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[COMPUTEX]VESA標準の「Adaptive-Sync」はG-SYNCを駆逐できるのか? AMDの担当者にも聞いてみた
なお,あらかじめお断りしておくと,本稿は先のレポートを読了済みという前提で話を進めていくので,未読という人は,一度そちらを読んでから,あらためて戻ってきてもらえれば幸いだ。
[COMPUTEX]VESA規格の「Adaptive-Sync」登場でG-SYNCはどうなるのか? NVIDIAのG-SYNC担当者に聞いてみた
そんな彼に,2種類のディスプレイ同期技術について質問してみると,NVIDIAとはかなり違った意見が聞けたのだった。
Adaptive-SyncがサポートされるRadeonとそうでないRadeonがある
G-SYNCの概念,およびこうした技術が生まれてきた背景などについては先の記事を参照してもらうとして,まずは両社の動きを追ってみよう。
2013年10月にNVIDIAがG-SYNCを発表すると,AMDは即座に反応。2014年1月に対抗技術となる「FreeSync」を発表した。
そして,北米時間2014年5月12日に,映像技術の標準化団体であるVESA(Video Electronics Standards Association)は,このFreeSyncをAdaptive-Syncとして,「DisplayPort 1.2aのオプション規格」に採用したのである(関連記事)。
Ignore MSA(MSA:Main Stream Attribute)とは,「メインの映像ストリームが持つ属性情報を無視する制御」のことで,たとえばGPUのような「映像信号の送出者」が,ディスプレイに対してイレギュラーな垂直帰線期間や水平帰線期間を与えられる仕様となっている。
さて,そのIgnore MSAには,「VRR」(Variable Refresh Rate)と「DRR」(Dy
VRRは,比較的粗い周期で表示レートを制御するときに使うものだ。たとえばノートPCでデスクトップ画面やオフィスアプリケーションを表示しているような,画面の更新頻度が緩やかなとき,あるいは毎秒24コマの映画コンテンツを表示するときなどに,映像を60Hz(60fps)で固定出力するのではなく,より低いリフレッシュレートで出力するよう切り替えるのに使われる。高い周波数で映像を表示し続けるのは,消費電力の観点では無駄なので,これをうまく制御することで,システムの省電力化が可能になったり,プルダウン変換をせずに映画コンテンツを表示できたりするわけだ。
これに対してDRRは,表示期間をフレームごとに制御する仕組みで,Adaptive-Sync(=FreeSync)はこれを用いた技術である。
Huddy氏によれば,現行世代のRadeonでDRRに対応するのは,Radeon R9 290シリーズとRadeon R7 260シリーズのみ。そのほかの製品は,Display Port1.2a準拠であってもDRRをサポートしないとのこと。つまり,2014年6月時点でAdaptive-Syncに対応するGPUはこの2シリーズのみだ。
Huddy氏が指摘する「G-SYNCの抱える構造的欠陥」
G-SYNCのレポートでお伝えしたとおり,NVIDIAの主張は,「Ignore-MSAを使った仕組みはあくまでDisplayPort 1.2aのオプション仕様であり,実際に対応製品を実現するためには,相当に綿密な開発と互換性テストが必要になる」「そうしたテストを省略・吸収できるのがG-SYNCソリューションの優れた点である」というものだ。
この点について聞いてみたところ,Huddy氏の口からは,「まったく逆だ」という答えが返ってきた。Adaptive-SyncはたしかにIgnore MSAの仕組みを利用するが,現行のDisplayPort対応ディスプレイを持ってきて,ディスプレイ側のBIOSなりファームウェアを書き換えさえすれば,すぐIgnore MSAに対応できるとHuddy氏はいう。
実際,COMPUTEX TAIPEI 2014でAMDが公開したFreeSync(=Adaptive-Sync)対応ディスプレイは,特別に製造したものではなく,ディスプレイメーカーにBIOSファームウェアを少しアップデートしてもらっただけで,実現できているそうだ。
COMPUTEX TAIPEI 2014のAMDプレスカンファレンス会場に展示されていたFreeSync(=Adaptive-Sync)対応液晶ディスプレイのデモ機。実はこのデモ機,垂直リフレッシュレート60Hzの液晶ディスプレイを,下限9Hz,上限60Hzに書き換えた即席のモノらしい。それだけAdaptive-Sync対応機の開発は楽だと,AMDは主張しているわけである |
G-SYNCの場合,G-SYNCモジュールがかなり高度な機能を持っているので,GPUとの双方向コミュニケーションが必要になるが,Adaptive-Syncの場合,双方向コミュニケーションはGPUとディスプレイをDisplayPort接続したときだけで,それ以降は映像信号に必要なパラメータを入れて送出するだけの一方向通信となるため,難しいことは何もないとHuddy氏。「むしろG-SYNCのほうに,いくつかの構造的な弱点がある」のだという。
氏によれば,G-SYNCでは,GPUとディスプレイ側――正確にはG-SYNCモジュール――との双方向通信を行うため,DisplayPort 1.2aの伝送速度を持ってしても最大垂直リフレッシュレートは144Hz以下に制限される。これがAdaptive-Syncの場合,最初の接続時にしか双方向コミュニケーションは行わず,映像送出は帯域をフルに使って伝送されるため,垂直リフレッシュレートは最大240Hzやそれ以上にまで到達できるのだそうだ。
そのうえG-SYNCでは,G-SYNCモジュールがGPUと液晶パネルの間に入り,GPU側の出力映像をG-SYNC側のフレームバッファに溜め込むフェーズが介在するため,表示遅延が発生することは避けられないとHuddy氏は主張する。「これはゲーム用途として致命的だ。NVIDIAがG-SYNCディスプレイの表示遅延を公表していないのはその証拠といえる」(Huddy氏)。
さらに,G-SYNCモジュールは数GBの容量を持った高速なDRAMを搭載するため,コストも高くつく。それに対してAdaptive-Syncなら,GPUとディスプレイがIgnore MSAに対応する限り,対応追加コストはほぼゼロに等しいというわけだ。
Adaptive-Syncなら,今あるノートPCでもすぐに対応できる(Huddy氏)
さて,G-SYNCの場合,G-SYNCモジュールの追加コストが大きいこともあり,ディスプレイ製品としてはハイエンドクラスに属するもの,具体的には120Hz超の垂直リフレッシュレートに対応するゲーマー向けディスプレイが対象となっている。
一方,Adaptive-Syncならば,DisplayPort 1.2a対応ディスプレイのほとんどをAdaptive-Syncに対応させられると,Huddy氏は主張する。そのため,低価格帯のディスプレイでも,Adaptive-Sync対応製品が実現可能というわけだ。
垂直リフレッシュレート60Hzの液晶パネルを採用するディスプレイであっても,Adaptive-Syncに対応することでスタッター(Stutter)やテアリング(Tearing)を回避できるので,ユーザーメリットは大きいというのがAMDの考えである。
たとえば,下限リフレッシュレートを24Hz,上限を60Hzと設定したAdaptive-Sync対応液晶ディスプレイなら,24〜60Hzの範囲で可変リフレッシュレート表示可能となり,この範囲ならスタッターやテアリングを回避できるのである。
さらにHuddy氏は,かなり速いペースでAdaptive-SyncがノートPCへと展開される可能性も示唆している。
というのも,すでに多くのノートPCが液晶パネルとの接続をeDPで実装しているので,前述したような簡単な修正だけですぐに対応できる,というわけだ。AMDの実験室レベルでは,既存の東芝製およびASUSTeK Compuer製のノートPCで,Adaptive-Syncに対応できているという。
そのうえ,ノートPC側の液晶パネルだけでなく,外部DisplayPort接続を同時に使った状態でも,Adaptive-Syncは利用できているとのことだった。「この手軽さと透過性は,G-SYNCモジュールが必要なG-SYNCでは到底実現は難しいだろう」とHuddy氏は自信ありげに述べていた。
さて,それでは気になるAdaptive-Sync対応ディスプレイの登場時期だが,「詳しくは話せないが,半年後をお楽しみに」ということだった。Huddy氏は「COMPUTEX TAIPEI 2014の展示会場に,思ったほどG-SYNC対応ディスプレイがなかっただろう? それは,そういうわけなんだ」と笑いながら語った。
目指すものは同じながら,異なる道を歩むG-SYNCとAdaptive-Sync。ユーザーの心を掴むのは,はたしてどちらになるのだろうか。
AMD 日本語公式Webサイト
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