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[CEDEC 2020]甲冑には実戦用,競技用,パレード用の3種類が存在する。「デザイン発想に役立つ,西洋甲冑講座」セッションレポート
今回のセッションを行った奥主博之氏は,西洋甲冑と武器の研究家。西洋甲冑師として活動する三浦權利氏の公認弟子であり,書籍「写真とイラストで見る西洋甲冑入門〜三浦權利作品集〜」を手がけ,ドイツ剣術の教室を開くなどの活動を続ける人物だ。この日,奥主氏は甲冑を身に着けて登場し,西洋甲冑の分類や歴史について語った。
西洋甲冑は生命を守る戦争道具であると同時に,権威や富の象徴,そしてファッションとしても使われてきたと語る奥主氏。ゲームにはさまざまな時代の西洋甲冑がひとまとめになって登場するものの,実際は時代とともに形や機能が移り変わっているという。鎖を編んだメイルの後,部分的に板金のプレートが使われるようになり,さらに全身をプレートで覆うようになったものの,銃器の発達によりコストが見合わなくなって廃れていった。
日本人である我々は,西洋甲冑=全身プレートというイメージを持つことも多いが,実際の歴史で全身プレートが用いられたのは,1400年〜1600年頃の200年ほどに過ぎないのだそうだ。そんな西洋甲冑は「実戦用」「競技用」「パレード用」の3種に分類できるという。
・実戦用西洋甲冑
防具としての防御力を追及しつつ,動きやすさや製造コストの安さといったバランスが取れた実用品が実戦用だ。
・競技用西洋甲冑
競技用は槍試合などで用いられる甲冑。競技であるがゆえに攻撃方法が限定されているため,合わせた形で防御力が重視されている。また,競技の動きさえできればいいということで,汎用的な動きやすさは度外視されている。実用品とは違い,製造コストを低く抑えることはあまり考えられていないとのことだ。
・パレード用西洋甲冑
パレード用は凱旋やお祭りで着る,デザイン重視の西洋甲冑だ。装甲は薄いうえに動きにくく,実用には向かない。見栄えがいいだけに後世に残って博物館に展示されることも多く,これを戦争に着ていったと勘違いする例も少なくないという。
西洋甲冑についてネットで資料を集めるコツは,「日本語以外の言語を使い,パーツや部品の名前といった専門用語で検索をかけること」だという。兜なら「helm」(英語)や「armet」(フランス語),胸当ては「blestplate」(英語)や「plastron」(フランス語)といった具合だ。日本語で検索するとゲーム関連の記事ばかりがヒットしてしまうため,専門用語は書籍などで学ぶのがオススメとのこと。
時代によって形を変えていった西洋甲冑だが,これは武器と戦法が変わっていったためであると奥主氏は語る。甲冑にはファッションの要素もあり,より奇抜で個性的なデザインを追及するようにもなっていったそうで,同時代の服装との共通点も多いという。とはいえ,甲冑はやはり武具であり,実用性が成り立ったうえでお洒落さが追及されていったとのことだ。
セッションの最後は,実際に甲冑を装備し,剣を持って戦った経験のある奥主氏の体験談が語られた。
甲冑をフル装備した際の重量は25kgほどで,重いのは兜と胸当てであり,兜は2.5〜3.5kg,胸当ては4〜6kgのものが多いとのこと。防御力はとても高く,相手の武器が当たっても少々衝撃を感じるくらいなので,ひたすら攻撃に集中できるという。
甲冑は身体の可動域は制限されるものの,イメージほど動きに制限されることはないとのこと。この日に装備した腕の甲冑の装着感は,「バイク用の手袋に近い」と奥主氏は説明する。皮手袋の上に金属パーツが鋲で留められているためで,ちゃんと身体に密着するような着方をすれば,金属のパーツがガチャガチャと鳴るようなことはあまりなく(ただ,現代のスポーツ用甲冑は音がすることが多いそうだ),さらに金属パーツが素肌に触れるようなこともないようだ。
また,兜を被ると両腕を上げるバンザイのポーズができないのだが,甲冑武術はこうした制限に対応する形で発展しているとのこと。ロングソードも両手で柄を握って振り回すのではなく,片手は柄,もう片手は刀身を持って戦うという。
普段ゲームで目にすることも多い西洋甲冑だが,専門家の話を聞く機会はあまりないため,大変興味深いセッションとなった。CEDECの新たな可能性を拓いた感があるセッションであり,来年以降もこうした取り組みに期待したい。
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