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[TGS 2018]高速で安定して低遅延な次世代移動通信「5G」は,ゲームにどのような可能性をもたらすのか
周知のとおり,モバイル通信のトラフィックは年々増加しており,2020年代のトラフィックは2010年代の1000倍を超えるのではないかという予想もあるほど。高まる一方のモバイル通信へのニーズに対応するため,4Gよりも高速に通信が可能で,低遅延といったメリットを持つ5Gの開発が進んでいるわけだ。
2018年9月21日,東京ゲームショウ2018(以下,TGS 2018)の専門セッションで「5Gでゲームはどう面白くなるか?」という講演が行われた。エンドユーザーが実際に利用できるようになるのは,もう少し先の話となるが,今聞いてもなかなか興味深い内容がいくつもあったので,簡単にレポートしたい。
セッションの登壇者は,以下の4名である。なお,セッションの様子はニコニコ生放送のタイムシフトで視聴できるので,興味のある人は見てほしい。
NTTドコモ コンシューマビジネス推進部ゲームビジネス担当の森永宏二氏 |
スクウェア・エニックス リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏 |
評論家,編集者,明治大学 野生の科学研究所 研究員の中川大地氏 |
モデレータを務めた,ビットメディア 代表取締役社長,5GMFアプリケーション委員会利用シーンWG主査の高野雅晴氏 |
5G時代には,EVO並みの格闘ゲーム大会がワイヤレス接続で可能になる?
2018年1月に行われた格闘ゲームイベント「EVO Japan 2018」に足を運んだ人は,5Gのデモブースがあったことをのを覚えているかもしれない(関連記事)。5Gには低遅延という利点があるため,有線LAN環境を構築しなくても対戦ゲームを快適に遊べる可能性を示すというデモだった。
現時点では,あくまでも理論上の話であるが,これを大規模化すると,EVOのような対戦格闘ゲームの大会ですら,ワイヤレス通信でOKという環境を実現できるというわけだ。5Gでは端末から端末間を数msという非常に短い遅延で接続できるように開発を進めているというので,ゲームシーンもあらゆる場所で変化するのではないか。そんな内容が本セッションの要となっていた。
スクウェア・エニックスの三宅氏は,現状から将来的な発展の可能性,5Gだからこそできる表現といったテーマで,「スクウェア・エニックスにおける人工知能と5G」と題する説明を行った。
三宅氏はゲームにおけるAIの専門家であり,CEDECやGDCを代表とするゲーム開発者向けイベントでの講演も非常に多い(関連記事)。氏は,ゲームとAIの分かりやすい例として,3種類のAIとその連携を示すスライドをもとに解説を行った。
三宅氏の定義によるメタAIは,ゲーム世界の進行を司る大局AIであるが,近年ではプレイヤーに干渉する要素が多くなっているという。敵キャラの出現やストーリー進行などが,メタAIの対象だ。
メタAIがより進化すると,ゲームはどうなるか。ラノベやアニメでお馴染みの「ソードアートオンライン」の場合,クエスト生成は史実のようなデータ(ビッグデータ)を素材として自動的に行われ,NPCもAIベース(キャラクターAI)で処理を行い,擬似人格を持って動く。将来のゲームもそれと同じで,オープンワールドで自動生成を多用し,自動的なAI配置や,自動ミッション生成が行われるだろうと,三宅氏は説明していた。
また5G回線が普及すれば通信の遅延も少なくなるので,クライアント側の処理能力に依存することなく,サーバー側からのコントロールが容易になるという。
たとえば,マルチプレイヤーゲームで物理演算を用いた場合,プレイヤーごとに発生する結果が異なってしまう可能性がある。しかし5Gの場合,サーバーで物理演算を行い,その演算結果をクライアント側に送信してもタイムラグを生じくい。三宅氏は,雪崩の表現を例に,その仕組みと利点を解説していた。
もうひとつ,5GとAIで可能性がありそうなテーマとして,三宅氏はゲームの自動生成を挙げていた。といっても,1タイトル丸々を自動で作るというわけではなく,ゲーム内のイベントを自動生成する方向での話だ。
リアルタイムに生成,変更されるイベントの例としては,たとえば5人のプレイヤーが参加するゲームの場合,メタAIがユーザー情報を集めて,その情報をもとに最適なゲームをメイキングするといった可能性もあり得るという。プレイヤーのスケジュールを共有できれば,たとえば,Aさんだけ先に離脱するといったゲームも可能になるそうだ。
本稿では,ゲーマーにも分かりやすい話題として,三宅氏の発言を重点的に取り上げた。森永氏や中川氏,高野氏も,扱うテーマこそ別ではあるが,5Gの技術を活用するという点では,同じようなところを見ているようだ。興味の湧いた人は,タイムシフト放送を見てほしい。
ニコニコ生放送,東京ゲームショウ2018 TGSフォーラム専門セッション(2)
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