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[CEDEC 2013]月商1億円超えタイトルのディレクター達が,オンラインゲーム開発&運営の成功要因を明かしたセッションの模様をレポート
このディスカッションでは,モノビットの本城嘉太郎氏がモデレーターを務め,3名のパネリスト(オレンジキューブの瀧澤法弘氏,グラニの谷 直史氏,ハンビットユビキタスエンターテインメントの中尾圭吾氏)がソーシャルゲーム/ブラウザゲームを含むオンラインゲームの運営開発にまつわる成功要因や失敗事例を紹介した。
「つまらないから,クソゲーだから作り直そう」と
言い出せる空気が重要
瀧澤氏は,まず「開発チームがプレイしたいゲームかどうか」という観点を挙げ,オンラインゲームは開発がひととおり終わり,サービスインしてからが本番なので,自分たちで面白いと思えるものでないと長く続けられないと説明した。
また,プレイヤーに嬉しい,悔しいと思わせる──つまりプレイ中に感情が盛り上がるかどうかも重要とのことだ。
谷氏が挙げたポイントは,「ターゲットが誰なのか」。とくにソーシャルゲームの場合,あまりゲームに関心やこだわりのない人が,スマートフォンを買ったから,周囲の皆がやっているからといった,ちょっとした理由でアプリをダウンロードするケースが少なくない。そういった人達がプレイしている姿をイメージできるかどうかを重視していると語った。
またシステム面では,サービスが長年続くことを前提にして,途切れることなく円を描くようなサイクルを構成できているかを重視しているという。
中尾氏は,自分の担当タイトルを実際に遊び込んで,面白いと思う部分をヒントに企画を練っていくという。しかし,社内における中尾氏の立場が変わり,ゲームプレイに専念できなくなると同時に業績も落ち込んでいったとのこと。今はまた真摯にゲームに向き合っている最中だと話していた。
グラニ 代表取締役社長/エグゼクティブプロデューサー 谷 直史氏 代表作:「神獄のヴァルハラゲート」 |
実際に「ブラウザ三国志」の開発時も,チーム内では「こんな内容で大丈夫か」と言い合ったり,ミーティングで瀧澤氏自身が「これはクソ仕様だった。申し訳ないが作り直そう」と発言したりといった場面があったようだ。
中尾氏と谷氏も,ゲームの悪い部分やダメな企画を指摘し合える空気を作ることが重要だとして,瀧澤氏に同意している。
また中尾氏は,どんなに忙しくても,チーム全員が自分達のゲームをプレイすることを挙げる。さらに会社組織である以上,ゲームの性質を分かっていない経営陣や上層部から的外れのプレッシャーを与えられることもあるが,それを中尾氏のような立場で止め,ゲームに直接携わる現場のスタッフにはのびのびと働いてもらう環境作りも大切であるとした。
さらにチーム全員が「自分のゲーム」だと言えることが重要であると,谷氏は語っている。企画や仕様がダメだからと非難するだけでなく,それをいかにしてサポートするのか,あるいはサービスイン後にプレイする人の気持ちを考えて,開発することが重要であると述べた。
「パズル&ドラゴンズ」のヒットを踏まえ,ギルド機能は必要か否かといったお題も。結論としては「ゲームやターゲットによりけり」なのだが,パネリスト3名は「継続的に遊ばせる」という観点からすると,ギルド機能(または代替のコミュニケーション機能)はあったほうがいいのではないかと話していた |
顧客動向を理解するには数字だけでなく,
実際に自分でプレイすることが必要
一時期,ソーシャルゲームの話題によく挙がっていた「KPI」(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)について,現在ではこの数字をどの程度まで参考しているのか,各々の経験談が語られた。
中尾氏は,「グラナド・エスパダ」のアップデートが数か月に1回ペースだった頃,施策を打つときの参考にしていたという。だが,2週に1回アップデートしている現在では,いちいちKPIを分析していたのでは間に合わないと語った。
また,同タイトルはサービスインから7周年を迎えており,どのような施策を打つとどんな数字の変化があるのかをおおよそ把握できているとのこと。それでも予想外に数字が動いたときには,KPIを分析して要因を探るそうだ。
瀧澤氏は,プレイヤーによって遊び方が異なるストラテジーゲームばかりを扱ってきたため,ほとんどKPI分析はしていなかった。とはいえ,チュートリアルの改修を図るために離脱率を参考にしたり,同盟内のログイン率をチェックして同盟合併機能を実装したりしたことがあるようだ。
谷氏は,前職でKPI分析に深く関わった結果,施策と売上などの結果との因果関係を明確にするためには,一般的に行われているものよりも1〜2段階深い分析が必要であることが判明したと語る。また,そうした深い分析を行ったとしても,必要なコスト/人材のわりには見合う効果が少なく,むしろゲームの面白さや本質的な部分にリソースを注いだほうが効果が高いと結論づけた。
だからといって,KPIは無意味というわけではないようだ。むしろイベントなどの企画段階で,施策を実行すると数字がどう動くのかを事前に予測し,結果と照らし合わせて次に活かすことが重要だとも話していた。
各パネリストが分析する成功要因とは?
そして今後に向けて展望を明かした
モノビット 代表取締役社長 本城嘉太郎氏 |
瀧澤氏は「ブラウザ三国志」について,日本で初めて“隙間の時間に遊ぶ”ゲームを提供できたことを挙げた。また,クライアントのインストールが不要なブラウザゲームで,本格的な同盟や対戦機能を楽しめることも大きかったという。
「グラナド・エスパダ」を手がけた中尾氏は,同タイトルについて,3キャラを同時に操作したり,NPCを仲間にして自キャラとして使えたりするという,ゲームの独自性があったことを挙げた。ただし,この独自性の追求に開発リソースを費やした結果,サービスイン当初はコンテンツ不足に陥り,プレイヤーの離脱を招いたという。この経緯を踏まえて,氏は成功と失敗は紙一重だったとも語っている。
また,谷氏は「神獄のヴァルハラゲート」を例にして,実際は非同期プレイだがプレイヤー同士が連携しているような遊びを実現できたことを述べた。さらに開発チーム全員で遊び込んでいく中で,連携の手触り感をどんどんブラッシュアップし,競合タイトルにはない快適なプレイフィールを実現したことも大きな要因だと分析していた。
パネリストの中で唯一,明確な運営上の失敗を経験したことがある中尾氏に向けて,オンラインゲームの挽回策に関するディスカッションも行われた。
中尾氏は「グラナド・エスパダ」のサービスイン当初を1とするなら,最高の状態は10と説明する。ただし,安定して成長したということはなく,常に波がある状態だという。
こうした波の中で,調子のいいときは何をやってもうまくいくが,逆に調子が悪いときは何をやってもダメとのこと。それでも,ダメだと思っていた施策が後の成功につながることも少なくないので,経営陣は長期的な展望に基づく投資を,現場のスタッフには「何としても面白いコンテンツにする」という熱意に裏づけられた企画を,それぞれ継続していくことが重要であると語った。
パネリスト3名の意見が一致したのは,「ユーザーコミュニティの活性化に最も効果のあった施策」というテーマだ。
「人に話したくなるもの」「人が共感したくなるもの」といったポイントで共通しており,例えば,同じ合成レシピであってもプレイヤーによって結果が異なるように,ある程度の幅を設けておくという。「アイツが成功した組み合わせだけど,オレがやったら別のものができた」「あー,あるある」といった感じで,コミュニケーションが盛り上がるというわけだ。
その一方で中尾氏は,自身の運営経験から1つの題材で共感をもたらすのは2〜3年が限度であり,ときにプレイヤー間の意見対立が発生するような状況を演出して,メリハリを出すことも効果的だと述べている。
さらに「顧客を理解するために行っていること」いうテーマでも,3名とも自分自身でゲームをプレイすることだという意見で一致した。とくに瀧澤氏と中尾氏は,上位プレイヤーと一緒にコアにやり込み,かつさまざまなプレイヤー層の状況を絶えずヒアリングしているとのこと。そのうえで瀧澤氏は,サービスインから数か月経過後に新規でプレイを始めて,その時々の状況を確認しているという。
最後は,各パネリストが見据える今後の展望が語られた。
瀧澤氏は,スマートフォンのネイティブアプリに関しては,かつてのコンシューマゲームがそうだったように,大企業による予算と開発力の規模の勝負になっていくと予測した。オレンジキューブのような小規模企業は,切り口を変えた戦い方を考えなければならないと語った。
また,最近は3か月後の流れが予測できない状況になっており,その中では自分達の考える面白いものを実現していくことが一番確実であろうとも話している。
谷氏は,他者とのコミュニケーションを中心とするオンラインゲームの面白さを,広く知ってもらえる状況を作りたい──それこそ「オンラインゲームなんて,キモオタのやるもの」という先入観を抱いている人にも触れてもらえる状況にしていきたいと意気込みを示した。
そして中尾氏は,オンラインゲームが目新しいものとして注目された時代が終わった一方で,プレイヤーのコア化が進み,各タイトルに対する評価がどんどん厳しくなっていることを指摘する。この状況下において,ゲームを提供する側は自身が担当するタイトルや競合タイトルをこれまで以上にプレイし,研究/分析しなければならないと語り,ディスカッションを締めくくった。
「CEDEC 2013」公式サイト
4Gamer「CEDEC 2013」特設ページ
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