インタビュー
ゲーム機の復権なるか――PlayStation 4の国内販売が遅れる理由,そしてサプライズ発表されたPS Vita TVについて,SCE WWSプレジデント・吉田修平氏に話を聞いてきた
PlayStationプラットフォームの存在意義
4Gamer:
今回のPS Vita TVの発表でも改めて感じたのですが……PlayStationプラットフォーム全体のあり方というか,大枠の戦略みたいなものって,今はどういった形で意思決定をされているんですか?
吉田氏:
意思決定,ですか?
4Gamer:
はい。失礼な表現かもしれませんが,ふつうこの規模の会社になると,いろいろとちぐはぐな展開になりがちですよね。けれど昨今のPS Plusの展開や各ハードウェアのポジショニングを見ていると,筋が通っているように見えると言いますか……。
ありがとうございます(笑)。それは,SCEという会社のカルチャーが良い形で出てきた結果かもしれませんね。今となってはSCEも大きな会社になってしまったんですけれど,元々は――それこそ初代PSの頃は――本当に少人数で物事を決めていた組織でした。まぁ,PSの頃は久夛良木さんが一人でガーンと決めていたりだとかもしたんですけれど(笑)。元々そういう文化がある会社ですから,少人数で物事を決めるのは本来は得意なんですね。とくに平井がソニーの社長になってからは,ソニー本社の方々も含めてスピーディなやりとりができるようになりました。
4Gamer:
その意味でいうと,PS Vita TVって,昨今たびたび話題に上がるスマートTV的な方向性――Apple TVだとかAndroidベースの機器だとかも含めた――に対するソニーの一手とも言える製品ですよね。ゲームとはちょっと話題がずれるかもしれませんけど,例えば,AppleやGoogleにどう対抗していくのだろう?という見方をしたとき,やっぱりPlayStationというプラットフォームは,ソニーグループの戦略の柱として,大きな役割を期待されているんですか?
吉田氏:
一つの一貫性のあるサービスをいろいろな機器で享受できるというのは,我々がどうこうというよりは,むしろお客さんが求めている,あるいは時代が求めているものだと思うんです。我々としては,これまで実現できなかったこともたくさんあると思っているし,実際,たくさんの方にお叱りを受けながら,一所懸命にお客さんのニーズをキャッチアップしてきましたから。
4Gamer:
はい。
吉田氏:
そうしたなかで,本気でゲームというものに取り組んで,ゲームというものを中心に機器群を揃えて,大きなサービスを作っていこうと考えている会社は,なんだかんだいって,世の中にそんなに多くはないと思うんですよ。だからこそ,我々にも存在価値があるというか。PlayStationというサービス/ブランドが,世の中で存在する意味があるのかなと思っています。
“ゲーム機の復権”なるか
4Gamer:
しかし,ここ最近のPlayStationプラットフォームは“良い流れ”に乗れているようですね。
吉田氏:
はい,おかげさまで。PS4の予約は早くも100万台(全世界で)に届きましたし,なんというか,ユーザーさんも,そしてデベロッパさんからも,とても熱い応援を頂けていると感じています。とくにインディーズのゲーム開発者の方々は本当にノリノリで。みんな若くて,元気のある人達だからというのもあるんでしょうけど,彼らの持つ熱気に当てられた感はありますよね。
4Gamer:
というか,あの開発者側(とくに海外)の盛り上がりってなんなんでしょうか。E3の発表会でも,拍手がわき起こったりしましたよね。GDCでの発表とかを見ていても,「これぞ俺たちが待ち望んだプラットフォーム!」みたいな雰囲気があって,あれはあれでちょっと不思議なんですが……。
吉田氏:
いや,本当にね(苦笑)。あの感覚は,PS2,PS3時代ではなかった空気感というか。それこそ初代PSを発表した時の熱狂的な雰囲気にも似たものを感じるんですよね。
4Gamer:
ただ初代PSの時は,実際「PlayStationがゲームに革命をもたらす」みたいな感覚があったと思うんです。これまで出来なかったことがPlayStationなら実現できる!という,そういう期待感がありました。一方で,これは意地悪な言い方かもしれませんが,PS4にはそこまでの革新性はないようにも思えます。
うーん。ジャーナリストの方にもそう言われるんですけれど,PS4の最大の特徴って,一言で言うなら“成熟度”みたいなものだと思うんです。もちろん,ゲームにとって新しい技術を盛り込む努力,新しい驚きを生み出す努力は必要なんですけれど,ゲームの開発規模が大きくなり,市場環境が変化した今となっては,単純な“新しさ”だけではやっていけません。作りやすさ,売りやすさ,遊びやすさ,いろいろなものが整っている必要があると思うんです。
4Gamer:
そうかもしれません。
吉田氏:
そういう状況のなかで,我々が提示したもの――スペックの良さだったり,PCベースのアーキテクチャだったり,インディーズゲームへの取り組みだったりといったものが,少なくとも現時点では評価を頂けているんだと認識しています。
4Gamer:
インディーズへの取り組みに関しては,正直,最初はちょっと疑っていたんです。しかし,途中から「あ,SCEは本気なんだ」と思い直して。
吉田氏:
我々は真剣ですよ。もちろん,ビッグタイトルはビッグタイトルで重要なんですけれど,それだけでユーザーさんが満足するかというと,そういうわけでもありませんからね。
今は,もう両極端なんですね。大作ゲームはより大規模になって,いまや1000万本売る前提のスキームでゲームが作られているじゃないですか。PS2くらいまでの頃っていうのは,いわゆる中堅タイトルがたくさんあって,そんな中から人気になっていったタイトルがたくさんありました。だけど,今は経済的な理由から,そうした中堅タイトルが成り立ちにくい状況です。
4Gamer:
プレイヤーの側も,同じお金を払うなら,開発費が3億円のゲームより,100億円のゲームを買うんですよね。
吉田氏:
ええ。だけど,作品の幅とか裾野ってものは,可能な限り広くあるべきだと思うんですよ。いろいろな作品,いろいろなチャレンジがあってこそ,新しいジャンルや新しい驚きに対しての余地が生まれますから。
だから,デジタル環境が整ってきた今,ダウンロード販売だとかインディーズのゲームに目を向けるというのは,ある意味で必然だと思っています。そして,その中から新しいヒットの芽であったり,次代を担うクリエイターやメーカーが生まれてくるんだろうなと。そこは間違いないと思っていますよ。
4Gamer:
一言でインディーズといっても,学生もいれば,10年以上実務経験のあるベテランがいたり,いろいろですからねぇ。
吉田氏:
でも,みんな「自分の作りたいゲームを作る!」って熱意を持っていますよね。そうした熱気/熱量はやっぱり大事だと思います。PS4やPS Vitaでは,そうした人達への支援,アプローチを行っていきたいですね。少人数,あるいは1人でもゲームが出せるようサポートをして,インフラを整備していきたいですね。
世の中にゲーム好きはたくさんいる!
4Gamer:
しかし,ふり返ってみると,ここ2〜3年は「ゲーム機はもう終わりだ」という論調が多く聞かれました。
吉田氏:
そうですねぇ。ちょうど1年くらい前が,一番風当たりが強くて,厳しい時期だったかもしれません。
4Gamer:
そうしたなか,ここに来てまた盛り返してきている原因はなんだと分析していますか?
吉田氏:
うーん。やっぱり,なんだかんだで「ゲーム」を好きな人がたくさんいるってことに尽きるんじゃないでしょうか。最近はスマートフォンでゲームがたくさん出ていて,そちらが盛り上がっているのは確かですけれど,一方で,「凄いゲーム」や「コアなゲーム」を求めている人達もたくさんいる――結局のところ,そういうことだと思うんです。
4Gamer:
まぁ,そもそも「コアゲーマー」ってなんだって議論もありますが。
そうですね(笑)。昔からよく言うんですけど,映画好きを「コア映画ファン」みたいには呼ばないじゃないですか。それと同じように,“ゲーマーという括り”が大きくなってくれば,誰もコアゲーマーとは言わなくなるのかなという気はしているんですよ。
4Gamer:
「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」は一般の人でも普通に遊びますし,海外市場でいえば,大作FPSなんかは,それこそドラクエとかに近いポジションですよね。
吉田氏:
ええ。あれは完全にマスマーケット狙いの作品ですからね。例えば,「コール オブ デューティ」のTVCMなんかを例に出すと,主婦の女性やスーツを着たサラリーマンが戦場へ行く――みたいな宣伝の仕方をしているんですが,つまり,「コール オブ デューティ」はそうした一般の人達に向けてプロモーションをしていて,実際に買うお客さんもかなり幅広いわけですよ。
4Gamer:
そのあたりは,ハリウッド映画とかに近い形ですよね。
吉田氏:
はい。要するにね,コアなゲームというものへのニーズって,多くの人が想像しているよりも大きくて,たくさんのお客さんがいる分野だと思っています。まぁ,こういう話を海外のメディアさんで語ると,「吉田は楽観的な奴だ!」とか言われて叩かれるんですけれど(苦笑)。でも私は,そうしたゲームの魅力や需要というものを信じてやっています。
4Gamer:
ハードウェアの移行期による売り上げの落ち込み,それと同時期に立ち上がってきたスマートフォン市場の拡大,ソーシャルゲームの隆盛……いろいろなものが重なった結果,ゲーム機に対する不安感は今もかなり強いと思うんですけど,吉田さん自身にそうした不安はないんでしょうか。
吉田氏:
もちろん,我々が現在の状況を楽観視しているかというと,決してそういうわけでもありません。市場環境は刻一刻と変化していますし,時代の流れはとてもはやい。現状,PS4に関しては良い反響を頂けていますが,実際どうなっていくかは,やはり売り出してみないとなんとも言えません。
4Gamer:
そうですよね。
吉田氏:
ただPS Vitaもそうですが,我々は苦しみながらも粘り強くやってきましたし,少しずつ盛り返してきたという手応えも感じています。だからPS4もね,じっくりと取り組んでいく覚悟ではいますよ。
4Gamer:
ちなみにPS4の予約台数って,北米と欧州の比率はどうなっているんですか?
吉田氏:
具体的な数値はちょっとお答えしづらいんですけど,PS3の状況から見てどちらも台数自体は同じくらいとお考えいただければ。ただ,市場規模としては北米の方が大きいですから,マーケットに対するシェアという意味では,北米はちょっと低いという感じです。
4Gamer:
やっぱり北米市場は,Xbox Oneの存在が大きいんでしょうか。
吉田氏:
そうですね。まぁただ,現時点でPS4が負けているだとか,そういう意味では決してないんですが,北米はやっぱりXbox 360が強かったですからね。「我々はチャレンジャーだ」という意識を持って取り組んでいるところです。ライバルがいること自体は,市場全体にとっては良いことだと思いますから,我々も負けないように頑張りたいですね(笑)。
4Gamer:
分かりました。では改めて,最後に日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。
吉田氏:
まずPS4に関して,国内での発売が来年になってしまうことについてお詫びをさせてください。発売が遅れるぶん,より万全の体制で臨みたいと考えているので,ぜひご期待頂ければと思っています。
一方,PS3とPS Vitaでは,今年の年末にかけて面白いゲームがたくさん発売されますから,今年の年末はそちらを遊んで頂きつつ,PS4の発売をお待ち頂ければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「PlayStation 4」ならびに「PlayStation Vita TV」についての話とともに,PlayStationプラットフォームそのもののあり方についても探ってみた今回のインタビュー。市場環境が激変するなか,日本では発売が来年に持ち越されることになったPlayStation 4について,そして,今後さらなる激戦が予想されるデジタル機器の市場において,AppleやGoogle,SAMSUNGといった世界的な企業と戦っていくために,ソニーが見いだした対抗軸についてなど。ゲームの話を中心にしながらも,いろいろなものが見えてきた取材だったように思う。
とくに,オープンさを強みとする新興プラットフォームに対して,コンテンツの質と健全性を重視したPlayStationプラットフォームが,市場からはどう評価されるのかは非常に興味深い。棲み分けがされるのか,それとも水は低きに流れるのか……。今後のゲームビジネスのあり方,コンテンツのあり方そのものにも影響を及ぼす可能性は高く,その行方は気になるところだろう。
ともあれ,7年ぶりに刷新のタイミングを迎える据え置きゲーム機市場。欧米では,PlayStation 4およびXbox Oneが2013年11月に発売され,再びの激戦が予想される一方で,ゲーム専用機――なかでも据え置きゲーム機が今後も一定のプレゼンスを保ち得るのかどうかは,両機の成否にかかっていると言っても過言ではない。日本先行で投入されることになるPS Vita TVのポジショニングや,PS Vitaの盛り返しをどうやっていくのなどを含め,今後のSCEの動向に注目していきたい。
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