2018年12月28日,東京国際フォーラム・ホールAで
「Composers Summit Concert 2018」が開催される。
このイベントは,
「ゼノサーガ」シリーズや
「魔法少女まどか☆マギカ」などのサウンドを手がけた
梶浦由記氏と,
「テイルズ オブ」シリーズや
「GOD EATER」シリーズなどのサウンドを手がけた
椎名 豪氏を主演に据えた,ゲーム&アニメ楽曲のコンサートだ。スペシャルゲストとして
千住 明氏も出演し,
「機動戦士Vガンダム」や
「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」などの楽曲も演奏される予定だ。
今回は,梶浦氏と椎名氏に,音楽プロデューサー・
冨田明宏氏によるMCを交えつつ,制作スタイルやComposers Summit Concert 2018への想いを聞く機会を得たので,その模様をお届けしよう。
4Gamer:
よろしくお願いします。まずは,「Composers Summit Concert 2018」に出演することになったきっかけを教えて下さい。
椎名 豪氏(以下,椎名氏):
「ライブをやってみないか」と声をかけられたのは昨年末だったと思います。当時,私はバンドで演奏をした経験がほとんどなく即答出来なかったのですが,2018年6月の「
テイルズ オブ フェスティバル 2018」がうまくいったこともあって,やってみようと決めました。ちなみに当時から梶浦さんの名前も挙がっていて,雲の上の存在にビビってました。
梶浦由記氏(以下,梶浦氏):
私の場合は,1年ほど前に出演依頼をいただき,「やります!」と即答しました。その後,椎名さんも出演されると聞いて,きっとゴリゴリに攻めて来るだろうから,負けないように個性を出して頑張らないと……と思いましたね。
MC(冨田明宏氏):
お二人の交流は以前からあったのでしょうか。
椎名氏:
実はこうして長くお話をするのは初めてなんです。ファーストコンタクト自体は,2013年に開催されたマチ★アソビ Vol.11のステージ袖でご挨拶したときだったと思います。
梶浦氏:
「ゼノサーガ エピソードII[善悪の彼岸]」(以下,ゼノサーガII)の音楽を作らせていただいたとき,椎名さんが関わっていた
「テイルズ オブ レジェンディア」とは開発部が隣同士だったこともあり,間接的には関わっているとお聞きしました。
4Gamer:
間接的というのは,どのような形だったのでしょうか。
椎名氏:
「ゼノサーガII」や「テイルズ オブ レジェンディア」のチームでは,CRIのADXと内蔵音源,ストリーミング再生が混在した環境でサウンドを作っていまして,梶浦さんの曲で実験的な試みをいろいろとやっていました。
梶浦氏:
当時,「ゲームの音楽を作る人達は本当にすごいな」と思っていました。音のひとつひとつから作らないといけないし,使えるメモリの量も決まっていて……「ゼノサーガII」とは違いますが,音源を作るところから手がけたゲームは,BGM製作に1年かかりました。ただ,そこそこ良い音ができたと思っていても,専門の作曲家が作った音は,もっとすごいんですよ。ゲームにどれだけすごい音源技術が積み重ねられてきたのかを思い知りました。
椎名氏:
私は逆の印象で,「劇伴主体でやっている人は音楽のスケール感が全然違うな」と感じていました。昔のゲーム音楽はフュージョン系が多かったのですが,「ゼノサーガ エピソードII」の楽曲は,聞いていると「どこの国の曲だろう?」と思うようなエスニックさがあって,ジャンル的な開拓という意味で衝撃を受けました。
梶浦氏:
椎名さんもエスニック風の楽曲をよく作りますよね?
椎名氏:
いやいや! 僕のは“なんちゃって”です。
梶浦氏:
私も“なんちゃって”ですが,BGMは分かりやすさも大切ですから,ある程度噛み砕いてあったほうが,良いものになる場合も多いと思います。だから,本当の意味でのケルトやアフリカを必ずしもやる必要はないと思っています。作家の個性というのも,なんちゃって加減がそれぞれ違うから現れてくるんじゃないかと。
4Gamer:
先ほど名前の挙がったタイトルはどちらも続編ですね。「ゼノサーガ エピソードI[力への意志]」は光田康典氏,「テイルズ オブ」シリーズは桜庭 統氏が作られていましたが,前作を意識することはあったのでしょうか。
梶浦氏:
「ゼノサーガ エピソードI」の楽曲は大変素晴らしかったですが,プロジェクトとして前作の音楽をどのような形で,どの程度踏襲するかは,作曲家が決めることではありませんので,そういった意味では多く意識することはありませんでした。
椎名氏:
「テイルズ オブ」シリーズに携わらせていただいたときは半端ないプレッシャーで,正直言うと最初はポジティブに考えられなかったんです。プロトタイプを社内向けに発表する場があり,そのときは頑張って桜庭氏のテイストを継承しようと思ったんですけど,やっぱり個性の強い桜庭氏の曲をまねるのは難しくて……。
なので,「自分が思うテイルズ オブの楽曲」を作ろうと決めて,プロデューサーとも話し合い,結果的にオーケストラを使いました。内蔵音源で全部やる予定だったんですが,オーディオデータも使いたいと要望を出して,プログラムも変えてもらって……とにかく緊張の連続でしたが,思い返すと「やって良かった」と思える作品になりました。
ゲーム音楽とアニメ劇伴,それぞれの方法論
MC:
お二人の音楽制作へのこだわりはありますか?
椎名:
僕は世界一周の旅が夢なので,「世界旅行を疑似体験できるような作品」を心掛けています。港に泊まって,ここの国に行ってこういう体験ができて……といった,RPGのような世界観です。
梶浦氏:
アニメの音楽の場合は,“広さ”に忠実に作ると決めています。逆に,実写では広さを裏切った音楽でもよくて,例えば広い空間でドライなピアノが鳴っていても格好良く響きます。でもアニメでそれをやると,絵がシュッと小さくなってしまう印象を受けるんです。だから,「空間の広さを音楽で示唆してあげよう」といった意識で作っています。
あと,暗いシーンで明るい音を使うと曲が浮いてしまうので,背景にある闇の量や重さに応じて,音楽のトーンを作ります。
椎名氏:
僕はアニメだと,パーティクルを用いた演出に合わせてキラキラしたシンセサイザーの音を入れたり,効果音に近い音をテンポに合わせて入れていますね。歩き始めた第一歩に合わせて,ダン! とピークが来るような。
4Gamer:
ゲームとアニメには,インタラクティブであるか,そうでないかという大きな違いがあります。その点で思想の違いはありますでしょうか。
椎名氏:
ゲームの曲は,“曲にとっての主人公”を,ゲームの主人公ではなくプレイヤーだと考えて作っています。ゲームの主人公がつねにポジティブな性格だとしても,遊ぶ人はそうでなかったりしますから。
あと,ゲーム音楽は鳴らしっぱなしにされることが多いのも特徴ですね。なので,アニメでは無音にすることで出せる味を,どうするかが課題になります。私の場合は,意図的にブレイクのようなものを曲に入れています。そのブレイクがプレイヤーの感情にマッチすると,すごい心理的影響を与えられるんですよ。その一方で,尺の決まっているイベントシーンは,感情曲線をこちらから演出するイメージで作っています。
梶浦氏:
私の場合,「ゼノサーガ」はシナリオがメインのゲームなので,ストーリー演出のシーンでは,アニメとの感覚的な差はあまりありませんでした。ただバトルシーンなどのループが必要な場所では,音楽的な起伏はあっても感情的な起伏を付けすぎない方がいいな,というのが当時の理解でした。
アニメの劇伴は編集を見越して感情的な起伏を作りますが,ゲームの場合だと感情を作るのはプレイヤー自身ですから,邪魔しないことを意識していたんです。あとは,バトルシーンではどこまでアゲるのか,どこでループするのか……などで悩んだ記憶があります。最終的には,「とにかく格好良い曲を作ろう!」と開き直って制作したのですが(笑)。
4Gamer:
プレイヤーの感情と楽曲の合致という話では,インタラクティブミュージック(楽曲の展開をゲームの進行度に合わせて制御する手法)なども試されているのでしょうか。
椎名氏:
現在制作中のタイトルでは,もちろん試みています。ただ,まだまだプログラムですべてを制御するのは早い段階かな,とも思っています。たとえばですが,「HPが減っていったときに危機的な音楽にする」という発想では,「ギリギリが好きな人」の感情には合致しないんです。HPが0に近い状況を,“やばい”と思っているのか“楽しい”と思っているのか,プログラムには判断できないかな,と。
音楽理論や知識は重要?
梶浦氏:
そういえば,椎名さんってゲーム会社に入ってから音楽の勉強を始めたんですか?
椎名氏:
はい。実家がエレクトーン教室だったんですが,幼いころは「鍵盤をやっていると女々しい」と思われるようなムードがあった時代で,少年野球の方に行ってしまいまして。ゲーム会社に入ってから音楽制作を始めました。当時はDAWもなかったのでExcelで曲のシーケンスデータを作っていたんです。
梶浦氏:
私の時代は「レコンポーザ」でのドラム打ち込みをテンキーでやっている人がいましたが,そういう特殊な曲の作り方をしていたところは一緒かもしれません。ところで,椎名さんはオーケストラ楽曲の書き方をどこで勉強されたんですか? 昨日までゲーム音源で作っていました,今日からオーケストラ作ります……というのは,ちょっとできないことだと思うんです。
椎名氏:
最初は正直“なんとなく”でやっていました。それこそ「曲のコード」と言われてもまったく分からない時期だったんです。同僚に教わったりして,少しずつ理解して行きました。
梶浦氏:
なるほど。私もアマチュアのころは,あまりコードを知りませんでした。仲間内でピアノを弾いて,それを覚えてもらってという形でやっていたのですが,プロになって「コード譜ください」と言われて,そこで必要なんだと初めて知りました。
MC:
そのあたりは意外でしたね。音楽に関する固定観念はないほうが良いのでしょうか?
梶浦氏:
いえ,勉強したからできることと,勉強したからといってできないこと,どちらもあるので。ただ,知識自体は絶対にあったほうが良いと思います。
椎名氏:
それでも,勉強するのって難しいんですよね。昔,1000円,2000円で売られている音楽理論の本をとにかく買いまくったのですが,正直分からなかったです。それならばと8000円のものを買ってみたけど,やっぱり分からなかった(笑)。書物を読めば,かじりの知識は付くけど,それを自分の曲に活かせるかというと……。
梶浦氏:
理論を読んで理解できるのは,知っている音楽だけですよね。ジャズを日頃聞いている人がジャズ理論を読んだら分かるかもしれませんが,自分が聞いてこなかった音楽は理論から入っても無駄で,まず聞くところからですよね。理論は統計とか,まとめとかみたいなものですから,たくさん音楽を聞いてきた人が,自分の中の音知識をまとめるために有効なものだと思います。
MC:
勉学もそうですが,お二人とも現場での仕事を通して身につけた技術で,現在の作品を作られているということですよね。
梶浦氏:
そうですね。私はバンドでデビューしたので,そのときは歌モノにしか興味がなくて。ただ,「インストを作る」という企画を受けて,そこで初めてのインストを3曲作ったんです。歌モノはアレンジャーが外部の人ということが多かったこともあり,「インストなら自分でアレンジできる!」という理由で頑張ったのですが,そこからいきなり映画用サントラの仕事が来てしまいました。
椎名氏:
そういえば,僕もインストは全然聴いてこなかったです。サントラを売っていることも知らなかったくらいで。
梶浦氏:
私も同じような印象でした。映画もほぼ観なくて,それこそ「スター・ウォーズ」すら見たことないという。でも,仕事で映像に関わってみて,音楽で映像の印象がこんなに変わるんだ,人の心を動かすことができるんだ,というのが分かって,そこからインストにのめり込みました。悲しい曲を流すのか楽しい曲を流すのか,それとも無音なのか,それだけでシーンが大きく変わってしまうことを実感して,背景音楽を作る面白さの虜になりました。
椎名氏:
僕はBGMでも声ネタをよく使うので,最初のころはセリフにぶつかるとかシーンの邪魔になってしまうとか,色々ありました。でも,自分でもRPGをプレイするようになって,セリフが多いゲームの悲しいシーンなどで声ネタや歌モノを入れるわけにはいかない,ここはインストだな,というのが分かるようになってきました。
MC:
ちなみに,楽曲を制作するにあたって,ゲームやアニメの資料でもっともポイントになるところ,大事にするところはどこですか?
椎名氏:
ゲームの場合は背景ビジュアルをいただくのですが,そこから劇中のお国柄がだいたい分かるので,音楽ジャンルの大枠が決まります。それと,登場キャラクターの構成から曲調を決めていきます。
梶浦氏:
私は脚本ですね。原作があればもっと良いのですけど。でも,椎名さんが言う背景美術というのはよく分かります。広さや色,暗さが分からないと音色を決めづらいので,そこは欲しいところです。
千住 明氏の印象とCSC2018への展望
MC:
今回はゲストとして千住 明氏も登場します。千住氏の印象についても教えてください。
梶浦氏:
繊細で綺麗なクラシックを書かれる方だと思っています。言い方が正しいか分かりませんが,女性的で美しい楽曲というか。私はやぼったい楽曲が多いのですが,ふわっとした綺麗な曲を書かれるところに憧れます。
椎名氏:
綺麗に聞かせる中に怖さや悲しさが混在する,おしゃれな曲を書く方というイメージです。スケール感と美しさを併せ持っているところに憧れます。
4Gamer:
最後に,Composers Summit Concert 2018に向けてのメッセージをお願いします。
梶浦氏:
もともと対バンやフェスなどで数曲を演奏することは多かったのですが,今回のように贅沢な編成で,しっかりとステージの時間もあると,きちんとした1つのステージを作れると思います。私の音楽をまったく聞いたことがない人でも楽しめるようなセットリストを考えていきたいです。
椎名氏:
1つのステージが1つの物語になるといいな,と思っています。12月末の開催ということで,今年最大の思い出になってほしいという想いもありますね。
この3人が集まったからこそ,非常に緊張感がある演奏が出来ると思います。本音で言えば,普通に観客として観ていたいくらいです。足を引っ張らないよう,頑張ります。
4Gamer:
ありがとうございました。