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[GDC 2015]Atari史上指折りの大ヒットを記録したシューティング「Yars' Revenge」開発秘話。Yars' Revengeで実現された“最初のこと”とは
そんな名作Yars' Revengeを振り返るレクチャーが,Game Developers Conference 2015で行われた。題して「Classic Game Postmortem: Yars' Revenge」で,登壇したのはゲームを制作したHoward Scott Warshaw(ハワード スコット ワーショウ)氏だ。
Yars' Revengeは2Dのシューティングゲームで,プレイヤーはバタバタ羽ばたく虫のような自機を操作して,上下に動く敵と戦うことになる。自機は超進化して宇宙も飛べるようになったハエで,これが「Yar」であるとのこと。ハエ……。
ハエなので,敵であるQotileを取り囲む赤いバリアを,ミサイルを撃ち込むだけでなく,かじってしまうこともできる。バリアを全部取り除くと,画面にZorlon Cannonが出現するので,タイミングを合わせて発射してQotileに当たればクリアだ。文章では分かりづらいと思うが,講演中,ほとんどスクリーンショットが映し出されなかったので,すみません。気になる人はネットで検索したりなどしてほしい。ちなみに,画面真ん中の虹のような部分は,パッと見そうは見えないけど,安全地帯だ。
Yars' RevengeはWarshaw氏がAtariに入って最初に制作したゲームであり,それだけに自分にとって重要であるという。暗黒の宇宙を舞台に,ダイナミックな戦いが繰り広げられ,そこに派手なグラフィックスが華を添える,まるで映画のような作品であり,シネマティックなゲームの嚆矢ではないかとWarshaw氏は続けた。ただし,プレイは素晴らしいものの,スクリーンショットは残念ながらよくないとのこと。分かる気がする。
Warshaw氏はここで,自分の初の作品がなしとげた「最初のこと」をいくつか並べてみせた。Yars' Revengeはフルスクリーンで気合の入った爆発シーンが見られる最初の作品であり,やられたときの効果が派手な最初の作品であり,ポーズモードを備えた最初の作品であり,ジョイスティックでリセットがかけられる最初の作品だという。
ゲーム以外の部分については,例えば「イースターエッグ」を実装した作品であり,ある手順を踏むと,自分の名前を入力することが可能になる。そして,名前の前後にWarshaw氏のイニシャル「SHWWHS」がくっつくのだ。最初のイースターエッグかどうかについては,2015年3月7日に掲載したレポートのWarren Robinett氏と争うことになりそうな気もするが,Warshaw氏は,シークレットルームはイースターエッグとはいえないんじゃないかという見解らしい。このほか,どれほどのプレイヤーが気付いたか分からないものの,実はゲームに謎のコードが表示されることもあるというので,万一プレイできる状況の人はチェックしてみよう。
また,Yars' Revengeは,制作者の名前が初めてクレジットされた作品でもあるという。これについても上記のレポートにも書いたが,当時のプログラマー(つまりゲーム制作者)は影の存在で,表に名前が出ることはなかった。しかしWarshaw氏の場合,ゲーム本体にバックストーリーを描いたコミックブックが同梱されたため,その奥付という形で自分の名前が掲載されたのだ。
このように,ゲーム以外のいわゆるメタな要素を多く取り入れているのも,Yars' Revengeが最初ではないかという。
そんなYars' Revengeは,もともと1980年にリリースされたアーケードゲーム「Star Castle」の移植作としてアサインされたもので,タイトルは「Time Freeze」だった。しかし,自分の処女作を人のアイデアを使ったものにしたくなかったWarshaw氏は,それを断った。そもそも,非力なAtari 2600で,アーケードゲームの再現は無理だという理由もあったという。もっとも,最終的に独自タイトルになる前には移植作として試行錯誤した時期もあったらしく,アーケードゲームの影響で,Yars' Revengeの操作系は必要以上に複雑なものになってしまったという。
また,ROMが4Kbyte,RAMが128byteというAtari 2600の非力さの問題もあったという。同時期のアーケードゲーム「Robotron: 2084」は,サウンドだけで2Kbyteを使っていたというのだから,Atari 2600の非力さも際立つというものだ。しかし,少ないメモリで済むならむしろ経済的という考えで,さまざまなプログラムテクニックを駆使して,Warshaw氏はこの挑戦を楽しんだという。ただ,当時のゲームに実装されていたスコア表示はあきらめたようだ。
さて,そのような感じでゲーム開発が進められていったのだが,個人的に注目したいのは,やはりゲームタイトルでもある“Yar”だ。ひっくり返すとRayになり,これは当時Atariの社長を務めていたRay Kassar氏のファーストネームだ。また,ゲームに出てくる惑星Razakも,Kassarをひっくり返したものに近い。Atari創設者のNolan Bushnell氏が経営手腕を問われて会社を去り,新たに親会社から送り込まれたKassar氏は,ゲーム業界の経験がない人物で,着任早々,大規模なリストラを断行したり,それまでオリジナルゲームが中心だったものを,アーケードの人気作を移植するという方針に転換したりなど,Atari文化が失われた原因とも言われている。それに反発したプログラマー(つまりゲーム開発者)が,揶揄の意志を込めて「Yars' Revenge」というタイトルを付けたという話がまことしやかに流れていたりするのだ。そこんとこ,どうなのだろう? という気持ちだったわけだ。
これまでのWarshaw氏の話のところどころに,マーケティング部門が力を持つようになって困ったという話題が出てきてはいたが,少なくとも今回の講演では,命名の理由は,何かエキゾチックで,これまでとは違うような響きのゲームタイトルを付けたいと思ったとWarshaw氏は述べていた。
もちろん,このタイトル名はKassar氏も承認しており,それをマーケティングマネージャーから聞いたWarshaw氏は「あ,いいんだ」という感じだったという。事実とは,それほどドラマチックなものではないようです。というわけで,個人的には疑問が解けて割とすっきりした講演であった。
知っている人は知っていると思うが,Warshaw氏は,評判の悪い「E.T. the Extra-Terrestrial」のゲームデザインおよびプログラムも担当している。詳しくは2013年12月21日に掲載した記事を参照してほしいが,2014年にはニューメキシコの埋め立て地からカートリッジが「発掘」され,伝説が事実であることが確認された。
これについてWarshaw氏は,来場者に向かい「E.T.」が史上最悪のゲームであると聞いた人はいるかと問うたところ,ほぼ全員が手を上げた。それでは,「E.T.」をプレイしたことがある人は,と続けて質問したところ,今度は誰も手を上げなかった。Warshaw氏は現在,ゲーム業界をやめて,サイコセラピスト(心理療法士)をやっている。これについても,「E.T.」のショックでゲームをやめて,自分自身のセラピーのためにセラピストになったのだろうと言われることもあるという。
しかしそういう事実はないと,Warshaw氏は述べた。そして,知っておいてほしいのは,Atari史上,有数の大ヒットを記録したYars' Revengeと,最悪とされているE.T.は同じ人間が作ったこと,そして,良くも悪くもプレイをしないでゲームを判断するのは正しいことではないと続けて,講演をしめくくった。
ちなみに,Warshaw氏の頭の中には,Yars' Revengeの続編のアイデアがあるという。それはまだ,誰も作っていないようなものとのことだ。それがいつか我々の前に姿を現すことを期待したい。
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