インタビュー
[gamescom]モバイルゲームのアカツキが,eスポーツリーグ「LPE」を立ち上げる狙いとは? gamescom会場で話を聞いてみた
このニュースについては,先に掲載した記事で概要を伝えたが,「モバイルゲームメーカーが,なぜeスポーツ団体を?」と不思議に思った読者も多いのではないだろうか。しかも,自社のコンテンツをeスポーツとして展開するのではなく,リーグ運営を別事業として立ち上げるというのだから,その狙いがどこにあるのかは,より気になることろだろう。
同社が立ち上げる「League of Professional Esports」(以下,LPE)は,複数のゲームタイトルを対象とした,プロスポーツチームのみが参加できる通年リーグであり,この縛りに特化したリーグマネジメントによって運営されるのが特色と言える。すでにFCバルセロナ(スペイン),アヤックス(オランダ),ガラタサライ(トルコ),サントスFC(ブラジル),レアル・ソシエダ(スペイン),ビジャレアル(スペイン),そして日本から東京ヴェルディが参入を表明しており,とくにサッカーファンであればよく知るチーム名が並んでいる。同リーグは2018年秋にエキシビション的なプレシーズンマッチを開始し,2019年中にはファーストシーズンの開幕を目指すとのことである。
果たして,アカツキはどのようなリーグ運営を理想とし,さまざまな業種から名乗りを挙げる企業が出ているeスポーツ事業の中に,どんな勝機を見出しているのだろうか。同社の共同創業者であり,チーフオペレーティングオフィサーである香田哲朗氏,事業開発部部長の梅本大介氏,そして事業開発部ゼネラルマネージャーの熊谷祐二氏の3名に話を聞いてみたので,そのインタビューをお届けしよう。なお梅本氏と熊谷氏は,それぞれLPEのアウトサイドボードメンバーとチーフストラテジーオフィサーとして,今後も運営に関わっていくとのことである。
アカツキ公式サイト
League of Professional Esports公式サイト(英語)
プロスポーツの伝統と普遍性をeスポーツに
4Gamer:
お時間をいただきありがとうございます。アカツキがeスポーツ事業に,しかもスペインの団体を子会社にする形で参画するという今回の発表は,とても意外に感じました。どんな経緯があったのでしょうか。
もともとは,PELの代表であるチャビ(Xavier Cortes Tuvio氏の愛称)が,Esportiaという会社でスペイン国内のeスポーツチーム設立を手伝っていた,というのが切っ掛けになります。それが今回のリーグ運営の話につながり,我々が協議を開始したのが2018年2月頃,提携は3月の時点で決まっていました。
4Gamer:
LPEはプロスポーツチームに特化したリーグとのことですが,なぜそのようなコンセプトを選ばれたのでしょうか。
香田氏:
LPEのビジョンを実現するためには,プロスポーツチームに参加いただくのがベストだと思ったからです。具体的には「健全性」「プロ化」がキーワードになります。「健全性」とは,多様性や透明性を保証しながら,差別や暴力的表現をなくすことで,広く社会に受け入れられるために必要不可欠です。「プロ化」とは,競技レベルや待遇面の向上はもちろん,発言や立ち振る舞いにも自覚を持って行動することで,社会から憧れの存在として見られることが大切です。これらは既存のプロスポーツチームやリーグで長年培われてきたことであり,彼らのチカラでLPEも実現できると思います。
おかげさまでさまざまな団体に興味を持っていただき,アメリカのMLBやNBAのチーム,インドのクリケットチームなどからも,お声かけをいただいております。
4Gamer:
では,発表の場としてこのgamescomを選んだのは?
梅本大介氏(以下,梅本氏)
ヨーロッパではeスポーツへの関心が高いこともあって,参入チームにヨーロッパのチームが多いのも理由の一つではありますが,2018年内にプレシーズンを計画しているのが最大の理由ですね。
4Gamer:
今回の発表では,さまざまな国からプロスポーツチームが参戦を表明しています。いずれも名の知れたチームばかりですが,実際のところリーグはどのように運営されていくのでしょうか。例えば日本国内で試合が行われることもありえますか。
熊谷祐二氏:(以下,熊谷氏)
現時点ではリージョナルではなくグローバルに,シーズン制のトーナメントをオンラインで行っていく方針です。ただ,もしかすると将来的には地域ごとのトーナメントが開けるまで成長できるかもしれない,とは考えています。eスポーツの先進国と言えばアメリカ,中国,韓国ですが,例えばアジア地域では中国や韓国を中心にローカライズすることで,ユニークなリーグとして発展できるんじゃないかと。
4Gamer:
なるほど。競技種目となるゲームについては,まだ発表がありませんでしたが,これについてはいかがですか。
熊谷氏:
現時点では,まだ協議中です。ただ方針として,我々としてはローカライズを非常に重視していまして,これに二つの意味があるんです。一つはゲームそのものの言語対応,そしてもう一つが,地域のスポーツクラブに根ざしたファンベースの獲得です。
4Gamer:
地域のファンをターゲットにしたコミュニティ作りは,例えば「Overwatch League」や「Overwatch World Cup」などでも重視しているようです。
そうですね。リーグによってさまざまな方針があり,長所短所があると思いますが,LPEとしては地域性を重要視したいと考えています。スポーツでは,例えばブンデスリーガ(ドイツのプロサッカーリーグ)で,ケルンに住んでいるからFCケルンを応援しよう,といったような地元愛があったりしますよね。eスポーツにおいても,そうしたものは非常に大切な要素の一つだと思います。
4Gamer:
ええ,おっしゃるとおりです。
熊谷氏:
そこで我々は,例えば5人でプレイするゲームなら,必ず1人は地元出身者を入れなければならないといった,いわゆる“逆の”外国人枠のようなホームグロウン制度を採用し,リーグレベルでの仕組み作りを積極的に行いたいと考えています。
またeスポーツの特性をうまく生かし,女性であったり,あるいはハンディキャップを抱えた人であったりも,プロプレイヤーとして常時参加いただけるような,本当の意味でダイバーシティ(多様性),かつインクルーシブ(包括的)なリーグマネジメントを押し出していきたいと考えています。
4Gamer:
プロスポーツを下敷きに,eスポーツリーグの運営していこう,という理解で良いのでしょうか。
梅本氏:
ええ。やはり50年,100年と続いてきたプロスポーツには伝統があり,そこには歴史によって培われてきた普遍性があります。そうしたコンセプトをeスポーツとうまく融合させることで,50年,100年先につながるeスポーツの土台を作り上げたいと考えています。これはチャビもずっと訴え続けていることなんですが,リーグを運営するにあたっては,そういうコンセプトに沿ったルール作りが非常に大切なんです。
4Gamer:
ファーストシーズンでは,賞金総額が最大50万ドルであると発表されましたが,これはどのように捻出されるのでしょうか。
梅本氏:
Jリーグしかり,多くのプロスポーツがそうであるように,我々のリーグも放映権の販売やスポンサー収益が収入源になります。なのでこれを分配する形です。チームを安定的に経営していけるよう,協力していこうということですね。
4Gamer:
「Overwatch」や「Dota 2」「League of Legends」といったタイトルを例に考えると,シーズンの途中にアップデートが入り,ゲームバランスが大きく変わってしまうケースが考えられます。このリーグは運営がコンテンツホルダーと異なる企業なので,なおさら懸念を感じますが,その点はいかがですか?
梅本氏:
そうした部分も含めて,賛同いただいたパブリッシャと友好的に協議しながら,運営をしていくことになるでしょう。
4Gamer:
プレスリリースには,「強い暴力表現を含むゲームタイトルは採用しない」という文言がありましたが,これはどういった考えに基づくものでしょうか。
熊谷氏:
ファンである青少年に健全なゲームを届けたい,社会に長く受け入れられる文化にしていきたいというのが,LPEの願いでもあります。パブリッシャと協議を重ね,種目を選ぶにあたっては暴力表現にもしっかりと対応していくつもりです。すでに話し合いは進んでいますので,具体的にどのゲームなのかは近いうちに改めて発表できると思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
アカツキ公式サイト
League of Professional Esports公式サイト(英語)
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