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電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回
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印刷2014/04/02 00:00

インタビュー

電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回

画像集#001のサムネイル/電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回

 連載第16回めとなる,ドワンゴ・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。今回は,永世名人の資格を持ち,あの羽生善治名人とも数々の名勝負を繰り広げてきた将棋棋士・谷川浩司氏をゲストに迎え,その将棋人生や将棋観,「将棋電王戦」などについて語ってもらいました。
 5歳の頃から将棋をはじめ,中学2年生でプロデビュー。その後も,史上最年少名人として歴史に名を残すなど,数々の記録を打ち立ててきた谷川氏。将棋を「ゲーム」として捉えるなら,文字通りの「日本を代表するプロゲーマー」とでも言うべき存在でしょう。

 そんな谷川氏とはどんな人物で,どんなことを考えながらプロ棋士としての人生を歩んできたのか。あるいは,谷川氏自身が語る「将棋の面白さ」とは……? 将棋の世界の昔話や,コンピュータ将棋について思うことなど,普段なかなか聞けないさまざまな話を,ここぞとばかりに聞いてみました。いつものように,雑談混じりの堅苦しくない内容ですので,通勤/通学の途中で,あるいはお昼休みに,ぜひご一読ください。

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「将棋電王戦」特設ページ


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リアルの谷川さんも“ああいう人”だと思っていた


川上氏:
 今日はすみません,お忙しいところを。

谷川氏:
 いえいえ,呼んで頂いてありがとうございます。

川上氏:
 最初にご説明すると,この連載企画って,世の中で活躍している“ゲーマー経営者”の方を呼んで,いろいろなお話を聞くって体でやらせて頂いているんですけども。最近は,だんだんとその建前が崩れてきて。経営者でもなんでもないただのゲーマーを呼んでみたり,逆にやっぱりちゃんとした方を呼ばないとってことで,経営者だけどゲーマーじゃない方を呼んでみたりと,いろいろと迷走しておりまして。

谷川氏:
 ははは。

4Gamer:
 今回の谷川さんも,かなり異色の対談者ですよね。

川上氏:
 え? いやいや。僕のなかで“ゲーム”といったら,コンピュータゲームよりもむしろボードゲームですから。で,ボードゲームの中でも,最も歴史と伝統のあるものの一つが将棋だとも思っているので,今回は,むしろ本道だと思っていますよ。

4Gamer:
 そう言われると,確かに。本当の意味でのプロゲーマーというか……。

川上氏:
 そう。だから,ゲーム(将棋)が人生の役に立つのか,ゲーム(将棋)を通して見えてくる普遍的なものとはなんなのか――というテーマで考えれば,谷川会長ほどの方はそういないでしょう!

谷川浩司(たにがわこうじ):将棋棋士。日本将棋連盟会長。永世名人(十七世名人)の資格を持ち,タイトル通算獲得数は歴代4位。5歳の頃,父が5つ上との兄弟喧嘩を止めさせる目的で将棋盤と駒を買ってきて,兄弟で将棋を指させたのが将棋との出会い。その後,頭角を現し,中学2年生の時にプロデビュー。1983年には,史上最年少名人となるなど,数々の記録を打ち立てた。ちなみに,兄弟喧嘩を止めさせる目的で始められた将棋だったが,氏曰く「兄弟喧嘩はむしろひどくなった」という
画像集#030のサムネイル/電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回
谷川氏:
 お手柔らかにお願いします(笑)

川上氏:
 というわけで,今日はいろいろなお話を伺えればと思うんですが,その前に。谷川会長の人生のなかには「テレビゲーム」というものは存在しているんですか?

谷川氏:
 私が将棋を始めたのは5歳の頃で,その時から将棋漬けの人生が始まるんですけれど,やっぱりそれとは別に,当時はやっていた「インベーダーゲーム」とかには衝撃を受けましたよね。

川上氏:
 谷川会長もインベーダーゲームは遊ばれていた?

谷川氏:
 はい。確か私が10代後半くらいの時代だったと思いますが,それこそ,100円玉がどんどんなくなっていく……みたいな経験は人並みにありました。あの時は,日本全体でブームでしたからね。

川上氏:
 棋士仲間でもインベーダーゲームってはやっていたんですか。

谷川氏:
 そうですね。ただ,僕自身は「これは面白すぎるから,あまりのめり込むのは良くないな」と思って,自制をしていました。……とか言いつつ,棋士仲間とはちょくちょく遊びに行ってましたけどね(苦笑)

4Gamer:
 ファミコンとかは買ったりされたんですか?

谷川氏:
 ファミコンは,麻雀のゲームであるとか,「スーパーマリオブラザーズ」とかはちょっとやりました。ただ,そちらはあんまりやってないです。

川上氏:
 ボードゲームやカードゲームなど,将棋以外のアナログゲームの方はどうですか?

谷川氏:
 モノポリーとか麻雀は,まだプロ棋士の世界がもう少しゆるい時代に,対局の前とかによく遊んでいましたね。昔は,タイトル戦であってもずいぶんほのぼのとしていたといいますか。立ち会いの棋士だとか,報道関係者とかが混ざって,対局前にみんなでお酒を飲みながら碁や将棋を指したり,あるいは麻雀をしたりって雰囲気だったんですよ。

(C)TOMY
画像集#028のサムネイル/電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回

川上氏:
 へえー。

谷川氏:
 だから,私も最初の名人戦のときなんかは,対局の前日とかどういう風に過ごしていいか分からなかったものですから。夕食が終わってもまだ8時くらいで,することがないし,眠くもない。だから,控え室とかにいって,そういう場に混ざって遊ぶことがあったんです。
 また比較的最近の話であれば,羽生さん(※)や島 朗さん(※)なんかは,新しいものを持ち込むことが大好きな人達ですから,いろいろな遊び道具を持ってきたりしていたんですね。とくに島さんが竜王戦に出たあたりでは,棋士の中でモノポリーがすごくはやったんですよ。

※羽生善治(はぶよしはる):将棋棋士。1996年に将棋界で初の7タイトル独占を達成。通算タイトル獲得期数は歴代1位。

※島 朗(しまあきら):将棋棋士。初代竜王。日本将棋連盟常勤理事。東北統括本部長。

4Gamer:
 谷川さんや羽生さんが一緒にモノポリーをされているというのは……想像するだけでもなんか凄いですね。

谷川氏:
 まぁただ,モノポリーって交渉が重要なゲームじゃないですか。私自身は,そういうのがちょっと苦手なので,モノポリーはあまり得意ではなかったんですけど(笑)。

画像集#006のサムネイル/電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回
川上氏:
 僕は,プロ棋士の方が対局されている姿を生で見たのは「将棋電王戦」が初めてなんですけど,なんというか,とても「モノポリーしましょう」とか言える雰囲気じゃないですよね。

谷川氏:
 そうですね。30年くらい前に比べると,今はタイトル戦自体の雰囲気も全然違いますからね。確かに今は,「一緒にモノポリーをやりましょう」という雰囲気ではないかもしれません。


川上氏:
 雰囲気が変わったのは何が原因なんですか?

谷川氏:
 まあ,棋士や報道関係者の世代が変わったということもあるんでしょうけど,タイトル戦のスタイルが昔とはずいぶん変わったからでしょうね。今は,タイトル戦の前夜祭が立食パーティー形式であったりすると,その間プロの棋士は,ファンとの交流だったり,いろいろな方への挨拶とかでほとんど食事もできません。そうすると,自室に戻ってから食事をとるわけですが,食べ終わってみるともう真夜中ですからね。それに,各地の観光名所にいって写真撮影に協力したりだとか,とにかく今は,対局者が将棋を指す以外のことをいろいろしなくちゃいけなくなったというのが大きいかもしれません。

川上氏:
 純粋に仕事や儀式が増えて,時間の余裕がなくなってしまったと。

谷川氏:
 まぁ逆に言えば,それだけ将棋のタイトル戦というものが,社会的に認知され,注目されてるってことだと思いますけどね。ただ,対局者にはちょっと負担が増えたかなって感じはします。昔はもっとこう,タイトル戦といえどもアットホームな感じでしたから。

川上氏:
 そういう“厳しい感じ”になっていったのって,将棋を題材にしたドラマや漫画とかの影響が少しはあったりするんですか?

谷川氏:
 それはどうですかね。もちろん,今は将棋の世界への興味の持ち方,入り方というのが多様化しているのかなって感覚はあります。漫画やテレビであるとか,最近でいえば,電王戦の影響も大きいですよね。

川上氏:
 僕は,漫画の「月下の棋士」とかがすごい好きなんですけど,あれでプロ棋士の世界をイメージすると,それはもう“恐ろしい世界”ですよね(笑)

4Gamer:
 勝負師の世界,みたいな。

谷川氏:
 そうですね(笑)。まぁ,あれには私をモデルにしたキャラクターがいるようなんですけど,読むと「なんだか大変なことになっているなぁ」という感じで。

一同:
 (爆笑)

画像集#008のサムネイル/電王戦は,21世紀を生きる人類を映し出す鏡なのかも――将棋棋士・谷川浩司氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第16回

川上氏:
 僕は,あの漫画のイメージを持っていたので,リアルの谷川さんも“ああいう人”だと思っていたんですけど(笑)

谷川氏:
 どうでした(笑)

川上氏:
 いや,そういう,すごい張り詰めた世界で生きてらっしゃるのかと思っていましたが,そうでない部分もあるってことですよね。

谷川氏:
 そうですね。昨今の棋士は,羽生さん,森内さん(※),佐藤さん(※)にしても,社交的な方が多いのかなと思います。とくにタイトル戦に出ておられるような方は,普段は明るい,初対面の人とも楽しく雑談できる感じですよね。もちろん,対局中は厳しいところもありますが。

※森内俊之(もりうちとしゆき):将棋棋士。十八世名人資格保持者。いわゆる羽生世代(羽生・森内世代)を代表する一人。小学生時代から羽生善治氏とはライバル関係だった

※佐藤康光(さとうやすみつ):将棋棋士。永世棋聖の資格を持ち,タイトル通算獲得数は歴代6位。羽生氏や森内氏と並び,羽生世代の一人に数えられる

川上氏:
 昔の棋士の方って,社交性に欠けていたんですか?

谷川氏:
 いや,そういうわけではないんですけど……。でもやっぱり,大山先生(※),升田先生(※)などは,風貌からして“勝負師”って感じはありましたからね。世代が変わっていくにつれ,そうした風潮が少しずつ変わっていったところはあると思います。

※大山康晴(おおやまやすはる):将棋棋士。5つの永世称号を保持。タイトル通算獲得数は歴代2位。戦前〜戦後を代表する棋士であった。1992年に69歳で没した

※升田幸三(ますだこうぞう):将棋棋士。戦前〜戦後を代表する棋士の一人で,大山氏の終生のライバルであった。その独創的な指し手やキャラクターから,数々の逸話を残す人物でもある。1991年に73歳で他界

川上氏:
 そういえば,KADOKAWAの角川歴彦会長とは,僕はとても親しくさせて頂いているんですけど,歴彦会長って若い頃に将棋を相当やられているんですよね。

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谷川氏:
 ああ,そうなんですよね。だから,古い将棋雑誌とかを見ると,棋士を目指す奨励会のような組織でも名を連ねていたりして。

川上氏:
 でも,僕は歴彦会長から将棋の話をされたことは一度もないんですよ。

谷川氏:
 あら,そうなんですか?

川上氏:
 はい。これはもう,ある種のプロ意識だなと思って。あまりにも将棋が好きなものだから,僕なんかでは話題にしてもらえないんだと(苦笑)。やっぱり将棋に対する神聖な思いがあるんだなって感じるんですよね。

谷川氏:
 小さい頃にプロ棋士を目指されていたのなら,少なからずそういう思いはあるのかもしれませんねぇ。

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