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[NDC18]科学的アプローチでeスポーツ選手の能力を向上。韓国の大学による「GamerLab」プロジェクトとは
今回,プロジェクトを担当するKAISTの助教授,イ・ビョンジュ氏に話を聞く機会が得られたので,彼らの取り組むGamerLabプロジェクトの概要を紹介したい。
「Nexon Developers Conference 18」公式サイト
イ・ビョンジュ氏によれば,GamerLabプロジェクトとは,認知工学的原理に基づいてゲーマーの実力を測定し,能力向上のための訓練プログラムを制作するものとしてスタートした。しかし,eスポーツ選手は認知的な部分だけでなく,身体的な要素も重要であることが最近の研究で明らかになっており,現在は,認知部分と身体的な要素を総合的に分析し,向上させることが目的になっているという。
研究途中の分野ではあるため十分な成果が出ているわけではないが,ゲーマーの分析は進んでおり,例えばFPSのプレイヤーは「敵の動きに反応して攻撃する」のではなく,「無意識に敵の動きを予測して,攻撃する」ということが分かってきた。予測による行動が,ターゲットに対する命中率に影響しているという。
これらの行動分析に基づき,現在,ゲーマーが苦手とする分野を集中的に訓練できるAIを,フィンランドの大学のPerrtu教授らと共同で開発中とのことだ。
また,マウスやキーボードなどの入力デバイスにも研究の成果が応用されている。マウス感度など,これまでゲーマーが経験と勘で調整していた部分を,各自の特性に合わせて最適化するソフトウェアが開発されたほか,キーボードのキーストロークを自動で調整するシステムも作られた。実験の結果,それらのシステムを利用したゲーマーの94%に,行動の正確性の改善が見られたとのことだ。
こうした研究を進める理由についてイ・ビョンジュ氏は,「eスポーツプレイヤーの待遇改善のため」と述べる。eスポーツへの理解度が高いと思われている韓国でも,フィジカルなスポーツとの差は依然としてあり,偏見も少なからず存在するという。比較的古くから“プロゲーマー”が成立している韓国でさえもそういう側面があることに驚くが,フィジカルなスポーツで確立している「スポーツ科学」を,eスポーツでも確立させるための研究だと言えるだろう。
GamerLabプロジェクトが進むことでeスポーツが競技としてより成熟し,文化として発展していくことが期待される。ゲーマーの能力やデバイスの性能に対して科学的にアプローチするこのプロジェクトがどのように発展していくのか,いちゲーマーとしても楽しみだ。
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