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耳で聞いて楽しく,頭で考えるのも楽しい。「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」ゲネプロの模様をレポート
※原作はコミックスの「憂国のモリアーティ」を,原案はコナン・ドイル作の「シャーロック・ホームズ」シリーズを指します
極上の謎を届けたい――
メインキャスト5人による囲み会見をチェック
オフィシャル会見に登壇したのは,ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾さん,シャーロック・ホームズ役の平野 良さん,アルバート・ジェームズ・モリアーティ役の久保田秀敏さん,ルイス・ジェームズ・モリアーティ役の山本一慶さん,ジョン・H・ワトソン役の鎌苅健太さんの5人です。
――まずは公演の意気込みをお願いします。
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役/鈴木勝吾さん(以下,鈴木さん):
ヴァイオリンとピアノによる生演奏でお届けするので,お芝居と音楽といろんなタスクがあって大変でした。今日まで頑張って稽古場で作りあげてきたものを,皆さんにうまく届けられたらと思います。
シャーロック・ホームズ役/平野 良さん(以下,平野さん):
確かにタスクが多いので大変なんですが,歌とダンスで表現できるミュージカルなのでステージの熱量が届きやすいと思います。物語も,音楽も素晴らしいので,そこを皆さんに感じ取っていただけるよう頑張りたいです。僕自身,シャーロック・ホームズに憧れていたので,今,演じることに緊張とわくわくを感じています。
アルバート・ジェームズ・モリアーティ役/久保田秀敏さん(以下,久保田さん):
今回の作品は世界的に有名なシャーロック・ホームズを,その敵役であるモリアーティの目線で描いた斬新な作品で,原案を知っているファンの人にも新しい目線で観ていただけるのではないかと思っています。楽しみにしていてください。
ルイス・ジェームズ・モリアーティ役/山本一慶さん(以下,山本さん):
「憂国のモリアーティ」という作品自体,独特の空気感があって僕も好きです。謎解きなどもいろいろあるので,ステージ上で緊迫感とかをきちんとお届けしなければと,役者として感じます。そういった空気を皆さんにも感じてもらえたらと思います。
ジョン・H・ワトソン役/鎌苅健太さん(以下,鎌苅さん):
生演奏や推理,いろいろなものをミュージカルとしてお届けします。観てくださった人,そして演じる自分たち自身の世界を広げるような作品にできるよう,大阪公演まで駆け抜けたいと思います。
――舞台の見どころをおねがいします。
鈴木さん:
演出家の西森英行さんを中心に,キャスト1人1人が登場人物たちの繊細な心情を表現しようと努力してきました。階級社会がテーマなので,虐げられている人たちやその上にいる貴族たち,その貴族に対する民衆の想い,好奇心のままに生きるシャーロックの生き様など,いろいろなものを感じていただきたいです。
平野さん:
登場人物がみんなキラキラしているので,魅力という極上の謎をお届けできると思います!
久保田さん:
今回の作品ではモリアーティ陣営は僕たち3人がメインですが,モリアーティにはモリアーティの,シャーロックにはシャーロックの正義があったりします。お互いの見えない正義を感じてもらえればと思います。
山本さん:
モリアーティ陣営とシャーロックとの戦いは,舞台上で観ていてもわくわくしますし,心躍らされる部分があるので,ぜひ注目してほしいです。
鎌苅さん:
僕はワトソン役なので,シャーロックの見どころはもちろんたくさんあるのですが,ウィリアムとシャーロックの双璧がどうなっていくのか,どういう風にからんで,もつれて,解けていくのか,というところが見どころです。今の時代につながる何かを感じてもらえればと思います。
――個人的にはモリアーティ派ですか? シャーロック派ですか?
鈴木さん:
僕は探偵が好きなので,シャーロック陣営がいいなと思いましたけど,モリアーティ陣営はそれはそれで体制に反旗を翻す,みたいなところが好きなんですよね。でも,やっぱりシャーロックもいいなあ(笑)。
平野さん:
心はモリアーティ派なんですけど,僕は性格が小心者なので,どちらかというと,誠実で嘘がつけないワトソン派ですね。ダークヒーローには憧れるものの自信がないので,ワトソン派でということでお願いします!
久保田さん:
僕はモリアーティ派ですね。ダークヒーローはやはり男の憧れなので。今回はその立場になれて嬉しいです。
山本さん:
僕は仕掛けた謎を容易く解かれるとイラッとしてしまうので,シャーロック陣営のほうがストレス発散になりそうだなって思います。
鎌苅さん:
私はワトソンですので,シャーロック派です。モリアーティ陣営はちょっとしんどいですよね。たぶんモリアーティ陣営の皆さんは,役作りのため,普段の生活から僕らよりも負荷がだいぶかかっていると思うんです。そういう意味でもちょっとキツそうだなと……。この作品は陰陽がはっきりしているので,僕は陽側のほうがいいですね。
――お客様にメッセージをお願いします。
鎌苅さん:
全世界で愛されている素晴らしい作品を,今こういった形でミュージカルとして観られるということは奇跡のように感じますので,この作品を多くの皆さんに届けたいと思います。よろしくお願いします。
山本さん:
原作を知らない人も楽しめますし,舞台を観たあとには原作が読みたくなるような,すでに読んでいる人はさらに読み返したくなるような,そんな作品だと思います。楽しみにしていてください。
久保田さん:
原作を単純にミュージカル化したというわけではなく,人間ドラマやさまざまなものがミュージカルだからこそという形で表現されていますので,ぜひお楽しみください。
平野さん:
もちろんストーリーも面白いですし,音楽的に耳で聞いて楽しく,頭で考えるのも楽しい,たくさんのタスクが詰まっている作品です。それを彩るキャストと陣営の魅力という極上の謎で,皆さんをお迎えできたらと思います。
鈴木さん:
「憂国のモリアーティ」をミュージカルにしてお届けできるのが,本当に楽しみです。モリアーティ側からすると時代に反旗を翻すという立場ですが,演劇という文化には常にそういう歴史があり,階級社会へのテーゼだったりするのかなと思ったりもするので,お客様に今この時代が抱えているいろいろな問題を,この舞台をとおして問いかけたいと思っています。そういう大きなテーマを,作品を通じて感じていただきたいです。
ピアノとヴァイオリンの生演奏,歌,小物,
すべてが19世紀の英国を彷彿させる――
ゲネプロレポートをお届け
「憂国のモリアーティ」という作品については,【「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」公演直前! キャストたちが登壇したスペシャルイベントの模様をレポート】内にて紹介しています。原作を知らない人は,ぜひこちらの記事を一読ください。
ゲネプロを観劇して,筆者がまず感じたのは実に濃くストーリーが描かれている,ということでした。舞台やミュージカルは,制限のある時間のなかで,ストーリーやキャラクターなどの情報を届けつつ,主軸となる展開に持っていかなければなりません。そうなると,どうしても省略しなくてはならない部分も出てくると思います。
そんななか今作では,モリアーティ3兄弟の背景,シャーロックとワトソン,ウィリアムとシャーロックの出会い,シャーロックの謎解きなど,かなり丁寧に描かれていました。原作を知っている人はもちろんのこと,原作を知らない人でもストーリーで困ることはないと思います。
オフィシャル会見などでもキャスト陣が触れていますが,この作品は「大英帝国の階級社会を崩壊させる」という,モリアーティ3兄弟の思惑の上で進んでいく物語です。
そして敵役となる貴族たちは,いかにも分かりやすい悪人として描かれます。貴族たちは労働者階級の人間はゴミとしか思っておらず,道端で蟻を踏むのと同じくらい,その命を軽んじているのです。これだけでも酷い話ですが,警察も貴族には逆らえないため,貴族の犯罪を看過することもあるという始末。
ならば,貴族を裁くにはどうすればいいのでしょう。階級社会と戦うために殺人という手段を取ったモリアーティ陣営の本質は,悪なのか? モリアーティの犯罪を暴こうとするシャーロックは,果たして善といえるのか? 善と悪の境目など本当にあるのか……。本作には考えさせられるテーマがたくさん散りばめられています。
その緻密なストーリーのなかで,大きな役割を果たしているのが「歌」でした。
ミュージカルは心情や状況,セリフを曲に乗せて展開していくものですが,そのなかでも本作ではセリフと状況を歌にしたものが多いです。説明的になりがちな状況を歌にすることでただの状況描写で終わらせず,曲の盛り上がりや歌声の音圧などで色をつける,といった手法が使われています。
そして歌を引き立たせるのは,生演奏によるピアノとヴァイオリンです。歌う場面に限らずBGMとしても演奏されるほか,時には扉の閉まる音をヴァイオリンで表現するなど,生の音がさまざまな場面で使われていました。
ある意味で郷愁にも似た“古き良きアナログ感”が全身に染み渡り,その体感が19世紀末のイギリスという,この作品の時代背景ととてもマッチングしているのです。ピアノとヴァイオリンのみを伴奏に歌われる楽曲はオペラのようでもあり,キャスト陣の声の伸びも素晴らしく,どの曲も実に心地よく耳に馴染みます。
そしてこの古き良きアナログ感は,実は舞台のセット作りや小物などにも表れています。プロジェクションマッピングなどの最新技術も使用されていますが,セットの構成自体はどちらかというとシンプルで,そのシンプルさが世界観をより際立たせていました。
モリアーティ3兄弟が招待された晩餐のシーンで使われる食卓は,使用人に扮したアンサンブルキャストたちがセットを作っていくことで,まさに晩餐の支度をしている風が出ています。
また,席で注がれるワインは本物のワイン(風の飲み物)が使われ,使用人がワインを注ぐ動きは高級レストランのソムリエといった風です。あえてセットとして固定されたワインではなく,実際に飲み物を注ぐ……細かいところではありますが,貴族の豪華な暮らしをリアルに感じさせる演出となっていました。
キャストらの演技力でこの世界に生み落とされた,
各キャラクターたちに注目!
モリアーティ3兄弟の頭脳であり,裏では「犯罪相談役(クライムコンサルタント)」の中心人物となるウィリアム。彼はモリアーティ陣営の登場キャラクターのほぼ全員が忠誠を誓っているほどのカリスマ性の持ち主です。表で見せる穏やかな物腰と,裏で見せる真実の顔とのギャップに,ぞくりとさせられます。
それでいて「困っている人を見過ごせない」という嘘偽りない優しさを見せるウィリアムの存在は,それだけ聞くと実に歪といえますが,その歪さを感じさせないのが彼というキャラクターなのです。その魅力を,鈴木さんはステージ上で見事に演じられていました。
訪れた孤児院でウィリアムとルイスの兄弟に魅せられ,2人をモリアーティ家に招き入れた長兄のアルバート。実の両親と弟を殺害したという非情さを持ちながら,血の繋がらないウィリアムとルイスに対しては,血の繋がりよりも濃い情をにじませるキャラクターです。久保田さんは,その難しい役どころを見事に演じていました。
原作未読の人のためにアルバートについて補足をすると,彼は英国の秘密情報部「MI6」の指揮官です。いわゆる権力でもってウィリアムを助けています。大英帝国からの任務のなか,こっそりとウィリアムからの任務もこなしているんですね。
末弟のルイスは,自分だけいつも任務に入れてもらえず,ウィリアムのために役に立ちたいと思い悩んでいました。ルイスの手だけは汚したくない,というウィリアムの気持ちを知っても,彼は食い下がります。ルイスはウィリアムと共に,穢れた世界へ堕ちることを望んでいるのです。
ルイスは表と裏を使い分けるモリアーティ3兄弟のなかでも,劇中での変化が1番激しい役でここも見どころの1つ。筆者的には山本さんの演技がより彼を魅力的に見せてくれるように感じました。
シャーロック・ホームズは,ウィリアムのライバルという立場でありつつ,実質もう1人の主人公です。モリアーティ3兄弟によって,この劇場型犯罪を世に知らしめるという役割を持たされているシャーロック。天才的な観察眼と推理力はそのままに,破天荒な性格や,面倒くさがりなところ,だらしのなさといった,原案のシャーロックの負の面が強調されたキャラクターとなっています。しかし顔はイケメンです。大事なことなので2度言いますが,イケメンです。
ジョン・H・ワトソンは,シャーロックの相棒の医者です。原案でも,シャーロックとは対照的な常識人であることが強調されていますが,本作でもワトソンはいかにもシャーロックの相方らしい役柄となっており,曲がったところが一切ありません。シリアスな劇中のなかで,観客の心をほっと和ませてくれる貴重な存在です。
このほかにも,モリアーティ陣営を支えるセバスチャン・モランとフレッド・ポーロック,シャーロック陣営のジョージ・レストレードとミス・ハドソン,そしてモリアーティの裁きの対象となる貴族たちなど,個性豊かなキャラクターたちが登場します。なかには,驚きの仕掛けがあるキャラクターもいますので,ぜひ実際に劇場で確かめてみてください。
「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」は,5月10日から5月19日まで東京の天王洲 銀河劇場で,そのあと大阪の柏原市民文化会館リビエールホール 大ホールで5月25日から5月26日まで上演されます。気になる人は,ぜひチェックしてみてください。
■公演期間
【東京公演】
天王洲 銀河劇場
2019年5月10日〜5月19日
【大阪公演】
柏原市民文化会館リビエールホール 大ホール
2019年5月25日〜5月26日
■チケット料金
一般7800円(全席指定・税込)
ローソンチケットURL:https://l-tike.com/m-moriarty/
※詳細・その他の席種に関しては公式サイトをご確認ください
■主催
マーベラス,TCエンタテインメント
■公式サイト
https://www.marv.jp/special/moriarty/
■公式ツイッター
https://twitter.com/mu_moriarty
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