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MicrosoftによるActivision Blizzardの約7兆8000億円買収の話題を解説。数々のビッグタイトルを手に入れる今後の狙いはメタバースか
公式発表によると,MicrosoftはActivision Blizzardに対し1株あたり95ドルの現金取引での買収を提示。先週金曜の取引終了時点で65.39ドルを付けていた同社株の,実に45%のプレミアが付いた提示額だ。これは,2020年9月にアナウンスされた(関連記事),MicrosoftのBethesda Softworks買収額である75億ドル(約7830億円)の9倍を超える金額となるだけでなく,Microsoftにとっての最高買収額である,2016年のLinkedIn(262億ドル)をもはるかに上回る。もちろん,ゲーム業界にとっても史上最大の買収劇であり,MicrosoftはTencent,そしてソニーに次ぐ売り上げ総額第3位のゲームパブリッシャとして,確固たる地位を築き上げることとなる。
1979年に設立されたActivisionは,ゲーム業界では初の“ゲームプラットフォームを持たないサードパーティ・パブリッシャ”であるが,1983年の「アタリショック」を乗り越えながらも業績は低迷。当時28歳であり,現在もCEOを務めるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏が,投資家を集めて1991年に50万ドルで買収した。
1990年代後半になってからは,Raven Software(Heretic),Neversoft(Tony Hawk's Pro Skater),Infinity Ward(Call of Duty),Treyarch(Spider-Man),Grey Matter Interactive(Return to Castle Wolfenstein),RedOctane(Guitar Hero)などアクションタイトルで知られるデベロッパを次々に買収して大きく成長した。
しかし,2000年代は看板タイトルだった「Tony Hawk's Pro Skater」シリーズの売上が急激に落ち込み,まだ「Call of Duty」シリーズも現在ほどのビッグタイトルに成長していなかったころであり,高額の周辺機器生産も必要だった「Guitar Hero」シリーズもライバルの登場などで先行きが不安な状態だった。そこで,PCゲーム市場では絶大な収益を誇っていた「World of Warcraft」のBlizzard Entertainmentを抱えていたフランスのVivendi Gamesにアプローチを図り,2008年に合併のオファーを受け入れることで,コティック氏が運営を主導するActivision Blizzardが誕生。さらにVivendi本体が経営難に陥ったことにより,コティック氏らは投資グループとの協業で自社株を買い戻し,2013年には経営権を掌握して独立を果たしている。
その後のActivision Blizzardの「Call of Duty」シリーズおよび“失敗作のない”Blizzard Entertainmentの数々のヒット作による躍進は説明するまでもないだろうが,「奥谷海人のAccess Accepted第706回:セクハラ問題に揺れるActivision Blizzard。BlizzardのみならずActivisionにも疑惑の影」などでまとめたとおり,自殺者も出ているというセクシュアルハラスメント疑惑や,労働環境の悪さでカリフォルニア州の政府機関である公正雇用住宅局(California Department of Fair Employment and Housing)による2年の内部調査を経て,2020年7月に告訴される。買収前までの半年ほどで株価が50%ほどの落ち込みを見せるなどしており,経営陣は投資家,株主,そして従業員から激しい突き上げを受けることとなった。
Activision Blizzardも,その対処として告訴発覚以来,不適切行為があったとみなされた37人の幹部・従業員を退社させたほか(関連記事),1800万ドルのファンドを設立して被害者の救済策を掲げ,公正雇用住宅局との調停案を模索しているという状況だ。
Xbox Game Passのサブスクライバーが2500万アカウントに達するなど,Bethesda Softworksの買収以降も確実にゲーム市場で成果を上げているMicrosoftだが,今回のアナウンスに合わせて,同社のCEOであるサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏が,「ゲームは,エンターテイメントのカテゴリにおいて現在すべてのプラットフォームで最もダイナミックでエキサイティングなものであり,今回の買収はさらなるメタバースプラットフォームの開発において重要な役割を果たしていくでしょう」とコメント(リンク。英語)している。
「Call of Duty」を始めとする数々のビッグタイトルを前に,わざわざ“メタバース”について言及しているのが興味深いところであるが,Xbox部門の責任者であるフィル・スペンサー(Phil Spenser)氏も,2021年には「メタバースもしくは複合現実(Mixed-Reality)の構築」を将来的展望として掲げており,このあたりで8兆円近い投資の真価が問われていくことになるのかも知れない。
ウォールストリートジャーナル海外オンライン版(リンク。英語)によると,今回の買収が認可されれば,コティック氏が経営から離れるという憶測もあるようだが,訴訟の行く末をどのようにまとめていくのかは,百戦錬磨でIT産業の先端を走り続けるMicrosoftの本領発揮に期待されるところ。もちろん,7兆円を超える規模の買収だけに独占禁止法の審査も受けることになるはずだが,ロイター通信(リンク。英語)は,今回の買収契約が遂行されない場合には30億ドル(約3438億円)の解散手数料を提示していると伝えており,Microsoft側がそれなりの自信を持っていることがうかがえる。
ゲーマーにとっては,セクハラ疑惑や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の余波により,2023年度以降に発売が持ち越されていると言われる「オーバーウォッチ 2」(PC / PS4 / Nintendo Switch / Xbox One)や,「ディアブロ IV」(PC / PS4 / Xbox One)の開発現場が,少しでも早く落ち着きを取り戻してくれることを願うばかりだが,「Minecraft」のMineConとBethesda SoftworksのQuakeConに加え,Blizzard Entertainmentの「BlizzCon」までを手に入れ,ゲーマーコミュニティへの直接的なアプローチの手法を,“コロナ後”の近い将来,どのように発揮していくのか大いに気になるところである。「キャンディークラッシュ」(iOS / Android)でモバイル市場,さらには「Call of Duty」やBlizzard Entertainment系タイトルを使ったeスポーツ分野でのプレゼンスも高まっていくのは必至で,今後のゲーム市場に大きな影響を与えていくはずだ。
Microsoft公式サイトの当該ニュースリリース(英語)
Xbox公式Blogの当該ポスト(英語)
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