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[NDC21]対戦相手が強すぎる,なかなかマッチングしないなど,対戦時のマッチメイキングで問題が起こる理由とは?
講演を行ったキム・ホヨン氏は,現在NEOPLEでシステムデザイナーとして活動している人物だ。かつてネクソン・ インテリジェンスラボにおいて,マッチメイキングやランキング,プレイヤーの実力(スキル)評価を設計した際の経験をもとに,PvP(プレイヤー同士の対戦)コンテンツにおける,マッチメイキングシステムやレーティングについて語った。
マッチングシステムとは,対戦競技やゲームにおいて,プレイヤー(競技者)どうしの実力を測定し,両者が満足いくような組み合わせを行うための仕組みだ。
“実力を測定する”と文字にするとたった7文字だが,本当の実力を図るためには,プレイヤーの実力を数値化して格付け(レーティング)する必要があり,そのためにはいろいろな手法が存在している。
よく使われるのが,総試合数の中で勝った割合を算出した勝率という数値だが,この計算では強敵相手に死闘の末勝ち取った1勝と,格下を余裕で倒した1勝の価値が同じになってしまう。
プレイヤーの実力を表す数値(キム氏曰く「スキルスコア」)を用意し,試合結果に応じて増減させ,これを繰り返すことで正確な評価に近づけていくという手法もある。しかし,プレイヤーのその日の調子やマッチングの運といった不確定要素があり,同じスキルスコアのプレイヤー同士であっても試合結果は変化していく。
こうした問題を解決するとして紹介されたのが「イロレーティング」だ。平均的な腕前の相手と戦った際の勝率や敗北率をもとにレーティングを算出し,試合を繰り返すほどに正確な評価が得られる。レーティングが異なる相手同士の試合においては,どちらが勝つか勝率を予想することも可能だという。もともとはチェス競技者のレーティング用に作られたものだが,現在はサッカーやラグビーなどでも用いられている。
しかし,そんなイロレーティングを実際にゲームのマッチングに適用したところ,プレイヤーからは「相手が強すぎる(弱すぎる)のでストレスがたまる」「いくら試合を繰り返してもランキングが変わらない」「マッチングの際に長く待たされる」「数戦しただけでランキング報酬を貰えた」といった声が上がったという。では,なぜこのような不満が出ることになったのだろうか?
キム氏が挙げた原因は「(イロレーティングが作られた)チェスとゲームでは,プレイの目的とマッチングの方向性が異なる」ことだ。
チェスの現場でイロレーティングが用いられる場合,競技者たちはお互いにプロであり,その評価軸は「強いか否か」とシンプル。強さを推定することだけにイロレーティングを使うことができる。
しかし,ゲームの場合はそうではない。そもそもプレイヤーたちはプロではなく,そのスタンスも勝敗を追求する者からゲームをエンジョイする者までさまざまだ。ゲーマーの嗜好を区分する方法の1つである「バートルテスト」でも,達成感を重視する「Achiever」,探索を求める「Explorer」,他者との交流を楽しむ「Socializer」,強さやプレイヤー同士の対戦を求める「Killer」といった分類が存在していることからも分かるように,杓子定規にはいかない。
そうしたなかで,マッチングの満足度を上げ,多くの人に参加してもらうためには,イロレーティングによる実力の数値化や,これに基づいたマッチングだけでなく,さまざまな動機付けをする必要がある。単にPvPを面白くするのはもちろんのこと,プレイヤーのランキングを可視化したり,一定周期のリーグを作ったり,目標を達成すると報酬をもらえたりというように,プレイヤーの嗜好に応じた施策を用意しなければならないというわけだ。
マッチングやランキングのベースとなる数値を,キム氏は「ランキングスコア」と表現する。ランキングを上げることがプレイのモチベーションになるため,プレイ回数が影響を及ぼすものであることが望ましく,同時にプレイヤーのスキルを反映したものでなければならないという。
プレイ回数とスキルのどちらを色濃く反映させるかは,トレードオフの関係であるとキム氏は語る。スキルだけを反映するシステムであれば,プレイヤーは数戦だけして高い評価を得て,ほかのコンテンツへ移ってしまう。逆に,プレイ回数だけを反映するなら,半ば労働のようになってしまい,やがてプレイヤーは対戦を辞めてしまう。どちらを重視すべきかは,目的に応じて決めることが必要だ。
続いてキム氏は,前述したそれぞれの不満についてどのような対処が有効だったかを紹介した。
●「相手が強すぎる(弱すぎる)のでストレスがたまる」
ランキングに実力が反映されていないため,同じランクの相手でも強かったり弱かったりといったばらつきがあった。
腕前に応じたリーグを作り,特定の上位リーグを「天上界」など特別な名前で呼び,報酬を出す施策が有効だったという。たまたまラッキーで上位リーグに行けたとしても,これを保持することは困難なため,バランスがとれるのだそうだ。
●「いくら試合を繰り返してもランキングが変わらない」
プレイ回数がランキングに反映されない/されづらい状況だった。
プレイ回数が多いほどランキングが高くなるようにし,繰り返しのプレイを誘導する。
とはいえ,前述したとおり,プレイ回数のみをランキングスコアに反映させるのもよくない。スキルが同じなら,プレイ回数の多いほうがランキングスコアも高くなり,その逆にプレイが同じくらいの回数なら,スキルの高いほうがランキングスコアも高くなるバランスが理想だという。
●「マッチングの際に長く待たされる」
ランキングスコアの分布に問題があった。
マッチメイキングシステムは,予め定められたランキングスコアの範囲内で,プレイヤーに近いスキルを持つ相手を探す。しかし,開発者がランキングスコアの分布を把握しきれていないと,適切な相手が見つからずに待たされることになる。ゲーム人口が初級者と上級者に二極分化している中で平均レベルのプレイヤーが相手を探そうとしたり,ランキングスコアの分布が粗くなった場合にこうした現象が起こる。
マッチングにランキングスコアのみを使うのではなく,プレイヤーをリーグに分けるなどの対策が有効だという。
●「数戦しただけでランキング報酬を貰えた」
イロレーティングのみを使ったことに問題があった。
イロレーティングでは,最初にプレイヤーに対して仮の評価値を与える。しかし,時間の経過が考慮されていないため,仮の評価値が与えられたばかりの初期にうまく勝てたなら,その後に試合をしないことで,実力以上の評価を保てる。このケースでは「上位5%に報酬を出す」という施策だったため,報酬圏内に入ったら試合をせずに評価を保つ(キム氏曰く“駐車プレイ”)やり方で報酬をゲットできたというわけだ。
時間の経過とともに評価値が減少する,報酬を出す圏内である上位層の推移をシミュレートするといった手法が有効だという。
キム氏は最後に「ランキング用のポイントと,実力を評価する数値は目標が違うため,ゲームや状況によって選択する」「企画意図を測定するための指標を作る」「シミュレーションを使ってプレイヤーの推移を予測する」ことが大切であるとまとめた。
プレイヤーたちのスタンスはエンジョイ勢からガチ勢までさまざまだ。そして,オンラインゲームとしてはたくさんプレイしてもらいたい。そうした状況下では,プレイヤーの強さを格付けするだけでなく,プレイ回数でランキングが上がるなどオンラインゲームとしての施策も必要というわけで,PvPを好む韓国ゲーム業界らしい講演だと言えそうだ。
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