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複雑怪奇なHDMI 2.1への対応状況を検査する業務用テスト機材の最新事情
ゲーム向けの機能が加わったHDMI 2.1a
GeForceやRadeonのようなPC向けGPUはもちろん,PlayStation 5やXbox Series X|Sなどの家庭用ゲーム機までもが「HDMI 2.1」に対応するなか,主にゲーム用途へ向けたHDMI 2.1の拡張として策定されたのがHDMI 2.1aだ。
HDMI 2.1aでは,ディスプレイ側と協調しつつ,PCやゲーム機といった映像入力側の機器でトーンマップ処理を行う「HDMI Source-Based Tone Mapping」(SBTM)や,信号増幅機能を備えたアクティブタイプの長いHDMIケーブルに対して,HDMI端子から直接電力を供給する「Cable Power」といった機能が加わっている。
技術的には頑張っていると思うHDMI規格だが,ユーザー目線では複雑怪奇なものとなりつつある。とくに悩ましいのは,「手持ちのケーブルが,HDMIのどの規格に対応しているか分からない」場合があること。HDMIは,規格が違えど端子は同じで,物理的に接続できてしまうため,表示がおかしくなったときに機器がおかしいのか,それともケーブルがおかしいのかが分かりにくい。
この複雑怪奇さは,テレビやディスプレイ機器メーカーも悩ませている。メーカーが,製品に実装したHDMI規格に対応する機能が,本当に正しくユーザーのもとで動作するのか,不安な部分もあったりするのだ。
CES 2023のHDMI LAブースでは,そんなHDMI規格がらみの不安を解消してくれるかもしれない業務用テスト機材の展示が目立っていた。
そのHDMIケーブルの伝送性能調べます
HDMIケーブルテスター
HDMI規格は,最初期の「HDMI 1.0」では伝送速度が最大5Gbpsだったが,最新のHDMI 2.1では48Gbpsまで高速化している。HDMI 1.0とHDMI 2.1では,端子内にある各ピンの使われ方や,電気信号の伝送手段も異なっており,端子が同じだけで,伝送される電気信号はまったく別物だ。
それでも互換性を保っているのは,トランスミッタとレシーバに搭載するチップが,送受側の双方で伝送方式を適切に選択して動作モードを切り替えているからだ。ちなみに,こうした互換性維持の方法は,Bluetoothでも採用している。
というわけで,外観上では何の違いはなくとも,中身の電気特性がまったく異なるHDMIケーブルをチェックする必要が出てくる。これを調べるのが,HDMIケーブルテスターだ。HDMI LAのブースでは,アメリカのSimplay Labsと日本のアストロデザインという2社がHDMIケーブルテスターを展示していた。
まず,Simplay Labsの「SL-890」は,HDMI規格ごとの伝送モードを選択し,電圧などの伝送パラメータを設定して「Run」ボタンを押すと,その伝送モードで伝送できたかどうかを画面に表示してくれるという,いかにもテスターらしい機材だ。
一方,アストロデザインの「CT-1860」(関連リンク)は,ケーブルの周波数特性を波形で表示する機能を備えた,やや玄人向けなテスターとなっている。
HDMIケーブルの生産ラインにおける検品作業にも使えるように,あらかじめ設定したテストプログラムをパスできたかどうかを分かりやすく示すモードも搭載するのもポイントだ。
また,LANケーブルでPCとCT-1860を接続することで,専用ソフトウェアから操作できるという。その場合は,1画面で周波数特性と各種制御信号の状態を確かめられるそうだ。
担当者によれば,本製品は,あるゲーム機の工場にて,同梱用ケーブルの品質チェックにも使われているとのことだった。
なお,コネクタがある部分はモジュール化されており,この部分を置き換えることで,HDMI以外のケーブルをテストできるという。現在,DisplayPortケーブルや,USB Type-Cケーブル,LANケーブルといったケーブルへの対応を予定しているとのこと。
ちなみに,いずれも業務用ということで価格は非公開であったが,目安としては北米価格で1万ドル前後とのことであった。1万円くらいであれば筆者も欲しいと思ったのだが,さすがに高かった(笑)。
大手のテレビやディスプレイでも動作が怪しい?
VRR表示テスター
HDMI 2.1における問題点として,可変フレームレートも挙げられる。可変フレームレートの映像を表示するディスプレイ同期技術には,NVIDIA独自の「G-SYNC」や,AMD独自の「FreeSync」,ディスプレイ規格の標準化団体であるVESAの「Adaptive-Sync」,HDMIの「Variable Refresh Rate」(VRR)などさまざまあるが,デファクトスタンダードを巡る争いには,すでに決着が付いている。
というのも,VESAがFreeSyncをAdaptive-Syncとして標準化して,これを土台としてHDMIがVRRを規格化したからだ。つまり,FreeSync=Adaptive-Sync=VRRということになる。NVIDIAは,規格争いに負けたことを隠すべく,G-SYNCの名を残しつつ,G-SYNC Compatibleという名称でAdaptive-Syncに対応した。
一般に映像フレームの信号(データ)は,当該フレームの情報として,先頭にMSA(Main Stream Attribute)を有する。ここには,ブランク(余白)領域の情報も書かれており,もし,想定するリフレッシュレートタイミングに表示が間に合わないフレームがあれば,このブランク領域を適宜引き延ばして,次の実体フレームが送られてくるまで時間を稼ぐことで,見かけ上はリフレッシュレートが可変となる。これがディスプレイ同期技術の正体だ。
ほとんど裏技みたいな仕組みなので,HDMI規格で想定する動作に対応できないディスプレイやテレビ製品も市場には存在している。
「正しくVRRに対応できているか調べたい」というメーカーから多くの相談を受けたアストロデザインは,同社が販売するテスト映像生成器の「LS-8500」(関連リンク)に,新しいテスト映像プログラムとして「VRRテストモード」を追加したという。展示機のデモでは,48Hzから120Hzの範囲内でリフレッシュレートが変化するテスト映像を出力していた。
どのようにリフレッシュレートが変化するのかは,プログラム可能となっている。また,LS-8500自体は,HDMI 2.1における伝送モードのほぼすべてに対応しているので,HDMI 2.1で規格化しているリフレッシュレートの映像はすべて出力できるとのことだ。たとえば「フルHD解像度で,リフレッシュレート24Hzから240Hzまでの間で変化するテスト映像」なども生成できるという。
アストロデザインの担当者によると,有名メーカーのテレビやディスプレイでも,テストしてみると映像が消えるといった具合に,おかしな動作になるケースも見られるようだ。ただ,日本メーカー製のテレビでは,大きな問題は出たことはないとも述べていた。
LS-8500は,VRRだけでなく,HDR映像を初めとして,あらゆるテスト映像を出力できるプロ用の機械となっており,HDMI 2.1時代になってからは,海外メーカーからの問い合わせも増えているそうだ。こちらも業務用なので明確な販売価格は公開されていないが,目安としては300万円台とのことである。
アストロデザイン公式Webサイト
Simplay Labs公式Webサイト(英語)
HDMI LA公式Webサイト(英語)
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