プレイレポート
VR ZONEの新アクティビティ「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」「マックスボルテージ」を体験。レポート&開発者インタビューを掲載
4Gamerでは,アクティビティの体験レポートやキーマンへのインタビューを掲載しているが,本稿では7月15日より稼働している「VR-ATシミュレーター 装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」「スーパースター体験ステージ マックスボルテージ」に焦点を当てて,その魅力を紹介したい。
施設名:VR ZONE Project i Can
所在地:東京都江東区青海1-1-10 ダイバーシティ東京プラザ 3F
(ゆりかもめ台場駅徒歩5分/りんかい線東京テレポート駅B出口徒歩3分)
TEL:03-5579-6141
対象年齢:13歳以上(13歳未満のお子様はVRアクティビティのご利用ができません)
ご利用方法:予約制
※本施設のご利用は「バナコイン」でのお支払いとなります。「バナコイン」はバンダイナムコグループの様々なサービスを利用できる電子マネーです。施設エントランスにてご購入(チャージ)してご利用いただけます。
営業時間:10:00〜21:00(不定休)
「VR ZONE Project i Can」公式サイト
「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」
西川善司,背後から撃たれる……の巻
「機動戦士ガンダム」と言えば,ロボットをヒーロー然とは描かず,あくまで兵器として描いたリアルロボットアニメの金字塔として知られる作品だ。
そうはいっても,ガンダムには赤白青のトリコロール塗装がなされていたり,人のような顔があったりと,完全にヒロイックな要素を捨て切れてはいなかった。その後,高橋良輔監督が手がけた「太陽の牙ダグラム」では,ほぼ人面を廃したロボットが主役機となり,さらに同監督の「装甲騎兵ボトムズ」の登場によって,リアルロボット路線は1つの終着点に達したと言える。
さて,リアルロボット路線のアニメに対して,ファンが抱く夢は「あのロボットに乗ってみたい」というものだろう。その夢を最先端のVR技術で叶えてくれるのが,VR ZONEに登場した「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」(以下,バトリング野郎)である。
バトリング野郎を体験するための心構え
VR ZONEでは事前予約が必要なのだが,それでも参加者の持ち時間は90分。その時間内に7つのVRアクティビティをすべて体験するのは難しいだろう。実際,筆者が初めて訪れたときは3つでタイムオーバーになってしまった。
できるだけタイムロスを少なくするためにも,VR ZONE内で必要になる「バナパスポート」と「バナコイン」は,事前に最寄りのゲームセンターなどで準備しておくことをおすすめする。バナパスポートの購入やバナコインをチャージするための待機列をスキップするだけで,大幅なショートカットになる。
また,荷物を預けるロッカーが設置されているが,手提げバッグ程度であれば各アクティビティの脇に置けるので,貴重品が入っていないならロッカーの待機列もスキップできる。最初のアクティビティを待つことなく楽しめるかどうかは,VR ZONEでより多くのVRアクティビティを体験できるか否か,その分かれ道だと思う。VR ZONE初心者は覚えておいてほしい。
最初に体験するのは格納庫シーン!?
いよいよ本題のバトリング野郎だが,まず体験者はコクピット席ではなく,その横に設置されている椅子に座らされる。ここでHTCのVR HMD「Vive」を被ると,視界に広がるのはボトムズ世界のロボット兵器「アーマードトルーパー」(以下,AT)の格納庫である。
焦げたオイルの匂いがしそうな暗い格納庫の中には,素立ちのATやメンテナンス途中のATが立ち並んでいる。雰囲気は満点だ。
格納庫の中をひととおり見回したら,コクピット席に移動することになる。シートにはそれなりに張り出したサイドサポートがあるものの,座り心地はやや堅め。ATのコクピットをイメージして,あえてそうしているのだろう。
着座すると,ペダルの位置を調整するように促される。スタッフによれば,「ペダルの位置はかなり近めに設置して,やや狭いくらいのほうがアニメの設定に近くなるので雰囲気が出る」とのこと。もちろん,そのアドバイスに従った。
ATの操縦方法と急旋回テクの使い方
コクピットの手元にはトリガー付きレバーが2本,足元にペダルが2つ。これでATを操縦するというわけだ。
レバーの左右入力の組み合わせで旋回や前進,後退などが行える。右ペダルがアクセル,左ペダルがブレーキだ。そして,照準はVR HMDを被った体験者が頭部を動かして合わせる。具体的には視界の中央に描かれているHUD(ヘッドアップディスプレイ:照準マーカー)を動かして狙いを定める形となっている。
レバーのトリガーを引くと,その照準方向に武器が発射される。右レバーがマシンガン,左レバーがロケット砲に対応し,ロケット砲で放たれるミサイル弾に自動追尾機能はない。
筐体は可動タイプで,前後や左右,ロールの方向の3軸自由度の動きを再現できるようになっている。急旋回すれば左右に振れたり,ロールしたりするほか,急ブレーキや急加速をすれば前後に揺れる。
バトリング野郎は,2人同時プレイの対戦型VRアクティビティである。たとえカップルであっても,互いに攻撃し合う敵同士というわけ。バトリング野郎がきっかけで仲が悪くなったとしても,VR ZONEや筆者は一切の責任を負わないのでご注意を(笑)。
バトルは2本制で行われるので,1-1の引き分けもあり得る。相手に勝つには,2本とも取るしかない。ちなみに難度の設定はなし。詳しくは後述するが,事実上,「ハード」オンリーという心構えで挑んだほうがいい。
ATの性能に優劣はないので,勝負は純粋にATの操縦テクニックの優劣で決まる。リアル志向のシミュレータなので,マシンガンやミサイルには弾数制限があることに注意しよう。フィールド内には補充武器を送り出す補給ポイントがあるのだが,慣れないうちはそれを意識する余裕はないはず。正直,筆者も補給ポイントを利用することはなかった。
マシンガンは連射が効いて弾速も速いのだが,ビーム兵器のように照準の先へ瞬時に到達するわけではない。敵の動きに合わせて,その進行方向に「先撃ち」することが攻撃を命中させるコツだ。あるいは敵の背後を取って,直線的な射線上にATを捉える必要がある。
一方,ロケット砲は「発射後,段々と加速していく」という独特な軌道を描いて飛んでいくので,「先撃ち」の難度はマシンガンよりも高い。やや危険が伴うが,正面同士でスレ違うときなどが,ロケット砲の攻撃チャンスということになる。
そして,VRボトムズには耐久力ゲージ(体力ゲージ)がない。リアルな「ATシミュレーター」という設定なので,プレイヤーが搭乗しているATは正確に装甲のダメージ計算が行われており,着弾位置が悪ければ「即死」もあり得るのだ。
ATは胸部から胴体部分の内部にコクピットがあり,正面より背面のほうが着弾したときのダメージが大きいとのこと。ダメージ計算は各部位単位で行われているそうで,左腕が破壊されればロケット砲が,右腕が破壊されればマシンガンが使用不能になる。なかなか狙ってできることではないが,このあたりの情報も頭に入れておくといいだろう。 全弾を使い切ると,ATは武器を捨ててしまうので,その腕のトリガーでアームパンチを繰り出せるようになる。相手が車輪駆動で移動していると,パンチを命中させるのは至難の業だが,ボトムズらしい肉弾戦にも持ち込めるというわけだ。
今回,筆者はVR ZONEのスタッフと対戦したのだが,1本目は互いに武器を命中させ合う互角の展開で,制限時間(2分)ギリギリまでもつれる白熱した戦いを制して先勝。しかし,2本目はまったくいいところなく,開始早々に背後から撃たれて即死という結果となった。
引き分けに終わったバトル2回のプレイ時間は合わせて3分程度。冒頭の格納庫体験が約2分だったので,5分程度のプレイ時間で退場することになってしまった。VR ZONEの公式サイトには「体験時間8分」とあるが,これは最大プレイ時間と見ておけばいい。
操縦のコツとして覚えておきたいのは,ブレーキを一瞬,コツンと踏んでから方向転換をすると急旋回を行いやすいという点。相手が横方向に逃げ始めたときは,アクセルを踏みながら大回りするのではなく,この操作で素早く追跡行動に移るといいだろう。
開発者インタビュー
バトリング野郎の体験後,アクティビティの開発を手がけた柿沢高弘氏と髙橋雄二氏に話をうかがっている。このご時世に「ハードボイルドすぎるVRアクティビティ」を送り込んだ意図や経緯,開発中のエピソードなどを聞いたので,ぜひご一読いただきたい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
そもそも,どういった経緯でVR ZONEの新アクティビティとして「装甲騎兵ボトムズ」が選ばれたのでしょうか。
髙橋氏:
最初は「ガンダムを題材にしたVRをやろう」といった話もあったんですよ。しかし,いくつか気になる点がありました。
まず,ドーム型スクリーンで稼動中の「戦場の絆」が存在するので,これを超える完成度の高い体験をVRで提供できるのか,という点です。それから,ガンダムに登場するモビルスーツ(ロボット)は,基本的にヘッドセットを被って操縦しないですよね。なので,世界観的にもどうかな,という懸念がありました。
そこで,発想を逆転したんです。ヘッドセットを被って操縦するロボットものがないかなと。そうなったらもう,すぐですよ。「あ,ボトムズがある」というわけです(笑)。
柿沢氏:
自分は,結構前からVR技術の研究開発をやっていたのですが,その過程で「ロボットに搭乗して,実際に操縦している感覚が味わえるもの」「あまり巨大ではないスケール感のもの」をVRコンテンツとして作りたいと思うようになりました。たまたまですけど,同じ時期に髙橋もそうした結論に達したということで,協力してプロジェクトを進めることになったんです。
4Gamer:
制作期間はどれくらいでしょう。
髙橋氏:
8か月くらいですね。最初に上がってきた企画は,要素てんこもりの仕様だったので(笑),これを今の形にするためにだいぶシェイプアップしました。
4Gamer:
ゲームエンジンには何を使用されていますか。
柿沢氏:
Unreal Engine4(UE4)です。我々の開発チームがUE4に触れるのは初めてだったので,その学習に時間を少し要した感はあります。自社製のNUライブラリを選択しなかったのは,VR対応の実績から考えた結果です。
※補足すると,VR ZONEで稼動中のVRアクティビティのうち,「高所恐怖SHOW」のみがUnityを採用,そのほかのアクティビティはUE4を採用している。
4Gamer:
ロボットものとしては,すでに「アーガイルシフト」があります。それも可動筐体ですが,バトリング野郎とは違うものなのでしょうか。
柿沢氏:
バトリング野郎とアーガイルシフトの可動筐体は,「リアルドライブ」のために開発されたものが原形です。これを我々のチームが活用すべく,リアルドライブ向けの筐体の可動範囲を広げるといったカスタマイズを行って採用しています。リリースの順番は逆ですが,バトリング野郎向けに開発していた可動筐体をアーガイルシフトのほうに流用した感じですね。可動筐体のプログラミングや制御にあたって,アーガイルシフトの担当者との情報交換を行っています。
髙橋氏:
確かに,可動筐体のメカニズムはリアルドライブから流用していますが,バトリング野郎専用の設計です。そして,コクピットのレバーやペダルの位置関係などを含めて,アニメの制作を手がけたサンライズの担当者に監修をお願いしました。
4Gamer:
ゲームというよりシミュレータの要素が非常に色濃く出ている印象を受けましたが,そのあたりはいかがでしょうか。
柿沢氏:
ええ,ボトムズの世界を忠実に再現することにこだわりました。
まず,速度の速いマシンガンの弾やロケット弾ですが,現実世界と同じように,重力の影響を受けて飛んでいます。したがって,飛距離が長くなればなるほど,下に落ちていく弾道になります。
4Gamer:
なるほど。物理シミュレーションは,質点ベース物理(PMP:Point Mass Physics)ですか,それとも位置ベース物理(PBD:Position based Dynamics)ですか。
※質点ベース物理(PMP)や位置ベース物理(PBD)については,以下の記事に詳しい。
柿沢氏:
基本はPBDですが,必要に応じてPMPも併用しています。
4Gamer:
ゲームのタイプからいうと,PMPだけでもよさそうなんですが。弾とATとの衝突判定は球形やカプセル形などのプリミティブではなく,メッシュ(3Dモデル形状)で行われているということですか。
これが複雑なんですよ(笑)。まず,飛んできた弾は,どの部位に衝突したかの判定をPBDベースによってプリミティブ形状で行います。これで,どの部位に弾が接近したのか,衝突したのかを判定することができるので,それに基づいて部位単位の3Dモデル形状でPMPベースの衝突判定を計算するという流れです。
4Gamer:
つまり,ATのコクピット胸部は斜面になっていますが,ここに弾が衝突すると,戦車の正面装甲が弾を斜め上に弾くような跳弾現象が生じるというわけですね。
柿沢氏:
そうです。そこまでやってます(笑)。「ATシミュレーター」ですから。
ATの背中や側面は地面に対して垂直面の装甲になっているので,ここに弾が命中するとコクピットを貫通してプレイヤーは即死します。側面は左右の腕によって,ある程度は守られていますが,腕を落とされた後に攻撃を受けると,当たりどころによっては即死です(笑)。
4Gamer:
跳弾によって,敵を攻撃することはできますか。
柿沢氏:
この複合型の物理シミュレーションはフィールドにある背景物に対しても行っていますが,跳弾の運動エネルギーはすぐに殺しています。なので,跳弾で敵を撃破することはできないですね。
4Gamer:
あれ? こういった物理シミュレーションは,UE4内蔵の物理シミュレーションエンジン(NVIDIA PhysX)で実現できませんよね(笑)。
柿沢氏:
実は,物理シミュレーションには完全オリジナルのコードをC++で書いています。自分はアーケード版「リッジレーサー」などで車両物理の担当をしていたこともあって,ちょっとこだわってしまいました……。
ちなみに,ATの部位や装備ごとに重量が設定されているので,腕を落とされたり,重い武器を両手で持ったりすると,加減速挙動や旋回挙動が変わります。戦車の挙動を研究したことがあるのですが,そのノウハウが生かされています(笑)。
バトリング野郎はシミュレータとして,かなりレベルの高い実装になっていますので,今後も拡張ができるかもしれません。
4Gamer:
グラフィックスの面でこだわったポイントはありますか。
柿沢氏:
グラフィックスはUE4の物理ベースレンダリングシステムの範囲内で作り込んでいますが,コクピット内のライティングは少々凝りました。コクピット内の全方位の情景を環境マップにしたイメージベースドライティングを実践しています。
4Gamer:
なるほど。
それでは「VR酔い」の対策はいかがでしょう。
髙橋氏:
試作段階では起伏のある砂漠の戦場などもありましたが,ATが砂丘をアップダウンしながら駆けると酔いやすかったですね。そこで,現在の平地型の戦場になったという経緯があります。
柿沢氏:
酔いの低減を狙って,意図的に被写界深度を浅めに描画しています。手前ボケはなしにしていますが,後ろボケは強めにして,プレイヤーの視界に入った敵ATにフォーカスが合う描画ですね。これによって,かなり酔いが低減できていると自負しています。
4Gamer:
最後になりますが,今回はボトムズのVRアクティビティが実現しました。今後,ほかのロボットものがVR化するといった可能性はあるのでしょうか。
髙橋氏:
VR ZONEには「VRエンターテインメントの新しい形を追求するための実験場」というコンセプトがあり,既存の体感ゲーム的な大型筐体ものと同じになっては意味がないと考えています。
ただ,「憧れの●●ロボに乗ってみたい」というのは,皆さんの夢ですよね。それは,開発側にとっても同じなんです。皆さんの要望,我々のアイデア,VR ZONEのコンセプトがすべて重なったときに,さらに新しいものが誕生することがあるかもしれません。
4Gamer:
大いに期待しています。ありがとうございました。
「VR ZONE Project i Can」公式サイト
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
JASRAC許諾番号:V-1601165
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