企画記事
2017年ゲームアプリ市場のセールスランキングから紐解く新作リリース動向。IP,海外発,女性向け……成功タイトルの共通点を探る
新作アプリが示す2017年のトレンド
その理由のひとつが,App Storeのトップセールスランキングの廃止だ。iOS 11ではApp Storeのセールスランキングが表示されなくなり,ユーザーがその動きをつぶさに観測するのは難しい状況となってしまった。
もちろん,iOS 11へのアップデートを回避し続けるか,何らかのツールやアプリを利用すれば,今でもランキングの確認はできるだろう。しかし,ここでもうひとつの問題が浮上する。セールスランキングは約3時間ごとに更新されているため,現時点の状況は把握できても,長期的なスパンで市場全体の大きな動きを知ることは難しいのだ。
問題はそれだけではない。セールスランキングをよく見ていれば分かるが,上位はいつも「モンスターストライク」「Fate/Grand Order」「パズル&ドラゴンズ」といった常連タイトルが占めている。いずれも運営期間が3年前後で,安定期に入ったものばかりだ。運営も遊び方もルーティン化しているため,ランキング上位だからといって,このようなタイトルから今年のトレンドを窺い知ることは困難だろう。
ゲームアプリ市場の動向を考えたとき,最も注目すべきなのは,定番の人気タイトルではなく,むしろ強豪に肉薄した新作タイトルではないだろうか。そこで今回,ゲームアプリ市場のリサーチ専門企業であるスパイスマートの協力のもと,今年リリースされた新作タイトルの中から有力なものをピックアップし,それらのランキング推移から市場トレンドを探る調査を行った。なお,Google Playでは現在もセールスランキングを確認できるため,本稿ではApp Store(iOS)でのデータをもとに構成している。
対象タイトルの半数以上が有名IP……だが
スパイスマートが提供しているリサーチツール「Sp!cemart(スパイスマート)」は,海外タイトルも含めて常時200タイトル以上の運営型ゲームアプリについてゲーム内施策とランキング推移を記録しており,そのデータを横断的に時系列に沿って調査できる。調査対象は毎月改定され,セールスランキングで上位30位以内に初めてランクインしたタイトルから調査が行われるようになっている(※30位に入らなくても,一定期間において安定して70位以内にいるタイトルも調査対象としている)。
また,それまで調査対象となっていたタイトルでも,一定期間内の順位が平均70位以下となった場合は調査が打ち切りとなる。したがって,Sp!cemartを使えば,安定的にセールスを伸ばしている収益性の高いゲームアプリに焦点を合わせ,長期的な追跡調査を行うことができるというわけだ。
さて,本調査を開始した12月22日時点におけるSp!cemartの調査対象タイトルのうち,2017年に国内向けにリリースされたタイトルはわずか34タイトルだった。その一覧と,各タイトルのリリース日から11月末日までの月間平均順位を以下に示す(※以下の画像はクリックで拡大できます)。
抽出された今年の34タイトルを見ると,まず11月にリリースされたタイトルが多いことに気付くだろう。これは,クリスマスや年末年始シーズンに合わせてリリースが相次いだように見えるが,じつは上半期にリリースされたタイトルが11月までランキング順位を維持できないまま調査対象から外れてしまったという見方もできる。実際,「八月のシンデレラナイン」「BRAVELY DEFAULT FAIRY'S EFFECT」「歌マクロス スマホDeカルチャー」など,当初期待が寄せられていたタイトルがすでに調査対象外となっており,市場競争の激しさが窺える。
また,今年リリースされたゲームアプリはアニメ,コミック,他ハードのシリーズ作品を起用した,いわゆるIPタイトルが目立った。12月22日時点の調査対象34タイトルでも,半数を超える24タイトルが該当している。このように有名IPがゲームに盛んに起用されるのは,主に3つの理由が挙げられるだろう。
1.高い認知度を利用したマーケティング展開が可能
2.お馴染みの世界観,キャラクターが登場し,訴求が容易
3.IPの原作ファンを取り込むことができる
このようなメリットから,IPタイトルで厳しい市場競争を勝ち残る戦略が各社で採られたわけだが,結果を見るとそう簡単にはいかなかったようだ。ここで,上記の調査対象リストからIPタイトルを抽出した,月間平均セールスランキング順位をご覧いただきたい。
人気IPを冠したゲームアプリが並んでいるが,いずれも初動は悪くないものの,リリースから1〜2か月後には大きく順位を下げてしまっているのが分かる。そして,一度下降が始まれば,そこから再び浮上してくるケースはあまり多くない。
驚くべきなのは,「キャプテン翼 〜たたかえドリームチーム〜」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか〜メモリア・フレーゼ〜」「戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED」「アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE」といった熱心なファンの多いIPを用いたタイトルであっても,ランキング順位をなかなか維持できずにいることだ。先ほど挙げた「歌マクロス スマホDeカルチャー」もあてはまるだろう。“IPモノは売れる”と,まことしやかに業界で噂されていた時期もあったが,実際は想像以上に厳しい状況で伸び悩んでいるタイトルも少なくないようだ。
一方,リリース後も安定的に推移しているのは「ファイアーエムブレム ヒーローズ」「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」の3タイトルのみで,長期に渡って50位以内をキープしている。
中国・韓国発のタイトルが台頭
今年リリースされたタイトルの中で,一躍トップタイトルとして躍り出たのは「リネージュ2 レボリューション」だ。8月からずっとほぼ一桁台の順位に位置し,セールスランキングでは見事1位を獲得するなど,「モンスターストライク」に迫る勢いを見せている。直近では,その「モンスターストライク」とコラボレーションが展開され,まさに破竹の勢いだ。同作の開発・運営は韓国のゲームコミュニティサイト「ネットマーブル」を母体とするネットマーブルジャパンが行っている。
最近では韓国,中国,台湾のデベロッパによるタイトルが脚光を浴びることも多くなった。2月にリリースされた「崩壊3rd」「陰陽師」を皮切りに,8月には「リネージュ2 レボリューション」,9月には「アズールレーン」,11月は「デスティニーチャイルド」が登場し,全てSp!cemartの調査対象に選ばれている。TVCMやデジタルマーケティングにも非常に積極的で,相当の投資予算を確保しているようだ。この流れが今後も続くようならば,国内のゲーム企業各社にとって手強い競合相手となるだろう。
事前施策でエンゲージメントを高めた女性向けタイトル
もうひとつ,調査対象の中で異彩を放つタイトルがある。リベル・エンタテインメントの「A3!」だ。
同作は劇団の主宰兼総監督としてイケメン劇団員を育成していくゲームで,一見するとオーソドックスな女性向けのゲームのように見える。しかし,IPタイトルでないにもかかわらず,年間を通じて安定した順位を維持し,「新テニスの王子様 RisingBeat」や「うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live」といった有名タイトルがリリースされても,その人気は陰りを見せていない。つまり,作品やキャラクターの知名度に依存することなく,ユーザーのエンゲージメント(愛着心)を高く維持できている非常に珍しいケースなのだ。
とはいえ,運営自体にほかのゲームアプリと違いがあるわけではない。周回イベントと新規追加カードのガチャイベントが毎月2回ほど開催されており,新規追加のカードを入手できれば,周回イベントをさらに効率よく進められるようになっている。こうした運用は同ジャンルの「あんさんぶるスターズ!」などでも行われており,定番の手法と言える。
では,「A3!」に対するユーザーのエンゲージメントを高めたものは何だったのだろうか。そのヒントはゲーム内施策ではなく,じつはマーチャンダイジング(グッズ施策)にある。一般的に,マーチャンダイジングはリリース後,ユーザーがある程度定着した時期に展開される施策だ。
しかし,「A3!」では事前登録キャンペーンと同時に多数のグッズを製作・無償配布しており,この点は注目に値する。まず最初に展開されたのが,2016年11月(リリース約3か月前)の池袋駅と大阪駅でのピールオフ広告だ(関連記事)。ピールオフ広告とは,掲示を見た人がポスターに貼付されているグッズを剥がして持ち帰れる広告のことで,巨大なポスターにびっしりと貼り付けられた缶バッジは即日全数配布されたという。
さらに,同月に開催された「AGF 2016(アニメイトガールズフェスティバル 2016)」では,ストーリーやキャラクターの紹介を掲載したパンフレットに加え,主題歌とキャラクターボイスが収録されたCDを含む豪華なグッズセットをショッパー付きで無償配布し,大きな話題となった。
瞬間的なバズを生み出すデジタルマーケティングに比べ,グッズはファンの手元に残り,パンフレットやCDを用いれば伝えられる情報量も多くなる。確かに在庫リスクも生じるが,「A3!」はゲームの魅力を深く理解してもらうための施策を先んじて展開した結果,リリース直後からユーザーの高いエンゲージメントを獲得できたものと見られる。
Sp!cemartのデータからもエンゲージメントの高さが見て取れる。前述したように,運用はシンプルで,ガチャを扇動するようなプロモーションも行われていない。しかし,施策のたびにセールスランキングが即座に反応しており,ユーザーが毎月のイベントをいかに楽しみにしているかがわかるだろう。
2017年,企業のマネタイズ動向は「脱・ガチャ収益」か
ここまではランキング推移を中心に見てきたが,セールスを大きく左右しているのがマネタイズだ。ガチャを引くために有償アイテムを購入するというアイテム課金が依然として主流ではあるが,射倖性の高さから過度な課金をしてしまったり,排出確率の設定ミス,キャラクター性能のインフレ化など,ユーザーと運営の双方にトラブルが相次いでいる。このような問題を受け,2016年頃から課金額に上限を設けるなど改善が施されるようになったが,今年は「脱・ガチャ収益」の動きが活発化した年となった。
新たなマネタイズ手法として採用が広がりつつあるのが,広告収益とアイテム課金を組み合わせた「ハイブリッド型」と呼ばれる体系だ。カジュアルゲームで採用事例の多い同マネタイズ手法だが,最近は大型タイトルでも導入が広がっている。
たとえば,Wright Flyer Studiosのスマートフォン向けRPG「アナザーエデン 時空を超える猫」。同作では「クロノスの石」という有償アイテムがあり,これでキャラクターのガチャを引いたり,特別なダンジョンへのチケットと交換することができる。ここまでは従来のマネタイズ(アイテム課金)と同様だが,ゲーム内で動画広告を閲覧すれば,閲覧1回につき10個のクロノスの石がプレゼントされるようになっているのだ。
これにより,ユーザーはお金を使わなくても有償アイテムを入手でき,運営会社も広告料という新しい収益源を獲得できる。さらに,課金にそれほど積極的でないユーザーにとってはゲームの進行を支援する救済措置としても機能するため,継続率の向上にも寄与し,ユーザー全体のLTV(Life Time Value - 顧客生涯価値)を高める効果も見込まれている。なお,同マネタイズ手法は,先日開催されたセミナーでも言及されているので参照してほしい。
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一方,コロプラの新作「ディズニー ツムツムランド」でも新しいマネタイズが導入されている。同作はディズニーキャラクターをモチーフとしたパズルゲームで,ステージをクリアすると,ツム(キャラクター)の入った「バブル」(宝箱のようなもの)を入手できる。しかし,バブルはすぐに開封できず,ステージクリアのたびに開封のチャンスが巡ってくるのを待つしかない。そこで,ユーザーは有償アイテムを消費して任意のバブルを開封するように促される仕組みになっている。この手法を本稿では「開封課金」と呼ぶ。
「ディズニー ツムツムランド」ではバブルを1つ開封するのに25個の「ダイア」(600円相当)が必要だ。レアリティの高いツムの入ったバブルは「レインボーバブル」と呼ばれるが,開封に必要なダイアは変わらない。バブルは2時間で消滅してしまうので,レインボーバブルを手に入れるたびにダイアを使って開封するのが自然なアクションとなる。
開封課金は,「10連ガチャで高レアリティのキャラクターが一人排出確定」というような従来のガチャと異なり,排出率に関わらず金額は一定だ。また,課金を小分けにしてプレイできるため,ARPPU(Average Revenue Per Paid User - 有料ユーザー1人あたりの平均収益)の上がり過ぎを防止し,ユーザー全体の課金率を高める効果もある。カジュアルゲームということもあり,一部の重課金者よりも,多くの少額課金者を生み出すマネタイズが考案されたのだろう。
成功タイトルの共通点を探る。そして2018年……
ここまで見てきたように,今年は「IP」「中韓タイトル」「マネタイズ」を中心に市場が動いた年となった。ただし,昨年に登場した「Pokémon GO」のようなエポックメイキングなものは生まれず,王者「モンスト」の牙城を崩すタイトルも遂に現われなかった。言ってみれば,今年はそう大きく変わらなかったのである。ここまで成長を続けてきたゲームアプリ市場も,来年は停滞期に入るかもしれない。
成功が約束されていたはずのタイトルが次々とランキングから脱落していく中で,中国・韓国のタイトルがここまでの隆盛を見せたことが,予想外だった人もいるかもしれない。今年の新作で最大のヒットタイトルとなった「リネージュ2 レボリューション」も,ローカライズはされているが,UIやキャラクターのデザインはオリジナルの要素が色濃く,あえて日本人受けを狙っていないようにも見える。リッチな作りではない「放置少女〜百花繚乱の萌姫たち〜」もなぜかスマッシュヒットした。さて,この状況をどう捉えればよいのだろうか。
今年成功した新作で共通点を挙げるとするならば,ひとつは“ゲームアプリとしてのオリジナリティ”だろう。「リネージュ2 レボリューション」は約20年続くシリーズ作品のひとつだが,等身の高い3Dキャラクターが闊歩するMMORPGは若いゲームアプリユーザーにとっては目新しいものに見えたのかもしれない。
また,IPタイトルの「ファイアーエムブレム ヒーローズ」も原作に縛られることなく,あくまでもスマートフォン向けゲームとしての作りとなっている。原作を知るファンからは賛否両論が挙がったものの,結果的には無事に成功を収めた。
「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」に至っては,アニメよりゲームで登場するキャラクターのほうが多く,ストーリーも多彩だ。アニメを超えるコンテンツの厚みと面白さがヒットの要因だろう。
一方,原作の追体験や名場面の再現を訴求ポイントにしたIPタイトルは途中で失速してしまうケースが目立った。今時,アニメも漫画もスマートフォンで簡単に見ることができるのだから,わざわざゲームで原作の内容を体験したいというニーズはそれほどなかったのではないだろうか。
もうひとつの共通点は“ユーザーのライフスタイルに則した施策”がある。どのゲームでも期間限定のイベントが矢継ぎ早に展開されているが,「放置少女〜百花繚乱の萌姫たち〜」はユーザーの好きなタイミングで気軽に遊ぶことができる数少ないゲームだ。当初から狙っていたのかは定かでないが,忙しいゲームユーザーのニーズをがっちりと掴み,11月から年末にかけてセールスランキングを一気に駆け上がっていった。
前述の「A3!」も,キャラクターを深く愛する女性ユーザーに対し,グッズでキャラクターそれぞれに秘められたストーリーをしっかり伝えていた。また,小物集めを趣味とする女性も多く,グッズを手元に置く楽しみ方もライフスタイルに合致している。もし,これが数秒〜十数秒のWeb広告ばかりだったなら,作品の魅力はほとんど伝わらず,ヒットに結びつかなかったのではないだろうか。
2018年もゲームアプリ市場は厳しい競争に晒されるだろう。そして,もはや「定番」では市場の停滞を打破することはできない。ゲームアプリには,これまでにないエンターテイメントの継続的な提供とともに,ライフスタイル,課金に対する価値観,キャラクターやストーリーに対する愛情を十分にすくい上げ,ユーザーと真摯に向き合うことが求められている。
「Sp!cemart(スパイスマート)」公式サイト
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