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印刷2019/04/30 19:48

イベント

予想以上においしい中世のメニューをいただいた,「パンタポルタ祭 中世ヨーロッパ食事会」レポート

 2019年4月28日,高田馬場の芳林堂書店で「パンタポルタ祭 中世ヨーロッパ食事会」が開催された。これは,中世ヨーロッパ料理をテーマに識者らが中世の知識を語るトークショーと,実際の料理の試食からなるイベントで,ファンタジー関連の情報サイト「パンタポルタ」の開設2周年を記念して行なわれたものだ。
 中世ヨーロッパの人々は,果たしてどんな料理を食べていたのだろうか? 当時の食材や宮廷での宴会の様子などを学びつつ,再現メニューを味わえるこの「おいしい」イベントの内容を簡単にお届けする。

それぞれの席に準備されていた,かわいらしいテーブルクロスとコースター。左上は本日のメニュー
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「パンタポルタ祭 中世ヨーロッパ食事会」公式サイト



濃い中世知識があふれ出したトークショー


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講師プロフィール

繻 鳳花氏(左)
コストマリー事務局主宰。
主に中世ヨーロッパ時代にあった料理・舞踏(民衆ダンス)の再現・アレンジを施した料理レシピ研究を中心に活動している。昨年(2018年),新紀元社より研究成果をまとめた「中世ヨーロッパのレシピ」を上梓。

ベーテ・有理・黒崎氏(右)
グループSNEに所属するライター。2010年に「ソード・ワールド2.0 リプレイ from USA 蛮族英雄−バルバロスヒーロー」で作家デビューした。作中の料理描写に定評があり,その探求のために中世欧州の料理を調べたり,再現したりすることもあるとのこと。


会場ではイベントにちなんだ新紀元社の書籍や,世界の歴史的な料理を研究した同人誌が販売されていた。「英雄たちの食卓」「歴メシ!」を執筆した遠藤雅司氏も来場しており,古代の料理についての知識を披露した
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 イベントの第1部となるトークショーでは,実際に数々の中世ヨーロッパ料理を再現してきた繻氏とベーテ氏がさまざまな事柄について語ったので,その一部をQ&A形式でまとめてみよう。

Q.そもそも,当時の人々はどんな料理を食べていたのか。

 地域によって差があるが,主に近所で採れる野菜や肉,魚で,とくに狩猟肉(ジビエ)はよく食べられていた。ただし,生野菜を食べる習慣はほとんどなかった。また,現代と違って,トマトやジャガイモ,トウモロコシがなかったことはよく知られている。
 レシピが残っているのは宮廷料理ばかりなので,インドやアジアから取り寄せたスパイスや,高級品である砂糖などを権力誇示の意味も込めて大量に使っている。現代と比較すると,かなり奇抜な味付けだったのではないだろうか。

Q.宮廷での宴会はどんなふうだったのか。

 儀典官が招待客を1人ずつ呼び出して長テーブルに着席させ,司会のように宴会を仕切っていた。客は長時間ずっと座りっぱなしで,20〜30種類の料理が次々に出され,かなり大変だった。
 料理は皿ではなく乾かした固いパンに載せて出され,パンの残りや食べ残しは「施し」にしたり,床に捨てて犬に食べさせたりした(「皆さん,今日のイベントではその部分は再現しないでくださいね!」と芳林堂書店スタッフ)。
 また,客を驚かせるための「ビックリ料理」がメインとして用意されていることがあり,切ると生きた鳩が飛び出す巨大なパイや,豚の丸焼きの中から小さい豚の丸焼き,さらにその中から子豚が,といった「豚のマトリョーシカ」とでも呼ぶべきメニューなどもあったという。

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Q.中世料理を再現するときに苦労することは。

 宮廷料理を再現しようとした場合,ガチョウやクジャク,去勢鶏など入手が難しい食材がある。また,金ピカな見た目を作り出すためにサフラン(当時も今も高価)をたくさん使っていたので,高くつくという問題もある。
 さらに,中世の料理では保存がきかない牛乳の代わりにアーモンドミルクがよく使われるが,市販のものではまったく合わない。現代のものと当時のものと,製法が異なるようだが,アーモンドミルクはありふれていたためにレシピが残っておらず,試行錯誤を繰り返した。

Q.中世料理を作っていて楽しいことは。

 小説などでおいしそうな描写があっても,本当の味は実際に食べてみないと分からないため,作って体験するという楽しみがある。それに加えて,現代日本では考えられないような食材の組み合わせなど,料理の常識や味の概念がひっくり返るような経験ができるのも醍醐味だ。
 ベーテ氏は作中の料理描写が有名だが,作中の街では何が名産なのか,それらを人々はどうやって食べるのか,料理を実践することでイメージをふくらませることができ,創作の糧にもなっているという。

イベントの司会は芳林堂書店の大内氏(右端)で,雰囲気にピッタリな衣装は自前のもの。左には完全武装の騎士達が控えているが,これらの鎧もすべて自前とのこと
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 来場者は女性がやや多めで,中世ヨーロッパ風の衣装を着た人もいて,メモを取りながら熱心に聞いていた。
 質疑応答の時間も設けられ,このイベントならではの専門的な質問が出ていた。例えば「中世をモチーフにしたファンタジー小説を出版しており,当時の調理の様子を詳しく知りたいがどうすればよいか」という質問に対しては,宮廷の厨房は非常に大きく分業制であったことなどが説明され,「イギリスにリチャード2世の台所が残っており,Youtubeでその動画を見るのが分かりやすい」などという答えが聞かれた。
 詳しい内容は後日,パンタポルタのサイトにレポートが掲載される予定になっているので,ぜひ参照してほしい。


お待ちかねの試食会


 この日は,繻氏が用意した4品を試食できた。料理の作り方は,いずれも繻氏の著書「中世ヨーロッパのレシピ」に掲載されている。
 「今回は再現性を重視したので,口に合わない人もいると思う」という前置きがあったが,結論から言えばどれも非常においしく,独特の風味が多少あるとはいえ,現代でも十分受け入れられるのではないかと思われた。
 当時のレシピには材料の細かい分量などは一切書かれておらず,おいしくなるかどうかは料理人の腕次第だったという。それを踏まえると,今回の料理の数々を作った繻氏は,もし中世にタイムトラベルしたらたちまち王家のお抱え料理人になれそうだ。

お待ちかねの料理がテーブルにサーブされる
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 最初は「レンズ豆と鶏肉の煮込み」が入ったスープ(左)
 旧約聖書にも登場し古代から食べられていたというレンズ豆のほかに,ひよこ豆も入っている。
 見た目はちょっと泥水のようだが,鶏のダシが優しく染みわたり,滋味深い。柔らかく煮崩れたカブによるものか,不思議と和風で家庭的な味わいもあった。
 右にあるのはエルダーフラワーシロップを入れた水で,マスカットに似たサッパリした甘酸っぱさだ。これを掲げて,「ワッセル!」(「Be Well=皆さんが健康でありますように」という意味の中世英語)というかけ声とともに乾杯した。

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 黒いほうはライ麦パンで,白いほうは「家庭用または修道院のパン」だ。砂糖の代わりにハチミツが少量加えられているが,甘味も塩気もほとんどなく,どっしりしていて,現代のパンとはまったく食感が異なる。
 昔はドライイーストという便利なものはなかったので,ビールでパンをふくらませていた。ただし,現在売られているビールは発酵を途中で止めているので,ビールだけではふくらみが足りず,ドライイーストも加えている。

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このパンは昔のやり方に従い,スープに浸して食べるととても合う。スプーンに載っているのは上の「レンズ豆と鶏肉の煮込み」

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 3品めはこちらの「エンバーデイ・タルト」で,年4回あった「断食と祈りの日」の食べ物だ。この日に食べてはいけないとされる肉類は入っておらず,カレントレーズン(昔ながらの小さいレーズン)を上に散らし,タマネギとチーズが入ったパイとなっている。
 パイ生地の部分は「パイクラスト」と言い,固くて保存性が高いもので,現代のパイのようにサクサクしたものではなく,タルトのようにしっかり詰まっている。このパイ生地をいったん焼いてから,さらに具を乗せて焼くことになるため,1枚焼くのに3時間ほどかかる。繻氏はそれを,今日のために16枚(!)も焼いたという。
 食べてみると,レーズンの濃い甘味と,タマネギのほんのりした甘味はあるものの,ハーブの風味も効いていて,全体としてはしっかりとしたキッシュのような感じだ。ジューシーさもあり,一切れでもけっこうお腹にたまる。
 中世ヨーロッパには一般的にフォークがなく,ナイフは切り分け用であり,ほとんどの料理は手づかみで食べていたとのことななので,それにならって手でいただいた。

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 最後のメニューは,ベーテ氏が以前から食べたがっていたという中世風のチーズケーキ「サンボケード」
 エルダーフラワーのパウダーと,中世ヨーロッパでは貴族のたしなみとしてよく使われていたローズウォーターが入っているため,口に入れるとバラの香りをまず感じ,中東のお菓子のような雰囲気もある。そのあとにやってくるのが,甘みと酸味のバランスが取れた柔らかいチーズと,ショートブレッドのようにさっくりしたタルト地の部分で,全体が混ざり合うと非常においしい。いくらでも食べられそうだ。

会場では,アルコールなどを買うこともできた。中世ヨーロッパではワインがメインだがビールも飲まれており,それらの酒は修道院で醸造されていた。また,ビールの起源はメソポタミアで,今と製法が異なりドロドロのものをストローで飲んでいた,といったビールについてのウンチクも聞けた
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中世クイズに答えてさらにもう一品


 試食の後,中世ヨーロッパの文化に関するクイズが出題された。
 以下に問題を掲載するが,あなたはお分かりになるだろうか?

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答えは左上から順に③,③,①,②,②
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 かなり難度が高く,筆者はまったく分からなかったが,参加者50人のうち全問正解者が2名いた。さすが!
 正解者には,ベーテ氏が特別に焼いた非常に珍しい骨髄入りのパイ「ロンバルディカスタード」と,イギリスの伝統菓子を再現しているお店のビスケットがプレゼントされた。

骨髄のパイを日本で作るのは,大変困難だ。刻んだ各種ドライフルーツに骨から削り出した骨髄とパセリをまき,卵・黒砂糖・スパイスを混ぜたクリームを載せて焼いた,濃厚でおいしいデザートとのこと。実際に食べた人に感想を聞いたところ,「ずっしりしており,シナモンがしっかり効いた濃い味。牛スジの脂部分のような濃厚な食感で,ひとかけでかなりの満足感がある」とのことだった。ぜひ一度食べてみたい!
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問題作成は新紀元社。繻氏も難しいと頭を抱えていたが,パンタポルタのサイトをしっかり読んでいれば分かる問題なので,気になる人はチェックしてみよう
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 近年,VRゲーム,リアル脱出ゲーム,ライブRPG,アーマードバトルなど,座って鑑賞するだけでなく自らが体を動かして体験する娯楽の人気が高まっており,今回のように,料理を切り口に中世ヨーロッパを体感できるイベントはそういった娯楽への入り口としてうってつけだと思われる。
 実際に間近で見たり触れたりした鎧の重厚感や,実際に食べた料理の味はずっと記憶に残り,小説を読んだりゲームを遊んだりしたときのイマジネーションを支えてくれるからだ。
 芳林堂書店やコストマリー事務局では今後もこういったヒストリカル系のイベントを実施していくとのことなので,楽しみにしたい。

料理のサーブなどをしてくれたのは西欧中世実践研究会アヴァロンの皆様
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芳林堂書店のイベント会場には広々とした屋上庭園が付属しており,こんな即席の撮影会もできる。左の女性はライトノベル作家で,今日のために衣装を購入し客として参加したという
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鎧の騎士達は大人気で,剣で切るポーズで記念写真を撮る人や,イラストの資料用に細部を撮影させてもらうイラストレーターも
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