連載
徳岡正肇の これをやるしかない!:映画にもなった「ダンケルク」の戦いをアナログゲームで再現。連合軍とドイツ軍の,激戦の模様をレポート
映画「ダンケルク」にかこつけてウォーゲーム「ドイツ戦車軍団」を紹介
宮永忠将氏VS.鹿内 靖氏の大撤退戦レポート
その映画の公開直前に徳岡正肇氏が,ここでやるしかない! とばかりに「ダンケルクなボードゲームの対戦企画」を放り込んできた。うーむ,タイミングを心得ておられる……というわけで,今回の不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない」では,宮永忠将氏VS.鹿内 靖氏という一線級のウォーゲームプレイヤーによる,ウォーゲーム「ドイツ戦車軍団」の対戦レポートを徳岡氏の目線でお届けする。
ダンケルク。
おそらくこの地名は,ちょっと前までは一部のミリタリーマニアだけが知る程度であったと思われる。具体的に言えば第二次世界大戦に興味があって,かつヨーロッパ戦線が好きという,日本ではわりと限られた人達だ。
しかもこのダンケルクで起こったことと言えば,大戦序盤においてドイツ軍に追い立てられた連合軍がこの小さな港町付近に押し込まれ絶体絶命になるも,ドイツ軍は様々な理由から本格的な追撃を行わず(あるいは行えず),結果的に連合軍(特にイギリスの大陸派遣軍)は無事イギリス本島に帰還できましたという案件だ。そりゃイギリス人にとっては誇るべき歴史だが,それ以外の人にとってはなんとも言い難い出来事である。(関連記事)
だがしかし,マイナー気味かつ微妙な戦績が残る地名(ヨーロッパでは有名だが)にもスポットライトが当たるときがきた。クリストファー・ノーラン監督の映画「ダンケルク」の公開である。しかもこの映画には「World of Tanks」で知られるウォーゲーミングが宣伝協力しているという。チャンス。チャンスである!
というわけで筆者は4Gamer編集部にこんなメールを打ってみた。
察しのいい方はお気づきかと思うが,ここで筆者が「ボードゲーム」と言っているのは,一種の誇張表現である。実際に存在するのは「ダンケルクを扱った『ウォーゲーム』」――つまり戦争をシミュレートすることに特化した,ボードゲームの一種だ。ウォーゲームの長い長い歴史の中には,ダンケルクの戦いを扱ったゲームも存在するのである。
ともあれ編集部のOKを取った筆者は,「ダンケルクを扱ったボードゲームをプレイする,最高の対戦者」にコンタクトを取った。
宮永忠将氏 |
鹿内 靖氏 |
1人はウォーゲーミングジャパンのミリタリーアドバイザー,宮永忠将氏。ミリタリーに関する造詣の深さは言うまでもないが,実は宮永氏にはウォーゲームの制作側として関わっていた時代がある。しかも今回取り上げるゲームは,氏も何度かプレイしている,お馴染みの作品だ。
もう1人は日本のウォーゲーム史にその名を残す専門誌「シミュレーター」の元編集長,鹿内 靖氏だ。鹿内氏は日本におけるウォーゲームの父とも言える鈴木銀一郎先生をして「確固たる美学を持って戦う軍神」と呼ばしめる,超一線級のウォーゲームプレイヤーでもある。
ちなみに宮永氏と鹿内氏の関係を最もそれっぽい言葉で表現するとすれば,「宮永氏は鹿内氏の孫弟子」ということになるだろうか。つまり今回の依頼を宮永氏視点で語るなら,「会社が協力してる映画のPRの一環として,師匠の師匠にあたる『神』と対戦してください」という依頼である。筆者なら何か適当な理由をつけてお断りするところだ。
だが宮永氏には,この依頼をご快諾頂けた。そしてまた鹿内氏にも,この突然の依頼をご快諾頂けたのである。
かくして勝負の段取りは整った。いざ,決戦の幕開けである。
30年にわたって遊び続けられているゲーム
今回使用するゲームは,現在では国際通信社から発売されている「ドイツ戦車軍団」に収録されているシナリオ「ダンケルク」である。
ちなみに「ドイツ戦車軍団」が最初に発売されたのは1982年。ファミコンが発売される1年前である――そしてファミコンがそうであるように,本作は未だに多くのウォーゲームファンの間でプレイされ,作戦研究も継続的に行われている。
……という話になると「30年も研究できるゲームということは,相当に複雑なルールのゲームなのではないか」と思われるかもしれない。
だが「ドイツ戦車軍団」のルールは,驚くほど簡単だ。以下,最も重要なポイントを箇条書きにしてみた。
目標
- プレイヤーはドイツ軍か連合軍(ソビエト軍を含む)を担当し,軍を率いて勝利を目指す
基本ルール
- ゲームはターン制で進行する
- 1ターンはドイツ軍の手番と,連合軍の手番に分かれる。ドイツ軍がすべてのコマを動かしてから,攻撃を行う。次に連合軍がすべてのコマを動かしてから,攻撃を行う。これで1ターンが終了する
- 自軍のコマを動かす場合,コマに示された移動力の範囲内でなくてはならない。また森林などでは移動力を倍消費するほか,渡河でも余分に移動力を消費する
- 自軍のコマが敵軍のコマに隣接したら,移動力がどんなに残っていても,そこで止まらねばならない
戦闘ルール
- 戦闘の結果は「戦闘結果表」で判定する
- 戦闘においては,個々の戦闘に参加したコマの戦力を勢力ごとに合計する(例えばドイツ軍が6戦力・4戦力の2コマを参加させ,連合軍が3戦力のコマ2つを参加させたなら,ドイツ軍は10戦力,連合軍は6戦力となる)
- それぞれの陣営の戦力を比で表す。具体的には,少ない方の戦力で,多い方の戦力を割る(端数切り捨て)。このため上の例であれば,戦力比は1:1となる――つまり互角の戦いである
- 攻撃側はサイコロを1個振り,上の例の場合,戦闘結果表の1:1の欄でその結果を判定する。戦闘結果としては基本的に,攻撃側の全滅・攻撃側の撤退・膠着・防御側撤退・防御側全滅の5種類がある。場合によっては,防御側は2マス以上後退しなくてはならない
- 戦闘結果によって後退したコマは「混乱」し,次のターンは移動できない
しかるに,今回のシナリオ「ダンケルク」においては,ざっくりと言ってしまえば「ドイツ軍はアミアン(フランス北西部の都市)の先あたりまで突破できればだいたい勝ち,連合軍はそれを防げればだいたい勝ち」といったところになる。
これ以外にも両軍ともに勝ち筋はあるが,今回の宮永・鹿内対戦くらいのレベルになると,これ以外の勝ち筋が本線に乗ってくる可能性は少ない。
ほかのウォーゲームと比べれば,簡単なルールと,簡単な勝利条件で行われるこの「ダンケルク」だが,その勝負の綾はけして簡単ではない。以下,熾烈な師弟対決の模様をお届けしよう。
第1ターン:宮永ドイツ軍の猛攻
さて,ゲーム開始時の様子を見てみよう。
とはいえ,ドイツ軍が「勝利」するのはけして容易ではない。ドイツ軍は連合軍のユニットのうち,35戦力相当をゲーム終了時までに除去しなくてはならないのだ。実際にプレイしてみると分かるが,これは普通に戦っているのでは絶対に到達できない戦果である。
だがドイツ軍には状況が味方している。第6ターンが終了した段階で,すべての連合国ユニットは「連絡線の確認」を行う。
具体的に言うと,マップの南端ないし西端(海は除く)をスタート地点として,ある連合国ユニットまで連続して空白地が続いていれば,その連合国ユニットは「連絡線が維持されている」と見なされる。要は安全に戦場から離脱できた,というわけだ。
連絡線が引けなかった連合国ユニットは即座に壊滅し,除去される。しかも先程は「空白地が続いていれば」と言ったが,ドイツ軍ユニットの周囲6ヘクスは「空白地ではない」とみなされる。
しかるに,連合国側にも救済策はある。マップの北側沿岸にある4つの港――オステンド・ダンケルク・カレー・ブーローニュの街がドイツ軍に占領されていない場合,それらの港からユニットを「脱出」させられる。この場合,第6ターンが終了した段階で,連合国ユニットからそれらの港街まで連絡線が引ければ良い(ただし1つの港につき5戦力までしか「脱出」できない)。
ともあれ簡単に言ってしまえば,ドイツ軍としてはマップ南方で大突破を果たし,大半の連合軍ユニットを「マップの西または南端」から切り離してしまえばいい。そうすれば連合国ユニットの大半(場合によってはほぼすべて)は壊滅する。
港町を1つも占領できなかった場合,合計20戦力を逃してしまうことになるが,普通にゲームをしている範囲で言えばこの状況は「僅差でドイツ軍の勝ち」になりがちだ。
というわけで,宮永ドイツ軍は果敢に前進し,連合軍の防御前線に痛烈な一撃を浴びせようとする。
そして攻撃を行ったところ――ダイス目が極端から極端へとブレた。
最初の極端は,ドイツ軍にとっての不幸として訪れた。戦線中央,フランス軍主力(4-3ユニット。ちなみに4が戦力で3が移動力)に対する戦力比2:1での攻撃は失敗,攻撃側が1ヘクスの撤退を余儀なくされる(確率33%)。
一方,南部での戦いにおいては,幸運はドイツ軍に微笑んだ。フランス軍の2-3ユニットを戦力比6:1の戦いで撃破すると,そのさらに南方でも戦力比5:1の戦闘でフランス軍の1-3ユニットを撃破する。
……のだが,その過程で「66%で敵を後退させられる戦闘」「83%で敵を後退させられる戦闘」が無情にも「戦線膠着」の結果に終わっており,ドイツ軍としては「もうちょっと平均的に頑張ってくれてもよかろうものを」と言いたくなる展開である。
とはいえ鹿内連合軍としては,手痛いスタートとなった。どんな弱小ユニットでも,盤上に残ってる限り,1ターンはドイツ軍を足止めできる。場合によってはもっと長く持ちこたえることも可能だ。1と2との間の差に比べると,0と1との間の差は,絶望的なまでに大きいのである。
……といった内心をおくびにも出さず,鹿内連合軍は飄々(ひょうひょう)と大規模な後退を開始する。中央の主力を川沿いに後退させ,また機動力に優れた機甲ユニット(移動力6)を南方戦線への援軍に回したのである。
第2〜3ターン:ドイツ軍が勝っている……はず?
両者の想定とは異なる結果に終わった第1ターンの戦闘だが,ドイツ軍にとってみれば南方戦線の正面が薄くなったのは文句なく素晴らしいことだ。宮永ドイツ軍はこれをチャンスと判断し,機甲を先頭にして一気に中央突破を図る。
先頭に立った6-8の機甲ユニットは事実上孤立してしまっているが,「側面など敵に心配させておけ」というのは,質と量で勝る攻撃側にとって間違いのない選択のひとつだ。
猛然とした飛び出しに続いて行われた総攻撃では,包囲状態における攻撃によって連合国の2ユニットが壊滅(5:1以上の戦力比だと防御側は必ず撤退することになるが,撤退できるヘクスがない場合は壊滅する。またこのとき,敵軍ユニットの周囲6ヘクスには撤退できない)。加えて6:1での攻撃も敵壊滅の結果を叩き出し,これによって南方戦線から連合軍ユニットの姿は消えた。
予想以上の損害に,鹿内連合軍はいささか渋い表情を隠せない。
だが連合軍も殴られっぱなしではない。2ターン目の連合国手番の開始時に,連合国には1ユニットの増援が来るのだ。どのようなユニットが増援に現れるかは分からない(ランダムによる選出)が,この状況においてはどんなユニットでも意味がある。
そして,ここで鹿内連合軍が引き当てた援軍は,2-6機甲ユニット! 戦力値は心もとなくとも,今まさに必要とされる「足の速さ」を持った援軍の到着となった。
強力な援軍に士気上がる鹿内連合軍は,まずは南方に薄い戦線を構築する。
第1ターンに北方から回し始めていた機甲ユニット2つと,南方から到着した増援1つが,弱々しいながらも戦線を作り上げる。「敵軍ユニットに隣接するヘクスに入ったユニットは,そこで移動を停止しなくてはならない」というルールを活かした,極薄の防御戦線である。
一方,中央の戦線は安定し始めている。フランス軍主力の4-3歩兵ユニット3つがしっかりとした戦線を作り,またその背後には英国派遣軍の3-3歩兵が予備として待機している。
さらに北方に目をやれば,もはや鉄壁の防御とでも言うべき状況が生まれている。フランス軍とイギリス軍の3-3および4-3級の歩兵ユニットを前に押したて,その背後には2-3のベルギー歩兵ユニットが予備戦線を構築している。
このように二重に引かれた防御線(二重戦線と呼ぶ)を突破するのは,完全に不可能とまでは言わないが,極めて困難だ――仮に最前線の敵ユニットを後退させたとしても,次のターンは予備兵力が適切なポジショニングで守れるのだ。そして予備兵力が後退させられたら,その次のターンは整然とした戦線を組み直した主力による防御線が待っている。
さて,ターンは進んで第3ターン。ゲームは中盤戦に突入した。
宮永ドイツ軍は,「ここで突破しなくては勝てない」という断固たる決意を持って,機甲ユニットを全力で南方のフランス軍にぶつけていく。特に1-6という最も脆弱な防御ユニットには,機甲3ユニットをぶつける念の入れようだ。
そして行われた攻撃だったが,宮永ドイツ軍のダイス目はいまひとつ振るわない。中央でのフランス軍主力との戦いにおいては,2か所で交戦し,なんと2か所ともドイツ軍の攻撃失敗による撤退で幕引きとなる。
この攻撃失敗は,ドイツ軍にとっては手痛い失敗となった。
何より痛かったのは,南方戦線の「天井」となっている中央のフランス軍を北に押し上げられなかったことだ。ここで1歩でも北に戦線を押し上げられれば,それだけ南方戦線におけるフランス軍の密度は下がらざるをえない。
とはいえ,すべての攻撃が失敗したわけではない。ドイツ軍は,ここで成功しなかったら何もかもが頓挫するという攻撃で,敵ユニットの撃破という最良の結果を出している。フランス軍の1-6機甲ユニットを,撃破することに成功したのだ。
これにより,ドイツ軍の攻勢が止まるという最悪の事態だけは回避できたのである。
第3〜4ターン:鹿内連合軍の芸術的な防御
だが,鹿内連合軍は「まだ勝負は終わっていない」という宮永ドイツ軍の士気を叩き潰さんがごとく,完璧なムーブを見せる。
この第3ターン裏の連合軍の機動と,それによって必然的に誘導された第4ターン表のドイツ軍の攻撃は,実際に写真で見てもらうのが早いだろう。
完璧なまでに一直線に並んでしまった自軍の姿を見て,宮永氏は「攻撃側としてこんなに恥ずかしい姿はない」と頭を抱えた。
一見するとほぼ全軍が攻勢に参加する派手な大攻勢に見えるが,このような「重点を欠いた攻撃」は,攻撃と言うよりも時間の無駄に終わりやすい。防御戦線に対して均等に圧力をかけても,防御側は均等に下がっていくだけであり,「突破」は為し得ないのだ。
そして実際,攻撃のダイス目はけして悪くなかったが,攻撃の結果は見るも無残な状況となった。
言うまでもなく,第4ターンの裏においても鹿内連合軍はもはや「美しい」としか言いようのない,整然とした撤退戦を展開する。これも言葉で説明するよりは,実際の画面を見てもらいたい。
一般的に言うと,これはもはや「ドイツ軍投了」のタイミングである。
なにしろ,ドイツ軍が移動して攻撃できるのは,あと2回。つまり二重戦線が引かれている戦線は,状況的に突破不可能だ(押せて2〜3ヘクス)。
南方にはまだ戦線が一重のエリアがあるが,かといって連合軍の「連絡線」を切るための目的地までは,一番近いところを数えて9ヘクス。
つまり第5ターンの攻撃で鹿内連合軍の戦線に穴をあけ,戦闘後前進(敵を撤退させたユニットは1ヘクス前進できる)で1歩稼いで,次のターンの移動で8ヘクス(ドイツ軍が持つ最大の移動力)移動すると,辛うじて届く……という,非常に厳しい状況にある。
だがそれでも,宮永ドイツ軍は諦めなかった。口では「普通はもうこれ,ごめんなさいをする状況なんですがね」と言いながら,自軍を前進させたのである。
事実,前述のように第6ターンの移動終了時に連合軍の連絡線を遮断できる可能性は,ゼロではないのだ。これが「10ヘクスあります」というなら投了するしかないが,「9ヘクス」というギリギリで到達できる距離である以上,まだ勝負は終わっていない。
かくして運命の第5ターンが始まった。
第5ターン:人事を尽くして天命をダイスに託す
第5ターンの移動も,ドイツ軍は結局「全力で連合軍を殴る」以外に選択肢がなかった。鹿内連合軍の美しい防御戦線を前に,そうそう付け込める隙などあろうはずもない。
だが宮永ドイツ軍は第6ターンに向け,機甲ユニットを非常に慎重に配置した。
戦局のカギを握るのは,6-8機甲ユニットと,その真下につけた5-8機甲ユニット2つ,それから6-8から1ヘクス離れて北に置いた5-8機甲ユニットである。この4ユニットは,戦闘に勝利して戦闘後前進で1ヘクス距離を稼げば,第6ターンの移動で連合軍の連絡線を遮断できるポジションにある――宮永ドイツ軍は,そのギャンブルができる「スタート地点」を,4つ設定することに成功したのだ。
かくして,人事は尽くされた。あとは天命を待つのみである。
そしてここにきて,宮永ドイツ軍の出目は大炸裂した。5-8機甲ユニットも,6-8機甲ユニットも,南方での戦闘はことごとく勝利。芸術的なまでに整えられていた鹿内連合軍の防御線には,一瞬にして巨大な穴が生まれたのだ!
この結果を受けた鹿内氏の表情から,一気に余裕が消えた。
鹿内氏もまた,宮永氏がただ「ナイスゲームをするために最後まで戦ってみせた」のではなく,「ギリギリで勝ちを拾える可能性がある以上,その可能性を極限まで広げる下準備をしてから勝負に出た」ことに,気づいているからだ。そしてこの土壇場での用意周到なギャンブルで,幸運の女神は宮永氏に微笑んだ。
こうなると,軍神鹿内と言えどもこの状況下で取れる選択肢は少ない。
鹿内連合軍を最も強く縛るのは,「混乱」ルールだ。戦闘結果によって後退させられたユニットは,次のターンが来るまで移動できないのである。つまり上のマップで「D」の文字が乗っているユニットは,5ターン裏には移動させることができない。
つまり鹿内連合軍は,戦線に空いた巨大な穴を,増援とわずかな歩兵だけで塞がねばならないのである――そしてそれはこの状況において不可能なのだ。
つまり,第6ターンにおけるドイツ軍奇跡の大突破は,必ず成立する。
そしてこの突破が成功するということは,第6ターンの終了時に連合軍は連絡線を絶たれるということであり,つまりドイツ軍が勝つ可能性が出てきたのだ。
ならば。
ならばここで,連合軍には何ができるのか?
連合軍は6ターンの裏に何をする必要があり,そのために今,何を仕込まねばならないのか?
長考の末,鹿内連合軍はすべてのユニットを動かすと,ターンの終了を告げた。
いよいよこの激戦を決する,第6ターンの開幕である。
最終ターン:攻撃的な保険
第6ターン,宮永ドイツ軍は南方で大突破を果たす。
第2ターンと同様,機甲師団が突出する形にはなっているが,今度は第6ターン裏での連合軍の反撃が予想される以上,防御にも気を使った陣形だ。もちろん,「実際にユニットを動かしてみたら,連絡線の遮断は無理でした」といった間抜けなオチにもなっていない。
宮永氏が,ドイツ軍の移動と戦闘の終了を告げる。
この状況のままなら,ドイツ軍が勝つかもしれない。
手番を受け取った鹿内連合軍は,2つの勝負に出た。
1つ目は,分かりやすい勝負である。北方戦線のドイツ軍に対し反撃を行い,北方でドイツ軍の戦線に穴を開けようというものだ。連絡線はどんな形をしていても構わないので,北方戦線に穴を開けられれば,そのまま「マップの南端」まで連絡線を設定することは容易だ。
だがこの攻撃は,33%の確率で失敗する。
そしてこの33%の出目が出てしまえば,ここまで繊細な防御戦線を維持してきた努力は水の泡だ。
それゆえに,軍神鹿内は驚くべき「保険」をかけた。
第5ターン,南方から入ってきたユニットは,1-6と2-6の機甲ユニットだった。そのうち2-6のユニットを,鹿内連合軍はより自由が効きやすい――正確に言えば,「より攻撃的な」位置に配置していたのだ。
鹿内連合軍はこの2-6機甲ユニットを,ドイツの機甲ユニットに叩きつける。無論,それだけではない。イギリスの3-6機甲ユニット,フランスの4-3歩兵ユニットも攻撃に参加させる。
攻撃目標は戦力値5のドイツ機甲ユニット。戦力比は1:1だが,ドイツ機甲ユニット側には退却先がないため,33%の確率で撃破されることになる。そしてこのような均衡した勝負の場合,ドイツ軍は自軍の機甲ユニットが撃破されたら,勝ち目が消える。
周到な準備の末に始まった戦闘は,ドラマチックな展開を見せた。
北方での連合軍の反撃――成功率66%――は,「戦線膠着」の結果により頓挫する。攻撃を命じた側にしてみれば「まさか」の一言である。
しかし「保険」として行われた南方での包囲殲滅戦においては,英仏連合軍は見事ドイツの機甲ユニットを討ち取った。まさに「保険はかけておくもの」である。
ウォーゲームを始めるならば
さて,第6ターンが終わったことで,ゲームは終了となった。
ここで得点計算を行う。
戦闘結果や連絡線遮断によって宮永ドイツ軍が得た得点は34ポイント。ここからドイツ軍ユニットの損失により10ポイントが減点されるので,ドイツ軍は24点の獲得。35点が勝利ラインなので,この勝負は鹿内連合軍の勝利となった。
しかしながら,本作は勝敗を決めるゲームでありながら,必ずしも勝敗だけではない楽しさや目標が存在するのだ。
実際,戦っていた二人にしても「いまこの状況だと何点ですかね?」ということを聞いてくることは,なかった。
というのも,本作は極めてこなれた作品であり,ダンケルクにおいてドイツ軍と連合軍が軍事的に課された課題に対して真正面から向き合い,その課題の解決(および解決阻止)に全力を傾ければ,「点数は後からついてくる」からだ。
今回の勝負においても,振り返ってみれば「宮永ドイツ軍の11点負け,運が良ければ1点負け」という結末(ないし評価)は,十分に納得できるものであると思う。その上で,道中の機微次第では,35点ジャストで勝利していた流れもあり得ただろう。
このあたり,ウォーゲームは勝敗にのみ目を向けると,「接戦であればあるほど,最後の戦闘のサイコロ1振りで勝負が決まる」ようなゲーム(今回もそれに近い)というところに落ち込んでしまう。
無論,勝敗は重要だし,勝利を目指してプレイしなくてはウォーゲームは面白くない。けれどこのジャンルのゲームは,「十分に負け得た勝ち」「勝ち筋のあった負け」を含めてこそ,本当に面白くなるものだ。
今回は映画「ダンケルク」あわせということで,「ドイツ戦車軍団」に付属するシナリオからダンケルクシナリオを選んだ。だが「ドイツ戦車軍団」にはこれ以外にも「エル・アラメイン」「ハリコフ」「コンパス作戦」と,全部で4つのシナリオが入っている。初心者向けの「エル・アラメイン」から,未だに作戦研究が熱心に行われている「ハリコフ」まで,文字通り何十年も遊べるゲームである。
ウォーゲームというと何かと小難しそうなイメージがあるかもしれないが,「ダンケルク」であれば,本対戦を横で一緒に観戦していた4Gamerの編集者(言うまでもなくウォーゲームには詳しくない)が,対戦後にはルールを把握できていたというくらい,シンプルな構成になっている。
ウォーゲームに興味はあるけれど,何から遊べばいいのか分からないという方であれば,俗に言う重量級のボードゲームよりもよほど簡単なルールの本作を強くお勧めしたい。
本作を購入する方法はいくつかあるが,Japan Wargame Classicsの公式サイトで取扱店リストを参照して,各店舗をチェックしてみると良いだろう。
国際通信社「Japan Wargame Classics」公式サイト
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