ニュース
[SIGGRAPH]技術とセンスが光る映像作品が集結した「Electronic Theater」レポート(前編)。ゲームからは「ZombieU」と「Cyberpunk 2077」が入選
そもそもCAFは,CGを使った映像作品の上映会,あるいは映画祭的な位置づけのイベントだが,第1回が開催された1982年当時は,発表論文の映像デモを上映していただけだった。
それが現在では,学生の作品から,PixarやIndustrial Light & Magicのような一流CGプロダクションの作品まで,ありとあらゆるCG作品が投稿されるようになり,そこから厳選された作品だけが,CAFに入選するようになっている。
もちろん,今でもCG研究者の映像デモが入選することはある。しかし最近では,単に技術を披露する作品よりも,見て感動したり楽しくなるものが入選する傾向が強い。最近では数が減ったが,GPUメーカーのデモ作品や,ゲームスタジオが制作した作品,日本人作家の作品なども,毎年数作は入選している。
そのCAF入選作から,さらに選りすぐられた優秀作を上映する場が,「Electronic Theater」だ。今年も,全35の入選作の中から,とくに印象深かった作品を選び,前後編に分けて紹介しよう。
余談だが,イベントスタッフに聞いたところ,今年の上映に用いたプロジェクタは,Christie Digital Systems製のデジタルシネマ用3板式DLPプロジェクタだったとのこと。型番は不明だが,4Kパネル搭載の3D立体視対応製品で,Electronic Theaterでは3D立体視コンテンツも上映された。
[SIGGRAPH]秀逸な映像作品が集まる「Electronic Theater」レポート(前編)。ゲームからは「DiRT」シリーズのオープニングが入選
[SIGGRAPH]秀逸な映像作品が集まる「Electronic Theater」レポート(後編)。今年の最優秀作品は日本人監督による「Reflexion」
The Centrifuge Brain Project
Till Nowak氏ほか,Framebox,ドイツ
まずは,ドイツの映像作家Till Nowak氏による短編コメディ作品をご紹介しよう。数々の映画祭で入賞している有名作品で,CAFにも見事入選を果たした。
ストーリーは,フロリダで,脳髄にかかる遠心力の強さと人間の知能指数との相関について研究をしているNick Laslowicz博士が,遊園地のアトラクション設計者と共謀して,とんでもないアトラクションを発明しまくる……というもの。
“どこかおかしい”アトラクションは,「球体ブランコアトラクション」から始まる。「遊具を止めると,皆が中央の球体に激突してしまうのが問題だった」と真顔で反省する博士に,筆者は思わず感情移入しすぎて,笑うのを忘れてしまったほどだ。
CGで作り込まれた,本当にありそうな危険度120%のアトラクションの数々が,現実世界の風景と,ものの見事に合成されているのと,Laslowicz博士があまりにも“本当にいそうな”雰囲気で描写されているので,何も言わずに見ると,本当にこんなアトラクションがあると,信用してしまう人もいるのではないだろうか。
なお,Till Nowak氏の他の作品は,氏のVimeoページにも掲載されている。
Funeral Home Pinatas
Jacob Tuck氏,Media Design School,ニュージーランド
「お葬式は暗くて退屈ですよね。本来ならば弔問してくれるはずの人もお葬式が退屈すぎて,来てくれないこともあります。そんな退屈なお葬式を,一番ハッピーな家族イベントに変えてくれるのが,Larry葬儀サービスです」というアナウンスから始まるテレビCM風のショートコメディだ。
「こんな楽しいお葬式ならば出てみたい」と思う子供が続出しそう……とはまったく思わないが,不謹慎でブラックな笑いのセンスは独特。ライティングやシェーディングは超リアル系だが,人物の造形がどことなく陶器人形風で,間が抜けた感じなのが妙に作風にマッチしている。
作者のJacob Tuck氏はニュージーランドの映像専門学校の学生で,過去作品はこちらのVimeoページで紹介されている。
One Day
Joel Corcia氏,GOBELINS, l'école de l'image,フランス
セルシェーダ風のスタイライズド・レンダリングで再現されたCG短編アニメ作品。制作は,フランスのCG専門学校「GOBELINS, l'école de l'image」(ゴブラン レコール・ド・リマージュ)の学生である,Joel Corcia氏だ。
夕暮れになると,見知らぬ土地にワープしてしまう不思議な家に住む青年。やることもなく,夕暮れになっては家に戻る毎日。朝起きれば,玄関は別の場所に通じている。そんな“ある日”(One day),青年はある人物と出会う。この出会いが,追い求めていた“いつの日か”(One Day)だったのか……。
メイキング映像がJoel Corcia氏のVimeoページに公開されているので,興味がある人はそちらも覗いてみてはいかがだろうか。
ZombiU
Andy's,Unit Image,フランス
Ubisoft EntertainmentのWii U専用ゲーム「ZombieU」の予告編が,Electronic Theaterに入選した。映像制作を担当したのは,フランスのCGポストプロダクションスタジオであるUnit Imageで,監督はAndy's氏。
美しい風景の上に「Are you prepared for the future?」(あなたは未来のための準備がお済みですか?)とキャッチコピーが書かれた保険会社のポスターから映像は始まり,イギリス国歌が流れ始めて,なにやら平和的な作品なのかと思いきや,さにあらず。時間の静止したロンドンの街中を,淡々とカメラだけが動いていき,ゾンビパニックに陥っている人々を切り出していくという,独特な作品となっている。
映像のクオリティは,ゲームそのものを凌ぐ出来映えだが,それもそのはず。監督のAndy's氏は,数多くの著名テレビCM作品を手がけた人物なのだ。氏が手がけた過去の作品は,Unit Imageのサイトで視聴が可能である。
ちなみにAndy's氏は,E3 2013で電撃的に発表された,コミュニティ重視型のレーシングゲーム「The Crew」の予告編も担当しており,こちらもVimeoにて公開されている。公開されているゲーム映像よりもクオリティが高いのは,Andy's氏ならではの技術といったところか。
Ophelia: Love & Privacy_Settings
Bin-Han To氏,Filmakademie Baden-Wurttemberg,ドイツ
人間が頭の中で考えていることは,基本的には人には伝わらない。でも,もしそれが,プロパティのセッティング次第で,相手に知られてしまうことがあったら……。そんな「if」の世界をロマンチックコメディタッチ(作者談)で描いたのがこの作品だ。
モテモテのチョイワルオヤジ風の主人公は,いつものようにナンパに明け暮れるが,どうにも今日は心のプロパティセッティングがおかしくて,つい本心が「吹き出し」に出てきてしまう。意中の女性にスマートに声をかけ,せっかくよい第一印象を得られても,エッチな妄想を見られてしまってすぐに振られてしまう。そこで,本心「吹き出し」を傘で隠す作戦に出るのだがはたして……。
Ophelia: Love & Privacy_Settings from Biniman on Vimeo.
カクカクした切り絵のようなキャラクターデザインと,大胆に陰影を省略したシェーディングで描かれたキャラクター達はなんとも可愛らしいが,主人公が妄想するエッチなシーンは,どうにもこうにもやたら艶めかしいのが笑えるところ。
制作は,CAFの常連であるドイツの映像専門学校Filmakademie Baden-Württembergの学生,Bin-Han To(Biniman)氏。上に掲載した予告編のほかに,制作ブログがこちらで公開(英語)されている。
not over
早井 亨氏,太陽企画,日本
体長30mあまりの巨大で毛むくじゃらの生物が,森を突き進み,山をよじ登り,海を掻き分け,砂漠を渡り,歩き続ける。無機質ながらもどこか悲しげなBGMとマッチして,“なにかの創世記”を目の当たりにしているのではないかと錯覚するような作品だ。
ところが,そんな雰囲気を覆す予想外の結末が用意されていたものだから,Electronic Theaterの会場は爆笑の渦に包まれたのであった。
ラストのオチからは想像も付かないような,全編がリアルなタッチで描かれており,過去の旅を続ける白い生物の毛並みがだんだんと薄汚れていく様子には,中盤では神々しささえ感じる。30mという巨体のスケール感を強く感じさせるのは,海を泳いでいるシーンだ。水中に沈み,濡れた体毛の黒ずみ方や,そこからあふれ出す泡からは,大洋の深淵までもが伝わってくる。
制作は,日本のCGディレクターである早井 亨氏。今回のElectronic Theaterでは,日本人による入選作品はこの作品だけだった。ちなみに,早井氏のブログによれば,この白い毛むくじゃらの巨大生物は「ポコリン」という名だそうだ。
Cyberpunk 2077 Teaser Trailer
Tomek Baginski氏,Platige Image S.A.,ポーランド
「Witcher」シリーズの成功で一躍有名になったポーランドのゲームスタジオCD Projekt REDが手がける新作ゲーム「Cyberpunk 2077」。その予告編が,Electronic
ちなみに,ゲームのほうはCD Projekt REDが開発した「新世代REDエンジン」上での開発が進められているとのことで,SIGGRAPH 2013では,Cyberpunk 2077に向けて実装された,この新エンジンに関する機能解説も行われた。
さて,上映された作品のほうだが,前出のZombieUと似たような,時間が静止した世界をカメラがゆっくりと動く,バレットタイムアクション風な映像となっている。この映像はCD Projekt RED製ではなく,CGプロダクションスタジオのPlatige Imageが手がけたものだ。
湿気を強く感じるアンビエント感は,どこかで見たことがあると思ったのだが,それもそのはず。Platige Imageは,CD Projekt REDが手がけてきた「The Witcher」「The Witcher 2: Assassins of Kings」2作品の,オープニング映像も手がけていたスタジオとのこと。見覚えがあるのも当然というわけだ。
Cyberpunk 2077も含めて,CD Projekt REDが開発した全ゲーム作品の予告編とオープニング映像を手がけてきたPlatige ImageのTomek Baginski監督は,氏がまだ無名であった時代から,SIGGRAPHのCAFでは常連だった映像作家である。
たとえば,Baginski氏が手がけた「The Cathedral」(2002年)は,SIGGRAPH 2003のElectronic Theaterで最優秀作品賞を,「Fallen Art」(2004)という作品では,SIGGRAPH 2005で審査員特別賞を受賞している。「The Kinematograph」(2009)では,Electronic Theaterは逃したものの,CAFには入選するなど,かなりの実力があるCGアーティストなのだ。
Cyberpunk 2077を気に入った人は,Baginski氏の初期作品を見てみるのも面白いのではないだろうか。
Galaxy“Choose Silk Chauffeur”
Daniel Kleinman氏,Framestore,イギリス
世界はもちろん,とくに日本で絶大な人気を誇る美しき名女優「オードリー・ヘップバーン」。映画「ローマの休日」「ティファニーで朝食を」などは,伝説的な名画として日本のファンから支持されている。そんなオードリー・ヘップバーンが,最新のデジタルキャスティング技術により,21世紀の現代に甦ってしまった。それも,チョコレートのテレビCMで,というのがこの作品だ。
イタリアの観光地として名高いアマルフィの街を行く路線バスが,果物売りと接触事故を起こして立ち往生。いっこうに走り出さない様子に,憂いを帯びた表情を見せるオードリーの横で,オープンカーに乗るイケメン紳士が声をかける。「こっちにおいでよ」の呼びかけに素直に答えるオードリー。しかし彼女が乗った理由は……,というちょっとユーモラスな作品だ。
本作は,オードリー・ヘップバーンの過去出演作の映像から,使える部分を切り出して合成したもの……ではなく,驚くべきことに完全な新作映像だという。制作を担当したのは,イギリスの実力派CGポストプロダクションスタジオであるFramestoreだ。
Framestoreの開発ブログにもあるように,この作品ではオードリー・ヘップバーンのそっくりさんを起用して制作したのだという。
もちろん,単にそっくりさんで撮影しただけではない。そっくりさんの顔をまずはデジタルスキャンし,CG化された顔を修正して,映像の中で生きているようなオードリー・ヘップバーン本人に似せていく作業を行ったそうだ。逆に,オードリー以外の人物は,すべて実写によるもので,ロケも本物のイタリアで撮影されている。
なお,制作元のFramestoreは,映画「Skyfall」のオープニング映像も制作しているのだが,なんとそちらもElectronic Theater入選を果たし,ダブル入選を達成した。いかに彼らが実力のあるスタジオであるかが分かるだろう。
前編で紹介する映像作品は以上となる。続く後編では,最優秀作品賞をはじめとした,受賞作を中心に紹介しよう。
Electronic Theater|SIGGRAPH 2013
SIGGRAPH 2013 公式Webサイト
- この記事のURL:
キーワード