インタビュー
目黒将司×マフィア梶田。メガテンやペルソナのサウンドを生み出してきたクリエイターの独立と新たなる挑戦を独占インタビュー
言うまでもないが,目黒氏といえば同社の「真・女神転生」シリーズ,「ペルソナ」シリーズなどで楽曲を手がけてきたサウンドクリエイターだ。RPGの戦闘BGMに歌ものを取り入れるなど,その類いまれなるセンスと発想力でゲームサウンド界隈をリードしてきた人物であるだけに,この発表に対して,多くのファンからのどよめきと声援が贈られた。
今回の独立については円満退社であり,今後もアトラスタイトルの作曲には個人として協力していくとのことだが……しかしなぜ,いきなり独立なのか? その理由はただ一つの純粋な願望。
“自分だけのゲームを作ること”にあったのだという。
目黒氏は独立発表から間を置かず,インディーズゲームの祭典「INDIE Live Expo Winter 2021」で,Steam向けに配信予定の自作ゲーム「GUNS UNDARKNESS(ガンズ アンダークネス)」を出展することを明らかにした。
聞くところによると,同作は“16年越し”となるゲーム企画であり,ここ数年間は目黒氏がたったひとりでコツコツと開発してきたという。
……といった話を実は,筆者・マフィア梶田は以前からご本人に聞かされており,ひっそりと応援する関係性にあった。そのようなつながりもあって,世間に独立が公表される半月前,目黒氏に今に至る経緯や開発中のゲームについてじっくりとお話を聞く独占インタビューが実現した。
本稿ではひとりの男の人生の転機。“新人ゲームクリエイター”としての目黒氏の姿をお届けしよう。
すべては自分のゲーム作りのために
マフィア梶田:
すっかりご無沙汰しております,目黒さん。本日はお時間いただきありがとうございます。さっそくですが,読者も気になっているかと思うので,最初にズバリ聞きますね。
今回どういった経緯で,アトラスからの独立を決めたのでしょうか?
目黒将司氏:(以下,目黒氏)
けっこう長い話になりますよ?
マフィア梶田:
それが聞きたくて来てるんですよ!
目黒氏:
分かりました(笑)。僕は1996年にアトラスさんへ入社しまして,それから作曲を中心にゲーム作りに携わってきました。
そんななか,当時はゲームの企画書を作ったり募集したりという社風があまりないにも関わらず,僕は空気も読まず自主的に,年間2〜3枚くらい企画書を書いて提出していたんです。それもクソみたいな企画書を。
マフィア梶田:
クソかどうかはともかく(笑)。ゲーム開発には,もともとかなり積極的な姿勢で臨んでいたんですね。
目黒氏:
そして今回の独立話の大本は,2005年からはじまります。
そのころの僕は,まだ性懲りもなくゲームの企画書をペライチで作っていて,ある企画を考えつきました。仮タイトルは「*****(某スニーキングアクション)RPG」ってもので。
マフィア梶田:
あ〜らら(笑)。でも企画としてはわりと正解なんですよね。
タイトルだけでゲーム内容がなんとなく伝わりますから。
目黒氏:
まぁ当然,恥も外聞もない企画で(笑)。この企画自体はある程度まで開発が進んだのですが,さまざまな事情から結局,日の目は見られませんでした。そして2016年ごろのこと。当時はゲームエンジンの「Unreal Engine」が話題になっていて,興味本位で触れてみたら,意外と自分ひとりでもゲームを作れてしまうことが分かったんです。
そこで「これならいけるかも」と知識ゼロの状態から1年半かけて制作環境を学び,RPGのシステムを構築し,社内で使えるアセット(※)でキャラクターなどを配置して,プロトタイプを完成させました。
※アセット:ゲームの外見や内部を構成するテクスチャ,モデル,スクリプトなど,すでにできあがっているゲーム制作のための素材
マフィア梶田:
数々の名曲を作り上げるかたわらでそんなことまで。
それから,どう動いたんです?
目黒氏:
再プレゼンしたのですが残念ながらうまくいかず。ただ,そこで熱意を買ってもらえたことで,僕がプライベートでゲーム作りをするのは個人の自由だから構わないと言ってもらえました。しかし,そうやって線引きをするとアトラスさんの素材や,以前の開発で制作が進んでいたリソースは個人利用にあたり使えないので,どうしたものかと思案していて。
この際,コンセプト以外のシステムからシナリオからなにから,イチから全部自分だけで作ろうと。それを決めたのが2017年ごろでした。
マフィア梶田:
目黒さんがシナリオを!?
目黒氏:
ええ。そうしてひとりで再スタートを切って,ようやくゲームとしての形が見えてきたのが2020年です。当初はフリーゲームとして公開することも考えていましたが,昨年の10月ごろ,講談社さん主催のゲーム開発者支援プログラム「ゲームクリエイターズラボ」に軽い気持ちで応募してみたところ,最終選考まで残り,別の道が見えてきました。
マフィア梶田:
講談社のサポートを受けてリリースする,ということですね。
目黒氏:
はい,そうです。
マフィア梶田:
一大決心ですね。目黒さんはもはやアトラスのサウンドクリエイターとして確固たる地位を確立されていますけれども……それでも独立を選ぶくらい,ゲーム作りに対する熱い想いを持っていたんですね。
目黒氏:
ゲームを作りたいという気持ちは,この業界に入る前からありました。「自分が考えた最高のゲームを作りたい」という願望は,ゲーム開発に携わっている人ならば少なからず持っているはずですし。
マフィア梶田:
それも16年間,練り続けてきた企画ですからね。まさに執念とも呼ぶべき挑戦ですし,途中で諦めていないというのも本当にすごいことです。
目黒氏:
企画が動きはじめるずっと前から「この作品を作り続けられるようなら,僕のライフワークにしたい」という気持ちがありましたので。
まぁ,集団でのゲーム作りだと,さきほどの某スニーキングアクションでも,開発中止には僕の能力的な限界も大いにありまして(笑)。これまでも移植関係のゲームディレクションを担当させてもらったことはあるのですが,サウンド畑の人間だったのもあり,人を束ねるゲームディレクターとしての才が薄かったのは自覚しています。
マフィア梶田:
ほう。それは具体的にどういったところが。
目黒氏:
周囲の人によく言われるのは「目黒さんって頼むの苦手ですよね」です。そうして僕でできることをやってしまった結果,みんなのやりたいことをさせてあげられなかったことに申し訳ない気持ちを抱いたり。
マフィア梶田:
なんとなく分かる気がしますね。ディレクターという仕事は,そのあたりをドライに判断できる人が向いているんだろうなと。しかし,目黒さんの人柄なら,みんな信頼してついてきてくれそうな気も。
目黒氏:
いやぁ,これはあくまで僕の印象なんですが,下についてくれる人たちが「目黒さんはサウンド畑の人間だから,ゲーム的なレベルデザインなんかは俺たちががんばらないと!」という風に考えてくれちゃうのでしょう。みんなが良かれと思ってやってくれているのは分かっているのですが,僕の考えている方向性と異なったときにうまく相手に説明したり,否定したりできなくて……要はダメ出しできない上司なんです。
でも,そこをコントロールできないことには結局,ディレクターとしてはうまく機能しないわけで。
マフィア梶田:
なるほど。チームプレイではなく個人競技にハマる性質なのかもしれませんね。とはいえ,ひとりでゲーム開発は過酷ではないですか?
目黒氏:
大変ではありますが,まったく苦じゃないです。仕上がりがどうであれ,すべての作業を自分自身で楽しめるのが最高です。まぁ僕は飽きっぽいほうなので,2か月くらいモデリングをやって「あ〜飽きたぁ」となったら,次の2か月はレベルデザインをやったりしていますが。
マフィア梶田:
そうやって多種多様な業務をローテーションしているわけですか。
本当に,ゲーム制作に関わるすべてを楽しまれているんですね。
目黒氏:
はい。独立を決めるまでの日々も,朝起きて,2時間くらいゲームを作って,それから会社に行く。そんな生活サイクルでしたし。
マフィア梶田:
日常のルーチンに組み込まれている。ちなみに,そのようなゲーム作りに興味を抱くようになったのはいつごろからなんですか?
目黒氏:
最初は小学校6年生のときでしょうか。「8ビットパソコン」がはやっていて,本体は親に買ってもらえたものの,テープレコーダー(ゲームカセットなどに相当)はなかったので,本体でプログラムを打つしかなかったんです。そのときプログラムの面白さに気付いて,「自分にもゲームを作れるんじゃないか」と思い込み,いざ車のゲームで車を動かそうとしたら難しくて諦める……みたいなことを何度も繰り返していましたね。
マフィア梶田:
そこでプログラムが面白い,と思えたのは大きいですね。
目黒氏:
次は中学2年生のときに「ポケットコンピュータ」がはやりまして,あれはシステムの規模が小さかったのでゲームも比較的簡単に作れました。それで自分用にゲームを作っていたら,塾の友人に「なんか見せてよ」と言われて,なんとなく「ゼビウス」を作ってみたんです。
マフィア梶田:
ゼビウスって,あのゼビウスですか?
目黒氏:
あのゼビウスです。といっても画面に8×5ドット以内のキャラを最大四つくらい表示させて,それで自機や,ボスもアンドアジェネシスを表現するだけのものでしたが。なのに友人は「おもしれー! ゼビウスじゃん!」と喜んでくれて。たぶん,そのときのうれしかった気持ちが,僕にとってのゲーム作りの原体験になるのかもしれません。
真実の愛を人類が知る,革新の物語
マフィア梶田:
すばらしい友人との思い出があって,ゲーム作りに目覚め,アトラスに入社し,企画書を出しまくるようになると。当時,目黒さんの考える企画には特定のジャンルというか,決まった方向性はあったんですか。
目黒氏:
いえ,まったくバラバラです。例えばWiiのころは「Wiiリモコンの先端をプレイヤーに向けて置きっぱなしにして,足に赤外線を発するなにかを装着して遊ぶサッカーゲーム」とか考えてました。
要は,リモコンをコントローラではなく,プレイヤーの動作を感知する設置カメラとして利用しようと思ったんです。
マフィア梶田:
その話からすると目黒さんはジャンルを問わず,とにかく思いついたものを形にしてみたいタイプなんですか。
目黒氏:
ですね。僕が今こうして作っている「GUNS UNDARKNESS(ガンズ アンダークネス)」も,銃やハードな世界観だったりと好みな要素はあったものの,企画の根幹は「アトラスのRPGは神話題材が主流だから,違う方向性も」と思ったからで,単にそれまでと異なる雰囲気のRPGはどうですかと提案したものでしたし。
マフィア梶田:
企画というのはスタート時点からその形をどんどん変え,最終的に原型がなくなることも珍しくありませんが,GUNS UNDARKNESSの場合はいかがですか。なにを“核”として開発しているのでしょう。
目黒氏:
ペライチで書いた当初は,極細い芯が1本あるかないかくらいのものでしたが,実際に開発がスタートした時期に,周囲の意見を吸収しながらもブレないように意識したのは「銃で戦うRPG」の一点です。
極論そこさえ守ることができれば,あとはちょっとHな美少女がいっぱい出ようが構わないと思っていました。
マフィア梶田:
目黒さんが作るちょっとHなRPGも気になりますけど(笑)。
それはさておき,銃で戦うRPGならば該当タイトルはいくつかありますし,メガテンやペルソナでも武器としての銃が登場しますよね。目黒さんは銃器を主題にして,どのような方向性を目指したのでしょう。
目黒氏:
前提として,RPGを作るにあたり僕がまったく新しいシステムを生み出すのは無理です。なので,方向性としてはメガテンやペルソナを目指そうとしました。これらは長年開発に携わってきた僕にとって“ターン制RPGの概念”そのものですし,RPG作りにおける言語化されていない血肉のようなものとなっていて,深く影響を受けているからです。
マフィア梶田:
となると,仲魔やペルソナの代わりに銃を使い分けたり,銃同士で相克関係があったりと,ゲーム全体で銃の存在感を高めるようなRPGに?
目黒氏:
そうです。例えば悪魔合体にあたるシステムとして,素材などから銃を作る機能も考えています。
マフィア梶田:
バランスさえうまく整えられれば面白くなりそうですね。
ならば世界観はどうでしょう。現状は軍事要素が強めな近未来SFという印象ですが,となると考証などがかなり面倒くさそうな……?
目黒氏:
企画当時の自分の好みに寄せた世界観ではあったものの,軍事の専門知識には乏しかったため「まずはサバゲーをやろう!」と,そのころからサバイバルゲームをはじめました(笑)。そこで周りの人たちから銃のこだわりなどを聞き,素養を身につけていった感じです。
それと昔から戦争映画が好きだったので,予備知識はあるほうです。
マフィア梶田:
戦争映画ですか! どの時代の?
目黒氏:
ベトナム戦争モノをよく観ますね。
好きなタイトルを挙げるならば,ベトナム戦争前期モノの「ワンス・アンド・フォーエバー」,中後期モノの「ハンバーガー・ヒル」です。
マフィア梶田:
GUNS UNDARKNESSの作風もそれらからの影響が大きいのですか。
目黒氏:
いやー,数々のすばらしい戦争映画は,僕のゲーム作りの観点では手が届くような領域じゃないので。参考にはさせてもらっていますが,影響を受けていると言うにはレベルが違いすぎておこがましいです(笑)。
マフィア梶田:
それではご自身で書いているシナリオについては。
これまでシナリオを学ぶような機会はあったのでしょうか。
目黒氏:
ないです。
ただGUNS UNDARKNESSのシナリオは,銃で戦うRPGというコンセプトと同じくらいゲームの核になると考えていて,講談社さんから「この作品において目黒さんが譲れない部分はなんですか」と聞かれたときも「物語のオチです。絶対に変えたくない」と返したくらい大事にしています。
マフィア梶田:
気になりますね。どのようなテーマを込めたのでしょう。
目黒氏:
テーマは企画段階から今現在まで,ずっと変わらず。
「真実の愛を人類が知る,革新の物語」です。
マフィア梶田:
真実の愛……ですか。壮大ですね。人類の革新というのは,ガンダムにおけるニュータイプ周りのお話みたいな?
目黒氏:
例えるなら「プラネテス」とか「ヴィンランド・サガ」とか。それと梶田さんが言ったのも近いですね。なぜなら僕がこれを書きたかった理由は「機動戦士ガンダム」が大好きだからです。あとは「スター・トレック」も。こちらは人類が革新しきったあとの物語で,さまざまな社会問題が解決された世界なんですが,作中ではそれらをどのように解決したかがしれっと触れられる程度で,詳細は分からない構造となっています。
ならば,その革新に至るまでの中間を描いてしまおうと思いまして。
マフィア梶田:
失礼ながら,シナリオ初心者が挑むには困難すぎるテーマじゃ……!?
目黒氏:
まさにそのとおりで(笑)。だからシナリオに関しては長い年月,構想はあれど執筆は無視して,システム面の制作に力を注いでいたんですよ。だけど現行のプロトタイプを作り終わった日,会社帰りのことです。
駅までの帰り道で,急に「お……おぉっ? これだ!?」と閃きまして。その日のうちにエンディングまでのプロットを書き上げました。
マフィア梶田:
どんな物語が降りてきたのか。ここで根掘り葉掘り聞いてしまいたいですが,さすがにゲームを楽しみに待つことにします(笑)。
あと銃のRPGだと,設定面も「剣と魔法のRPG」とは違う工夫が求められますよね。戦闘時のスキルとか,どう表現すべきか悩みそうですが。
目黒氏:
そのあたりも長年アイデアを積み重ねてきましたが,実感として確かに,剣と魔法のRPGよりもバリエーションは出しづらい気がしています。それでも「敵の命中率を下げるスモークグレネード」など,近代兵器をRPGのギミックに置き換えていけば,ひねり出すことはできますね。
マフィア梶田:
現実と地続きの近未来を描くのであれば,なおのこと設定に説得力を持たせるのは大切ですものね。
目黒氏:
作中の舞台はいわゆる“ポスト・アポカリプス”な2045年で,登場人物たちは特殊な銃器とボディスーツで戦いを繰り広げます。言ってしまえば,ガンダムの「ミノフスキー粒子」みたいな新物質が発見されて戦争の形が変わった世界です。そこでは,圧力を与えるとエネルギーが発生する新物質をスーツに流用し,表面に硬化現象を生むことで銃弾を貫通させずに受け止める。それと同時に,生身では扱えないような兵器でも硬化状態であれば使用できる。つまり,すごいスキルが発動できるようになるという感じで,これまでのゲーム作りで学んできた方法論を生かし,世界観とシステムをかけ合わせても破綻のない雰囲気作りを意識しています。
マフィア梶田:
興味深いですね。HPの回復手段にもアイデアはあるのでしょうか。
目黒氏:
回復は「熱でヒートアップした身体を冷却=HP回復」という概念としましたが,問題は絵面です。仲間が冷却スプレーを「シューッ」とかける構図だと,きらびやかな回復魔法と比べてどうにもシュールで……。
このあたりは今現在も試行錯誤中です。
マフィア梶田:
ちなみに,このインタビューの前にデモ版を遊ばせてもらいましたが,ガンマニア的にどうしても気になることが。舞台が2045年なのに,作中に登場する銃が旧世代のものばかりでしたよね?
目黒氏:
そこには作中の歴史がありまして。端的に説明すれば,ボディスーツが新技術で強固になるにつれ,武器もまた威力の強化が必要とされました。そうしてスーツがまた強化され,追って武器もまた強化されと,この世界ではイタチごっこが続いています。その結果,銃の開発事情も逼迫し,やがて新型をデザインするよりも,既存の銃で強装弾を使用できるよう内部構造をコーティングする方向に舵が切られました。なので僕らが知っているような古い銃が,2045年でも現役で活躍しているわけです。
見た目はなじみ深くても,中身はほとんど別モノなんですよ。
マフィア梶田:
面白い! 個人的にはとてもツボな設定です。
目黒氏:
そういうことを考えるだけの時間はたくさんありましたので(笑)。
かといって,ゲーム内でそれらの設定をバーッと説明するつもりはありません。あくまで設定資料のようなものだと思ってください。
マフィア梶田:
ゲーム全体を3D設計にした理由も聞いてみたいですね。
RPGであれば,2Dで表現する方向性もあり得たと思いますが。
目黒氏:
フォトリアル寄りな3D設計にした理由としては,Steamでリリースされている3DRPGにオーソドックスなJRPGスタイルのものがあまりないから,それが個性になるんじゃないかと考えてのことです。しかし,本命は制作上の問題でして。まずドットなどの2D表現は僕に知識がないから難しく,トゥーン表現についても絵心がないから,そもそもなにが悪くて,どうすると良くなるのかが理解できない。だから作りようがない。
その点,フォトリアルな3Dは「リアルに見えるか,見えないか」の一点で判断できますよね? 構造体への理解や細部の作り込みなどは当然プロに敵いませんが,素人でも最低限の,良し悪しの判断はできる。それゆえのフォトリアル寄りな3Dというわけです。
マフィア梶田:
自分にできることを判断したうえでの3D,ということですか。
しかし,リアルを追求するとなると現代のゲームユーザーはリッチなグラフィックスに慣れているから苦労しそうですけどね。
目黒氏:
そこはアセットのパワーに助けられています。もちろん,プレイヤーの方々に「これアセット並べただけじゃん」と思われてしまうかもしれませんが,そこは目をつぶってください(笑)。まずはゲーム自体が面白いかどうか,そのうえでアセットを含めてオリジナリティを感じられるかどうかを見てもらいたいと願っています。
いちおう,キャラクターデザインやモデリングなど,既存のもので済ませたくないリソースについては外注し,ワンオフで作ります。頼む相手のめどもついていて,モデリングはすでに何体か発注しています。
マフィア梶田:
ところで,デモ版を遊んでみて驚いたことがもう一つ……現状ではゲーム内に「音楽」がまったく実装されていませんよね? 目黒さんのゲームなら真っ先にそこが完成していてもおかしくないのに,なぜ?
目黒氏:
やっぱりそう思いますよね(笑)。その理由としましては,たぶん僕が自作ゲームでプログラムやモデリングに手を出していても,ゲーム開発者としては本業じゃないから誰も気にかけないじゃないですか。その反面,手前味噌ですが,音楽となると話が違ってきてしまう。現段階でそこを魅力としてアピールしてしまうと,アトラスでのお仕事と競合してしまう可能性があり,また今は独立自体の発表前(※)とあって,関係各所にどのように受け取られるかも分かっていませんので。
音楽をウリとすること自体が誰かの迷惑にならないよう,現状は制作・実装を後回しにしてきたんです。
※インタビュー収録日:2021年10月19日
マフィア梶田:
なるほど。アトラスへの配慮だったんですね。てっきり「音楽はいつでも作れるからな!」という理由で後回しなのかと(笑)。
目黒氏:
そういう気軽さもなくはないですね。自分だけの作品だからこそ全体像を見通せていて,音楽もどういう曲,どういうジャンルにするかはすでに決めているので。あとはメロディーをひねり出すだけですし。
ちなみに,一曲だけなら仮歌がありますよ。これです。
(「GUNS UNDARKNESS」オープニングテーマの仮歌を再生)
マフィア梶田:
ちょ……この仮歌,Lotusアニキ(※)じゃないですか! めっちゃカッコイイ! 曲を聴いただけで作品の解像度が一気に上がりましたよ!
※Lotusアニキ:歌手のLotus Juice。「ペルソナ」シリーズの楽曲を数多く担当しており,また目黒氏とはプライベートで友人関係にある
目黒氏:
ゲームを作る人って,なんだかんだ得意分野があってズルいじゃないですか。だから僕も1個くらいズルいやつ持ち込まないとって(笑)。
50歳のゲームクリエイター1年生
マフィア梶田:
GUNS UNDARKNESSの全体のボリュームはどれくらいになりますか。
目黒氏:
プレイ時間は20時間強を想定しています。物語は核戦争前のプロローグ「フェイズ0」からはじまり,核戦争後のフェイズ1からフェイズ6までが本編,フェイズ7がエピローグに位置します。
現状,ゲームとして完成しているのはまだフェイズ0だけですが,以降も着々と手をつけていく算段です。
マフィア梶田:
リリースはフェイズごとではなく,完成後に丸ごとでしょうか?
目黒氏:
そうです。今年いっぱいは空いた時間をゲーム作りに注いで,2022年内のリリースを目指します。まぁ,講談社さんのスケジュールには2023年内リリースと書いてあり,「むむむ!」となりましたが(笑)。
マフィア梶田:
いやいや,釈迦に説法でしょうけど,なにが起きるか分からないのがゲーム開発ですからねぇ。完成後のデバッグにも時間は必要でしょうし。
目黒氏:
QA(品質管理)はパブリッシングしていただける会社さんが決まってから,そこにお願いするつもりです。ただ,多くの人にデバッグしていただいても,修正に対応するのは僕ひとりですからね……。
マフィア梶田:
そこなんですよね。でも,目黒さんはたったひとりでゲーム作りに挑むことに楽しさを感じているんですよね。
目黒氏:
はい。気の早い話ですが,次回作もすでに構想していて,これからもゲームを作り続ける気でいますが,今のところ自分の開発チームを作りたいという欲求はないです。でも,3年後や4年後にどうなっているかは分かりません。ひとりでやり続けているのか,その時代に合わせたゲーム作りをしているのか。すべては今回次第ですが。
それと,僕が独立まで決めたのは「全部に愛を持てる作品を作りたい」と思ったからです。もちろん,これまでの仕事にも愛を注いできましたが,ゲームは分業制なので「みんなの愛の一部を共有し,補い合っている」ものでした。それゆえに全体の9割を愛していても一つや二つ,分からないことがあったりするんですよ。例えば,こういう場でメガテンのシナリオについて話を聞かれても,僕は担当外だから答えられないですよね? だからこそ,ひとりでゲームを作り,僕だけが責任を持って,ゲームのすべてについて答えられるようになりたかったんです。
マフィア梶田:
さて,これまでは正体も伏せて,ある意味では気楽にゲームを作っていたとも言えるわけですが。ゲームクリエイターズラボの後押しもついて,独立発表によって身上も世間に公表される。一気にプレッシャーも増えて責任が重くなるわけですが,覚悟のほどはいかがでしょう?
目黒氏:
もう逃げられないですよね。とはいえ,ゲームクリエイターズラボは開発者に1千万円の援助金を助成する施策ですが,僕はそれをもらっていないんですよ。特別賞の賞金50万円以外,ぜんぶ自費。だからそこまでの責任はないんじゃ……と言ってはあんまりですが(笑)。
やるしかないという気持ちでがんばります!
マフィア梶田:
ありゃ,援助金もらわないんですか!?
そうなると開発資金を稼がなくちゃですね……。
目黒氏:
本当に開発資金次第なところはあります。例えばボイスは声優さんにお願いしたいのですが,こういうあと1歩上のクオリティを目指すためにクラウドファンディングで開発資金を募ることも検討しています。
ただ,基本はひとりで作りたいですし,万が一にも予想以上のご支援をいただいてしまうと嬉しい反面,ディレクションの舵取りでやきもきするかもしれないので,大規模な集め方ではなく「あの〜声優さんを使いたいんですが〜,これぐらいの金額ではいかがでしょう……?」ってくらいの温度感で,自分の手に負える範囲に収めていきたいです。
マフィア梶田:
やり方を考えないと,使い道やリターンに困ることになりそうですからね。それにしても,目黒さんの名前が出てしまうと,ファンはどうしてもA級タイトルに向けるような期待を持ってしまいそうな気が。
目黒氏:
いやいやいやっ! これはマジで声を大にして伝えたいのですが。
インディーズの処女作なので期待しすぎないでください(笑)!
マフィア梶田:
それをインタビューで言っちゃいますか(笑)。
目黒氏:
言いますって! 講談社さんからもデモ版のフィードバックをいただくんですが,設定したハードルが食い違っているのか「インディーズでそのクオリティを求めるんですか……?」みたいな部分があったりと。
本当に,今回はあくまで「50歳のゲームクリエイター1年生が,ヤキモキしながらひとりでゲーム作ってるよ」ってだけの話でして。本気でがんばってはいますけれど,過度に期待させてしまうのが申し訳なくて。
マフィア梶田:
それを伝えるのが俺の役目ですから,ご安心を(笑)。
目黒さん的には,これまでのサウンドクリエイターとしてではない,ゲームクリエイターとしての第一歩。まずはどういう作品を作るのか,方向性だけでも知ってもらえれば十分なんですよね?
目黒氏:
そうです。ついでに付け加えるのなら,作曲家で50歳の僕が長年いた会社を辞めて独立し,そうまでしてやることがひとりで自分のゲーム作りっていうのは……梶田さん,ビックリしたでしょ?
マフィア梶田:
そりゃしますよ(笑)。個人でゲーム制作をしてるのは知ってましたが,そのために独立までするとは思いもしませんでした。
目黒氏:
それです。昔からずっと,常にやりたかったのがそれ。代表例だと「ペルソナの戦闘曲が歌もので驚いた? でも意外と合ってるでしょ?」みたいな。僕の創作の根っこには,いつもそういう“誰かに驚いてほしい”という気持ちがあって,今のゲーム作りもまさにそれなんです。
作品の出来の前に,とりあえずビックリしたでしょ? って(笑)。
マフィア梶田:
ああ納得です。考えてみれば,確かに目黒さんらしいですよね。
それではあらためて,デビューしたての“新人ゲームクリエイター”として,これからの未来に向けて目黒さんがどのようなビジョンを持っているのか,今一度お聞かせいただけますか。
目黒氏:
GUNS UNDARKNESSでは,今の僕なりの“真実の愛”を描きます。
ですが,それが絶対の解になるとは考えていないので,今後も同じテーマを違う角度で描いていくのかなと考えています。
マフィア梶田:
それがゲームクリエイターとしての目黒さんの芯になるんですね。
目黒氏:
とはいえ,それをしたい理由は,僕が勝手に「これどう思います?」って問いかけるだけで,答えを見つけたいとか,誰かに押しつけたいって気持ちはなくて。とにかく自分がやりたいことをやるってだけの話なんです。自分勝手に聞こえるかもしれませんが。
マフィア梶田:
いえ,つまるところそれが作家性じゃないでしょうか。
まぁゲーム業界の人としてはもっと,多くの人に遊んでほしい,売れてほしいという願望が強くてもいいような気はしますが(笑)。
目黒氏:
もちろんリアクションはほしいですし。悪い感想よりも良い感想がうれしいです。ただまぁ結局,まだ自分に自信がないんですよね。
なんなら「この程度のゲーム,目黒が作れるんなら,俺にもできんじゃね?」と思ってもらいたいです。そういうゲーム作りなどの創作にチャレンジしてもらえるきっかけになれれば,めちゃくちゃうれしい。
マフィア梶田:
ご自身のように無謀な挑戦者を増やしたい?
目黒氏:
そうそう(笑)。触発したいとまで言うとナマイキですが,ゲーム業界に関わる方々のなかには,自分のゲームを作りたいけど,仕事終わりで疲れてるし,夜はお酒を飲んでダラダラしたいし,朝は早起きせずギリギリまで寝てたいしと,そんな日々を過ごしている人も多いはずです。
でも,そういった生活のなかでも“一つやめれば,一歩踏み出せる”と知ってほしい。怠け者の僕にだってできたことです。
マフィア梶田:
今回は独立前,かつゲームの発表前というのでここで一区切りとなりますが,ファンから多くの反応が得られるであろうゲームのリリース後には,ぜひまたお話ししたいですね。本日はありがとうございました!
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