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[CEDEC 2020]甲冑には実戦用,競技用,パレード用の3種類が存在する。「デザイン発想に役立つ,西洋甲冑講座」セッションレポート
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印刷2020/09/04 16:40

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[CEDEC 2020]甲冑には実戦用,競技用,パレード用の3種類が存在する。「デザイン発想に役立つ,西洋甲冑講座」セッションレポート

 ファンタジーの華であり,ゲームでは常日頃から目にする甲冑。ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2020」の2日目(2020年9月3日),西洋甲冑武器研究家の奥主博之氏による「デザイン発想に役立つ,西洋甲冑講座」というセッションが行われ,時代や用途ごとの西洋甲冑の分類と解説,実際に装備したときの着用感などが語られた。

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2020]甲冑には実戦用,競技用,パレード用の3種類が存在する。「デザイン発想に役立つ,西洋甲冑講座」セッションレポート

 今回のセッションを行った奥主博之氏は,西洋甲冑と武器の研究家。西洋甲冑師として活動する三浦權利氏の公認弟子であり,書籍「写真とイラストで見る西洋甲冑入門〜三浦權利作品集〜」を手がけ,ドイツ剣術の教室を開くなどの活動を続ける人物だ。この日,奥主氏は甲冑を身に着けて登場し,西洋甲冑の分類や歴史について語った。

西洋甲冑と武器の研究家である,奥主博之氏
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 西洋甲冑は生命を守る戦争道具であると同時に,権威や富の象徴,そしてファッションとしても使われてきたと語る奥主氏。ゲームにはさまざまな時代の西洋甲冑がひとまとめになって登場するものの,実際は時代とともに形や機能が移り変わっているという。鎖を編んだメイルの後,部分的に板金のプレートが使われるようになり,さらに全身をプレートで覆うようになったものの,銃器の発達によりコストが見合わなくなって廃れていった。
 日本人である我々は,西洋甲冑=全身プレートというイメージを持つことも多いが,実際の歴史で全身プレートが用いられたのは,1400年〜1600年頃の200年ほどに過ぎないのだそうだ。そんな西洋甲冑は「実戦用」「競技用」「パレード用」の3種に分類できるという。

・実戦用西洋甲冑
 防具としての防御力を追及しつつ,動きやすさや製造コストの安さといったバランスが取れた実用品が実戦用だ。

16世紀前半の品。表面に走るウネは装飾ではなく,敢えて凸凹を作ることで強度を上げる技術なのだという
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16世紀中期〜後半の実戦用。軽騎兵が着るため,下半身をはじめとしたさまざまな部分が省略されている。この頃は銃器が増えてきたため,当たると致命傷になる胴体を重点的に防御するというコスト削減策が採られたそうだ
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17世紀前半の実戦用。銃器が発達したうえ,戦争が大規模化したことから甲冑にかけるコストも削減されている。それでも徹底的に防弾効果を追及したものになったという
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15世紀中期にイタリアの歩兵が使った兜。鼻当てだけが垂れ下がっている
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16世紀中期の歩兵用兜。顔の部分に覆いがないが,これは銃器の出現によって戦法が変化したため。密集せずに小隊レベルで集まって戦うことが多くなり,周囲の状況を知るために視界確保が必要となったわけだ
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こちらも16世紀中期の兜。口の部分を見ると,空気穴があるのは右側だけで左側にはない。これは左側を敵に向けるからなのだという
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・競技用西洋甲冑
 競技用は槍試合などで用いられる甲冑。競技であるがゆえに攻撃方法が限定されているため,合わせた形で防御力が重視されている。また,競技の動きさえできればいいということで,汎用的な動きやすさは度外視されている。実用品とは違い,製造コストを低く抑えることはあまり考えられていないとのことだ。

槍試合用の甲冑。敵の槍を受ける左側だけに補強具が取り付けられている。この補強具があればその甲冑は競技用だとすぐ分かる
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こちらが補強具。装着すると腕はほとんど動かせなくなるため,実戦での使用は論外とのこと。また,甲冑にネジ止めするため,咄嗟に外すこともできない
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こちらは16世紀中期〜後期に用いられたもの。下半身のパーツがないのは,柵ごしに相手の上半身を攻撃する競技のためにあつらえられた品のため。装飾も豪華で,持ち主の裕福さがうかがえる
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槍試合では背中から攻撃されることがないため,プレートは前面のみ。右肘のうしろには金具があるが,これは槍を引っかけるためのものだという。競技用の槍は4メートルもあったそうだ
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槍試合用の兜。試合では前さえ見えればいいので,のぞき穴も狭い。側面に見えるスリットは,頭を包んだメイルを外に出して止めるためのもの。こうすると,頭が全方向に引っ張られる形になり,衝撃があっても頭が兜の内側にぶつからない
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こちらも槍試合用の装備。馬に乗って戦うため,足を守るパーツがない。やはり実戦では戦えないため,甲冑とは別物の「槍試合専用道具」のようなものだと奥主氏は説明する
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徒歩で戦う競技で使われたという兜。無数のスリットは,敵の刃が顔に滑り込まないための配慮
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先の兜とは打って変わって,こちらはのぞき穴が大きい。棍棒を持ち,兜の飾りをたたき落とす競技で用いられたもの。棍棒は太いため,これだけののぞき穴を開けても顔に当たる心配はないのだという
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・パレード用西洋甲冑
 パレード用は凱旋やお祭りで着る,デザイン重視の西洋甲冑だ。装甲は薄いうえに動きにくく,実用には向かない。見栄えがいいだけに後世に残って博物館に展示されることも多く,これを戦争に着ていったと勘違いする例も少なくないという。

16世紀のパレード用西洋甲冑。衣服を模した装飾が施されている
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こちらは背面を覆う甲冑。注目を集めるために装飾も派手にデザインされている
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顔を覆う鳥のパーツが印象的な兜。こめかみの部分にあるネジで鳥のパーツを外せるようになっており,実戦用のパーツを付ければそのまま戦争でも使えたかもしれないという。実戦用かつパレード用という兼用モデルだ
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薄い鉄板を使った純然たるパレード用兜。博物館でよく兜として展示されているが,防具ではなく金属製の帽子と考えたほうがいいとのこと
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1700年頃に皇太子が使ったとされる甲冑。奥主氏曰く,「金属で作った晴れ着」
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非常に豪華な甲冑で一般生産品とは桁違いに高価なもの。とても戦場に着ていったとは思えないのだが,使われた記録があるのだという
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 西洋甲冑についてネットで資料を集めるコツは,「日本語以外の言語を使い,パーツや部品の名前といった専門用語で検索をかけること」だという。兜なら「helm」(英語)や「armet」(フランス語),胸当ては「blestplate」(英語)や「plastron」(フランス語)といった具合だ。日本語で検索するとゲーム関連の記事ばかりがヒットしてしまうため,専門用語は書籍などで学ぶのがオススメとのこと。

 時代によって形を変えていった西洋甲冑だが,これは武器と戦法が変わっていったためであると奥主氏は語る。甲冑にはファッションの要素もあり,より奇抜で個性的なデザインを追及するようにもなっていったそうで,同時代の服装との共通点も多いという。とはいえ,甲冑はやはり武具であり,実用性が成り立ったうえでお洒落さが追及されていったとのことだ。

 セッションの最後は,実際に甲冑を装備し,剣を持って戦った経験のある奥主氏の体験談が語られた。

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 甲冑をフル装備した際の重量は25kgほどで,重いのは兜と胸当てであり,兜は2.5〜3.5kg,胸当ては4〜6kgのものが多いとのこと。防御力はとても高く,相手の武器が当たっても少々衝撃を感じるくらいなので,ひたすら攻撃に集中できるという。
 甲冑は身体の可動域は制限されるものの,イメージほど動きに制限されることはないとのこと。この日に装備した腕の甲冑の装着感は,「バイク用の手袋に近い」と奥主氏は説明する。皮手袋の上に金属パーツが鋲で留められているためで,ちゃんと身体に密着するような着方をすれば,金属のパーツがガチャガチャと鳴るようなことはあまりなく(ただ,現代のスポーツ用甲冑は音がすることが多いそうだ),さらに金属パーツが素肌に触れるようなこともないようだ。
 また,兜を被ると両腕を上げるバンザイのポーズができないのだが,甲冑武術はこうした制限に対応する形で発展しているとのこと。ロングソードも両手で柄を握って振り回すのではなく,片手は柄,もう片手は刀身を持って戦うという。

鎧の裏側。革に金属パーツが鋲で留められている。つまり,鎧の鋲は金属パーツどうしを接続するものではないということだ
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西洋の甲冑武術におけるロングソードの握り方。我々がイメージするように,両手で柄を持って振り回すのではなく,片手は刀身を握っている
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 普段ゲームで目にすることも多い西洋甲冑だが,専門家の話を聞く機会はあまりないため,大変興味深いセッションとなった。CEDECの新たな可能性を拓いた感があるセッションであり,来年以降もこうした取り組みに期待したい。

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