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[SIGGRAPH ASIA]360度ビデオを撮影できるヘッドフォン型全周カメラ「JackIn Head」を体験してみた
たとえば,ビデオカメラはありふれた家電であり,撮影した映像をテレビで見るのは簡単だ。これくらい簡単にVRコンテンツを作って見られるようにならないと,VRは限られたユーザーだけのものになってしまうのではないかと,いうわけだ。
頭につけていても不自然さがない360度カメラ
その点,前後に搭載した2つの魚眼レンズカメラを備えるTHETA Sは,映像のスティッチをカメラ内で処理するため,ホストPCに高い性能は必要ない。ただ,THETA Sで,常に安定した360度写真やビデオを撮影しようとすると,なるべく揺らさないように手で持つか,何かに固定する必要がある。THETAシリーズのユーザーには,ヘルメットを被ってその上にTHETAを取り付けて撮影する人もいるのだが,頭頂部にカメラを取り付けるのはいささか仰々しく,悪目立ちするのもネックだ。
JackIn Headの展示ブース。展示タイトルは「Jack |
JackIn Headの本体。見た目はちょっと変わったヘッドフォンという印象 |
JackIn Headは,ボディ形状が大きなヘッドフォンのようなデザインとなっているのが特徴である。目立ちはするが,これなら装着していても,変な人扱いはされなさそうだ。それくらい,いい意味で「普通」なデザインをしているといえよう。
THETA Sと同様,JackIn Headもカメラには,魚眼レンズを2つ使った2眼式を採用している。ただ,THETA Sがレンズを本体の前後に装備しているのに対して,
ヘッドフォンでいうエンクロージャの部分の左右に取り付けられたカメラは,ソニー製のアクションカムをベースに魚眼レンズを組み合わせたものだとのこと。2つのカメラで撮影した映像を合成するつなぎめ(スティッチポイント)は,装着者の真正面から真後ろに向かって垂直に発生しているはずなのだが,つぎはぎ感はほとんど感じられない。この辺りはうまくチューニングできているようだ。
JackIn Headで撮影した動画がYouTubeで公開されている。動画をマウスでドラッグすると,360度の映像が見られるようになっているのだが,残念ながら360度ビデオは埋め込みに対応していないようなので,興味のある人は以下のリンクからビデオを参照してほしい。自然な感じで左右の映像が合成されているのが分かるはずだ。
JackIn Headで撮影された360度ビデオ
VR酔いを防ぐための機能を盛り込む
JackIn Headには,撮影した360度ビデオをVR HMDで見たときに,安定した没入感が得られるようにするためのユニークな機能がPC用映像生成ソフトウェアに用意されている。
たとえば,JackIn Headを装着した撮影者が,360度ビデオを撮影しながら歩いているとしよう。撮影者が,歩きながら首を回して横を向いたとすると,撮影中の全周映像は,ぐるりと横に回転することが容易に想像できる。だが,VR HMDを装着したユーザーが,この撮影映像を見ていた場合,撮影者が横を向いた瞬間,ユーザーの意志とは無関係な視界の回転を体験してしまう。
これでは気持ちの悪いVR体験となりかねない。こうならないように,撮影者が撮影中に左右を向いたとしても悪影響を与えないよう,360度ビデオを見ているVR HMDのユーザーの見たい方向を,常に見せ続ける必要があるのだ。
これを実現するために,JackIn Headでは撮影されている映像を分析し,特徴点を探して追跡する機能を導入している。この仕組みにより,JackIn Headを身につけた撮影者がどこを向こうが,360度ビデオを見るユーザーが見たい方向の視界を,特徴点基準で判定して表示できるそうだ。
ブースの担当者によれば,この特徴点の抽出は,上下の揺れ低減,いわゆる手ぶれ補正的な効果にも使えるだろうとのことであった。
ブースで披露されたデモは,JackIn Headを装着した撮影者の視界を,VR HMDで見るというものだった。筆者も実際に体験してみたが,撮影者が筆者の前にいたので,自分の姿を,他人の視点で見られるという,なんとも不思議な体験ができた。
鏡で自分の姿を見ても,鏡像は常に鏡の界面に対して面対称の像になってしまうので,他人が見ている自分の姿と同じにはならない。だが,JackIn Headでは,撮影者が見ているのと同じ自分の姿を見られるのだ。
なにより,リアルタイムな360度ビデオをVR HMDで楽しめるというのは,不思議なライブ感がある。これを利用しない手はないだろう。
たとえば,音楽ライブでミュージシャンにJackIn Headをかぶってもらい,その状態で演奏したり歌ってもらう。その映像をVR HMDで体験できるようにすれば,ファンはまるで,そのステージに自分も立っているかのような体験ができるはずだ。
あるいは野球の試合で,選手のヘルメットにJackIn Headの機能を搭載してみる。すると,バッターボックスに立ったバッターの視界を,ファンがVR HMDでリアルタイムに楽しむといったことが可能だ。150km/hオーバーの速球をバットでミートする瞬間や,ストライクゾーンギリギリを掠めるボールの球筋をバッター視点で楽しむこともできるだろう。
現在のJackIn Headは,2つの魚眼レンズで全周撮影しているので,撮影される映像は必然的に2D映像になる。そのため,VR HMDで見るときも2D映像になり,立体感のあるステレオ3D映像を楽しむことはできない。しかし,搭載するカメラの数を増やして,頭部を囲むように配置すれば3D映像の撮影も実現可能だ。
VR HMDの進化とともに,360度ビデオ用カメラも進化していくと,VRコンテンツはさらに盛り上がっていくことだろう。
SIGGRAPH ASIA 2015 公式Webサイト
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