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インディーゲーム展示会「東京ゲームダンジョン5」レポート【後編】。自由な場には,ここまで多彩なゲームが並ぶ!
インディーゲーム展示会「東京ゲームダンジョン5」レポート【前編】。規模を拡大し2フロアでの開催に。お宝ザクザクの迷宮へGO!
インディーゲームの展示会「東京ゲームダンジョン5」が,2024年5月4日に都立産業貿易センター浜松町館で開催された。大型連休中に行われたこともあり,いつも以上に賑わっていた本イベントから,特に目を引いた作品を紹介しよう。
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- ライター:高橋祐介
- Nintendo Switch
前編は遊びのアイデアが光るものやユニークな雰囲気を持つタイトルを集めたが,後編ではキャラクターや物語の魅力が際立った作品,よりディープでマニアックな作品などをまとめてみた。
また東京ゲームダンジョンを主催する岩崎匠史氏に,今回の感触や今後の展望などをうかがった。イベントに興味を持った方は,ぜひご一読を。
盛況ぶりにほほえむ岩崎匠史氏 |
話題作「立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー」のブースでは,ラマをバックにしたポスターで作品をアピールしていた。……どういうこと? |
スマホアプリ「キャバ嬢に貢ぐRe」(@KyabaMitsuRe)のブース。無茶な借金や重労働でキャバ嬢に貢ぎ,ほかのプレイヤーとランク争いをするという,ゲームならではの疑似体験(?)ができるそうだ |
「東京ゲームダンジョン」公式サイト
●リリー イン ドリームワールド
出展者:ヨシオゲームズ
本作は,死んでしまったミニチュアダックスのリリーが,飼い主の少年タケルを救うため夢の世界を冒険するアクションゲームだ。
バトルは,いわゆる「無双」スタイル。弱攻撃と強攻撃を組み合わせてコンビネーション攻撃を繰り出し,悪夢の世界にあふれるゾンビ犬たちを,口にくわえた剣でばったばったとなぎ倒していく。
かわいいリリーと,口にくわえた刃物のギャップがなかなか刺激的だが,作者のヨシオ氏(@Yoshio_Games007)に話を聞いてみると意外なエピソードが。
「実家で飼っていた犬のリリーが亡くなる前日,リリーが自分の夢に現れた」ことが心に深く残っており,それをモチーフにゲームの形にしたのが本作だという。氏はこのゲームを作ることで,叶わなかった「リリーとの再会」を果そうとしているのかもしれない。
●1f y0u’re a gh0st ca11 me here!
●青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署
出展者:Furoshiki Lab.
Furoshiki Lab.のブースでは,Steamのユーザーレビューで“非常に好評”をキープするなど,プレイヤーから高い評価を受ける「1f y0u’re a gh0st ca11 me here!」と,新作「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」を出展していた。
2021年11月にリリースされた「1f y0u’re a gh0st ca11 me here!」は,幽霊たちから殺到する電話に対応するアドベンチャーゲームだ。主人公は,黒電話を思わせるコスチュームのヴァニタスで,複数の幽霊からの電話を同時に受け,その内容から「救助」「地図案内」「警察」の窓口に振り分けていく。
電話交換手のような体験が楽しい本作だが,ディレクターの田平孝太郎氏(@kotaro_stajiotk)によれば,発想の根本にあったのは「なぜノベルゲームの吹き出しは,同時にひとつずつしか表示されないのか」という疑問だったという。シンプルな問いから奇抜なゲームが生まれたわけだ。
「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」(PC / Switch)は,2024年内にリリースを予定しているホラーノベルアドベンチャーだ。
物語の舞台は,1999年の日本。ミレニアムを迎える期待感と世の先行きに対する不安(余談だが,前年の1998年には年間の自殺者数が初めて3万人台に達している)。それらが地獄の釜の蓋を開けたかのように,都市では「怪異」に関する事件が頻発していた。
そこに民俗学的な血のしがらみが関わり……と,なかなか刺激的な設定のようである。実社会とオカルトの関係としては,どこかバブル期の匂いも感じられる。
事件を起こした「怪異の遺体」を解剖し,解決へのヒントを得て事件の一週間前にタイムリープする。事件の結末は変えることはできないが,手がかりを集めることで6つの事件の核心へと迫っていく──。
田平氏によれば,「作中の出来事のモチーフとした因習などについては,実際にフィールドワークを行い,現地の人から話を聞いて内容に反映している」とのこと。かなりずっしりとした遊び応えで,しかしテキストを読み進める手が止まらないような作品に仕上がりそうだ。
●魔法少女パラノイド
出展者:みぞれのみせ
リリカルで華があるが,どこかケミカルで病んだ印象のビジュアルが興味を引く本作は,魔法少女「夢宮める」がバグと呼ばれる怪物をやっつける,かわいくも不穏な魔法少女RPGである。
横視点のアドベンチャーゲームのような画面で話を進めつつ,要所でコマンドバトルを行う遊びやすい形式のシステムだが,ときおりドキリとさせられる映像やテキストが飛び出してくる。
作者の水菓子みぞれ氏(@mizol_01)話を聞いてみたところ,「普通の魔法少女ものです……」との返答が。しかし,どこかお茶を濁したような雰囲気もあり,おそらくあまり普通の魔法少女ものではなさそう。どんな展開が待っているのか気になるところ。2025年内のリリースを予定しており,また今年6月頃には体験版の公開を予定している。
●ハッピーテレパシー
出展者:トマ子
本作は,テレパシー能力をもつ女の子「心凪みる」が,能力を使って友達の悩みを解決していくアドベンチャーゲーム。とある日の朝,みるはテレビの占いコーナーで「今日は人助けをするといいことが!」という言葉を耳にする。占いやおまじないが大好きな彼女は,すっかりその気になって学校へ……といった感じでお話が始まるのだ。
登場人物との会話中,テレパシーを使うと相手の内心が読めるのだが,みんな中学生らしい理由で悩んで(?)いるのがほほえましい。
開発したトマ子氏(@tomacco__62)は,過去に塾の講師をしていたことがある。そのとき,塾生たちと話して感じていたことが本作のお話の大元になっているという。
ほんわかとして,そしてやさしさにあふれた少年少女の会話を見ているうちに,心がほぐれていくような感覚を味わえそうな作品だ。
●きみのだめな日常
出展者:SevenCircle
ある日,あなたの前にメジェド神が現れる。そして「しばらくキミの日常を見せてくれ」と言ってきた。普通に断ったところ,メジェド神はあなたに呪いをかける。メジェドを喜ばせないと明日を迎えられないという,理不尽な呪いを……。
そんなバックグラウンドストーリーのある本作だが,ゲーム内容は横視点のタワーディフェンスという,いたってシンプルなもの。メジェドをはじめとするエジプトの神々や王をタップして戦場に投入し,オシリスら敵軍を倒していく。相手の本陣であるピラミッドを破壊すればステージクリアとなる。
作者のななまる氏(@SevenCircle70)によれば,「現状はメジェドとオシリスのみが実装されている状態だが,今後どんどんユニットを追加していく」とのこと。
ちなみに,勝利すると神聖文字で「勝ち」と祝福されるが,「本当にそういう意味の文字列なのですか?」と聞いてみると,「いえ適当です……」と教えてくれた。とても正直な人である。
●レトロゲームエイリアンズ
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深夜の住宅街で出会った女の子。彼女は持っていた携帯ゲーム機をあなたに差し出し「これ,クリアーしてくれませんか?」と言った──。
本作はアドベンチャーゲームだが,女の子にクリアを頼まれるのは,80年代のパソコンゲームを思わせる3本のタイトルだ。筆者にとっては,当時のPCショップやPC雑誌の広告などで見たような,少し上の「お兄さんたちの世界」がそこに広がっていた。
作中に登場する「妖精たちの街路」は,メーカー名が「JOUST」と,いかにも「あれかな?」といった感じ。どこか鳥にまたがって槍試合を始めそうな気もしてくる。
当時のPCタイトルを思わせる解像度と色数,そして昔のアドベンチャーゲームにありがちな理不尽さや唐突さもしっかり再現されている。次の展開に進む方法を探しているうちに,いろいろと考えてしまうような……。
調べるのが少し大変だったが,「黄金の墓」を元ネタにしていると思われる「王家の棺」 |
そんなホビーパソコン直撃世代にとっては懐かしく,ファミコン世代は少し背伸びをして垣間見たような世界を作り出しているのは,ベテランライターの戸塚伎一氏(@gtozka)であった。「そりゃ,80年代的なものの描き方の解像度が高いですよね……」と納得させられました。
●ウットイ3671
●D LIFE(デンシライフ)
出展者:マインドウェア
80年代前半から中期のアーケードゲームを思わせる作品を数多く手がけるマインドウェアからは,2本の作品が出展されていた。
「ウットイ3671」は,パソコン雑誌I/O(工学社刊)の1984年8月号で発表された伝説的アクションパズル「ウットイ」を大幅に進化させ復活させたもの。プレイヤーはブロックを出したり消したりできる主人公・TENTENくんを操作し,ステージ内のギミックを操作しつつ,敵やトラップを避けてゴールを目指していく。
目標はシンプルだが難度が高く,ステージをひとつふたつクリアするだけでもかなりの達成感を味わえる。しかも「『ウットイ3671』では,ヒロインのTELTELちゃんも登場するんです!」と,作者の市川幹人氏(@MickyAlbert)が教えてくれた。
原作では,TELTELちゃんはストーリー上だけの存在で,実際のゲームには出てこなかったらしい。そういうこと,昔はよくありましたね……。
BGMを担当するのは,小沢純子氏やWING☆氏,椎葉大翼氏と,想定するプレイヤーのツボを心得たメンバーが揃っている。
「D LIFE」は,画面内のドットに繁殖や消滅などのルールを与え,「疑似生命化」するライフゲームを応用した作品だ。
画面内にある色とりどりの「命」を,集合させたり拡散させたり,さらに風を当てるなどして,その動きを見守ることが純粋に楽しい。時間を忘れて,ついつい見入ってしまう自分がそこにいた。
USB MIDIデバイス「nanoKONTROL2」での操作にも対応しており,適当にボリュームやスライダーをいじって変化を見るだけでも楽しめるのだが,写真撮影でお題を達成するスコアアタックの要素も奥深い。
昨年リリースされた作品だが,会場では年齢や国籍を問わず,多くの人が足を止めてプレイしていた。
「出展者と来場者のためのイベントであり続けたい」岩崎氏が語る東京ゲームダンジョン5の感触と今後
本稿の締めくくりとして,東京ゲームダンジョンを主催する岩崎氏のミニインタビューをお届けする。氏をはじめとする東京ゲームダンジョンの運営側の考え方は,いわゆるイベントの運営というより,コミュニティを作り,繁栄させていく感覚にも近いところがあるようだ。
4Gamer:
初めて2フロアでの開催となりましたが,今回の感触はいかがですか。
岩崎匠史氏(以下,岩崎氏):
無事に盛り上がってくれて安心しました! 東京ゲームダンジョンは,あくまで出展者ファーストの考えで運営していて,みなさんの意見を聞いたり,会場の様子を見たりしつつ,毎回ブースの配置方法なども見なおしながら続けているイベントなんです。
2フロアにした理由ですが,どんどん出展者や来場者が増えていく中でも,ゲームを遊びやすい環境を保ちたいという理由が一番大きいです。場所が広く使えたこともあり,今回はゲームを遊ぶ人が移動しやすいように,各列の中央あたりに広めの通路を作ったりもしました。
4Gamer:
移動しやすく,どんなゲームがあるのかも確認しやすくて,取材するこちらも大いに恩恵を受けております(笑)。
岩崎氏:
ただ,今回読み違えてしまったのは,3階と4階の会場の混み具合です。これまでのゲームダンジョンの傾向から,アドベンチャーゲームの展示が多い4階から人を入れた方が,開場直後から会場全体に人が分散すると思ったんです。
それで4階に受付を設けて来場者に入ってもらったのですが,予想よりもはるかに4階が混雑してしまって。
4Gamer:
大行列ができていましたよね。
前編でもお伝えした「Buzz or Die」(サークル無関心)のブース |
こちらも終了直前まで列が絶えなかった「魔法少女ノ魔女裁判」(Acacia)のブース。この作品はクラウドファンディングを実施中だが,5月10日現在ですでに目標の6倍以上の額が集まっている |
岩崎氏:
事前にある程度は想定し,出展者側とも相談しつつブースの配置を調整していたのですが,少し甘かったですね。
4Gamer:
ただ出展者側からは,これまでいなかったタイプの人がゲームを遊んでくれたという声も聞こえてきましたので,いい影響も大きいように感じました。岩崎さんたち運営側は,現在も進行形でゲームダンジョンをビルドしているような感覚なのでしょうか。
岩崎氏:
それはありますね。ただ,イベントの規模をとにかく大きくしたいわけでもないんです。協賛してくださる企業さんがいることは大変ありがたいのですが,入口近くの人通りの多いスペースは物販などではなく,フライヤー置き場など出展者のために使いたいという思いがありますし。
今後も堅実に,出展料と入場料で賄えるよう運営していきますので,(出展日が決まっていることで)自分のゲームの締め切り代わりに使ってもらったり,まだ誰も知らないゲームを探しに来てくれると嬉しいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
恒例の寄せ描きコーナーも少し様変わり。出展者と来場者のイラストの量が同程度になってきた |
「東京ゲームダンジョン」公式サイト
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