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[TGS2023]名だたるAAAタイトルの開発に携わってきたVirtuosが東京に開発スタジオを設立。国内メーカーとのパートナーシップ強化を図る
Virtuos公式サイト
Vircuosは2004年に中国・上海にて設立された開発会社だ。CEOであるジル・ランゴリ氏によれば,同社は高クオリティのゲームを作るにあたって,コストパフォーマンスを最大化するためには,柔軟性のあるチームを持つことが重要という考えのもと,これまで活動してきたという。
同社はランゴリ氏の出生地であるフランスや,中国・西安に開発スタジオを設立し,2018年にはシンガポールに本社を移した。その間にも,さまざまな国や地域の企業を買収し,自社スタジオ化している。現在は,すべてのスタジオで同一のプラットフォームやツールを使用することで,クライアントに対する柔軟性を担保しているそうだ。
同社は現在,中国,マレーシア,EU,北米に合計6か所の開発スタジオを持っているが,そこには日本が欠けているとし,そのため今回,Virtuos 東京を設立するに至ったとランゴリ氏は説明した。また同社のゲーム開発やアート制作に関する技術やノウハウ,ツールなどは,Virtuos 東京においても活用されるそうだ。
Virtuos 東京のゼネラルマネージャーを務めるギジャロ・ピエール氏によれば,同スタジオには自身も含めてまだ3名しか在籍していないという。今後は2024年末までの事業拡大を目標に,ゲームデザインとテクニカルアートのシニアレベルの役職者を積極的に採用していくとのことだった。ピエール氏はVirtuos 東京について,既存のスタジオのハブとなり,日本のゲーム業界にマッチしたサービスを構築しつつ,ゲーム開発を行っていきたいと意気込みを語った。
記者発表会の後半には,ソニー・ミュージックエンターテインメント シニアアドバイザーの橋本真司氏と,IGDA日本事務局長/東京国際工科専門職大学講師の小野憲史氏,そしてランゴリ氏によるパネルディスカッションが行われた。
トピックは二つあり,一つめは「なぜ日本からは,『フォートナイト』や『GTA5』のようなライブサービスのヒット作があまり出てこないのか」だ。
橋本氏は,例えばRPGシリーズにおいて,続編が出るまでの期間が長期化した場合に,どうやってビジネスを続けるかという課題の解決策の一つとして,ライブサービスであるMMORPGがあったと指摘。しかしMMORPGの開発・運営にはサーバー技術や先行投資など,さまざまなコストがかかるため,もう少しカジュアルなMOタイプが中心になっていったと語った。
小野氏は,「日本でゲームを作り,世界中でサービスを展開すると効率がいい」ということは誰もが理解しており,技術的には可能だったとする。しかし実際には,それぞれの国や地域で,ゲームの遊ばれ方や何を面白いと感じるかなどが異なるため,結局それぞれに向けたサービスを展開したほうが,コストはかかるけれども儲かるという事例が積み重なった結果,現状のようになったのではないかと分析した。
また,例えば格闘ゲームのように,日本のゲーム開発が得意で,かつ世界に通用するようなジャンルであれば,ニッチではあるがグローバルに展開していく可能性はまだまだあるとも話している。
ランゴリ氏は,ライブサービスタイトルが抱えている問題は,日本もほかの国も大きく変わらないと指摘。解決策の一つとして「それぞれの国や地域のユーザーに合わせたコンテンツを持つこと」を挙げた。そしてもう一つの解決策として,「コンテンツを追加・変更するためのツールをしっかり備え,ユーザーが求めるものに迅速に対応できる組織を持つこと」が大切だという。
2つめのトピックは,トランスメディアIP(メディアミックス)についてだ。
一昔前は,たとえば映画「007」シリーズをゲームにするなど,ほかのメディアのIPをゲーム化していたが,昨今では逆に「スーパーマリオブラザーズ」が映画化され,大ヒットするような現象も起きている。
小野氏は,ゲームと映像メディアの結びつきは,PS2時代に増え,PS3/PS4時代には下火になっていたことを指摘。そして現在では上記のように,ゲームのIPが映画やテレビ番組の題材として扱われたり,Netflixがゲームとして「Immortality」を配信したりといった事例を挙げ,「ビジネスのフレームワークが過渡期にある。まさに注目しているところ」と話していた。
橋本氏は,現在所属しているソニーグループのような大企業では,1つのIPで漫画やアニメ,ゲームを同時に展開するのは特別なことではなく,日々の仕事になっていると説明。またゲームの場合は,100時間以上プレイすることもあり,キャラクターがプレイヤーの心に残りやすいため,漫画やアニメに展開しやすいのではないかとも話していた。
ランゴリ氏は,ゲームと映画のビジュアルのクオリティが非常に近しいため,トランスメディアIPが容易にできるようになったからと分析していた。
記者発表会のあと,短い時間ではあるが,ピエール氏にVirtuos 東京の今後の展開などについて聞くことができた。ピエール氏は15年以上にわたって,日本のゲーム開発者達を見てきたとのことで,日本のクリエイターは非常に情熱的で,ほかの国や地域では考えられないような発想をする半面,働き過ぎなのではないかと思っているとのこと。
また昨今,世間一般にリモートワーク環境が整ったことを踏まえ,スタッフがオフィスに通わなくともゲーム開発ができるような働き方も検討しているそうだ。とくに日本の全国各地に住んでいる人材を採用することで,その地ならでは文化に根付いたテイストをゲームに加えていくようなことにもチャレンジしたいと話していた。
なお記者発表会では,VirtuosがさまざまなAAAタイトルの開発に携わっていることが紹介されたが,Virtuos 東京は中規模タイトルやインディーゲームの開発も視野に入れているとのこと。Virtuosのノウハウと,日本のさまざまなクリエイター──たとえば漫画家がコラボすれば,規模が大きくなくとも日本らしい独特で面白いものができるのではないかと,今後の展望を語っていた。
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