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マスメディアはeスポーツとどう向き合い,どう伝えているのか。TGSフォーラムのパネルディスカッションをレポート
この流れはテレビでも進んでいる。テレビ,とくに地上波では,報道系の番組で「こんな奇妙なものがある」という扱いでeスポーツが紹介されることも確かに散見できる。だが,eスポーツをコンテンツとして放送する番組も確実に増えている。
TGSフォーラム2018公式サイト
これを踏まえて,東京ゲームショウに併催されたTGSフォーラム2018で,「eスポーツを盛り上げる伝え方とは? 〜テレビ局,配信会社によるeスポーツの魅せ方〜」と題されたパネルディスカッションが行われた。登壇したパネリストはいずれも,地上波やネットメディアなど,さまざまなメディアにおけるeスポーツ番組のプロデューサー(ないし編集長)である。
果たして日本の「eスポーツの映像番組」は目下どのような状況にあり,どんな試みがなされているのだろうか。パネルディスカッションの模様を,簡単にお伝えしたい。
「eスポーツ番組」の現場に携わるパネリスト達
まずは,総勢6人のパネリストが行った自己紹介から。なお,モデレーターは日経BP総研マーケティング戦略研究所 上席研究員の品田英雄氏が務めた。
・平岩康佑氏(元朝日放送テレビアナウンサー)
海外で見たeスポーツ大会の観客の熱量に魅せられ,「こういうエネルギッシュな場を日本でも実現したい」と思うと同時に大会での実況の重要さを感じ,「実況者にもできることがあるはずだ」と,ODYSSEYを設立した。
スポーツ実況の経験から映像とアナウンスの連携を重視しており,ある状況で「どの選手(ないし,どういう状況)をカメラに映すかということと,アナウンスがシンクロしたとき,良い中継になる」と平岩氏は語る。そのため,中継ディレクターや番組制作ディレクターとの協力関係を重視しているという。
なお今回のパネルディスカッションではパネリストというより,主に品田氏と共に司会進行を担当した。
・板川侑右氏(テレビ東京「勇者ああああ」プロデューサー)
「ゲーム好きで,お笑いが好きなので,この仕事をしてる」と語る板川氏は,広い意味でeスポーツの間口を広げたいと述べたが,この言葉は「勇者ああああ」が目指すものを端的に表現している。
・門澤清太(フジテレビのeスポーツ専門番組「いいすぽ!」プロデューサー)
番組では実況者も重視しており,若手だが世界選手権レベルの実況をしているアナウンサーが担当している。
・佐々木まりな氏(日本テレビeスポーツ番組「eGG」プロデューサー)
番組は1つのゲームジャンルを選んで毎回掘り下げていく構成になっており,プロの技術講座として実際のプレイテクニックを教えるコーナーも持っている。
また,日本テレビ傘下のeスポーツチーム「AXIZ」のコーナーもあり,選手選考の模様を番組に取り込んでいる。「ゲームというよりはeスポーツに集中した番組で,まず実際に観戦してもらおうというところからスタートしている」と佐々木氏は語る。このため,番組中の技術講座は,観戦したときの楽しさを補強する要素としても考えられている。
・竹原康友氏(AbemaTVゲーム専用チャンネル「ウルトラゲームス」プロデューサー)
「興奮を届ける」にあたっては,なにより大会の取扱数を増やし,視聴者が競技の興奮に触れる機会をなるべく多く提供することを重視している。「eスポーツってこんなに面白いんだ」を伝えていくことが目標とされており,EVO JAPANの中継でも「一般の視聴者が分かりやすいような画作りを意識した」という。
「興奮を切り取る」ためには,面白い番組を求めてチャンネルをザッピングしてきた視聴者にeスポーツの存在を伝えるため,ダイジェスト放送に力を入れている。eスポーツ大会は概して時間が長いため,ダイジェスト番組はとても重要だという。
「選手を魅せる」について竹原氏は,主役は選手と断言する。そして選手の感情がしっかり見える絵作りを心がけるとともに,地方のルーキーにもスポットを当てるようにしている。
・目黒 輔氏(ファミ通App,ファミ通App VS編集長)
主なコンテンツは大会レポート,アップデート情報,選手インタビューなどで,これらは動画との相性が良いため,YouTubeチャンネルに現在,注力している。
動画コンテンツとしてはeスポーツの面白さをダイレクトに伝える「実況」(編集者が定期的にゲーム実況を行う),視聴者のスキルアップとプロプレイヤーの拡大を目指す「教則系」(実際のプレイをもとに,プロゲーマーが「このときどう考えていたか」「何を意図したか」を解説する),プロゲーマーに焦点を当てた「プロ大集合」(ストリーム配信をしていないプロゲーマーにも注目する),大会の裏側や観客席の盛り上がりを伝える「世界大会リポート」(試合は公式のストリーミングがあるため,選手の心境など,公式ストリーム配信にはない情報をカバーする)などがある。
目黒氏は「eスポーツは人ありきのコンテンツ」「種目よりも選手に愛情を注ぐ人が増えていけば,eスポーツシーンは広がる」と分析し,「ゲームファンをeスポーツファンにしていくのが狙いであり,そのためにより深く堀り下げられるメディアを目指している」と語った。
高まってきたeスポーツの認知度
さて,パネリストの自己紹介だけでもなかなか時間がかかる大人数編成だが,最初の話題は「今年はeスポーツがかつてなく盛り上がってきているが,これについてどう感じるか」というもの。
門澤氏は「日経新聞など,紙媒体にeスポーツの文字が踊るようになったことで,『会社の上の人』もeスポーツという言葉を使うようになった。その結果,自分も仕事がしやすくなった」と語った。門澤氏が番組を始めた2年前と,状況は「全然違う」という。
目黒氏もeスポーツが浸透してきたことには同意したが,この盛り上がりについては「大人が盛り上がるだけでなく,子供達から『プロゲーマーになりたい』という声が出る」必要があると指摘した。子供が希望を持つことが,盛り上がりの象徴だという目黒氏の見解は,非常に重要だろう。
この点については佐々木氏も,別の質問に対する返答の中で,「『プロゲーマーになりたい』と両親に言ったときに,反対されない世界」を目指したいと語っていた。
また板川氏は「eスポーツがすでに好きな人は,テレビがeスポーツを取り上げようが取り上げまいが好きであり続ける。テレビはeスポーツに対する新規参入を増やすのが役目だ」と指摘している。
なお門澤氏が軽く触れたが,テレビ局という大企業で,いわゆる「上の人」がゲームやeスポーツという文化をどれくらい認めているのかは,大いに気になるところ。
これについては共通の見解として,「社内の反応は良好」だそうだ。門澤氏は「『新聞にこんな記事が出ている,他社さんはこんな番組を作っている』という社内営業活動をしたり,番組が良い数字を出すといった努力も欠かせない」としつつ,「新しいことが好きな気風があり,楽しくやらせてもらえてる」と語った。
実際は,「上の人」との衝突よりも,ディレクター陣がゲームを知らないことがあるので,プロゲーマーの現状などについての情報の共有が欠かせないとか,ゲームに対するの熱量を持ったディレクターが必要だといった形で,現場に求める部分が多いという指摘が数人から出された。
ゲームを遊んでいない人に,どうアピールするのか
これに対しては,「いわゆるスター選手が出るかどうかが重要」という視点が示された。「五郎丸選手の影響で,ルールを知らなくてもラグビーを見る人が増えた。サッカーでも日本代表が出る試合なら見るという人も多い」(板川氏)という指摘は,従来から多くの論者から提示している。そして,「このように,世界で活躍する人がいるということを広めるのもメディアの仕事」(板川氏)との論点も非常に重要だろう。
スター選手の重要さは動かないとしても,問題はそれだけでは終わらない。平岩氏は「藤井聡太棋士が大活躍して,将棋に対する注目度も上がったが,実際に将棋中継を見るかとなると,それは別の問題」と指摘した。将棋は,見ているだけでルールがなんとなく分かるゲームではないため,そこにはどうしてもハードルが生まれてしまう。
eスポーツでもタイトルによっては将棋と同じことが起こるので,では,どのようなタイトルを選べばよいのだろうか。
これについて門澤氏は,ルールも問題だが,テレビという媒体の特性も関わってくると述べた。ネットの動画コンテンツのように「ボタンを押してスタート」ではなく,テレビ番組の場合,視聴者はしばしば,途中から番組を見ることになる。
したがって,途中から見ている視聴者にも理解できる番組でないと「見ていても分からない。分からないからつまらない」(門澤氏)という良くない状況が発生してしまう。実のところ門澤氏がゲームタイトルとして「リーグ・オブ・レジェンド」や「Dota 2」のようなMOBA系タイトルを選べないのも,これが原因だという(門澤氏個人としてはMOBAを扱いたいという思いが強いそうだ)。
似た指摘は,板川氏からもなされた。例えば「5分でルールを解説」と聞くと,我々ゲーマーとしては「短くまとまっていていい感じ」だが,「放送枠が30分の場合,ルール説明に5分かけたら番組が破綻してしまう」(板川氏)のである。
その結果,板川氏もゲーマーとして忸怩たる思いはあるものの,ゲージが減っているからこっちが勝ち系のゲームを選びがちだという。
一方,「視聴者が変化している」という指摘も行われた。
佐々木氏は「いわゆるM1層(20歳から34歳までの男性)は,最近はテレビを見ないと言われるが,eGGはM1層がたくさん見ている」と語る。このため「ルールを知らない人も楽しめるようにするとか,スター選手を紹介するとかは当然で,分かりやすく間口を広げることも大事」としつつ,「タイトルの選定は,eスポーツのど真ん中に行く」方針だそうだ。
プロ選手にフォーカスして番組を作ることで,実際の番組作りの難しさもある程度まで克服できると佐々木氏は語った。
視聴者の変化という面でAbemaTVは,より現代的な視聴者が見るメディアであり,実際,AbemaTVでは「ゲームファンがついているゲームを選定する」(竹原氏)とのこと。
またインターネット放送は時間を長くとれるのも強みであり,ゲームのルールをあまり知らなかった収録スタッフが,番組が進むにつれてルールを理解し,どんどん盛り上がっていくこともあるという。
もちろん,視聴者が自然に理解することを期待するだけではなく,「大会が終わったあとに解説コンテンツを放送したりしている。例えば『投げ抜け率』を表示し,そのうえで『投げ抜けとは何か?』を解説する」といった工夫を紹介した。これらを通じて,プロは何がどうすごいのかを視聴者に理解してもらい,プロゲーマーへの憧れを持つ人を増やすのが,竹原氏の狙いである。
とはいえ,何をやっているのか分からないのは大きな問題として把握されており,例えば「リーグ・オブ・レジェンドの大会を見ても,何をやっているのか分からない」という問題は,eスポーツ専門メディアの視聴者の間でさえ起きている。
これについて目黒氏は,「大会のストリーミングを解説する動画が作れないか」と考えているという。
続いて品田氏から,「スター選手の重要性についてはコンセンサスがとれているが,ではスターになれる選手とはどんな選手なのか」という,なかなかストレートな質問も飛び出した。
この質問に対して佐々木氏は,「『ゲームがちょっと好き』程度ではダメで,生活のすべてをゲームに注ぎ込めるというパワーが必要」だと語る。これに続けて,「本人のルックスは重要ではない。ルックスはあとから整えられるし,情熱を持った人を美しく仕立てるのはテレビの仕事」という,なかなか強い見解が飛び出した。
立ち振る舞いは指導できる。強い情熱を持った人は内にこもりがちなので,ファンがいてこそのプロ選手だという理解が大切だということである。
また,門澤氏からは「人間性はもちろん大事だが,水準以上の実力があることが大事。藤井聡太棋士がカッコいいのは,彼が強いからだ」という指摘も行われた。
「eスポーツ大会,長すぎ」問題
ここまでの議論でも,eスポーツ大会は時間が長すぎるという指摘は何度も出てきた。この問題は,これから先のeスポーツをどう盛り上げていきたいかという問いの中で,さらにクローズアップされる。
「プロ野球の場合,野球のルールが分からなくても,球場で売っているソーセージとビールがあれば楽しめる。音楽フェスだと,食のエンタメとのコラボがあったりする」(板川氏)わけで,ほかの娯楽とコラボして1つの文化を作っていくことが重要なのではないかという。これは「勇者ああああ」がお笑いとゲームのコラボとして作られていることとも通底するだろう。
その一方で,この長い大会は,ストリーム配信が大会の収益を支えることで肯定されてしまう面もある,とも平岩氏は指摘した。配信時間が長いほどPV数が増えるわけで,Webメディア的に考えるとこれはメリットになる。このことは,決まった時間での視聴率が問われるテレビとは,収益モデルのレベルで食い違う。
例えば佐々木氏は,「現状は顧客満足度の向上ではなく,顧客数を増やすフェイズ。大会時間が長い問題よりも,まずはeスポーツに触れるチャンスを増やすほうが大事」と語る。プライオリティを考えれば,これが現実的な方向性と言えるだろう。
「eスポーツで日本の10年先を行くと言われる韓国でも,この問題については工夫している段階」(門澤氏)という見解は,課題と可能性の両方を示したものと言えるだろう。
これ以外にもゲーム業界に対するメディア側からの要望として,「ゲームコンテンツをテレビ番組で扱うと,権利関係の処理が難しい」「視聴文化を意識したゲームデザインをしてもらうと嬉しい」といった声が出た。eスポーツ大会が長時間かかるといった問題も含めて,これらは1つずつ解決すべき課題だと思われる。
また,eスポーツ番組が盛り上がることで「ゲームの継続率が上がり収益が増えていく,という状況が一番で,メーカーにも還元できるシステムを作るのが急務」(目黒氏)という見解もまた,早急に解決すべき課題だろう。
「ゲームが好きな人」が関わっていくことの重要性
最後に,これから何を目指していくかが語られ,大きな目標として,eスポーツ全体のファンを増やしていくという点が示された。
「続けていくために大事なのは,ファンがいること」(佐々木氏),「カプコンのルーキーズキャラバンでは,ストリートファイター世代の父親と,ナンバリングは異なるが,同じくストリートファイター世代の子供が一緒に楽しむ風景が見られた。ここに大きな可能性を感じる」(竹原氏),「マスメディアでの露出が増えるのに伴い,eスポーツに実際に触れる機会を増やしていかねばならない」(目黒氏)といった意見である。
とはいえ現在のeスポーツの盛り上がりには,一過性のブームに終わるのではないかという懸念もつきまとう。
これについて板川氏は「eスポーツもゲームも,最近始まったものではなく,長くあり続けてきた文化。最大の問題はテレビ側が『飽きてしまう』ことで,一度始めたら,5年,10年と続ける決断を会社の偉い人がしてほしい。『数字が取れないから切り捨てる』ことで,テレビはこれまで,いろいろなものをダメにしてきた」と語った。テレビ側からの指摘としては,とても重い。
竹原氏は「腹をくくって情報を提供し続ける。大会も含めて,海外の熱量を日本に伝え,日本でスター選手を育てる。これらをやりきるつもりだ」という決意を示した。
平岩氏は「現在は『会社に言われたから』『投資の対象として』といった形でeスポーツに関わる人が少なくない。eスポーツが期待したほど儲からないと,こういう人達はいっせいに消える」と指摘した。そのうえで,「メディアもテレビも,ゲーム好きがいると熱量が保てる」として,ゲーマーの参加の重要性を強く訴えた。
モデレーターの品田氏は,ゲームという言葉はこれまでとても安易に「問題」という言葉と結びつけられがちだったと指摘し,しかしその状況もまた,変わろうとしてるという。
平岩氏はそのことについて,「偉い人達の理解は,あと4〜5年で変わる可能性が高い。なぜなら,それくらい待てば,大学時代にファミコンにハマった層が還暦を迎えるからだ」と語り,筆者もそのような見解をあちこちで耳にする。
とはいえ,その時代のゲーマーは「ゲームはいつか卒業するもの」だった人が少なくない。つまり4〜5年後でも,期待したほど社会とゲームの関係は変わらないかもしれないという。
ともあれ,半年先のことですら不透明なのがゲームの世界だ。だからこそ「eスポーツはこれからどうなっていくのか」についても,ワクワクしながら見守っていきたい――そんなことを感じさせてくれるパネルディスカションだった。
4Gamer「東京ゲームショウ2018」特設サイト
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