のボヤキ 第3期 社長とは一体何をする人なのか
Yostarと4Gamerの偉い人同士の雑談は,なんだかんだで「第3期」まで来ることになりました。このあたりまで来るとだいぶ二人とも興が乗ってきて,今回の結論は「社長はすべてがロールプレイ」ということで……。
李氏:
まあ……給料上がったくらいですかね。
Kazuhisa:
まあそうですね。……なんか微妙な言い方だけど(笑)。
李氏:
だってそうでしょう。計り知れない心の痛みという対価を払って,それが割に合うかどうかは,けっこう疑問ですよ。
Kazuhisa:
まぁ「対価」として考えちゃうと確かにねえ。あ,1個いいことあった。俯瞰で物を見られるようになった,とか?
李氏:
あー,ですね。
Kazuhisa:
常に一歩引いてる。
李氏:
でも,もともと法律を勉強した人間なんで,そういうスキルは最初から持ってると思うけど(笑)。
Kazuhisa:
同じくです(笑)。
※二人とも法学部出身
Kazuhisa:
でもまぁ学校の勉強とはちょっとまた違うし,それがだいぶ磨かれた気がします。特定の誰かとか何かを強弁するわけにはいかないから,常に引くように心がけてる。まぁそれがいいことなのか悪いことなのかは,分かんないですけどね。実生活でもたまにやっちゃうし。
李氏:
あぁそれ良くない……よくないですよ。
Kazuhisa:
そうなんですよ……。つまりあんまりいいことないのでは……。
しかし,会社になるときにやっぱり泰蔵さん(孫泰蔵氏)に社長やってもらえばよかったのかなぁ,と今でも時々考えます。こんなに長くやるつもりなかったし,会社がこんなに大きくなる予定もなかったし。
李氏:
自分も,当初アズレンは絶対売れると思ってたので,じゃあまた10人ぐらいのグループで数年間維持できるかなーみたいなことを期待してやってたんですよ。でも結局こうです。
Kazuhisa:
ね。なんで大きくなっちゃったんでしょう。
李氏:
なんでなんでしょう。
Kazuhisa:
4Gamerはいろんな機能を会社に内包してるけど,実質メディア1個の会社みたいなものですよ。それなのに50人になっちゃった。
李氏:
我々もパブリッシャだけなのに。まあ運営とか,もろもろやってるけど。
Kazuhisa:
運営は人が必要じゃないですか?
李氏:
うん,200人ぐらいですね今。200人なのに,自社タイトル1本もない。そこがおかしいんですよ。自社タイトルが2,3本あれば,この人数はそんなに違和感ないけど(笑)。
Kazuhisa:
いやいや社会貢献ですよ。会社の重要な責務ですよ,社会貢献は。
李氏:
いやいや会社の責務は儲かることです。
Kazuhisa:
そうね……。さっきも話したけど,儲かることというよりは,潰さないこと。
李氏:
うん,そこは絶対。
Kazuhisa:
潰れるときは一瞬ですからねえ。
李氏:
いやもうこの業界,ほんとに一瞬ですね。ゆるやかな死,とかないですから。傾き始めたら,すぐ駄目になる。
Kazuhisa:
まぁその前に僕らの居場所がなくなっちゃうから,最後まで見られないかもしれないけど。
李氏:
それなら割とまだ幸せなほうですよ。最後まで清算とかやるのつらいんですよ。
Kazuhisa:
債権者集会とかね。
李氏:
だけど今とかがそうだけど,黒字を出しているうちに数字見るのはまあ,そんなに嫌な感じはしないじゃないですか。
Kazuhisa:
しないですね。
李氏:
だんだんそういう終末が近くなって,残りの債権とか,今残ってる資産とか,そういうとこを見ると,きっと胃が痛くなると思う。
Kazuhisa:
やめましょうよ,そういう生々しいの。
李氏:
なので,そういう日が来ないように頑張らないと。
Kazuhisa:
そう。「そういう日」が来ないように頑張らないといけないことは分かってるんだけど,それで僕に何のいいことがあるんだろう? とちょっとだけ思ってしまうわけですよ,たまに。
李氏:
そうなの?
Kazuhisa:
22歳でソフトバンクに入って編集を始めて,30歳で4Gamer立ち上げて,いま50歳超えですよ。あ,もしかしてもう自分の人生,先の方が短いのかと気付くと,残された時間はそんなにないなぁ,と。
李氏:
僕はそこまで考えてないですね。
Kazuhisa:
だってまだ若いじゃない……。僕あと何回正月のお雑煮を食べられるのかな,っていつもそれを考えてる。
李氏:
自分はね,本社の社長とも軽く約束してるし社員の皆さんにもたまに言うんですが,40歳になるまでにはもう絶対に,この業界はやめますよ。
Kazuhisa:
あれ,何年か前の新年に会ったとき,35歳までにって言ってた気が(笑)。
李氏:
あれ? じゃあ延びてるんだ順調に(笑)。
で,辞めて一般のサラリーマンに戻る。まあおそらくそれは難しいかもしれないですけど。
Kazuhisa:
僕も昔それ言ってた。
李氏:
社長をやってから一般のサラリーマンに戻るのは,結構ハードルが高いと思います。
Kazuhisa:
そうですねえ。
ーーー普通に難しそうです
李氏:
なのでまあ次の選択肢として,法律のドクターに進んで研究者方向に転身しようかなと。
Kazuhisa:
めっちゃ楽しそう。僕も昆虫学者とかになりたかった……。
李氏:
だって,なんだかんだ言って十数年社長をやって,給料そこまで悪くないじゃないですか。なので,研究者のあのスパン……文系のドクターだから大体8年くらい,それくらいなら食っていけるし,その後は中国の大学に戻ってもいいし,日本でなんかやってもいいし。そういうのが夢でした。
でした?
李氏:
でした。
Kazuhisa:
なんで過去形?
李氏:
半分諦めてるんで(笑)。
Kazuhisa:
まあ僕ももっと早く4Gamerから去るつもりだったのに,まだいますから……。
李氏:
自分もそうですね。
Kazuhisa:
気づいたらこんな長く。
李氏:
ただまぁ,社長は会社にとってまぁまぁ要らない人間なので,誰がやってもそんな変わんないと思いますけど。
Kazuhisa:
確かに社長はそんなに変わらないかなぁ。でも僕らで言うと,編集長はきっと変わりますよ。編集長が変わるとメディアはまるっきり変わるから。
李氏:
そうですね。うちの会社でいうと……運営の責任者ですかね。
Kazuhisa:
運営プロデューサーとか,確かにそうかも。社長はだれがやってもね。
李氏:
ね。数字が分かって決算書を見て分かる人なら,まぁ誰でもいい。
Kazuhisa:
ぶっちゃけ数字がちゃんと追えて「決断」ができればいいのでは。
李氏:
そうですね。まあお金の管理できる人でさえであれば。
Kazuhisa:
……いやでも社長は,その会社にとっての「物事の重要性」を判断する基準になるから,やっぱり数字だけ分かればいいわけじゃないと思うなぁ。
李氏:
例えば?
Kazuhisa:
例えば……じゃあE3。ここ最近はコロナで開催されてないけど,E3っていうめっちゃデカい取材があるわけですよ。
李氏:
はいはい。
Kazuhisa:
E3って,取材チームを派遣して行って帰って,ウチだと大体200万円以上かかるんです。でも経営者的に言うなら,200万円以上かけて「実入りゼロ」なわけです。4GamerはPVとimpで商売してるわけじゃないので,「広告が1円ももらえない取材に200万円かけただけ」に必ずなる。それって親会社的にはやはり許容できないわけですよ。
李氏:
あぁ,なるほど。
Kazuhisa:
最近は前より格段に理解してもらえてると思うけど,昔は毎年のように聞かれてた。「なんで行く必要あるの?」「行ったらいくら儲かるの?」って。
あぁでも,ここ最近だとコロナでE3自体がないから「なくても何も困ってないじゃん。再開されても行かなくていいよね?」とか。
李氏:
それはまぁ見方によっては正論だ(笑)。
Kazuhisa:
まったくそのとおり(笑)。だって実際にE3がなくても4Gamerの経営は困ってないし,むしろ取材費を使わない分,黒字が増えてる。でもそういう話じゃないでしょ? 1円も儲からなくても行くべきだし,そこで得られるコネクションとかはプライスレスなわけですよ。
李氏:
まあトータル的には,どう考えてもプラスになるんじゃないですか。
Kazuhisa:
そう思う。でもそれが理解してもらえない。
李氏:
この業界はですね,こういうコミュニケーションコストが多いんですよ。E3だって言うならばコミュニケーションコストみたいなものでしょう? これが納得できない人には,どう説得しても分かんないですよ。
Kazuhisa:
そうなの。無駄なんですよねえ……。
李氏:
だって勉強しないんだから。で,立場が上に行けば行くほど勉強しないから。
Kazuhisa:
そうなんだけど,説得相手は上の人なわけですよ。
李氏:
そう。一生懸命説得して納得させなければいけない(笑)。
Kazuhisa:
まぁぶっちゃけ,納得しなくていいですよ。でも理解はしてほしい。実際にはそれすら難しいことが多いけど。
李氏:
もう僕は「理解してほしい」も諦めてます。お金ちょうだい,で終わり。
Kazuhisa:
ドラ息子になってる(笑)。いいからカネよこせよ。
李氏:
理由はどうでもいいし,儲かってるからいいでしょ?
Kazuhisa:
最後はまぁそれですよね。東京ゲームショウの出展とかもそう。うちレベルでさえちょっと派手にやるとTGS全体で1000万円以上かかるし,「いいから出しますね」って言い張るしかない。1000万かけていくら儲かるんだ? って問い詰められても話は前に進まないから。
李氏:
でもトータル的には儲かるでしょう? インターネットビジネスの仕組みが理解できてれば,すぐ分かるんじゃないですか。
Kazuhisa:
うん。でもその「儲かる」は,P/Lシート※にはヒットしないから。
※Profit and Loss statementの略,損益計算書
李氏:
あー。
Kazuhisa:
1000万円の投資に対していくらバックがあるか,みたいな?
李氏:
そのプロジェクト単体で見たって意味ないのに。
Kazuhisa:
そうなんだけど,でもみんなそうやって見ちゃうし。
李氏:
うん,すごくつらい。
Kazuhisa:
つらい。全然理解されない。何年同じ話をしてるんだっていう(笑)。
李氏:
コロナが終わったらまた再開するんじゃないですか。
Kazuhisa:
えええ……。「行かなきゃいけないのこれ?」ってまた聞かれるのか。
李氏:
ええ,行かなきゃいけないですね。
Kazuhisa:
毎回言ってんじゃん! もう!
李氏:
わかる……。
Kazuhisa:
まぁそんなこんなのこういうこと,何のためにしてるんだろうってたまに悩みません?
李氏:
いや,たまにじゃないですね。常に。
Kazuhisa:
そもそもなんでこんなことしてるんだっけ,的な。イチイチ親会社に言わないでやっちゃえばよくない? 的なダークサイドに,危うく落ちそうになる。
李氏:
あるある(笑)。
Kazuhisa:
分かってもらえて嬉しいです……。
李氏:
だから最近後悔してるんだけど,こういう愚痴っていうか,変な話は社長同士にしか分からないと思うんですよ。だから僕はね,ある程度ゴルフには行くべきなんじゃないかなと思いますね。
Kazuhisa:
急に話が戻った!
※デジャブ。第1期の“ゴルフの幽霊”が再び
李氏:
知り合いの,仲がいい年配の社長さんから言われたことあるんですよ。「李くん,ゴルフ行っていいんだよ。だって,君の心の悩みとか,社長同士であれば皆シェアできるから。言えば楽になるし,プラスアルファでなんかビジネスチャンスを生み出せるよ」って。確かに一理あるんです。
Kazuhisa:
わかります。
李氏:
昔の自分だと,ガチガチで現場にコミットしてて,ずっと社員達と一緒に現場の面倒を見てて,そういうのが社長というものであって,ゴルフやってる奴なんか,もう絶対ロクでもない,みたいな偏見が。
Kazuhisa:
何もしてない奴的な(笑)。
李氏:
そう。なんで社長になって最高責任者になって,毎日遊んでばっかりなの。
Kazuhisa:
責任取れるの? みたいな。
李氏:
そうそう,それそれ。
で,今35歳になって,7年以上社長やって。「あ,俺がバカだった」って(笑)。
Kazuhisa:
まぁ言いたいことは分かります(笑)。
李氏:
毎日やるのはさすがにやばいけどね。
Kazuhisa:
○○○の社長のことですか。
李氏:
それ言ったらダメなやつ(笑)。でも,ゴルフとか接待とか月1回ぐらいは行ったほうがいいかもしれないですね。最近ちょっと思ってます。
Kazuhisa:
まぁちょっと分かります。僕もほとんど全部そういうことは断ってきたので。でも「自分が社内で全然理解されない」ということにしげしげ気付くと,結構クルんですよこれが。
李氏:
ホントに……。
Kazuhisa:
社員と僕は,こんなに見てるところが違うんだ,と。誰にも言えないけど。
李氏:
誰にも言えないよね。なので,こうやって立場が近いとつい話しちゃう。
Kazuhisa:
確かに僕も最近ようやく気付いた(笑)。社長同士のゴルフとか飲み会って,意外と大事なんだなって。
李氏:
そうですね。毎日行くのはろくでなしだけど,たまにはね,必要あると思います。でもまだやる気は出てこない(笑)。
Kazuhisa:
同じく気付いただけで,別にそれはやりたいことではないし……。
李氏:
じゃあ社長の今,やってみたいことってなんですか?
Kazuhisa:
社長の今やってみたいこと……難しい質問ですね。
会社という狭い世界の中だけで言うなら,僕たちにできないことは実質ないわけで,やってみたいことって何だろう……。
あ,分かった。言い方が誤解されそうだけど,会社潰してみたいですね。
(全員笑)
李氏:
分からなくはない(笑)。
Kazuhisa:
なんか,めっちゃ頑張って積み上げた積み木を崩したい衝動というか。
ーーー以下,第5期に続く
・第1期 まずは様子見
・第2期 ちょっとだけ続けてみる
・第3期 社長とは一体何をする人なのか
・第4期 いよいよ本気でボヤキ出す
・第5期 “意識高い系”の二人
・最終回+総集編 Yostarと4Gamerで,6回分ダラダラぼやいてみる
- この記事のURL: