プレイレポート
「鏡の前にいる人」役と「鏡の中にいる人」役が動きをシンクロ! デジタルの遊具「Mirror Of Terror」プレイレポート[TGS2024]
他人と息を合わせてプレイする本作は,ちょっと恥ずかしいのと同時にコミュニケーションも進み,「鏡の前にいる人」の人間力が問われるゲームデザインが特徴なのだ。
ユニークなメカニクスを持つ“デジタルの遊具”
「Mirror Of Terror」の試遊場所は,ブース内の少し開けた場所だった。この場にはセンターラインが引かれており,ここに“鏡”が置かれている……という見立てだ。2人のプレイヤーが鏡を挟んで立ち,1人が「鏡の前にいる人」,もう1人が「鏡の中にいる人」になる。
B側の「鏡の中にいる人」は,鏡の中に捕らわれた設定。「鏡の前にいる人」になりきることで,鏡の世界から解放される |
プレイ方法は,「鏡の前にいる人」がポーズを取り,これを「鏡の中にいる人」が真似するだけ。プレイフィールドには2人の動きを捉える2台のカメラが置かれており,映像から手足の位置を認識。似たポーズになっているとスコアが入る。
プレイ時間は70秒で,スコアが一定値を超えていると「鏡の中にいる人」が解放されるといった塩梅だ。
「鏡の前にいる人」の動きが早いほど,シンクロで得られるスコアは高くなるようだが,「鏡の中にいる人」が真似するのが難しくなってしまう。つまり,欲張りすぎるとスコアが入らなくなるということ。どこまで動きを早くするかは,両者がコミュニケーションを取って決めなければならないのだ。
ポーズをテーマにしたゲームはいろいろあるが,その多くがゲーム側からお手本のポーズを出題され,人間がこれに合わせて動くというものだ。しかし,本作にそうしたお手本は存在しない。
「鏡の前にいる人」と同じポーズを取る遊びであり,どんなポーズを取るか,またどれだけ素早く動くかは「鏡の前にいる人」の自由なのである。
試遊後は,いろいろな人のプレイを見ていたが,「鏡の前にいる人」役の違いによってポーズはずいぶんと変わってくるのだなと感じた。ボディビルのようなポーズを取る人がいれば,ラジオ体操をする人もいるし,片足立ちでひょうきんなポーズを取る人もいる。中にはジャンプしたり,その場でクルクル回ったりする人もいて,ゲーム自体の難度も大きく変わってくるのである。
2人の関係性によってもゲーム展開に変化があるのがおもしろいところ。例えば,男性の友だち同士だと動きが結構素早くなり,「鏡の中にいる人」からは苦笑混じりに「ついていけねえよ」と声が上がる。
これがカップルになると,男性が気を使ってゆっくりとした動きをし,女性が「もっと早くしても大丈夫!」と言ったりもする。また,戸惑いながらプレイしているコンビもいたし,「鏡の中にいる人」が盛りあげ上手で一気にハイテンションなプレイになったこともあった。
通常のビデオゲームなら,お手本ポーズの種類や出てくる順番は有限で,ゲーム展開はある程度決まっている。しかし,本作のメカニクスでは「鏡の前にいる人」のバックボーンや考え方,「鏡の中にいる人」との関係性次第で,無限の展開が作り出される。
「鏡の前にいる人」の人間力が高ければイベント的なプレイになるし,お互いが照れながら遊ぶのも忘れがたい経験になるはず。自分でプレイするのは楽しいし,他人のプレイを眺めているのも楽しいのだ。
こうしたおもしろさと可能性が,デバイスや小道具といったギミックに凝るのではなく,その逆のアプローチを採ることで生まれているのも興味深い。
1人でもプレイできるように,等身大の液晶パネルを置き,そこに美少女やイケメンキャラクターが出てきてお手本を示す手もあっただろう。近年のイベント会場で見られるように,これらのキャラクターを遠隔からリアルタイムのモーションキャプチャで動かすことも可能ではあるはずだ。
また,世界観を表現するために豪華な装飾をした鏡(向こう側が見えなければならないので,実際にはガラス板や枠のみ)を置いたり,周りを囲ったブースとして鏡に閉じ込められた状況を表現したり,スタート前にムービーや漫画で世界観を説明をするという手もあるだろう。
しかし本作は,デバイスや小道具を最小限に抑えている。ゲームのテーマである鏡ですら,枠一つなくプレイヤーに想像してもらうのだから徹底している。おかげで簡単なルール説明を受けるだけで,大人から子どもまでが機器の装着や下準備なく即座にプレイすることができるのだ。
本作を手がけるENTAFLIP(エンタフリップ)の住吉政英氏は,本作をゲームというよりはデジタルの遊具である,と語る。
開発のきっかけは,「人間のコミュニケーションの本質はフェイスtoフェイスに正面から向かい合うこと。しかし,プレイヤー同士が生身で直接向かい合ってプレイするビデオゲームが存在しないようなので,ここに着目すれば新しいものを作れるのではないか」と考えたことにあるという。
テストプレイした人からは,1人プレイモードの必要性や,お手本を表示するスタイルの提案もあったものの,結局は初期のコンセプトを変えることなく完成させている。
これは,氏と娘さんがコミュニケーションを取りつつテストプレイを続けたことにより,本作の大事な部分を改めて確認できたから。おかげで,元々目指していた方向性からブレることなく開発を進められたのだというから,ゲーム作りにおいて初期コンセプトを再確認し続けることの大切さが分かる。
また「2人のプレイヤーに年齢差があっても遊べるようなものとしたい」という思いもあったという。体感系のゲームには,“開発者の想定と実際のプレイヤーの身体能力が異なっており,難しすぎたり簡単過ぎたりしてゲーム体験が損なわれる”といった事例が見られる。
しかし本作の形式なら,「鏡の前にいる人」がコミュニケーションを取ることで最適な難度を探してくれるという,自由度の高さが存在しており,前述した齟齬が起こりにくくなっている。
言い換えれば難度調整をプレイヤーに丸投げしているわけで,氏にも「自由すぎることでプレイヤーが戸惑ってしまい,プレイが成立しなかったり,放棄する例が出るのではないか」という懸念があったという。しかし,実際にTGS 2024で多くの人にプレイしてもらっても,そうしたケースは起こらなかったそうだから興味深い。
鏡を表す小道具が存在しないのも本作の特徴の一つ。氏によれば「そうした小道具を用意すべきかどうかを迷っていたものの,安全性の問題に加え,それなりの質のものを用意しないと安っぽくなってしまうため,導入を見送った」のだという。
その結果,プレイの雰囲気や遊び方は簡単な説明からしか知ることができなくなったが,プレイヤーの多くはすぐに理解できていたそうだ。
ゲームのバックストーリーにしても,NPCの妖精がいてポーズで助け出すようなものや,鏡の世界の大魔王と戦うものなど,世界観をリッチにしたものも考えていたらしい。しかし結局は,シンプルさを突き詰めた現在の形におさまったという。現在のビデオゲームの多くが世界観や物語を重厚にしていることを考えると,この遊び重視のスタイルは興味深いものがある。
なお本作には,原作ともいえるゲームがある。それは,住吉氏が1987年に「マイコンBASIC Magazine DELUXE PC-8801・PC-8001プログラム大全集」に投稿し掲載された「MIRROR MAN」という作品だ。
鏡の世界の主人公の両手足を動かして,鏡の前にいる人のポーズを真似るというもので,「Mirror Of Terror」には同作のリメイクという側面もあるという。
住吉氏は,同誌の初代編集長である大橋太郎氏に「Mirror Of Terror」のことを報告したいと願っていたところ,今回の東京ゲームショウでたまたま出会い,その願いが叶ったそうである。世の中何が起こるか分からない,人の縁は実に不思議なものだ。
住吉氏が投稿した「MIRROR MAN」 |
世界観や物語,システムを作り込んでいくリッチなビデオゲームが数多く出展される中で,人間どうしの関係性に着目し,とことんまでシンプルにしたデジタルの遊具である本作が好評を博すのだから,ゲームというものは実に幅広く奥深い。
なおエンタフリップのホームページには,氏が制作した“かるた拡張ルール”である「ことばづけかるた」を始めとしたユニークな作品が見られるので,気になる人はチェックしてみよう。
「Mirror Of Terror」公式サイト
「エンタフリップ」公式サイト
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Mirror Of Terror
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