イベント
[TGS 2016]マンガ世界をVR化する「プロジェクトHikari」とは? スクエニが挑戦する向こう側の世界に行く方法
テクノロジー推進部によって制作された「プロジェクトHikari」と名付けられたデモは,マンガのストーリーの世界に入り込めたらどんな体験になるのだろうかといったコンセプトで作られているという。
展示されていたのは同社の月刊ビッグガンガンに連載されている,めいびい氏の「結婚指輪物語」の冒頭部分をアレンジしてVRデモとしたものだった。PCとHTCのViveを使い,マンガの世界をVRで再現している。なお,Viveを使っていたといっても歩き回ることはなく,着座のままでViveコントローラ1個を使用して操作を行うデモだ。
デモを開始すると,視界内に表示されていたコミックスが分解し,ページのそれぞれが宙に舞って,そのうちの1枚からストーリーが再現されていく。具体的には,おもむろにマンガのコマの中に入り込む演出だ。
そこはマンガ自体とほとんどタッチが同じ,モノクロの線画調の世界だが,3Dモデルによるものだと分かる。そして部屋の中で寝転がった主人公が見える。
なにせ元が線画なので,室内はかなりカクカクした感じである。VRで立体視するとポリゴン数が12しかなさそうな家具の四角さが際立って伝わってくる。
そんな中で異彩を放つのが主人公の少年が寝転がっているベッドだった。ベッド,布団(シーツ?),少年という順番で積層されているわけだが,寝転がったまま身じろぎすると,布団は実に自然にその形を変えている。重心が動けば変形し,身体にめり込んだりはしない。さらに直接動いていない足元のあたりもかすかに揺れていたりと,「そうそう,固めのスプリングのベッドってこんな感じ」と説得力の高い絵に仕上がっている。
聞くと,かなり高度なクロスシミュレーションを導入しているとかで,どうもリアルタイム処理でやっているようだ。かなりきっちり動いていたので,Mayaかなにかで作ってAlembicキャッシュのストリーム(力技)でなんとかしているのかなと想像していたのだが,フレームレートに厳しいVRでもこれくらいはできるようになったということか。使用機材を見るとGeForce GTX 1080とあったので,少し納得した。
そして絵の描かれたコマの上に順次,吹き出しが表示されていく。この「コマの上」というのはZ軸方向で手前側,つまり手前のレイヤーに相当する場所だ。
レイヤーを分けるには吹き出しの下の絵を再現しなければならないわけだが,「何気にかなり手間かかっていませんか」と聞くと,そんなでもないという返事だった。もしかしたら,元がデジタルだったのかもしれない可能性に思い当たった。昭和は遠くなりにけり。
こういったマンガのコマの再現を中心にしつつ,モノクロ線画調の3Dキャラクターも登場して,静止したコマのつながりの不連続な部分を連続的な演技で埋めているような状態だ。こういった要素を軸として,エフェクトが加わることもあるといった構成だ。
デモは声優さんによる読み上げと合わせて,一定のテンポでストーリーは進行していく。読み上げがあるのに吹き出しって必要か? という気もしなくはないが,吹き出しがないとそれはそれで寂しい感じになるのだろう。
デモ自体は約8分の長さで,デモ後にもらった結婚指輪物語の冒頭を抜き出した小冊子で確認すると,だいたい20ページ分を抜粋して再構成してあったことが確認できた。
ちなみに,プレイヤーによる操作というのは,開始時点でページをめくることと,マンガのコマが表示されたレイヤーを空間内で再配置するなどといったことのみで,インタラクションはほとんどない。通常は視界内に表示されるViveコントローラが半透明状態であり,操作が可能になった時点で白く色が着くのだが,始まってしまえばなにもしなくてもとくに問題はない。コマを手前に引き寄せれば,それなりに迫力が増すので好みで調整すればいいだろう。
セリフの部分をテクスチャにして吹き出しポリゴンに貼り付けるというのは妥当な解決策ではあるが,VRHMDの解像度がさほど高くないことなども考えると,常にクリアなテキストを得ることは難しいようにも思える。吹き出しテクスチャのMipレベルを1つ上げても解決するようには思えないので,実用にするなら,TrueTypeフォントからプロシージャルにテクスチャを生成するくらいのことはやらないといけないのかもしれない。
3Dモデルは主人公とヒロインの2体分しか出てこない。ポリゴンモデルを一度作っておけば以降は使いまわせるので,そこまでコストはかからないだろうという見通しだそうだ。マンガタッチを再現するシェーダなどは効果をあげていて,コマと並んで表示されていてもほとんど違和感はなかった。提供された素材を見ると,描線などは綺麗ではないのだが,VRHMDの解像度ではほぼ気にならない。「斜め上からのライトで影は61番のトーンで」といった感じの影処理も,よくよく見ればCGぽさはあるがそれなりに馴染んでいる。
ただ,ポリゴンモデルがいまひとつ似ていないように思われた。これは,元々完全な3Dモデルには落とし込めない類のものなので,しかたない部分もある。ただ,アニメなどであれば,アニメ用のキャラ設定で作られたものだけを見ていくので,そういうキャラだと思い込むことはできるだろうが,すぐ横に本物があるというのは分が悪すぎる。まだまだ詰めることもできるだろうが,スクエニの3Dデザイナーが作っていてもこういう感想になるのだから,やはり元々無理があるものなのだろう。こういう部分こそ,Live2D Euclidなのだろうか。
現実的な路線で考えると,今回のように冒頭部分をVR化して,書店で体験コーナーを設置するなどで,新刊のプロモーションに利用するなどという展開になるのだろうか。全編をVR化することを考えると,たとえばカラーページが混じっているとどうするのかなど,課題も残っている。労力的に見合うかどうかにも疑問はある。ただ,供給元のコンテンツ量が莫大であることなども合わせ,省力化が実現されればマンガ全編のVR展開も可能性のある分野ではあるのだが。
2次元のマンガをVR化するというのは,市場性などを合わせて考えないと先に進めないビジネスではあろうが,今回のデモを見る限り,少なくとも技術的な問題の多くはクリアされているように思われた。
東京ゲームショウ2016特設サイト
- この記事のURL: