インタビュー
社長のボヤキ 第3期 社長とは一体何をする人なのか
社長のボヤキ 第2期 ちょっとだけ続けてみる
とりあえずゆるゆると始めてみたYostar社長と4Gamer編集長の雑談の第一回は,ありがたいことにそれなりに読まれたので,「第2期」を掲載することになりました。今回の結論は「やっぱり会社は10人くらいが一番楽しい」ということで。
Kazuhisa:
言いたいことは分かるけど,行きたい放題って何(笑)。
李氏:
用事あるから俺帰るねって。上海の焼き小籠包が恋しいな……ってなったら「今回のミーティングは重要だから俺行くわ」とか,行ったり来たりしたり。
Kazuhisa:
適当だ。
李氏:
これが,このゲーム会社の社長になった一番のメリットじゃないかな(笑)。
Kazuhisa:
そこなんですね(笑)。
李氏:
そこだと思いますね。
Kazuhisa:
メリットあるじゃないですか。いいなー。
李氏:
基本的には,年4,5回くらい出張して戻ってるんですけど,この2年間もう戻ってないからね。本社の会社の人達とも魂と魂のぶつかりあいがないから,なんか淡々とやってるんだけど,若干落ち込む部分もあります。
Kazuhisa:
まぁ確かにネット越しの仕事って,なんかこう……「作業」してる気分になる。
でも社長になって「いいこと」があってよかったじゃないですか。
李氏:
あーそれで言うなら,なんか「社長」と言われると,嬉しく思う人っているんじゃないですか結構。僕は全然嬉しくないけど。
Kazuhisa:
言われると? あ,なるほど「社長って呼ばれると」か。
李氏:
そうそう。「俺社長になったんだ!」という実感が湧いてくるんですかね。自分はないけど。っていうか,社長って呼ぶなら「リーさん(李さん)」って呼んでほしい。最近はもうあんまり訂正しないけど。
Kazuhisa:
なるほど。僕も編集者が編集長になって,そのまま社長になった人だから,「社長」って呼ばれるのはあんまり好きじゃないな……その立場を使わざるを得ないときは仕方ないけど。
李氏:
いやあ……もうなんかね。
Kazuhisa:
ビジネスマナーみたいなものでは。ていうか実際社長なんだし(笑)。
李氏:
ビジネスマナー! 昨日だったか,Yahoo!で見た! なんか「了解しました」だかなんだか,上司に言ってはいけないNGワード5選とか。
ーーー「承知しました」とかですかね
李氏:
いやあもう,ホントつまんねえな。こういうことを書く人も書く人だし,読む人も読む人だし。こんなこと考えてる時間があるなら,もっと生産性のいいことやればいいのに。21世紀の2022年になっても,まだ「承知しました」とか「了解しました」とか(笑)。つまんねえな。
Kazuhisa:
2回も言わないで(笑)。でも一般論としての話じゃないんですか。そういう本読んだことないから知らないけど。あまりにも何も分かってないのも,社会で仕事する以上やっぱり問題の種になる可能性はあると思うし。
李氏:
いや僕は,こういうものは世の中から消えた方が,みんな幸せになると思う。
Kazuhisa:
まぁ少なくとも,本にしてそれを一生懸命読むようなものじゃないけど(笑)。でも外に対してはちゃんとしてほしいかな。
李氏:
外に対してはそりゃそうですよ。でもまぁ,そこにこだわってお金になるんですか?
Kazuhisa:
ふふふ。
李氏:
いま言ったように,お客さんへの言葉遣いだったらまだ分かるんですよ。でも上司なんて,別にどうでもいいじゃないですか。
Kazuhisa:
「どうでもいい」と思ってる人は実はそんなに多くないから,ああいう本がたくさんあるのでは?
李氏:
うんまあ,結構増えてると思いますね。
Kazuhisa:
ゲームとかIT系は特に若い人も多いし。昔からある大きい会社はどうなんだろう。例えば……うーん,日立とかトヨタとか。
李氏:
あー。
Kazuhisa:
いや「普通の大きい会社」をあんまり知らないから適当に名前出しただけで,他意はないです(笑)。なんか,新人で入って2週間みっちり研修があって,ビジネスマナーを徹底的に叩き込まれる的な。イメージだけど。
李氏:
この業界だって,そういうのあるじゃないですか。○○○とか。
Kazuhisa:
結構体育会系らしいという噂の。
ーーー名前出していいんですか……
李氏:
いや記事ではたぶん名前は出さないけど。でもこないだあそこの社長が(略)。
Kazuhisa:
いやいやちょっと,そのへんでやめてください!
李氏:
はい(笑)。でもなんかあそこは研修厳しそう。
Kazuhisa:
確かに社長厳しそうだし。
社長の役割とは,会社を潰さないこと
李氏:
ここまでずっと社長の話をしてるんですけど,僕がちょっと聞きたいのが,岡田さんの心の中では,そもそも社長ってどういう役割なんですか?
Kazuhisa:
社長の……役割。
李氏:
もしくはやるべきこと。
Kazuhisa:
そこについてはいろんな考えが世の中にあると思うけど,僕が思うに社長の最重要ミッションは,さっきも言ったけど会社を潰さないことですよ。
李氏:
うん,だと思います。
Kazuhisa:
もうとにかく維持すること。社員の生活を守んなきゃいけないから。
李氏:
そうそう!
Kazuhisa:
僕も途中まで,実はあんまり気づいてませんでした。でも今ウチの会社は,大体50人くらいいるので,50人分の給料を払ってるわけです。当たり前だけど。
李氏:
そしてそれは,50人分じゃなくて「50世帯分」なんだよね。
Kazuhisa:
そう! 50世帯なんですよ!
え,こんなにたくさんの人の生活を支えてんの……? と思うと。
李氏:
いやもう,胃が痛いですよ。
Kazuhisa:
ね。だから,会社を潰さないためにあらゆる努力をするのが社長の仕事だと思ってます。あと,それに付随して「すべての決定の責任を持つ」こと。
李氏:
そうですね。自分も大体同じ感覚を持ってる。
なんか偉そうに「社長」と呼ばれるけど,突き詰めると結局やることは一つか二つくらいしかない。従業員に給料を払うこと,会社が駄目になりそうだったら,どこでもいいから土下座してでもお金を調達すること。そのぐらいでしょう。
Kazuhisa:
うん,そうですね。
李氏:
それ以外のところで現場に社長が出すぎると,逆に普通の業務に影響するかもしれないし。
Kazuhisa:
あぁ,そこは……僕の反省すべき点ですね。
僕はそもそも編集者だったので,編集部のことはこと細かに分かるわけです。だからつい編集部をマイクロマネジメントしちゃう。「いやそうじゃないだろ」「こっちじゃないの?」って。すごく良くないことは分かってるんだけど,脊髄反射みたいについ……。
李氏:
現場出身の人の宿命ですよ。
Kazuhisa:
上田さんが「アニメーションやビジュアルは自分で出来てしまうので,ついオーバーマネージメントしそうになる」と言ってて,レベルは全然違う話だけど,その気持ちはすごく分かります。
上田文人とJenova Chenが語る,アートと制作の苦悩,そして「ゲームを作る」ということ――イメージか,ロジックか
李氏:
自分は割と皆さんにやりたい放題にやらせてる感じです。でも,たまに……年に1,2回くらいかな,自分の考え方と結構かけ離れたことをやるんですよね現場が。そういうときはね,ちょっと落ち込みます。
Kazuhisa:
すごく分かる(笑)。
李氏:
いやいや,いままで僕がこういう風にやってたのに,なんでこれをやるの? 僕の常識が世間の常識じゃないの?(笑)
Kazuhisa:
あまりにも違う選択肢を採られると,自分の自信が揺らいでくるんですよね。
李氏:
そう,自分に疑問を持ち始める。
Kazuhisa:
あ,この場合は僕が間違ってるのね,って。
李氏:
だから,感じる苦しみはおそらく同じだと思います。大差ないですよ。
Kazuhisa:
結構へこみますよね。
李氏:
へこみます。いまはいちおう社長室があるんだけど,そこで3回くらいこっそり泣いちゃいました。
Kazuhisa:
あらそんなに……。
李氏:
ちょっとやらかして。自分たちの力不足もありますし,これは俺が求めてた結果じゃないのに……とか。
Kazuhisa:
意外とピュアですね。
李氏:
そうですよ! 適当だけどピュア(笑)。
Kazuhisa:
でも僕らは相手にしているお客さんが,プレイヤーだったり読者だったり,常にモニターの向こうで見えない人達なので,思ったとおりにいかないこと多いですよね。
僕らの業界だと,みんなBIツール※を通じて,毎日でかいお金の流れを見てるわけですよ。昨今のDAUとか,結構すごいじゃないですか。30万とか50万とか,すごいとこなら100万とか200万とか。
※Business Intelligence Tools。企業が持っている様々なデータを分析して,必要な情報を集約,ピックアップして,経営に役立てるためのツールの総称
Kazuhisa:
うん,そうですね。
李氏:
でもそれはただの数値データじゃなくて,その向こう側には楽しんでくれてる人がそれだけいるっていうことなんです。なので,やらかして皆さんに質問を浴びせられるときは,やっぱり落ち込むんです。
あとそもそも,基本はみんなネットユーザーじゃないですか。なので僕らも2ちゃんは読むし,Twitterも見るし。でも,いい情報とか褒めるような状況はスルーです。そういうことは「やって当たり前」ですから。
Kazuhisa:
まぁそういうものです。
李氏:
ネガティブな情報しかこっちに入ってこないから,(手を胸に当てて)受け皿となっていると,もう真っ黒なんですよ,中身が。
Kazuhisa:
ツラい思いするくらいなら見なきゃいいのに。
李氏:
そう,一時的にはそうです。でもやっぱり,確かに僕らには足りない部分があって,書き込みを参考にして改善したい部分があるんです。それで見るんだけど,一撃で死にそうになりますね。
僕,10年以上使ってたTwitterアカウントを消したんです。
ーーー消えましたね
李氏:
いやぁもったいない……。5年間この業界で社長をやってきて,もう“鋼の心”ができてると思ったんですけど,全然ダメでしたね。
Kazuhisa:
僕はプライベートでも業務でもSNSをやらない人なので,そのあたりよく分からないんだけど,どうしても見なきゃダメなもんですか?
李氏:
うーん……例えばマーケティングの方向性のミスとか,ゲーム内のバランス調整のミスとか,もしくは単純に運営がなんかやらかしたとか,カスタマーサポートのレスポンスが遅いとか,もう全部クレームにつながってるじゃないですか。
Kazuhisa:
それを全部見ないとならない?
李氏:
部署ごとの担当者が見るとしても,当たり前だけど自分たちのテリトリーの部分しか見ないじゃないですか。だから,より良いサービスを提供するために俯瞰的に全部見なきゃいけないのは,結局自分1人なんです。
Kazuhisa:
言ってることは分かりますが,抱え込みすぎでは。
李氏:
でも結局そうなるでしょう?
Kazuhisa:
なりますけど……。まぁ結局,全部を受け取るのは社長だけですしね。
李氏:
そうそうそう。
Kazuhisa:
確かに結構つらい。
李氏:
もうカラダの中は真っ黒ですよ。
(全員笑)
Kazuhisa:
ドロドロな感じ。
社長はいつも「何かの役割」を演じながら話してます
李氏:
いいものは残されないんですよね。「Yostarよく頑張ってるね」っていうのを見て嬉しいと思う一方で、やってるのが当たり前だからと思っちゃうし。
Kazuhisa:
レビュー記事なんかもそうだけど,ネガティブな部分ばっかりフォーカスされますからねえ。で,李さんはひたすらそれを吸収する,邪悪な存在になっていく。
李氏:
そう。しかも,それを吸収しながらも,従業員の皆さんには「いい社長」を演じるのがつらいです。
Kazuhisa:
社長とはこれロールプレイですからねえ。
ーーーそう……なんですか?
Kazuhisa:
そうですよ。
李氏:
そう。なので,基本的に普段は皆さんに優しく接してますけど,実は結構無口な人間です。できれば他人と話したくない(笑)。
Kazuhisa:
いい人風味も,悪い人風味も,基本的にはほとんどがロールプレイですよ。
李氏:
ほんとそう。
Kazuhisa:
基本的には,絶対に本音を言わないです(笑)。
李氏:
まぁ本音を言っていいなら,会社のどっか隅っこに6畳くらいの小さい部屋を作って,そこにいるだけで一日誰とも話さなくていい。それが一番嬉しい。
Kazuhisa:
めっちゃ分かってしまうのが悲しい。
李氏:
でしょう?
もうね,話聞きに来ないのが一番いいんです。自分の判断でやって!
Kazuhisa:
好きにやって!
李氏:
やらかしたら俺の責任だから別にいいよ。
Kazuhisa:
そうなんだけど,あまりに違う方向に向かってるとやっぱり言いたくなりませんか。
李氏:
なる……(笑)。
Kazuhisa:
見てますよ,もちろん! 会社のことも社員のことも見てるし大事に思ってるけど,アウトプットに関しては結構ロールプレイじゃないかなぁ。
ーーーでもそういう,落ち込む理由がいろいろあるんですね。
李氏:
いやもう,落ち込むことのほうが多いかもしれない。ただ,皆さんの前ではカラ元気でも出しておかないといけないからね。
Kazuhisa:
うん,そうね。社長があんまり落ち込んでても,情けないし何より会社に不安が生まれる(笑)。言い方がアレだけど,お金のことで落ち込むことなんてまずないですよ。たいていはお金じゃない問題。
李氏:
そうですね。
Kazuhisa:
こっちもそこまで「絶対の自信」があるわけじゃないので……。あ,もしかして俺の方が違ってんのかな……みたいな。
李氏:
そうそう。世間の流れは激しいじゃないですか。だから,自分が今まで持ってた常識とか知識は,この時代にはもう合ってないのかな,とか。
Kazuhisa:
もしかしてもう通用しないのかぁ,って。
李氏:
もう何度も思ってる。自分の価値観が動揺するのが分かる。
Kazuhisa:
分かる。判断を求められると,ちょっと緊張する。
李氏:
はい。
Kazuhisa:
この前間違えたぽいしな……みたいなドキドキ感。まぁなので,話を思い切り戻すとね,社長になってもいいことなんてほとんど何にもないです。
李氏:
ないよねー。
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