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印刷2018/08/30 15:51

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外国でプロデュースを続けるために大切なものとは。「『Unreal Engine』と『どうぶつしょうぎ』,二つの成功事例から学ぶ異国間・長期プロデュースノウハウ」レポート

 2018年8月22日,神奈川県のパシフィコ横浜で開催された開発者向けカンファレンス「CEDEC 2018」「『Unreal Engine』と『どうぶつしょうぎ』,二つの成功事例から学ぶ異国間・長期プロデュースノウハウ」と題する講義が行われた。ゲームエンジンとボードゲームを題材に,海外でプロデュースを続ける取り組みについて語られたこの講演の内容をお伝えしたい。

写真左から,Epic Games Japan 代表の河崎高之氏,AKALI 代表取締役の蛭田健司氏,日本将棋連盟女流二段で,ねこまど代表取締役の北尾まどか氏
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「CEDEC 2018」公式サイト


 一見,つながりが薄そうな3人の登壇者には,言うまでもなく共通点がある。司会を務めた蛭田氏は,かつてコーエーテクモゲームスでカナダスタジオの現地責任者として経営に携わった経験を持つ。パネリストの河崎氏はゲームエンジン「Unreal Engine」(以下,UE)を日本で販売するEpic Games Japanの代表であり,北尾氏は将棋を分かりやすくした「どうぶつしょうぎ」を考案し,海外に普及するため活動を続けている。3人とも,エンターテインメント分野で海外と日本との架け橋になり,長期プロデュースに携わっている人物達だ。あるプロダクトを,作られた国とは違う国で長期間プロデュースするためには,何が必要なのだろうか。

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プロデュースに必要な差別化と,そのアピール


 まず,ものをプロデュースするうえで大切なのが,特徴を打ち出して類似商品との差別化を行うこと。ここがしっかりしていないと価格競争に陥り,消耗していくだけだと蛭田氏は指摘した。
 UEと「どうぶつしょうぎ」は,どちらもそうした差別化を行い,これを周知していくことでブランドを確立したという。

 UEで差別化すべき相手になったのは,「各ゲームメーカーの自社開発」という仕組みだった。河崎氏が日本でUEの販売に携わったのは2009年頃のこと。最近はゲームエンジンの使用が当たり前になってきたが,当時は,ゲームのすべてを自社開発するのが普通だった。
 ベテランの開発チームほど「自分達ですべての部分を作らないと,いざというときに信頼できない」「他社の技術をゲームの根幹部分に使うなんて考えられない」という風潮で,UEが有償であったことも,導入を躊躇させた理由になったという。

 このとき差別化に使われたのが,「ゲームエンジンを使って開発時間を短縮する」という考え方だった。UEと似た機能のものをゼロから作るくらいなら,いっそUEを使えば時間を節約できる。また,社内で開発するのだから,一見安上がりに思えるが,実はかなりの人件費がかかる。時間と人件費を天秤にかければ,それらを節約できるUEが有利というわけだ。アメリカ企業らしい合理主義だが,導入した企業の「サポートが手厚い」という評判が広がったこともあり,採用例が増えていった。

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 「どうぶつしょうぎ」が差別化すべき相手はもちろん将棋だ。将棋は駒の種類が多く,動かせる方向も異なるため,ルールの理解に時間がかかる。そこで,「どうぶつしょうぎ」では駒の種類を少なくし,動かせる方向を駒に表記した。

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期待値を保ち,適切なカルチャライズを行うこと


 UEと「どうぶつしょうぎ」は,どちらも生まれた国とは異なる国でも販売が行われている。つまり,「異国間プロデュース」を行って,成果を挙げていると蛭田氏は言う。

 UEの異国間プロデュースを行った河崎氏の場合,まず,Epic Games本社に日本市場の特性と,日米の文化の違いを理解してもらうことに注力した。加えて,「本社の期待値」を保つこともEpic Games Japanを存続させる上で大事だった。

 期待値を保つとは,採用数だけを結果とするのではなく,「採用に近づいている努力」も数値化して報告することだ。上記のとおり,ゲームメーカーに外部のエンジンを採用してもらうのは簡単ではなく,交渉や検討に時間がかかる。採用数だけを報告していたのでは,長くゼロが続くし,実態にも即さない。なぜなら,ゲーム企業が採用を検討している間にも,河崎氏らはいろいろな施策を打っており,Epic Games Japanとしての活動を続けているからだ。そこで河崎氏は,評価契約の件数やサイトのPV数,イベントの集客数などをKPI(重要業績評価指標。目標の達成度を示す)とし,採用へ近づいていることやUEの知名度が上がっていることなどをアピールしたという。

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 「どうぶつしょうぎ」では,発売する国に合わせたカルチャライズが行われた。例えばポーランドでは男の子にアピールするため「ロボットの戦い」という設定にし,フランスでは,ポーランドよりも上の年齢層を対象に,日本で考案された知的ゲームとしての側面を強調。タイトルを「YOKAI NO MORI」(妖怪の森)とし,パッケージアートには老人が知恵比べをするような姿を描いた。オリジナル版に「子供っぽい」という反応があったために,こうしたアプローチにしたという。

 オリジナルの時点で幅広い層へアピールするための工夫が施されており,日本人の目から見るとそのまま世界へ出してもいいように感じるが,実はそうではないあたりにカルチャライズの重要性があるという。セネガルではボランティアが「どうぶつしょうぎ」を手作りして普及に努めているが,セネガルの子供達の多くがキリンやゾウを見たことがないため,駒の絵をヤギや羊に変えている。マーケティングなどではなく,変更すべき必要性があったために変更したのだ。「どうぶつしょうぎ」の本質はルールそのものにあるので,駒の絵や設定は変えてもいいという柔軟性があったことも幸いだった。

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「量のプロモーション」から「質のプロモーション」へ


 UEと「どうぶつしょうぎ」を長期間プロデュースするうえで,重要な役割を果たしたのが「インフルエンサー」の存在だ。
 UEの場合,「Unreal Engine専門」を掲げるデベロッパのヒストリアがインフルエンサーになった。ヒストリアが主催するコンテスト「ぷちコン」や技術ブログなどでUEの存在が広まると同時に,ヒストリア側はUEの専門家集団ということをアピールでき,共益的な関係を築けたという。

 また「どうぶつしょうぎ」では,北尾氏自身がインフルエンサーとして精力的な活動をしている。和服を着て国内外のイベントに出席したりして,「どうぶつしょうぎ」のファンを増やしていったという。

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 日本のゲームを海外で売る場合,いかに多くのターゲットに情報を届けるかを重視した「量のプロモーション」をやりがちだが,それよりは「質のプロモーション」を行ったほうがいいと蛭田氏は提案する。
 質のプロモーションとはインフルエンサーを対象にしたもので,イベントの開催や動画などでディープな情報を提供しつつ,インフルエンサーが情報発信しやすいように素材やガイドラインを整えることだ。こうした取り組みは,情報を届ける人数が少ないため,量のプロモーション的な考え方では許可が下りづらいものの,効果は高いという。

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長期プロデュースで大事なのは,広める場,コミュニティ,学ぶ場,そして成果発表の場


 長期プロデュースにおいては,情報を知ってもらうための「広める場」,ファンの「コミュニティ」,製品を「学ぶ場」,そして,学んだ成果が実感できる「成果発表の場」がバランス良く揃っていることが大事だ。UEと「どうぶつしょうぎ」では,これらのバランスが取れていると蛭田氏は語る。

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●広める場
 UEと「どうぶつしょうぎ」では,製品を知ってもらうための場としてUnreal Festa無料体験会などを用意している。Unreal Festaは,わざわざ会場に足を運んでくれる人に向けた質のプロモーションであり,また「どうぶつしょうぎ」の無料体験会は,地域ごとのインフルエンサーが活動する場として機能しているという。

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●コミュニティ
 ファンを得るためには,コミュニティの存在が重要だ。UEの場合は「ユーザー助け合い所」「DEVELOPER NETWORK」でユーザー同士が情報を交換しているが,とくに後者では,たくさんの質問に答えた人に「UDN HERO バッジ」を贈るという,日本独自の仕組みを入れた。
 「どうぶつしょうぎ」では,一般の人も参加できる「ねこまど将棋教室」を開催し,参加者同士がチームを組んで活動するといった成果もあがっている。

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●学ぶ場,成果発表の場
 UEと「どうぶつしょうぎ」は,どちらも勉強会や教室を開催して学ぶ場を提供している。さらに,大会などの成果発表の場も設けている。

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 最後に蛭田氏は「ほかのプロダクトから学べることはたくさんありますし,ほかから学んだことを咀嚼して,さらに洗練して還元することができると思います。ほかから学び,またほかへ還元していくということを目指してください」と聴講者に呼びかけて,講演を締めくくった。

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「CEDEC 2018」公式サイト

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