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「日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで」を紹介する,ゲーマーのためのブックガイド:第2回
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印刷2022/07/28 12:00

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「日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで」を紹介する,ゲーマーのためのブックガイド:第2回

画像集 No.003のサムネイル画像 / 「日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで」を紹介する,ゲーマーのためのブックガイド:第2回

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載だ。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,さまざまなテーマでお届けする。
 第2回で取り上げるのは,「日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版」。日本のゲーム産業の歴史をまとめた一冊を,ゲームライター/ジャーナリストの徳岡正肇氏に紹介してもらった。



日本デジタルゲーム産業史:ファミコン以前からスマホゲームまで


 世界で初めてコンピューターゲームと呼び得るものが生まれたのは,1952年のアメリカだと言われる。実際にはそれ以前にもピンボールなど機械式のゲーム機は存在していたとはいえ,「コンピューター」とゲームが実際に結び付き始めたのはこの頃と言っていいだろう。それ以降,コンピューターゲームはひたすらに高度化・複雑化を続け,巨大な産業となっていった。
 だが果たして,コンピューターゲームがここまで発展するまでの間には,どんな歴史があったのだろう? そんな,日本におけるコンピューターゲーム産業の歴史をまとめた一冊が「日本デジタルゲーム産業史」だ。

画像集 No.001のサムネイル画像 / 「日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで」を紹介する,ゲーマーのためのブックガイド:第2回
「日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版:ファミコン以前からスマホゲームまで」

著者:小山友介
版元:人文書院
発行:2020年4月30日
価格:4000円(税別)
ISBN:9784409241332

購入ページ:Amazon.co.jp
※Amazonアソシエイト(リンクはKindle版)


人文書院公式サイトの「日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版」詳細ページ


 筆者なんぞが改めて繰り返すまでもなく,歴史研究というものにはさまざまな難しさがある。しかもその困難さは,対象とする地域や時代によっても異なる。歴史の根底にあるのは,広大な空間の中で,人生の数倍の時間をかけて,すさまじい数の人々が相互に作用しながら活動してきた,その膨大かつ混沌とした「状況の積み重ね」なのだ。これを「分かりやすくまとめる」のがいかに難しいかは,少し想像しただけでも理解できるだろう。

 「日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版:ファミコン以前からスマホゲームまで」(リンクはAmazonアソシエイト)は,日本におけるコンピューターゲームの歴史を,産業史の視点からまとめたものだ。カバーする範囲としてはアーケードゲームを中心とした黎明期(「スペースインベーダー」以前のエレメカ期も含む)から,おおむね2019年頃まで(このためPS5やXbox Series Xは範囲外)。当然ながらアーケード・PC・コンソール・携帯ゲーム・モバイルゲームといった領域をすべてカバーしている。

 ただし最初に注意しておきたいのは,本書はあくまで「産業史」を扱った本だということだ。つまり「継続的に利益を上げ,その活動に消費者がどう反応し,どのような結果を生み出し続けたか」(P.12)が扱うトピックの中心となっており,「ゲームのタイトル自体やゲームの面白さについては,それが産業の中心と関係がある時のみ取り上げる」(同)という構成である。
 つまり本書はゲームタイトルの年表を示す本ではないし,それらのタイトル個々の作品論を扱う本でもない。またコンピューターゲームにとって技術は欠かせない要素だが,技術史についても(随所にスペックシートなどは掲載されているが)詳しく議論されている本ではない。例えばDirectXやゲームエンジンの詳細な歴史といった話題は,本書はカバーしない。
 加えてタイトルに「日本」と入っているように,アメリカや欧州諸国のコンピューターゲーム産業史にはあまり言及されていない(いわゆる「アタリショック」など,後に日本のゲーム産業にも重大な影響を与えた出来事への論点は解説されている)。冒頭で述べたように「歴史」とは膨大な情報の塊でもあり,そのすべてを一冊の本ですべてカバーするのは不可能だし,それを可能と言い出すのなら,それは控えめに評して不誠実だ。

 一方,本書は産業史を中心としているため,ある時代における市場(や商品)の定量的なデータがどうであったのかといった点は,グラフや数字付きで詳しく解説されている。

 例えばPCエンジンといえば周辺機器としてCD-ROMを採用したコンソール機としても有名だが,果たしてPCエンジンのゲームのうち,実際にどれくらいがCD-ROMで提供されていたのか? その提供比率の推移は?
 ゲームの巨大化はファミコン時代から始まったと言われるが,例えば「ドラゴンクエスト」シリーズの容量はどのように変化していったのか?
 1984年の風俗営業法改正によりアーケードゲーム産業は大打撃を受けたと言われるが,実際の売上はどれくらい変化し,またゲーム業界側がどんな対策を取って,市場はどう回復していったのか?
 DSとPSPではDSのほうが出荷台数が多いと言われるが,リリースされてからずっとその関係は変わらなかったのか?
 日本では携帯ゲーム機がコンソールゲーム機の売上を上回っていくが,それはいつ,どのような規模で発生し,なぜそうなったのか?
 基本無料というスタイルはいつごろ発生し,なぜ広まっていったのか? 経済モデルとして,なぜ基本無料モデルが高い利益を上げるのか?

 こういった話題についてを,ゲームに詳しい人であれば「なんとなく知っている」ことが少なくないだろう。とはいえ裏付けをともなうデータや,正しい時系列に沿った経緯まで,自信をもって「知っている」と言えるかとなると,いささか怪しいのもまた現実ではなかろうか。

 昨今では日本のゲーム産業の規模がかつてなく巨大化したこともあり,ゲームを専門とはしないメディアがゲームの情報を報道することも増えてきた。そのなかには「日本のゲーム産業はかつてこうだった」という記事も散見される――そして残念ながら,極めて不正確な(あるいは時系列すら抜本的に間違っている)情報がそういった記事のなかに混じっていることも,珍しくなくなってきた。
 また「会社的にはこのプロジェクトは存在しなかったことにする」という圧力がかかる案件も,ちらほらと見受けられる。ネットを介して世界中の情報がリアルタイムで行き交う現代において,もはやそういった隠蔽はやるだけ無駄なように思えるのだが,その手の努力を惜しまない人々はしかし,今も存在している。

 その上でもう一つ話を難しくするのは,とくにコンピューターゲームのような若い分野においては,「その時代の証言者」が現役で存在するという点だ。これは一見すると良いことのように思える(実際,良いことではある)が,歴史という観点に立つと,ある一人の証言だけで実際に何が起こっていたのかを推定するのは難しい。
 一人の人間が見渡せる範囲には限界があるし,意図せずして記憶違いを起こしていることだってある。「特定の一人に聞いた昔の話」には非常に高い価値があるが,それを「当時の実情」として鵜呑みにすることはできないのだ。だがそういった特定個人の見解が「正史」として受け取られることは,過去においても現代においても,珍しいことではない。

 ここにおいて,本書の著者――芝浦工業大学システム理工学部教授である小山友介氏のようにアカデミックな訓練を受けた人物の手でまとめられたコンピューターゲームの歴史書が持つ価値は,計り知れない。
 小山教授の専門は経済学で(だからこそ本書は産業史として編纂されている),日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の理事を長年勤めており,ゲーム業界に対する人脈も豊富だ。急速に「都市伝説の集合体」と呼ぶべきものになろうとしている日本のコンピューターゲーム史を改めて正しく理解するにあたって,本書は最初に手に取るべき一冊と言えるだろう。

人文書院公式サイトの「日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版」詳細ページ


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■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
アトリエサード所属のゲームライター。だが最近はゲーム制作側の仕事も増えており,そのほか文芸翻訳をしたり,神戸芸術工科大学で非常勤講師をしたりしているとか。もともと“興味の赴くまま”が信条なので,今も溢れる興味の赴くまま,何でもしたりしなかったりの生活を続けている。
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