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[CEDEC 2019]ゲームのように楽しく勉強するには自己肯定感が大事。教育アプリのノウハウが語られた「現代の子供たちが『勉強をゲームのように楽しくできる』未来へ」レポート
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印刷2019/09/07 13:44

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[CEDEC 2019]ゲームのように楽しく勉強するには自己肯定感が大事。教育アプリのノウハウが語られた「現代の子供たちが『勉強をゲームのように楽しくできる』未来へ」レポート

 2019年9月4日〜6日に行われたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2019」では,教育に関連した講義も少なくない。その1つが,ベネッセコーポレーションのタブレット教材「チャレンジタッチ」向けの教育アプリの作り方をテーマとした「現代の子供たちが『勉強をゲームのように楽しくできる』未来へ」。子供達の自己肯定感を伸ばして自発的に勉強させるためには,子供の事情を知ったうえで細やかな心配りを行っていることが語られた。

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「CEDEC 2019」公式サイト


ベネッセコーポレーション デジタル開発部の鈴木優伯氏
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 ベネッセコーポレーションの「進研ゼミ」を知っている人は多いだろう。教材「チャレンジ」についてくるテスト問題を解いて送り返すと,「赤ペン先生」の添削指導が受けられるという通信教育だ。現在は紙の教材に加えて専用のタブレット,「チャレンジタッチ」を使ったコースも用意されている。チャレンジタッチには,メインレッスンに加えて「教材アプリ」が収録されており,漢字やアルファベットの勉強や,計算やプログラミングの学習が行える。

 この教材アプリの開発に携わるのが,ベネッセコーポレーション デジタル開発部の鈴木優伯氏だ。鈴木氏は小学生時代に「ドラゴンクエストV」を遊んだとき,ビアンカフローラのどちらを結婚相手に選ぶべきか真剣に悩んだことから,ゲームが現実に及ぼす力の大きさをまざまざと思い知った。この体験をきっかけに,「やりたくない勉強を嫌々やる」のではなく,「ゲームのように楽しく,ポジティブに勉強できる」ための教材アプリを作るようになったのだという。

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 チャレンジタッチを使ったコースは2014年にスタートしているが,この時点では子供達の親と社内の双方に「デジタルより紙の教材のほうが使いやすいし,勉強になる」という意見があったという。漢字を覚えるための「漢字ポスター」を例に取ると,確かにデジタルよりも紙のほうが便利に思える。タブレットをいちいち起動するよりも,紙のポスターをトイレや居間の壁に貼っておけば自然に見られるので効果は高い。
 その一方で,タブレットの教材アプリには紙にないメリットがあると鈴木氏は言う。インタラクティブ性をうまく使うことで,子供の学習意欲を高められるのだ。
 つまり,紙とタブレット(デジタル)は,「どちらが優れているか」という話ではなく,互いに長所と短所を持つ存在として捉えるべきであり,そのため,チャレンジタッチのコースにはアプリだけでなく紙の教具も併用している。例えば,九九を教えるには,九九ポスターと教材アプリを配信し,さらに腕時計型デバイス「九九ソングバンド」が配られる。九九ソングバンドからは,九九を覚える歌が流れ,計算問題が出題される。このように,それぞれの特性を活かして,さまざまな手段で子供達の興味を惹いているのだ。

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 鈴木氏によれば,子供が勉強嫌いになるのは,成績が上がらないことで「自己肯定感」が下がるからだという。自己肯定感が下がった子供達は積極的に勉強しなくなり,勉強の習慣が身に付かないため,さらに成績が下がるというループに陥る。
 反対に,成績が上がれば自己肯定感も上がり,自発的に勉強するようになる。こうした違いが生まれる背景には,幼稚園から小学校への環境の変化があるのではないかと鈴木氏は考える。
 幼稚園では結果を判定するようなテストがなかったのに,小学生になると自分の答えに×が付いて,否定されるといったことが起きる。ここで良い成績を取ったり,環境に適応できればいいが,そうでなければ勉強嫌いになってしまうのだ。

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 では,自分で勉強する子供にはどういった特徴があるのだろうか。
 チャレンジタッチの利用ログを分析したところ,勉強ができる子供達は「毎日取り組む」「間違った問題を見直す」「勉強する日時を決める」「目標を決める」「目標が達成できない場合,1週間以内リカバリーする」といった行動を取っていることが判明した。
 勉強のできる子供達に共通した行動は,良い行動だということだ。鈴木氏は,こうした行動を「推奨行動」として,教材アプリの内容を工夫し,子供達が推奨行動をとるようにしていったという。例えば,毎日ログインしたり,学習を最後まで終えるといった推奨行動をとると,その場で誉めるだけでなく,仮想アイテムの「ジュエル」を渡すという。ジュエルを貯めることでアバターやミニゲームなどの「ごほうび」と交換できるので,子供達のモチベーションも上がり,次第に推奨行動=自発的に勉強をできる子供の習慣が身についていくわけだ。

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 鈴木氏が教材アプリを作る際,子供の興味を惹くためにゲーム的な演出を使うことがあるが,こうした演出はある意味,「野菜の嫌いな子供に,砂糖でコーティングした野菜を食べさせるようなもの」だという。つまり,野菜を食べさせる工夫をすることなく,表面だけ子供が好きそうなものにしたという意味で,これでは子供が野菜を食べるようにはならない。

 つまり,ゲーム的な演出を取り入れるにしても,単にゲームのような絵が出てくるだけといった表面的なものでは不十分で,演出だけでなく,学習の体験もまたゲームのようでなければならない。子供の学習に合わせたインタラクティブな形でゲーム的な演出が行われ,学習すること自体が楽しいと思えるまで導くことが大切だというわけだ。
 上記のジュエルはその良い例だろう。ジュエルというゲーム的な報酬システムを取り入れることで,学習体験にインタラクティブでゲーム的な面白さを持たせているのだ。グラフィックスだけゲーム風でも,あとは普通に淡々と問題が出てくるだけだったら,子供達の興味は続かないだろうと筆者も思う。

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 鈴木氏はまた,大人は子供のミスに辛くあたってしまいがちだという。子供は学校で習っていないことは知らないし,身体の機能も発達していないが,大人はそれを忘れて間違いを責めることが多く,子供達の学習意欲を萎縮させてしまう。
 そのため,鈴木氏の教材アプリではその点に細心の注意を払っている。例えば,テキストで使う漢字は対象となる学年で習っているものだけにし,習ってない漢字は使わない。「問題に挑戦しよう!」という一見ありふれた表記も,小学3年生向けのテキストには使用できない。「挑」は中学生で,また「戦」は小学4年生で習う漢字だからだ。

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 小学校低学年の子供達は解答に×を付けられることに慣れていないというのは上記のとおりだ。したがって,低学年向けの教材アプリでは,答えが間違っていたら即座に×を付けるのではなく,まずは「ほんとう?」と聞き返して見直させるようにしている。
 また,子供達には記憶の改ざんや思い込みが発生することがある。例えば,漢字の書き順の間違いを指摘したときに「正しく書いた」と主張することがあるという。こうしたトラブルを防ぐため,教材アプリの書き順練習では,子供とお手本の字を並べて1画ずつプレイバックする機能が用意されている。このあたりは,子供と向き合い続けたからこそ得られたノウハウだろう。

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 紙の教材の代替ではなく,特性に則した学習効果を高めることも教材アプリ作りの重要なテーマだ。紙の教材にはないインタラクティブ性を発揮するために,「画面の遷移にかけていい時間は0.1秒。演出は0.2秒」というルールを定めており,さらに,アプリが「次に何をすべきか」をナビゲーションするという。
 子供の自主性を尊重するためとして,たくさんのメニューを用意して導線を引かないのは教育アプリが陥りがちな問題。それでは参考書をわたして放置しているのと同じであり,十分に成果はあがらないという。

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 成功体験を与えることで,子供達は自発的に学習するようになると鈴木氏は述べる。そのため,チュートリアル段階では,不正解でも「どこを間違えたか」を指摘し,それでも間違えるとほぼ答えとなるヒントを与え,3度めには,ほぼ正解する「絶対正解チュートリアル」を採用している。これは,「CEDEC 2015」に出展されていた「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」関連記事)がヒントになっているそうだ。
 「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」では,システムが補正をかけて成功体験を与えた場合と,そうでない場合の平均スコアにそれほど差が見られなかったという結果が出ているのだが,補正があっても成功体験を与えることは大事であると鈴木氏が感じたため,絶対正解チュートリアルを採用しているという。

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 早い画面遷移と的確なナビゲーション,そして成功体験による上達の促進などと書くとゲームの話をしているようだが,実際,デジタルを使った教育にはゲームのノウハウが多用されていることがよく分かる。
 「考える力を重視する」という2020年の新教育指導要領では,ゲームの力を活かして,世界に没入させることで,未知の状況における正解のない判断をシミュレートするような教育を考えていきたいと鈴木氏は今後の展望を語り,講演を締めくくった。

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