イベント
[CEDEC 2014]「誰でも神プレイできるシューティングゲーム」を実現する技術とは。その鍵は真の難度と見かけの難度の違いにあった
インタラクティブセッションの特徴は,その名のとおり,出展者と来訪者が直接やりとりができることにある。来訪者は気になったことをその場で質問したり,実際に展示されているデモを触って,技術の最先端を体験したりできるのだ。
今回のCEDECでもなかなか面白い展示が見られたが,VR(仮想現実)系やHMD(ヘッドマウントディスプレイ)系の展示は,実際に触ってみないと分からないものが多いため,大きな注目を集めていた。
本稿ではこうしたセッションの中でも,とくにゲーマー寄りの濃さそうなセッションを紹介したい。題して「誰でも神プレイできるシューティングゲーム」。出展者は,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の簗瀬洋平氏である。
「人間,3回やれば上達する」と簗瀬氏は言った
ゲームとしてはいたってシンプルで,自機(画面下部にあるグレーの四角形)を左右に移動して,敵(画面上部の紫色のバー)が放つ水色の弾を避けながら,緑色のカプセルを取ってスコアを稼ぐ。ただ,それだけである。
特徴を挙げるなら,自機が攻撃手段を持たないこと(完全な避けゲー),また自機の移動に若干の慣性がかかっていることだろうか。前者はデモの骨子を素早く理解してもらうための仕様で,後者には実はトリックがあるのだが,これは後段のタネ明かしパートで解説する。
画面下部にあるグレーの四角形が自機。その左にある緑色のカプセルを取ってスコアを稼ぐのだが,この段階では結構難しい |
このゲーム,「誰でも神プレイできるシューティングゲーム」という表題に反し,普通に難しい。シューティングゲームの腕に自信ありという人でも,カプセルを3つ取れれば上出来で,筆者が見た限りでは4つめを取れた人はほとんどいなかった。簗瀬氏曰く「最初のプレイで3つめを取れたら相当上手。普通は1〜2つが限界」とのことである。
さて,この「全然,神プレイできないシューティングゲーム」だが,改めてプレイしてみると,今度はカプセルが4つ,5つと取れるようになる。だが,敵が放つ弾の数は減ったように見えないし,完全にあさっての方向に撃たれる弾(いわゆる飾り弾)が増えたようでもない。
さらにもう1度プレイすると,今度はほとんどのプレイヤーがカプセルを5つ,6つと取れるようになる。この段階でも(とくに自分がプレイしていると)相変わらず弾は多く,自機をしっかり狙ってきているので,慎重な回避を心がけないとすぐやられる……ように感じる。まさに感覚としては,プレイ回数を重ねるごとに神プレイできるようになっているのだ。
敵が増えて,弾幕の密度も上がってきた。それなのにスイスイと回避できる |
真の難度と見かけの難度
もちろん,これにはトリックがある。このゲームは,自機がやられるたびに見かけの難度を維持したまま,実際の難度は下がっているのだ。
さて,難度の話をするからには,まず「難しい」状況を定義しなくてはならない。難しいシューティングゲームを作るには,どうしたら良いのだろうか。
簗瀬氏はこの疑問に対し,「弾の種類を2種類にする」という回答を採用したのである。
Aタイプの弾は,現在,自機がいる場所に向かって放たれる。
Bタイプの弾は,いわゆる予測射撃だ。自機がそのまま移動を続けたと仮定したとき,ちょうど自機に命中するような弾道である。
Aタイプの弾とBタイプの弾が複合すると,構図としては「移動しなくてもダメ,移動してもダメ」ということになり,ゲームの難度は上がる。もちろん,細かく移動したり止まったりすることで回避は可能だが,弾の密度が上がればそれも難しくなり,切り返しのタイミング(たとえば右方向に移動していたところから,左方向への移動に切り替える)でやられることも多くなる。とくにこのゲームの場合,自機の移動に慣性がかかっており,多少動きが制限されるためか未来位置予測の精度も高いようだ。
敵が撃ってくる弾のほとんどがAタイプとBタイプで,カプセルを取るたびに数が増えていくというのが,デフォルトの仕様である。これだと,カプセルを3つ取れれば上出来というわけだ。
これはBタイプの弾によく似ているが,未来位置予測によってギリギリのところで自機に命中しないように放たれた弾である。これがCタイプの弾だ。
Cタイプの弾は,普通にプレイしていれば命中することはない(非常に浅い角度で入ってきた弾だと,切り返しのタイミング次第で命中してしまうが,極めてまれ)。いわば飾り弾なのだが,人間の知覚能力では,自機に当たらないタイプCの弾と,このままでは当たってしまうタイプBの弾を即座に見分けるのは至難である。このため,プレイしていると見かけの難度にはほとんど差がないように感じるのだ。
デモでは,自機が1度やられるとAタイプの弾とCタイプの弾しか撃たれなくなる。つまり,移動し続ける限り,弾が当たることはなくなるわけだ(これでも真剣にプレイした結果,やられることがあるのだから人間とは不思議である)。
さらにもう1度やられると,今度はCタイプの弾しか撃たれなくなる。こうなると滅多なことでは弾に当たらない――しかし,見かけの難度は変わっていないのだ。
万能ではないが,応用範囲は広い
このトリックだが,いくつか補足すべきことがある。
まず,どんなシューティングゲームにもそのまま応用できるというわけではない。一般的な自機の移動に慣性のないシューティングゲームの場合,未来位置予測はより難しくなり,前後左右に移動できるゲームであれば,その難度はさらに上がる。
この点について簗瀬氏は,シューティングゲームよりも,自機(キャラクター)の移動に慣性がある他ジャンルのゲームのほうが,応用しやすいだろうと見込んでいる。未来位置予測の難度は多少上がるが,自機の移動が地形の影響を受けるゲーム(古い例で恐縮だが「魂斗羅」のようなゲーム)も良いだろう。
また,実のところ,外野として来場者のプレイを見ていると,最高難度と最低難度では何かが違う感覚がある。岡目八目とはよく言ったもので,観客の立場だと,自機が避けたのとは明らかに違う,弾が避けたのが分かる瞬間があるのだ。
これは見た目の難度が上がって弾数が増えると,プレイヤーが自分から弾に当たりにいくような動きが増えるからだろう。しかし,すべての弾がタイプCの状態だと,自分から弾に当たりにいっても当たらない――逆に言えば,自分から弾に当たりにいくことで,明らかにおかしな状況であることがはっきりするのである。
事実,このゲームの難度はタイプA〜Cの弾の割合を変更することで細かい調整が可能だ。また,デモでは自機がやられるたびに難度が下がっていたが,この調整はプレイ中にも行える。
この調整をどう仕掛けていくかは,まったく別の技術として研究が必要だろう(ゲーマーはこうした仕組みを悪用することがある)。ただ,今回紹介されたシステムの場合,難度の変化が見た目ではすぐに判断できないという特徴がある。「中ボスの数が1人減ったから難度調整に成功している」といった“攻略法”を防ぎつつ,適度な緊張感と爽快感を維持し続ける技術として,たいへん興味深いと言えるだろう。
このセッションには,さまざまなメーカーの技術者から同人のシューティングゲームを制作しているクリエイターまで,多数の人が訪れ,熱心に写真を撮ったりメモを取っていたりするケースもあったという。もしかしたら近い将来,この技術が実装されたゲームが我々の目の前に現れるかもしれない。
なお,今回出展されたデモは,将来的に「Unity Web Player」でも試遊できるようにしたいとのこと。公開された折には,ぜひ試してほしい。
実は安い? CEDECへの参加費
さて,4Gamerでも多数のレポートが掲載されているCEDECだが,実際に参加してみたくなった人もいると思う。そして,公式サイトで「一般参加のレギュラーパスは3万円(早期割引込み)」という数字を見て,これは厳しいという感想を持った人もまた少なくないだろう。
CEDECは1日で6講演(ショートセッションを組み合わせると7〜8講演まで可能)受講でき,単純計算すると3日間で18講演となる。1講演あたり約1666円と考えればリーズナブルであることは間違いないが,かといって3万円は気軽に払える金額でもない。
だが,インタラクティブセッションと一部の講演(スポンサーシップセッションなど)に限定される「エキスポパス」であれば,当日券が1日あたり1500円(事前申し込みは1000円)で販売されている。インタラクティブセッションには本稿で紹介したような面白い展示が鈴なりになっているので,コンピュータゲーム技術の最先端を体験してみたいという人は検討してみてはいかがだろうか。
スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏も熱心に試遊。デモが好評だったため,当初は1台だった試遊用PCを2台に増やしたのだとか |
4Gamer.net「CEDEC 2014」記事一覧
- この記事のURL: