プレイレポート
あまたの新作VRゲーム「オノゴロ物語 〜The Tales of Onogoro〜」試遊レポート&インタビュー。快活な巫女と協力して,荒ぶる“カミ”に挑め!
タイトルにある“オノゴロ”とは,イザナギノミコト・イザナミノミコトが最初に作ったとされる神話上の島のことで,和風伝奇とスチームパンクが融合した世界観が本作の特徴。「Last Labyrinth」同様,仮想キャラクターのパートナーとコミュニケーションを図りつつ,フィールドに仕掛けられた謎を解き,敵を撃退していく。
今回,本作のほぼ完成バージョンの第1章を試遊し,プロデューサーの高橋宏典氏から話を聞いてきたので,さっそく紹介しよう。
並行世界に召喚されたVRゲーマーが
巫女の少女と共に“カミ鎮め”に挑む
本作の舞台となるのは,並行世界にある日本とよく似た国で,時は大正時代。明治維新後に普及した蒸気機関と,古から伝わる“気”の文化が融合したこの国では,巨大生物「カミ」が定期的に顕現し,人々に大きな被害をもたらしていた。顕現したカミを鎮める手段は神職達による祈りや気の力を使った武術で,大神宮の祭主である巫女,コセ・ハルはカミ鎮めの第一人者とされている。
あるとき,聖地「オノゴロ島」に五柱ものカミが同時に顕現したことから,ハルはほかの神職数名と共に現地に赴くことに。しかしハルは,島で起きた“カミの騒乱”の首謀者であるアラキダ・マサタケに身体の一部と神具「天鹿児弓」(あめのかごゆみ)を奪われたあげく,「要石」に拘束されて社に囚われてしまう。
コセ・ハル |
アラキダ・マサタケ |
プレイヤーは,いつものように新作のVRゲームを遊ぼうとしたところ,VRヘッドセットを通じて偶然にも彼女の世界に召喚されてしまった,現代に暮らす普通のゲーマーだ。残されたわずかな霊力を振り絞って助けを求めたハルによって並行世界に召喚され,「奪われた身体と弓を取り戻し,カミを鎮めるのを手伝ってほしい」と懇願されたプレイヤーは,アラキダの野望を食い止めるため,ハルと共にカミ鎮めの冒険に出ることになる。
ゲーム中のパートナーとなるハルは,霊力を吸い取る要石に右足を鎖でつながれており,自分の力で自由に移動することができない。一方のプレイヤーは,召喚が不完全に終わったため実体を持たず,相手の声は聞こえるものの,自分の声をハルに届けられない状態だ。この世界に干渉できないプレイヤーが唯一,触れられる「陰陽銃」は気の力を扱う蒸気仕掛けの神具で,本作ではこれを駆使して謎解きや戦闘を行っていく。
陰陽銃の能力は2つあり,その1つがステージ上に点在する道祖神に向けてトリガーを引くことで気を吸い取り,もう一度トリガーを引いてそれを発射する能力。今回の試遊では,火属性の気を1発分だけ溜められたが,ゲームを進めると土と風の属性が登場し,同じ属性の気を最大2発,溜められるようになる。
そしてもう1つが,ハルを拘束している要石など,「ヒヒイロ石」でできているものに狙いを定め,トリガーを引くことでそれを持ち上げる能力。自分で移動できないハルも,プレイヤーが要石ごと持ち上げれば,運んであげられるのだ。
ベースとなるのは脱出ゲームで,要石を指定ポイントに運んでハルに仕掛けを操作してもらったり,怪しい場所に陰陽銃で気をぶつけたりして,進路をふさぐ扉や結界などを解きながら先に進んでいく。
また,ステージにはカミの眷属が出現し,こちらを攻撃してくるので,気をぶつけて撃退する必要もある。プレイヤーとハルは体力ゲージを共有しており,一方がダメージを受けるともう一方にもダメージが生じるため,自分だけでなくハルが攻撃を受けないように注意が必要だ。体力はプレイヤーとハルが両手を握り合うことで回復する仕組みで,2人で力を合わせて冒険しているという感覚を味わわせてくれる。
ゲームは章仕立てで進行し,各章の最後にはボスであるカミが出現。第1章に登場するカミ「コトアヤネ」は朱雀のような外見で,3つの止まり木を移動しつつ,上空からプレイヤーとハルを攻撃してくる。またハルを掴んで上空に舞い上がり,要石ごと地面に落とす行動も取るので,プレイヤー自身がコトアヤネの攻撃を避けるだけでなく,ハルが狙われていたら陰陽銃で助けつつ,隙を見て敵に気をぶつけなくてはならない。やるべきことが多くてなかなか大変だが,見事コトアヤネのカミ鎮めに成功すれば,奪われたハルの身体の一部を取り戻せる。
実際に遊んでみて感じたのは,本作がさまざまな点において「Last Labyrinth」と対照的に作られていること。まず,謎の屋敷が舞台となっており,全体に閉鎖的で陰鬱なイメージだった同作と比較すると,本作のマップは明るく,開放的だ。また,今回プレイした範囲がゲームの序盤だったこともあってか,謎解きもじっくりと考えることを前提にしていた同作と比べると,拍子抜けするくらいシンプルだった。
そして最も大きな違いが,プレイヤーが車椅子に拘束されて身動きが取れない状態だった「Last Labyrinth」にはない,アクション要素だ。とくにカミとのバトルでは,相手の攻撃を回避する方法や,弱点を見極めてこちらから攻撃を仕掛けるタイミング,敵に狙われているハルをどうやって救出するかなど,さまざまな要素を瞬時に判断しなくてはならず,攻略しがいのあるものになっている。
「Last Labyrinth」で掲げられていた「仮想キャラクターとのコミュニケーション」というコンセプトは本作にも受け継がれているが,控えめでアンニュイな雰囲気のカティアと違い,本作のパートナーであるハルは少々大げさとも言える身振り手振りで話しかけてくる,活発な女の子だ。手を握り合って体力を回復するというギミックも,最初は少し狙いすぎだと思ったが,実際にやってみると何となく気恥ずかしい感覚を覚えてしまい,開発チームにまんまとしてやられた気分になった。
「VRだから実現できる世界観」と「仮想キャラクターとのコミュニケーション」という,あまたのVRゲームにおける大きなテーマはそのままに,より万人受けするゲームに仕上がりそうな本作。「Last Labyrinth」の重苦しい世界観がちょっと苦手だったという人も,ぜひチェックしてほしい。
行動が制限されたプレイヤーとパートナーが
お互いに補い合うことで“つながり”を感じさせる
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず本作のコンセプトについてお聞きしたいのですが,「Last Labyrinth」と同じく,仮想キャラクターとのコミュニケーションに主眼が置かれているとのことですね。
高橋宏典氏(以下,高橋氏):
そのとおりです。我々のチームの強みはパートナーキャラとのコミュニケーションですから,それをアイデアのコアにして新しいゲームを作ろうと考えました。
4Gamer:
世界観や設定は,どのように考えていったのでしょうか。
高橋氏:
チームでアイデア出しをした際,候補に挙がったさまざまな世界観の中に和風のものがあり,かなり魅力的だったのでそれを採用したという流れです。
4Gamer:
開発期間はどのくらいでしたか。
高橋氏:
約2年です。「Last Labyrinth」の開発が終わったあたりから,「次はどうしようか」とチームでアイデア出しを始めました。
4Gamer:
パートナーキャラとの関わり方が,「Last Labyrinth」とは明確に変わっていると感じたのですが,それは意識的にやったことなのでしょうか。
高橋氏:
これは私自身のゲームデザインの癖のようなものなのですが,お互いに補い合うことで“つながり”を感じさせたいという想いから,プレイヤーとパートナーキャラの行動には,それぞれ何かしらの制限を持たせています。そのうえで本作では,両者の立場を逆転させることで,また違う形でのコミュニケーションを描こうと考えたんです。
4Gamer:
「Last Labyrinth」ではプレイヤーが車椅子に拘束されていて,本作ではパートナーのハルが要石につながれていますね。
高橋氏:
ええ。また,「Last Labyrinth」のカティアは言葉が通じないために謎めいた存在になっていましたが,ハルは普通に日本語でしゃべるので,それを踏まえてハルの人物像をストレートに描くということもやっています。
4Gamer:
実際に遊んでみて,ハルは身振り手振りを含め,全体的にカティアより動きが多いと思いました。
高橋氏:
そうですね。カティアには,寝起きの低血圧みたいなアンニュイさが(笑)。
4Gamer:
一方,ハルの動きには演劇やミュージカルの役者のようなイメージがあるというか。
高橋氏:
実のところ,そこは意識的にやっています。身体のパーツをあちこち奪われているとは言え,ハルは本来,武道の心得もある高い霊力を持った巫女で,カミ鎮めのためにしっかりと芯を持って動くキャラクターですから。
4Gamer:
逆に,ハキハキしたキャラクターを描こうとするなら,これくらい大げさに動かさないと成立しないのだろうとも感じました。
高橋氏:
そうなんです。ただ普通にしゃべらせると,棒立ちになってしまうシーンが多いんですよね。また,ハルは一歩間違えると本当に悲惨なだけのキャラクターになってしまいますが,今回,声優の南條愛乃さんにボイスをお願いしたことで,声の演技でも,逆境にへこたれず,明るく気丈に立ち向かっていく姿を描けたと思います。
陰陽銃を使ったさまざまな謎解きと
ギミックを見抜いて攻略していくボスバトル
4Gamer:
それでは,ゲームデザインについても教えてください。
これまでと同じく「パートナーと協力しながら謎を解く」ことを軸に,本作ではどういう体験をしてもらうか,というのを出発点に考えていきました。一口に謎解きと言っても,いろいろなやり方がありますが,「Last Labyrinth」の最初期のアイデアに「ゾンビが出てくる」というものもあったので,そこから「今回は敵と戦うのもいいよね」となっていったわけです。
4Gamer:
パートナーとの協力とバトルを両立させるのは,かなり難しかったのではないでしょうか。
高橋氏:
純粋なアクションにしてしまうとプレイヤーが1人で戦うものになりがちですから,いかにパートナーと協力しながら敵を倒していくか,チームメンバーでアイデアを出し合いました。とくにカミとのバトルに存在する固有ギミックのアイデア出しには苦労しましたが,バトルの基本となる“気”を使ったアクションが固まってからは意外とスムーズに進んで,ちょっと謎解きっぽい要素のあるバトルに仕上がったと思います。
4Gamer:
先ほど少しだけ遊ばせていただきましたが,ボスのギミックを見抜いて攻略していくようなバトルになっていると感じました。
高橋氏:
体験していただいたコトアヤネとのボスバトルも,最初はどのタイミングで気を撃てばいいのか分からないので焦りますよね。今回は第1章だったので,攻略はあまり複雑ではありませんが,後半に出てくるカミとの戦いではギミックが何ステップかあったり,プレイヤー自身が使わなければならないギミックが登場したりします。
4Gamer:
陰陽銃には,1回撃つと,もう一度気を溜めないと撃てないという制約がありますが,無制限に撃てるようにするアイデアは出なかったのでしょうか。
高橋氏:
確かにシューター好きのチームメンバーからは,「もっとバンバン撃てるほうがいい」という意見が出ました。ただ,それをやるとパートナーが置き去りになってしまうんです。それだったら,普通にシューターを作ったほうがいいなと。
4Gamer:
第1章では火属性の気を使えましたが,ほかの属性もありますか。
高橋氏:
風と土の属性があります。風の力で風車を動かしたり,土の球や立方体を生成したりが可能で,これらをうまく組み合わせてスイッチを操作するなどして,謎解きを進めていくわけです。また,陰陽銃も気を2発分溜められるようになり,火の気であれば威力が2倍になります。
4Gamer:
謎解きは「Last Labyrinth」よりも簡単だと感じました。
高橋氏:
「Last Labyrinth」の謎解きは脳を酷使するような内容でしたが,本作はそういったタイプではないですね。ある程度考えたり,試行錯誤したりすれば解けると思います。とは言え,後半になると気の属性や量の使い分けが必要になり,ギミックの種類も増えるので,どんどん複雑になっていきますよ。
4Gamer:
この先,登場するカミについても少しだけ教えていただけますか。
高橋氏:
第2章では「フツヌシ」という,力などを象徴するカミが登場します。巨人タイプでロケットパンチを撃ってくるので,それをどう防ぐかというのが攻略のポイントになります。もちろん謎解き要素やハルとの協力要素もあるので,期待してください。
4Gamer:
カミは,プレイヤーとハルのどちらを重点的に狙うのでしょうか。
高橋氏:
どちらも狙ってきます。そもそもプレイヤーとハルは体力を共有していますから,どちらが攻撃を受けても結果は同じなんです。
4Gamer:
今回,プラットフォームにMeta Quest/Quest 2を選んだ理由を教えてください。
高橋氏:
本作には,周囲を見回したり,敵を引き付けて避けたりするシーンが出てくるので,ケーブルレスかつスタンドアロンで軽快に遊べるQuest/Quest 2と非常に相性が良いと考えました。また,Quest/Quest 2は今や最大規模のVRプラットフォームになっているので,より多くの人に遊んでいただけるというのも理由の1つです。
4Gamer:
QuestとQuest 2とで,グラフィックスやパフォーマンスに差はありますか。
高橋氏:
ええ。Quest 2のほうがグラフィックスが綺麗になります。
4Gamer:
それは嬉しいですね。将来的に,ほかのプラットフォームでリリースする予定もあるのでしょうか。
高橋氏:
現在検討中です。理想はすべてのVRプラットフォームで同時にリリースすることですが,人的リソースなどさまざまな事情で,どうしても優先順位を決めなければならず……。これについては,続報をお待ちください。
「Last Labyrinth」とは違う
VRならではの新しい表現に挑戦
4Gamer:
少し,前作「Last Labyrinth」の反響についても教えてください。世界中からさまざまな声が寄せられたと思うのですが。
いろんな意味で尖ったところのあるゲームですから,賛否両論というか,意見が両極端に分かれました。すごくハマッた方からは「没入感が高い」「謎解きがハードなぶん,解けたときの達成感がある」といった感想をいただきました。
逆に「VRゲームでは,自由に歩き回りたい」という方の評価は,プレイヤーが動けないところに不自由感を覚えるという理由で,評価が下がる傾向にありました。
4Gamer:
どちらの意見も,よく分かります。
高橋氏:
もう1つはカティアの扱いですね。とくに海外では,予想以上にセンシティブに受け止められて,リリース後にIARCのレーティングがどんどん上がるという事態になりました。実際には流血や人体損壊といったゴア的な表現は一切なく,すべて寸止めで表現しているのですが,「過激な暴力が描かれている」という申告が相次いだみたいです。
4Gamer:
見えていないだけで,このあとカティアが酷い目に遭うことが容易に予想できるような演出でしたからね……。
高橋氏:
カティアの見た目が幼い少女だったこともあって,海外の皆さんにとっては非常にショッキングだったようです。SNSでは,実際に残酷なシーンを見たと錯覚してしまった方の投稿もありました。逆に,「ゲームデザインもユニークだし,表現もユニーク」といったように,尖った部分を評価してくださった方もいましたが。
4Gamer:
そうした評価を踏まえて,「オノゴロ物語」の世界観や設定が生まれたのでしょうか。
高橋氏:
踏まえた部分も,そうでない部分もあります。「Last Labyrinth」において,カティアとプレイヤーの死は純粋にゲームデザインの上で必要でしたが,「オノゴロ物語」はまた違います。前作は前作でやり切りましたし,それだけリアリティを持って受け止められたことにはクリエイターとして手応えを感じていますが,本作では「パートナーキャラとのコミュニケーション」という我々の強みを活かして,まったく違うVRならではの表現にチャレンジしています。
4Gamer:
では最後に「オノゴロ物語」に注目する人へのメッセージをお願いします。
高橋氏:
QuestやQuest 2をお持ちの方は,ぜひ「オノゴロ物語」でハルとの冒険を楽しんでいただけたらと思います。お持ちでないという方にとっても,Quest 2を買って遊ぶだけの価値のあるゲームに仕上げました。パートナーキャラクターと協力しながら攻略していくVRゲームはまだまだ数が少ないので,ぜひ遊んでみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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(C)AMATA K.K.