企画記事
ゲーム文化に対する深いリスペクトが込められたアート集「スーパーファミコン ボックスアート コレクション」を紹介
ひとくちに“レトロゲーム”といっても,それが指す内容は年々拡大しているわけだが,ファミリーコンピュータ(1983年)を代表とする日本産のゲーム機/ゲームソフトが重要な位置を担っていることに異論を挟む人はいるまい。日本人のレトロゲーム好きのなかには,Bitmap Booksの活動に興味を抱く人も意外といそうである。
そんな同社が手がける,スーパーファミコンやゲームボーイのパッケージアート集を4Gamerの編集長が購入したので,興味本位で読ませてもらったところ大変に面白く,また色々と考えさせられた。せっかくなので本稿で紹介してみたい。
「スーパーファミコン ボックスアート コレクション」
スーファミ向けに発売されたタイトルは最終的に1400〜1500本近くあるが,本書ではそれらを網羅しているわけではない。本書のコンセプトは(カタログではなく)アート集であり,その観点で収録作品を厳選しているのである。また,たとえゲームソフトとしては有名でなくても,パッケージアートとしての価値があると判断した作品も,積極的に収録しているようだ。
個人的にスーファミ向けのゲームソフトは,ほぼほぼ見覚えがあるのだが,本書をパラパラとめくりながら眺めていると当時の記憶が次々とよみがえり,懐かしさで胸がいっぱいになってくる。本書の紙面は約25センチ四方の大きさがあり,スーファミのパッケージがほぼ原寸サイズで掲載されているのが,当時の記憶をリンクさせるのに一役買っている印象だ。
データではなく,実物のパッケージを撮影しているところも良い。さすがに年代物なので,所々が痛んでいるパッケージが多く,モノによってはゲームショップの値札シールが貼られたままにもなっているのだが,それも含め当時のリアルさが感じられる。そういえば昔は,ゲームカセットの裏に油性マジックで名前を書く子供も多かった。
本書の主題であるアート面においても,スーファミ向けソフトには見応えのあるパッケージアートが数多くあることを再認識できた。
かつてファミコンブームが日本を席巻した頃は,業界として急成長する一方でゲームが乱造されるような側面もあったが,スーパーファミコンに移行する頃には,よりクオリティを求める傾向が強くなっていた。パッケージの寸法もファミコンより断然大きく,そのアート制作においても,著名なイラストレーターやデザイナーが起用されることが増えていったのである。
もちろん,ファミコンの頃から鳥山 明氏や天野喜孝氏のような大御所(というよりレジェンド)が参加することもあったが,スーパーファミコンではそのほかにも著名なイラストレーターやデザイナーがパッケージアートを手がけたり,さらにはゲーム開発に直接参加することすらあった。
そういった作品が本書でピックアップされる際は,ゲーム概要だけでなく,人物紹介にもテキストが割かれている。こういった構成なら,たとえスーファミをリアルタイムで経験していなかったとしても,本書を読みながらパッケージアートを楽しみ,そのゲーム内容に対してもより想いを巡らせられそうである。
ちなみにスーファミは,日本国外向けには「Super Nintendo Entertainment System」(SNES)として展開されている。Bitmap BooksがあるイングランドでもSNESを普通に購入できていたわけで,どうして本書において,わざわざスーパーファミコンを扱っているのか気になる人もいるかもしれない。これに対しても,Bitmap Booksは相当なこだわりがあるようだ。
というのも,当時のスーファミ向けソフトがSNES向けに展開される際は,長いローカライズ期間を要することが多く,現地のファンはやきもきする日々を過ごしていたそうだ。また,SNESのパッケージは横長で,そのパッケージアートも(スーファミのそれと比べると)シンプルなデザインが多かった。
そのため,当時の海外のコアゲーマーのなかには,スーファミ向けソフトをどうにかして入手して遊んでいた人や,いまも同プラットフォームに対するリスペクトを抱いている人も珍しくないという。そういった事情を鑑みると,写真掲載されているパッケージが痛んでいることすら,彼らのリスペクトの一部のように思えてくるのだ。
「ゲームボーイ ボックスアート コレクション」
1989年に携帯型ゲーム機として登場したゲームボーイは,スペック面に限っていえばスーファミよりも劣っている。またゲームボーイ向けソフトのなかには,スーファミ向けのものをシンプルにしたタイトルも多く,パッケージアートにおいてもそれは同様だ。
ゲームボーイのパッケージアートも独特の味わい深さがあるが,アートを楽しむという観点においては,さすがにスーファミの書籍ほどではないようだ。そういった事情も影響しているのか,こちらでは各タイトルのパッケージアートに加えて,ゲーム内のスクリーンショットが添えられている。
ゲームボーイは画面解像度が160×240ドットで,しかも(初代の)画面は白黒である。ゲーム制作においても相当な制限が課せられていたわけだが,それだけにゲームボーイのグラフィックスには独特の美学やアート性のようなものが感じられる。本書でパッケージアートとスクリーンショットを一緒に見るのは,これはこれでスーファミの書籍とは違った角度からの面白さがあった。
ゲーム文化に対するリスペクトの深さに脱帽
今回紹介した2冊は,スーパーファミコンやゲームボーイ向けソフトをアートの観点で楽しむという面において,日本人のゲーマーの筆者から見ても満足のいく内容である。だが,Bitmap Booksのゲーム文化に対するリスペクトに関しては,想像を遙かに上回っていた。
Bitmap Booksは2014年に設立された出版社で,いまや巨大となったゲーム業界の礎を築いた,ゲームソフトやハード,クリエイター等に着目し,ゲーム文化を保全して後世に伝えることを目的に活動しているという。そのリスペクトを表すべく,同社の成果物はハードカバーの書籍にこだわっているそうだ。
本書をまじまじと見ても造りは豪華で,製本技術にもこだわっており,確かに言うだけのことはある。ちなみにスーファミの書籍は実重量で1680g,ゲームボーイの書籍に至っては2183gもあり,最初に手に取った瞬間は思わず,変な笑いがこみ上げてきたほどだ。
今回紹介した2冊(2プラットフォーム)に限らず,Bitmap Booksは様々なハードルを乗り越えながらも,ゲーム文化に対するリスペクトを原動力として長年にわたって活動しており,それには同業者として頭が下がる思いだ。
日本で生まれたスーファミやゲームボーイが,海外でここまで丁重に扱われているのは,日本人として大変に喜ばしく,そして誇らしい。しかし一方で,こういった立派な書籍が日本ではなく,海外で作られていることに対しては複雑な思いがある。
たとえば,日本人の著名なゲームクリエイターが海外で現地の人達と接すると,強いリスペクトを受けることが頻繁にあるというのはよく聞く話だ。それが果たして日本ではどうか。海外ほど丁重には扱われていないのではなかろうか。ゲームも,文化として根付いていないのではなかろうか。
この状況を自分一人でどうにかできるといった思い上がりはしていないが,業界人の端くれとして,時折目を通して気を引き締めるためにも,あらためて本書を購入するつもりだ。
最後に,Bitmap Booksは今回紹介した2冊以外にも,レトロゲームを題材にした書籍を多く制作している。日本のゲーム文化が海外でどのように受け止められているのかに関しても,ひとつの参考になると思うので,機会があれば一度手に取ってみてほしい。
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