業界動向
ゲストは稲船敬二氏と吉田修平氏。「Mighty No.9」やPS4についてのトークを“当事者”達が展開した,「黒川塾(十四)」聴講レポート
14回目の開催となった今回のテーマは,「革新者たる所以(ゆえん)」。ゲストにcomceptのCEO/コンセプター 稲船敬二氏と,SCEワールドワイド・スタジオのプレジデント 吉田修平氏を迎え,クラウドファンディングによるゲーム開発やインディーズゲーム,そして北米で11月15日に発売されたばかりのPlayStation 4における取り組みがゲーム業界にもたらす革新についてなど,さまざまなトークが繰り広げられた。
comcept CEO/コンセプター 稲船敬二氏 |
SCEワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏 |
クラウドファンディングで4億円の開発資金を集めた「Mighty No.9」
クラウドファンディングの話題では,稲船氏が主導する「Mighty No.9」プロジェクトが,KickStarterにて7万人以上の支援者と4億円超の資本を集めたこと(関連記事)について触れられた。
稲船氏は,クラウドファンディングの最も優れた部分として,「クリエイターとユーザーが直接つながること」を挙げる。というのもこのシステムは,クリエイターが作りたいものとユーザーの望むものが一致するという,言わば“相思相愛”にならないといい結果にはならないからである。稲船氏はそこにやりがいを感じるという。稲船氏は,かねてから“企業の都合”という壁を取り払い,直接ユーザーと対話しながらゲームを作りたいと考えており,今回は「失敗してもいいからチャレンジしてみよう」と考えて取り組んだとのことだ。
なお,今回の件では世界各国/各地域のバッカーから出資を受けたが,実は日本人の割合は少なかったという。話が,先日のインタビューでも言及された「中東からの支援がすごい」というトピックにおよぶと,吉田氏も現在,中東でのゲームビジネスが成長していると同意。PlayStation Networkではアラビア語のユーザーが増加しており,吉田氏のTwitterにもPSファミリーに対するリクエストがアラビア語で書き込まれることがあるという。
また中東と並んで,南米もゲームに対する情熱が強いとのことで,吉田氏は「現地にゲーム開発企業がない地域では,ゲームクリエイターがスター扱いされる」と話す。稲船氏も日本の電車内でブラジル人に「Keiji Inafuneか?」と熱心に話しかけられたエピソードを披露していた。
ちなみにそのブラジル人は,11月18日に放送されたテレビ番組「YOUは何しに日本へ?」に出演し,日本に来て最も良かったことについて「Keiji Inafuneに出会えたこと」を挙げていたという。
「Mighty No.9」のPS4版をリリースすることが決定したことについては,「当初からリクエストが多く,自分も全プラットフォームで展開したかったので,Kickstarterのステージが達成できて嬉しい」と稲船氏。稲船氏は,当初から“2億円達成でひとまず成功”と考えており,コンシューマ版をリリースできる2億5000万円を達成した時点で初めて喜んだと語った(詳細はインタビューでも語られている)。
さらに稲船氏は,Kickstarterのサイト上で開発資金がどんどん上昇していくのを目の当たりにできたことで,スタッフのモチベーションや結束力がどんどん向上していったと話す。金額が上がるにつれ,公約にない要素に関しても「コレもやりたい,アレもやりたい」と舞い上がってしまい,稲船氏が「まだ無理」といさめる場面もあったそうだ。
なお,近日中に「Mighty No.9」のユーザーコミュニティサイトが開設されることも,稲船氏の口から明らかにされた。同サイトは,基本的には,投資した支援者に進捗状況を伝えたり,意見やリクエストを募ったりする場だが,一部を除いて一般にも公開するとのことだ。
さて,Kickstaterは日本から直接エントリーできないため,稲船氏はcomcept USAを設立している。したがって4億円の開発資金を集めたといっても,それ以外に準備金などの費用がかかっているのだ。その費用の一つが,支援者へのリワードである。リワードは投資額に応じて設定されているが,たとえば1枚1000円のTシャツであったとしても,7万人に配布するとなると,それだけで7000万円になってしまうというわけである。
リワードなどの部分は今回,最初から北米の専門業者と組んで準備したとのことで,それが成功要因の一つだったのではないかと稲船氏は分析する。Kickstarterがそもそも北米の文化から生まれた仕組みであるため,現地の人達でないと“どんなリワードが喜ばれるのかが分からない”からだ。
ちなみに,今回の取り組みにおける最高額の100万円を投資し,稲船氏と会食できるというリワードを得たのは4人。うち一人は日本人だそうである。
稲船氏いわく,「Mighty No.9」のストーリーは非常に凝ったものに仕上がっているそうで,「ゲームだけではもったいない」くらいになっているとのこと。そういう話を聞くと,ゲーム以外の展開に関しても気になるところだが,今後のアナウンスを待ちたい。
PS4本体は日本での発売日に向け,販売台数を確保済み
PS4に関しては,まず北米での発売初日に実売100万台を記録したことが話題に上がった(関連記事)。これはPS2が達成した3日で100万台という記録を大きく上回っており,吉田氏は,コンシューマ機全体でもおそらく最速の販売実績ではないかと語っていた。
この話を受けて稲船氏は「昨今,コンシューマゲームの停滞がささやかれているが,まだまだいける」とし,とくに世界各地に出向くと日本のゲームが望まれていることを感じると話していた。
この勢いだと,「PS4は2014年3月までに販売目標の500万台を越えてしまうのではないか」と黒川氏が話題を振ると,吉田氏は「私はコンテンツ開発に携わっているので,ビジネスの話には答えられない」としつつ,PS4はきちんと生産計画が立てられ,各国/各地域向けの販売台数を確保していると説明。たとえば,先行で発売した北米での売れ行きが好調だからといって,日本での販売予定分をそちらに回すようなことはないそうだ。
DUALSHOCK 4とPlayStation Cameraを使うPS4の新しい遊び「プレイルーム」の動画が海外で話題になったことについては,「見ているだけでも面白く,ゲームに詳しくない人達にも分かりやすかったのではないか」と吉田氏。こうした仕掛けは,クリエイターが手腕を発揮できるように仕込んでいるとのことである。
PS4の大きな特徴の一つ「シェア機能」に関しては,ハード開発者の原案では,プレイを録画しておき,その中からいい部分だけを切り取ってFacebookなどに投稿できるという仕組みだったという。そこに一人のゲームクリエイターが,「コントローラーに専用ボタンを設けて,シェアしたいときにすぐできるようにすればいいのではないか」と提案したところ,即座に採用されたそうだ。このエピソードのように,PS4はハードとソフト両方の作り手がいちユーザーとしての使い勝手を考えながら作っていったゲーム機であると,吉田氏は語る。
なお,シェア機能に関しては「使えば絶対ハマりますよ」と吉田氏。何でも吉田氏自身,ユーザーがシェア機能を使って楽しんでいる様子に触発され,ディナーの予定をキャンセルして,ゲームプレイの実況を始めてしまったのだという。吉田氏は「視聴者からコメントを通じてプレイの感想や攻略のヒントを教えてもらえるので,みんなで遊んでいるようで楽しい」と話していた。
そのほか吉田氏と稲船氏が関わるPlayStation Vita用ソフト「ソウル・サクリファイス デルタ」に関しての話題も挙がった。稲船氏は「誤解を招きたくないので,完全版という表現は避けたいのだが」と前置きし,「それでも完全なものとして,順調に仕上がりつつある」と説明。吉田氏は,チームが若いこともあってモチベーションが高く,またSCEのマーケティング担当も一体となって取り組んでいると話していた。
さらに稲船氏が,SCEとcomcept,そしてマーベラスAQLの3社が,まさに垣根を越えた関係になっているとし,「SCEはパブリッシャなんだから,もっと偉そうにしてもいいのに」と笑っていたのが印象的だった。
毎週大量のインディーズゲームをチェックしている吉田氏
インディーズゲームに関しては,吉田氏が毎週多くのPS Vita向けタイトルをチェックしていることを明らかにした。
吉田氏は,ジャンル分けができないようなタイトルがたくさんある現状を「初代PlayStationの時に,ゲーム業界外のクリエイターが参入して斬新なゲームを提供していた頃を思い出し,非常に面白い」とコメント。開発規模の小さいインディーズゲームは作り手の意志が細部まで行きわたった,作家的でパーソナルな部分が楽しいという。
この状況に関しては,自身やSCEが狙ったわけではなく「今や世の中がそうなっている」と吉田氏。すなわち,全世界にネットワークを通じて配信可能となったことにより,ゲームを作ることさえできればインディーズがビジネスとして成立するようになったというわけである。若者や学生上がりといった人達だけでなく,経験を積んだベテランクリエイターが独立して自分の作りたいゲームを作るようになり,その結果,クオリティが高く多彩なジャンルのゲームが生まれるようになったというわけだ。
SCEのような大企業では,どうしても手堅いジャンルや“シリーズもの”でないと企画が通りにくい。そこで吉田氏は,大企業は絶対に手がけないような内容で,かつ優れたゲームであればサポートしたいと考えているという。SCEは,日本のインディーズシーンにおいても,さまざまな障壁を取り除き,クリエイターがセルフパブリッシングできるような仕組み作りに取り組んでいるとのことだ。
こうしたスタンスでインディーズゲームに接する吉田氏を,稲船氏は「本当のゲーム好き」「格好をつけているわけではなく,本当にいいゲームを支援しようとしている」と表現。それを受けた吉田氏は,自身が常に本音を言うタイプであるとし,社内でも思ったことをそのまま口にする人間であると理解されていると話す。
そんな吉田氏は,提出された企画やプロトタイプに対して率直に「何が面白いの?」と尋ねてしまうことがあるのだが,これは「面白くないからダメ」と切り捨てているわけではないという。むしろ「理解できるように面白さを伝えてほしい」という説明を求めているとのことで,稲船氏も「確固たる自信のある企画なら,クリエイターがキチンと説明してくる」と同意。吉田氏も稲船氏も,思うようにいかないことが多いゲーム開発では,そうした強い思いを持って本音で戦わないと,スタッフを説得できず,ひいてはエンドユーザーにゲームを手にしてもらうことはできないと語る。
ゲームクリエイターには新作にチャレンジする意欲と交渉力を望む
トークの終盤では,日本ではインディーズゲームよりも,定番やシリーズものが注目されがちという話題も飛び出た。稲船氏は,日本人が保守的な傾向にあり,「誰かがいいと言ったものや,どこの会社が作ったものであるかに安心を感じるのではないか」と指摘。さらに氏は,海外だと「誰が作ったか」が重視されるため,優れたゲームを作ったクリエイターとして認知されれば,次回作がインディーズであっても「あの人が作ったから」という形で注目されると話す。
また日本でシリーズものが増えてしまう点については,企業としての体制にも原因があることに言及。上記で吉田氏が触れたとおリ,企業は手堅い企画を求めがちになってしまうため,どうしても実績のあるシリーズを優先してしまいがちになるのだ。
しかし海外,とくに欧米では,ヒット作をリリースしたクリエイターが,続編ではない,まったく異なる新作の企画を通すケースも多いという。たとえばSCEタイトルでいえば,「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」を手がけたチームは,新たに「BEYOND: Two Souls」を開発した。
その点に関して吉田氏は,「欧米の文化では,チャレンジして新しいものを立ち上げることが賞賛される」と説明。一方,日本では大手企業に入り,そこで堅実に物事を成し遂げることがよしとされる文化であるため,新しいことに取り組むことが難しくなっているのではないかと話す。
また稲船氏は,自身がかつてカプコンで「ロックマン」シリーズを手がけつつ,「鬼武者」や「ロストプラネット」などの新規タイトルを作っていった過去を振り返り,「ヒット作を作ったという信頼を続編作りだけに費やすのではなく,新作も作らせてくれという交渉ができるようになってもいいのではないか」と語っていた。
最後に,稲船氏は「Mighty No.9」に関して,「早く作りたいという気持ちはあるけれど,追い立てられる感じではないです」とし,「まずは出資してくれた7万人が,100点をくれるゲームになれば合格」としていた。「ソウル・サクリファイス デルタ」のようにパブリッシャと組んで開発するタイトルでは,不特定多数の人に向けて取り組まなければならない手探り感があって難しいが,今回はまず対象が7万人に限定できることで非常に気楽になっているという。その上で稲船氏は,7万人に留まらず,その何倍もの人達にリーチするようなゲームにしていきたいと意気込みを語っていた。
また吉田氏は,2014年2月22日の日本におけるPS4発売に関して,「準備万端。ローンチタイトルも,日本のものと海外のものを取り揃え,満足のいくラインナップ」と自信を見せていた。
- 関連タイトル:
PS4本体
- 関連タイトル:
Mighty No. 9
- 関連タイトル:
ソウル・サクリファイス デルタ
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