レビュー
アーケード筐体風バッグ「Arcade Cabinet Backpack」をレビュー。コンパネが付いた異様なバッグ,その実力やいかに
そんな夢を叶えてくれるSTUDIO696のアーケード筐体風バッグ,「Arcade Cabinet Backpack」(通称・ゲーセンバッグ)が,milktub公式サイトで2020年11月27日12:00に発売される。販売期間は12月11日まで,発送は12月18日以降の予定だ。価格は5万9800円(税込)で,だいぶ高めに感じるが,実現までに想定以上のコストがかかってしまったため,これでも赤字確定の出血大サービスだそうだ。
今回の販売数は100台で,完売後に再販希望が多ければクラウドファンディングにて追加の制作・販売を行う構想もあるとのこと。詳しくは特設サイトのQ&Aコーナーを参照してほしい。
そんな本品を1台提供してもらえたので,この奇抜なアイテムがいかなるものか,じっくり紹介&検証してみたい。
milktubの「Arcade Cabinet Backpack」特設サイト
バッグが筐体風になった理由(わけ)
このような製品が生まれたきっかけは,アパレル制作ブランドSTUDIO696および美少女ゲームブランドOVERDRIVE代表のbamboo氏が,数年前にアークシステムワークスの森 利道氏から「格闘ゲームのプレイヤーに向けたアーケードスティック運搬用のバッグがあるといいよね」という提案を受けたことだったという。
アーケードスティックを持ち運ぶためのバッグは,これまでにもMad Catz「Arcade FightStick Messenger」,MSY「Team GRAPHT Shield Backpack for Arcade Stick」,Qanba「Qanba Aegis Arcade Joystick Backpack」,三和電子「アーケードコントローラバックパック」など,さまざまな製品がリリースされてきた。しかし,ゲームデバイスメーカーのバッグは個性が強すぎるデザインになりがちで,PCサプライメーカーのバッグは無難すぎるデザインになりがちだ。それらも悪くないが,恐らく森氏はもっと別の個性を持つもの――森氏の嗜好性とSTUDIO696が得意とするデザインラインを考えると,「ロックなデザイン」を想定していたのではないだろうか。
しかし設計を進めていくうち,タブレットやモバイルモニタを収められるポケットとコンパネがバッグに付いてしまったそうだ。ロックというかパンクというか,とんでもない飛躍が途中にあった気がするが,bamboo氏自身が「なぜか」と述べているので,あまり気にしないでおこう。
バッグ部分の寸法は,おおよそ300(W)×100(D)×500(H)mm。さすがにHORIの「リアルアーケードPro.Premium VLX」シリーズ(長辺570mm)やタニタの「VDC-18-c 18式コントロールデバイス ツインスティック」(長辺650mm)など,携行性を考えられていないレベルのコントローラはさすがに入らないが,たいていのアーケードスティックを収納できる。ただレバーを保護する機構などは無いので,気になる人はカバーを自作するといいだろう。
クミ☆タテ 〜AssemblyShow〜
本品は組み立て式であり,初期状態ではバッグ本体とコンパネ部分は分離している。ただし基本的なユニットは組立済みでハンダ付けや接着などは必要無いので,工作難度としては「IKEAの家具を組み立てるくらい」といったところだ。
コンパネ部分のレバーボールとボタンは,アーケード筐体や一般的なアーケードスティックより一回り小さいモデルが採用されている。ボタンは30⌀でなく24⌀,レバーボールは35⌀でなく30⌀だ。なお,30⌀のボタンを使いたい場合は相当な加工が必要となる(アクリル板の強度的にも推奨しかねる)が,レバーボールはネジ穴が共通規格なので簡単に交換できる。
それでは組み立てていこう。まず付属の六角レンチで,コンパネの外周にある6つのネジを外し,底面カバーを取り外す。続いてボタン,レバーボール,レバーシャフトのカバーディスクも取り外す。
次にデザインシートを切り出そう。記事製作時はプリント済みのものを提供してもらったが,製品版では特設サイトからダウンロードして購入者が自分で印刷するスタイルとなる。
デザインシートを切り出したら,コンパネの下段パネルと中段パネルで,バッグのコンパネ装着部をサンドイッチする。そして,中段パネルと上段パネルでデザインシートをサンドイッチする。
たわみの生じる布面を挟むため,ネジ止め位置を合わせるのが割と厄介なのだが,「パネル3段+デザインシート+バッグ本体にネジを通す → ボタンを嵌める → レバーにカバーディスクとボールを装着(ボール留めのネジをしっかり締める) → ボタンに配線する → 底面カバーのネジ穴をネジに通す → ナットを締める」という流れで組めば,比較的スムーズに組み立てられるだろう。
さて,これで完成……。ん……?
コンパネのデザインおかしくない? ネジ穴の位置とか。
これは……bambooさーん! 送っていただいたデザインシート,出力の版型が合ってませんでした!! まあ,上部ディスプレイ部位にデザインシートを挿入したとき,だいぶ余っていたので気付いてはいたんですが!
前述の通り,製品版では購入者が自分でプリントアウトすることになるが,そこで出力サイズを間違えるとこうなってしまう。つまりアレだ。きっと「注意喚起せよ」という神の采配だろう。
ただシートがズレているのも何だし,せっかくだから何かに変えてみよう。「カスタム例を見せよ」と神が言っている気もする。なので,OVERDRIVEの公式Twitterでロックの日(6月9日)に公開された「DEARDROPS」の10周年記念イラストを……。
「Keep on Rockin'!」
— OVERDRIVE (@overdrive_jp) June 9, 2020
本日6月9日は"ロックの日"です。
こんな日に「キラ☆キラ」「DEARDROPS」「MUSICUS!」のプレイはいかがですか?
全作品好評発売中です。https://t.co/BEDtm7DbHz
(ちなみにDEARDROPSのイラストは10周年記念書き下ろしイラストで本日初公開です!) pic.twitter.com/9ZX0aMPD2B
加工して,出力して,こう!
こんな感じに,好きなデザインを適用できるので,画像編集ソフトを使える人はいろいろ試してみるのもアリだ(なお当然ながら,基本的に私的および自己責任での使用に限る)。
ディスプレイやタブレットを格納するためのポケットは,紙の版型で言えばおおよそB5サイズ(257x182mm)。B5サイズのコピー用紙を持ちつつ秋葉原をウロウロして調べたところ,あくまで面積からの推測(厚みは軽視)だが,センチュリーのモバイルディスプレイ「LCD-10000VH6」:252(W)×175(H)×32(D)mm(突起部含まず)や,MicrosoftのタブレットPC「Surface Go 2」:245(W)×175(H)×8.3(D)mmは丁度良さそうだ。ディスプレイのサイズとしては,「10.xインチ」ならおおよそ適合すると考えられる。
上部ウィンドウのポケットは,おおよそ265mm(W)×60mm(H)。厚みが無いので用途は限られるが,導光板とLEDを仕込んでバックライトにしてみたり,薄型のLEDマトリクスを仕込んでデジタルサイネージにしてみたりといった活用も考えられる。ウデに自信があるならば,背面を切り取ってしまえば改造の自由度が大幅に向上する。
ARCADUS!
組み立てが済んだところで,本品最大の特徴であるコンパネの使い勝手を見ていこう。まず,PCなどとの接続は,コンパネ裏面のUSB type-Cポートを使って有線でつなぐか,同ポートからモバイルバッテリーで給電してBluetoothでつなぐかの2択となっている。
モバイルバッテリーで給電する |
コンパネ下部のポケットは余裕があるため,GPD Winのような小型PCや,Raspberry Pi系の基板なら難なく収納可能だ |
コンパネを用いたプレイのテスト用として,筆者のSteamライブラリから3本のアーケードゲームの移植タイトルをピックアップしてみた。
メタルスラッグ3
まず「アーケードスティックの瞬間的な入力が求められるゲーム」として思い当たったのがSNKの「メタルスラッグ3」。DotEmuの移植によるSteam版はXInputのゲームパッドでしか遊んでおらず,あまり良い印象を持っていなかったのだが,アーケードスティックでプレイすると印象が相当変わる。
虫姫さま
アーケードスティックでプレイするならば,やはりシューティングゲーム。そんなわけでケイブの「虫姫さま」をプレイしてみた。せっかくなので,縦画面にしてみよう。ちなみにケイブの移植タイトルは画面表示位置を細かく設定できる機能があるのだが,それが予想外にもこういったシーンで役に立つ。
ストリートファイターII’
アーケードゲームの花形と言えば格ゲーだ。そこでカプコンの「Street Fighter 30th Anniversary Collection」から「ストリートファイターII’」をプレイしてみたのだが,ここで今更ながら気付いたことがある。コンパネが6ボタンだけなので,「ストリートファイター」シリーズや「ヴァンパイア」シリーズなどの6ボタン格ゲーをプレイするとき,スタートボタンをアサインする余地が無い。スタート用に別途キーボードなどを用意することを推奨したい。
コントローラとしては充分機能するが,レバーボールが小型のため一般的なアーケードスティックとは感触がだいぶ違ってくる。格ゲーをプレイする場合は,レバーボールの換装をおすすめしたい。
また,大型のアーケードスティックをガチャガチャいわせてプレイすることに慣れている人だと,筐体が軽いゆえの入力ミスに悩まされるだろう。逆に,小型のアーケードスティックを膝に乗せてプレイすることに慣れている人なら,それほど違和感なく使用できそうだ。
超電玩パフォーマー
正直なところ,底面カバーの都合上,コンパネ部分のメンテナンスは難しい。レバーボールのネジを締めやすいよう,レバーの直下にドリルで穴を開けるくらいはしても良いかもしれない(当然ながら自己責任だ)。
ただ,コンパネが1つあると大助かりするシーンは,ゲーマーならいろいろとあるだろう。例えば「人が揃ったから『ダウンタウン乱闘行進曲マッハ』の4人対戦をしようと思ったのにゲームパッドが1つ足りない!」というときに「そういえばArcade Cabinet Backpackがあるじゃないか」となったり,気になるアノ子が「『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE』やってみた〜い」と言い出したときにArcade Cabinet Backpackのコンパネと収納していたアーケードスティックで手合わせできたり,そういうピンチを切り抜けられる。
そして何より,「目立つ」ということの利点は非常に大きい。C4 LANなどのLANパーティーに参加するときや,BitSummitやTokyo Sandboxなどのインディーズゲームイベントに出展するとき,本品を活用すれば一躍フロアのスターとなれるはずだ。缶バッジや電飾などで装飾すれば,迫力はさらに増すだろう。
基本設計は必要十分。あとは,いかに長所を引き出す使い方を考えて,活用(もしくは改造)することができるか。「Arcade Cabinet Backpack」は,言ってしまえばウィンドウとコンパネが付いた“だけ”のバックパックだが,それによって比肩するものが無いほどの「ギーク向け」な特性を手に入れている。
STUDIO696公式サイト
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