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次期OS「Android N」の新機能や,モバイルVRの新プラットフォーム「Daydream」に注目集まる。Google I/O 2016基調講演レポート
そこで本稿では,基調講演で発表された内容の中から,ゲーマーにも関係のある話題2つ,次期Android OSである開発コードネーム「Android N」と,VRプラットフォーム「Daydream」の概要をレポートしたい。
Android Nの開発コードネームは……現在募集中!?
まずは,Android Nの話題から。
2016年夏に登場予定であるAndroid Nは,すでに開発者向けのプレビュー版が公開中で,今回のイベントに合わせて,新バージョンの公開も始まっている。
Performanceの項目で説明されたのは,グラフィックスAPI「Vulkan」への対応と,アプリケーション実行環境「ART」の強化がある。
Vulkanについては,4Gamerでは何度も紹介しているので,詳細は割愛するが,簡単にいえば,GPUへの直接アクセスを可能にして,低オーバーヘッドでマルチコアを効率的に活用できるという特徴を持つローレベルのグラフィックスAPIだ。
Android NがVulkanを正式サポートすることで,ゲーム開発者はVulkanを使ったAndroid向けゲームの開発をしやすくなる。Vulkanを使えば,今までのグラフィックスAPIであった「OpenGL ES 3.x」を使った場合よりも,高いフレームレートでグラフィックス表示を行えるゲームが開発可能になるというわけだ。
対応ゲームが登場してくればの話になるとはいえ,ゲーマーにとって,Android Nの一番重要な利点になる,といっても過言ではないかもしれない。
もう1つの項目であるART(Android Run Time)とは,Javaによる仮想コードで作られたAndroidアプリを実行する仕組みのことだ。導入されたのはAndroid 4.4だったが,Android 5.0から正式採用となった機能である。
Android 4.4までは,アプリケーションの起動時に,仮想コードからバイナリコード(=CPUが実際に処理できる形態)へと変換(コンパイル)するJust In Time(以下,JIT)方式のコンパイラ「Dalvik」が使われていた。一方,Android 5.0のARTでは,Ahead of Time(以下,AOT)方式のコンパイラとなり,アプリのインストール時に仮想コードをバイナリコードへと変換する仕組みに変更されたという経緯がある。
ARTの方式は,アプリの起動時間を短縮したり,実行速度が向上したりといった利点があるのだが,一方でインストールに要する時間が長くなるという問題も抱えていたのだ。
とはいえ,単にAndroid 4.4時代に戻ったわけではない。アプリのプリコンパイルは,端末が充電中かつアイドル状態のタイミングを見計らって,自動で行われるようになったのだ。それに加えて,プリコンパイル時にアプリの実行中に収集した「プロファイル情報」をもとに,バイナリコードの最適化を行うので,従来のARTよりもアプリの実行速度が向上するという。
また,インストールにかかる時間が短縮されたことで,Android OS自体のアップデートに要する時間も短縮されたそうだ。Android 6.0以降では,OSのアップデート直後に「アプリを最適化している」といったメッセージが表示されたあと,長い時間をかけてもう一度アプリの変換処理を行っていた。これがなくなるわけである。
Android Nでは標準でマルチウインドウ動作が可能に
セキュリティの改良点では,「ファイルベースの暗号化」「メディアフレームワークの強化」「シームレスアップデート」という3点が取り上げられた。順に説明していこう。
この仕様によってなにができるようになるのかという例として挙げられたのが,「シームレスアップデート」という機能だ。ファイルベースの暗号化機能と,前述したARTの改良を組み合わせて実現したもので,Android OSのアップデート中にも,一部の機能やアプリを利用できるようにする新しいシステムアップデート機能である。
Android 6.0までは,ストレージ全体をまとめて暗号化,復号化していたため,システムアップデートのインストール作業は,専用のファームウェアで行われていた。それゆえに,インストール中に電話がかかってきても出られないし,SMSや通知も受け取ることができない。
しかし,シームレスアップデートが利用できると,Androidのアップデート作業の大部分をAndroid自体で行えるようになる。そのため,アップデートのインストール中にも電話やSMS,アラームといった中断すると問題が出るアプリを制限付きながら利用できるようになるのだ。
このときに,ファイルベースの暗号化機能が使われるという。ストレージ内の特別な領域に,重要なアプリの動作に必要なファイルを置いておき,これらを暗号化して保護するそうだ。アップデートのインストール中には,一切の機能が使えなかった今までのAndroidに比べれば,使い勝手が向上するといえよう。
最後の生産性に関わる機能としては,「マルチウインドウ」「通知機能の強化」,そして「絵文字の改良」がある。順に説明していこう。
ちなみに,テレビに接続して使うAndroidデバイスである「Android TV」では,バックグラウンドで動作している動画再生アプリなどを子画面で表示する「Picture-in-Picture」機能も利用できるようになるとのこと。
通知機能の強化では,通知カードに直接入力したりできるようになるという。たとえば,ショートメッセージ系アプリの場合,着信したメッセージの通知カードに,メッセージを書き込んで返信することが可能になる。
絵文字の改良は,人間を表現する絵文字のバリエーションなどを増やすものだ。Unicode 9.0以降で実装された絵文字の変更に対応したものである。
Android Nの改良点はほかにも多々あるが,すでにプレビュー版で実装済みの機能も多いためか,今回は,比較的あっさりとした紹介になっていたように思う。
Google自社開発のVRデバイス「Daydream」
Daydreamは,段ボール製の簡易VRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)「Google Cardboard」と同じく,スマートフォンを組み込んで表示装置兼コンピュータとして使うVR HMDであるが,段ボールではないちゃんとしたゴーグル型HMDと,専用のワイヤレスモーションコントローラをセットにしたものとなっている。
Android N側にも,Daydream対応のVR機能が標準で組み込まれるという。
なお,要件を満たせば,既存のスマートフォンでもDaydream Ready Smartphoneを名乗れる場合もあり,Google製スマートフォンでは,「Nexus 6P」が対応デバイスに挙げられている(関連リンク)。
一方のDaydream用のモーションコントローラは,ボタンに加えて,動きや姿勢などを検出可能なセンサーを内蔵するリモコン型のコントローラである。要は,VR HMD用のWiiリモコン的なデバイスだ。
スマートフォンを組み込んで使う簡易VR HMDでは,画面をタッチ操作できないので,どうやってアプリを操作するのかが問題なっていた。しかし,Daydreamでモーションコントローラが定義されたことにより,操作の問題は解決に向かうかもしれない。
Daydreamではハードウェアだけでなく,ソフトウェア面も定義している。たとえばアプリの起動などに使うホーム画面も,VR専用のものを実装しており,ユーザーはVR HMD本体の動きやモーションコントローラの操作によって,ホーム画面からVRアプリやVRコンテンツ視聴を選択するというわけだ。
スマートフォンのカメラを使って,ユーザーが360度ビデオを作成できるような仕組みも登場するようだ。
Oculus VRの技術をベースにしたSamsung Electronicsの「Gear VR」が先行していたモバイルVRの分野は,GoogleがDaydreamを発表したことによって,さらに盛り上がっていくのではないだろうか。
Google I/O 2016 公式Webページ(英語,動画が流れる場合があります)
Daydream 公式Webページ(英語)
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