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[GTC 2017]西川善司のNVIDIA新社屋「Endeavor」見学記。GPUメーカーが建物に込めた“ポリゴン愛”を味わう
さて,その会期初日となる5月8日には,世界中から集まった報道陣を対象に,NVIDIAが建築中の新社屋,その名も「Endeavor」(エンデヴァー)の中を見学できるツアーがあった。2017年のGTCレポート第1弾は,このツアーの内容となる。
新社屋「Endeavor」建設計画
一足早く完成させたのがFacebookで,最近になってほぼ完成したというAppleはこの春から社員の引っ越しを始めているそうだ。Googleも2019年頃の完成を目指し,新社屋の建設計画を開始済みである。
そういった「独創的な建造物」の1つにして,本稿の主役となるNVIDIAの新社屋,Endeavorは,2015年から建設が始まり,2017年11月完成の見込みとなっている。建設計画自体は10年前からあり,現在のデザインに決まったのは5年前だそうだ。デザインを担当したのは大手建設デザイン会社Genslerとのことである。
NVIDIAが購入した土地の広さは12.5エーカー(※約5万平方メートル)で,新社屋Endeavorはその半分の約6エーカー(※2.5万平方メートル)を占める。場所は現社屋のある場所からほど近く,新社屋完成後も現社屋の一部は引き続き使われる予定だという。
建物自体は「2階建て+α」になるそうで,その総フロア面積は面積比2倍強,つまりはざっくり5万平方メートルということになる。日本人がなぜか大好きな東京ドーム換算でいくと,建物自体の大きさは約0.5個分で,総フロア面積は1個分といったところだ。
ここに約2500人の社員が引っ越すことになるとのことである。
社屋は平たい地面を隆起させてその部分を1階としているイメージで,約1500台の駐車が可能な社員用駐車場はその地下1階と2階にある。建物自体が若干高いところにあるため,「地下1階」と言っても,来客用駐車場(=地面)基準だと地上1階に近い。
総建築費は3億7000万ドルで,2017年5月上旬時点の円相場換算で約420億円となる。
コンセプトは「正三角形」。四角形や円ではダメだった
Endeavorの基本コンセプトは「正三角形」となっている。これは「NVIDIAがGPUメーカーだから」ということにも起因しているのだが,それ以上に,NVIDIAの総帥Jen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏が「すべての部署の人間が同じ距離間で存在していられるのに最適なのは正三角形だから」と提唱したのがそもそもらしい。
報道関係者から「四角形はだめなのか」「円はダメなのか」という質問が飛んだが,「ダメ」だと即答が入った。
社員の作業領域を四角形の頂点に配置すると,隣接する頂点同士は近い一方,対角側とは遠くなる。円も同様で,社員の作業領域を円周上に配置すると,隣接する部署間は近くなるが,中心点をまたぐと遠くなってしまう。なんとなく後付け感の強い理屈っぽい説明だが,とにかくそういうことらしい。
そして,Huang氏がこだわったのは,「高層ビルにしない」「平屋にする」という点だったとか。
高層ビルにするとフロアごとに分断が起きる。平屋であれば,隣接する部署へのアクセスが平面上で行われるので平屋がいいと提唱したようなのだ。
というのも,階段を各フロア間の要所要所に配置すれば,各頂点に配置した各部署の人間が階上・階下へ移動してほかの部署へ行く場合に,階段を一度使うだけで,最短距離での移動が可能になり,「正三角形状」のメリットを受けられるからだ。ちなみに同じ理由から,Huang氏は3階建てには頑として首を縦に振らなかったという。
テーマが正三角形と決まってからは,Gensler側の建築デザイナーが,そこかしこに正三角形をあしらうデザインを実施。結果,Endeavorではどこにいても三角形を目にすることができる。
結果として,新社屋は全体のシルエットもディテールも「▲」だらけとなり,巨大な宇宙要塞が着陸しているかのような外観になったのである。
憩いのスペースと騒音源は三角形の中心へ
この新社屋にHuang氏の部屋,いわゆる社長室はないのだという。
Huang氏は,「奥の社長室に入り込んでいるような人間に,社長業務などできるはずがない」という信条を持っているそうで,氏は社屋内のさまざまな場所で仕事をすることになるのだとか。
そして,新社屋はその「社員同士の対話」を実現するため,三角形状をした建物の中心部に,人々が集まるスペースを設けている。
「中心にある憩いのスペース」とは,先ほど「Endeavorを簡略化のうえ真上から見たイメージ」として図で示した中央部の正三角形で,1階は食堂や図書館,2階は予約なしで自由に利用できる短期談話室などになるという。大きな三角形の頂点領域にいる各部署の社員は,自分達のいる場所からほぼ等距離でこれら憩いのスペースへアクセスできるというわけである。
NVIDIAに勤めるエンジニアで,今回の新社屋開発計画のリーダーでもあるJohn O'brien(ジョン・オブライエン)氏は「中央に憩いのスペースを設けるということは,雑音や騒音を三角形状の中央部にまとめることになるため,ノイズ源を各部署から遠ざけることにもつながる」とも説明していた。
もちろん,部署のあるスペースとそうしたオープンスペースとの間は壁で隔離して防音対策を行うそうだが,基本的なコンセプトとしてはそういう配慮をするということのようだ。騒音源となりやすいサーバールームなども,この中央領域に集中させるとのことである。
日中は電気照明がほとんどいらない設計
新社屋Endeavorは,米国省エネ建造物協会(US Green Building Council)のゴールドレベル省エネ環境デザイン認証(Gold Level certification for Leadership in Energy & Environmental Design)を受けているという。その根拠は,日中,太陽が上がっているときは電気照明を極力使わない設計になっているからだという。
新社屋の天井には「Skylight」(スカイライト,以下カタカナ表記)と呼ばれる三角形の窓を245個設けており,2階だけでなく1階をも,晴れの日であればそのかなりの割合を天球光でライティングできるという。つまり,積極的に太陽光を取り入れた照明環境のため,電気照明が日中はほとんどいらないのである。
しかも,太陽が東から昇って西へ沈むまでの綿密な日照条件シミュレーションを行い,新社屋内におけるすべの場所で明るさが等条件になるようスカイライト窓を設計したというからすごい。たとえば,建物の最外周側,すなわち壁面側は縦窓からの屋外光が差し込むため,スカイライト窓の数は減らしてあったりするのだそうだ。
もちろん,夜になると電気照明が焚かれるのは言うまでもない。
2階建てのはずが3階もあるけど?
さて,先ほどHuang氏が平屋を希望しつつ,2階建てで妥協するという経緯を紹介したが,今回のツアー中,報道関係者は2階からさらに上へ移動するという,驚愕の(?)展開があった。「なんで3階があるのさ?」と叫んでしまった筆者だったが,O'brien氏は「諸君,ここは3階じゃないんだ。Mezzanineなのさ」と,ツアー参加者を諭すように大声でその場所について説明していた。
Mezzanine(メザニーン)とは中階のこと。英和辞典だと「1階と2階の間のこと。中2階」なんて書いてあったりするが,英語の定義上,Mezzanineは何階にあってもMezzanineだ。あえて和訳するなら中3階といったところか。
この中3階はそこそこ広いのだが,いわゆる屋根裏部屋のようなところである。ここも正三角形の中心位置にあるため「憩いのスペース」という位置づけで,図書館や,スナックが食べられる軽食バー,オープンな談話室などを設けることになるそうだ。
O'brien氏もこのフロアに着くなり「Mezzanineは,法律上の定義が曖昧で,監査機関によっては1フロアと見なして税金を課してくる場合がある。よって我々は,市の監査機関と連携して,ここが3階ではなくMezzanineであり,本新社屋が2階建て建造物である認証を受けた」と詳しい説明を行っていた。
法規上はMezzanineの総敷地面積に対する広さや天井の高さ,ドアの数(≒部屋の数)などについて明確な規定があるわけではないため,そうした曖昧な部分について認証を得たということのようだ。
EndeavorはNVIDIA初の非GPU関連製品!?
Endeavor内における社員の入館および室間移動管理のセキュリティシステムは当初,写真付きIDカードベースの一般的な運用になるものの,将来的には機械学習型AIによる自動顔認証システムになるそうだ。要するに,社員はほぼ手ぶらで社屋間の移動ができることになる。自分のセキュリティレベルが適合していなければ扉は開かず,適合していれば開くといった具合で,また,どの社員がどこにいるかも追跡できるようにもなるという。
「主に,社内をせわしなく動き回るJen-Hsunの居場所を社員が追うのに役立つのでは?」と,O'brien氏は冗談っぽく述べていた。
今回は完成間近という状態だったが,可能なら完成後にまた訪れてみたいと思う。
GTC公式Webサイト(英語)
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