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[gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート
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印刷2016/08/19 16:59

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[gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート

 かつて「ゲームを作る」というのは,なかなかにハードルの高いものだった。ある程度以上に見栄えのするゲームを作るために,制作者が理解していなくてはならない技術的項目は,かなりの量と専門性を伴っていたからだ。
 今でも本質的な事情は,そこまで大きく変わっているわけではない。AAA級のゲームを作るとなれば,開発者達に求められる専門性や作業量は,「作ってみたいと思いました」程度ではとても追いつかない。
 しかしながら,ゲームエンジンの発達その他によって,もっと小さな規模のゲームであれば,より手軽に作れる時代になったのも事実だ。
 gamescomのスイスブースでは,そんな時代の変化を反映したかのような怪作がいくつか展示されていたので,レポートしたい。


ひとつ目の巨人は,自分の目を投げた


「Monocular」作者のHelen Gallikerさん
画像集 No.001のサムネイル画像 / [gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート
 gamescomスイスブースの一角を占めていたのが,チューリッヒ芸術大学の学生による展示である。日本でも大学のゲーム学科は芸術学部に置かれることがしばしばあるが,それと似たような出展だ。

 なかでも最初に紹介したいのは,「Monocular」と題された作品である。
 ゲームとしてはまだまだ未完成で,現状では俗に「Walking Simulator」と呼ばれるようなジャンルと言える。要は「世界を自由に歩き回れるだけ」のゲームだ。
 だがその設定と美術,そしてSEは,この作品をすでに魅力的かつ個性的なものにしている。

個性的というか,なんというか
画像集 No.002のサムネイル画像 / [gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート

 本作において,プレイヤーはサイクロプスを操作する(移動はオーソドックスな“WASD”だ)。だがこのサイクロプス,普通のサイクロプスとは少し違っていて,自分の目を取り外し,遠くに投げられる。
 というわけでプレイヤーはサイクロプスを操作しつつ,その目を投げることで「遠くに転がった目から見えるサイクロプス」を眺めたり,あるいは目の落下地点までサイクロプスを移動させて(当然だが落ちた「目」の視点から巨人を操作する)自分の目を拾い上げたりする。
 ちなみに第三者視点で見たサイクロプスの姿は,端的に言って不気味だ。

投げた目から「自分」を見ているところ。左にいるグレイの巨人が「自分」
画像集 No.003のサムネイル画像 / [gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート

 舞台となるのは小さな島だが,この島のデザインもなかなかに常軌を逸している。島には樹木のようなものが生えているのだが,その大きな葉(?)には,単眼がついている。
 しかしながら,多くの場合その目は地面側を向いており,身長が高いサイクロプスが普通に歩いていたのでは彼ら(?)と視線を合わせることは難しい。そこで目を取り外して地面におけばあら不思議,ちゃんと彼ら(?)と視線を合わせてコミュニケーション(?)できる……葉の裏についた目が赤く変化したりするので,たぶんコミュニケートしているのだと思う。たぶん。

なんだか大変なことになっている……
画像集 No.004のサムネイル画像 / [gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート

 ここまででも相当お腹いっぱいになってくるが,本作にはまだまだ先がある。この島には「裏側の世界」があるらしく,目を投げることでその「裏側の世界」に到達できるというのだ。おお,なんだかゲームっぽい。

 もうひとつ,本作の魅力を支えているのは,サウンドエフェクトだ。視線の方向はマウスでコントロールできる(投げた後もマウスで視線の向きをコントロール可能)のだが,視線を動かすたびに重たいガラスが軋むような,なんとも嫌な感じの音がする。
 愉快か不快かで言えば明らかに不快に属するSEなのだが,独特なビジュアルとあいまって,「そういう世界なのだ」という,強烈な説得力を作り出している。結果,「不愉快な音なんだけれど,ゲームにマッチしていて面白い」という,とても不思議な体験ができる。

こんな感じの「裏の世界」があるそうだ
画像集 No.005のサムネイル画像 / [gamescom]スイスブースで見つけた,チューリッヒ芸術大学の学生達による個性的なゲームをレポート

 「Monocular」は現在Macでのみ動作が確認されている。ほかのプラットフォームについて聞いたところ,開発者いわく「Windowsでも動くはずですが……」と言葉を濁されてしまった。
 また現状ではあくまで開発途上であり,正式なリリースなどは当分先になるとのこと。作者のWebサイトからMac版とWindows版(動作安定性については上記の通り)がダウンロードできるので,興味のある方は是非試してみてほしい。ただしサイトにUPされているバージョンはかなり古いものらしく,筆者が体験した最新版は同サイトにリンクされている動画を頼りにするしかなさそうだ。

 ちなみに本作は筆者以外にも強烈な印象を与えているらしく,gamescomの出展者パスをつけた,いわばゲーム開発のプロフェッショナルが,試遊しては「ここをこうしたら良いのでは?」といったアドバイスを開発者に残すというシーンも見られた。
 こういった「通りすがりのプロからの助言」は,実は東京ゲームショウなどでも発生することがあるそうで,大型イベントにインディーズゲームを出展するひとつのモチベーションにもなっているようだ(言うまでもないが,「必ずそういうアドバイスが得られる」わけではない)。

あ,はい,どうも,こんにちは
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タブレットを使ったスタイリッシュなCo-opゲーム


 いろいろとぶっ飛んだ「Monocular」に対し,「organism」と題された作品は穏やかなゲームになっていた。

 organismは2人用のCo-opゲームで,プラットフォームはiOS。原則としてタブレットでのプレイが前提となっている(gamescomの会場ではiPad Proが使われていた)。
 ゲームとしては「ひっぱりアクション」の変形版と言える。プレイヤーは白と黒のどちらかを担当し,画面のどこかにある「白と黒の領域が入れ替わってしまっているエリア」に自分の色のボール(複数)を射出する。
 難しいのは,ただ目標のエリアにボールを撃ちこめばいいというわけではない,ということだ。目標となるエリアを,いわば「撃破」するためには,そのエリア内で白いボールと黒いボールが衝突しなくてはならない。

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 かくして,Co-opの出番となる。
 ターゲットが画面中央にあるときは,話は簡単だ。双方のプレイヤーでカウント・ダウンして,同じタイミングでボールを射出すればそれで済む。けれどステージが進むと,ターゲットが「白ボールの射出口にやや近い」とか,あるいは「ターゲットが射出口から見て斜め方向にある」とか,「射出口が複数ある」とか,そういった形で難度が上がってくる。
 そうしたステージをクリアするには,ただボールを撃ちだす以外のアクションも協力して行う必要がある。このあたりのラーニングカーブはかなり自然に作られていて,ゲームとしての完成度はすでになかなかのものといえる。

ステージが先に進むと,だんだんタイミングの取り方が難しくなっていく
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 また,ビジュアルはさすが芸術大学の学生といった趣がある。白と黒を基調としたモノトーン(だが立体感はある)のビジュアルは,ゲームに締まった印象を与えている。ボール衝突時のエフェクトなども穏やかながらよくできていて,作り込みの精度が感じられた。

 また,タブレットを平面に設置して,それを複数人で操作するというアイデアは,もっと探索されても良いという印象を強く受けた。それこそ囲碁や将棋にしても,あるいは「野球盤」のようなゲームにしても,「1つのゲームボードを複数人で操作する」ゲームは無数に存在しているわけで,範を求めるべき成功例も少なくない。
 スマートフォンに比べてタブレットの普及率はあまり高くなく,結果として市場規模が小さいため大手デベロッパには難しい企画となるが,だからこそインディーズゲームがそこを狙っていくのは有効かもしれない。

 ちなみにこちらは現在オープンβテスト状態で,遠からずリリースの予定だという。公式ページでメールアドレスを登録すればテストに参加できるので,iPadをお持ちの方はぜひ。

organismの制作チーム。あと1名いるとのことだが離席中だった
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目指すゴールは高く


 以上2点,いかにもアート性を感じる作品を紹介してみた。これ以外にもチューリッヒ芸術大学からは2つのゲームが出展されており,これらはいずれもVRを使ったものだ。

 ちなみにスイスブースの担当者に,「芸術大学に入学してゲーム制作を学ぶというのは,スイスではどれくらい一般的なのか?」と聞いてみたところ,「まだまだ一般的とは言えないが,コースを開始した当初に比べると確実に人気は拡大していて,右肩上がりで希望者が増えている状況」だそうだ。

 かつてから,アートを名乗るゲームは散見できた。だがそれらの作品はゲームとしての完成度があまりにも未熟で,「この程度の作品では,ゲームとしてはもちろん,芸術としても評価できない」と言わざるをえない作品も少なくなかった。
 一方,スイスブースで見られたこれらの作品は,そういったレベルの作品に比べ,現段階でもすでに一定の水準は越えている(ないし越えつつある)。
 その上で,どちらの作品も「リリースに向けて磨き上げている途上」だというところからは,指導する教官と学生が見据えるゴールの高さを感じさせられた。

 彼らスイスの学生達が,最終的にどんなゲームを創りあげるのか,大いに期待したいところだ。
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