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2024年最強のゲーマー向けCPUの座を奪えるか?
AMD Ryzen 7 9800X3D
Ryzen 7 9800X3Dは,64MBのキャッシュメモリを実装したシリコンダイを,CPUダイに組み合わせてL3キャッシュメモリを倍増させる「3D V-Cache Technology」(以下,3D V-Cache)を採用したRyzen 9000シリーズ世代のCPUである。
これまでAMDは,3D V-Cache技術をRyzen 5000シリーズ世代の「Ryzen 7 5800X3D」で初めて導入した。Ryzen 70000シリーズでは,CPUのシリコンダイ(CPU Complex Die,以下 CCD)が1基の「Ryzen 7 7800X3D」に加えて,CCD 2基構成の「Ryzen 9 7950X3D」も発売するなど,ラインナップを拡大してきた。
3D V-Cache搭載CPUは,いずれの世代でも爆発的なゲーム性能を発揮してきただけに,Zen 5世代CPUのRyzen 7 9800X3Dに,期待しているゲーマーは多いだろう。そんなRyzen 7 9800X3Dを試用できたので,ゲーム性能を中心に調べてみよう。
第2世代となった3D V-Cache Technologyは何が違うのか
この第1世代の3D V-Cacheは,Ryzen 7000世代となるRyzen 7 7800X3DおよびRyzen 9 7950X3Dにも,そのまま受け継がれた。だが,今回のRyzen 7 9800X3Dでは,3D V-Cacheが第2世代へと進化しているのが大きなトピックだ。
第1世代3D V-Cacheは,ゲーム性能の大幅な向上をもたらしたが,一方でCCDとヒートスプレッダの間に3D V-Cacheが挟まるために,CCDの熱を逃がしにくいという問題があった。その影響もあって,最大クロックが3D V-Cache非搭載の標準モデルより押さえられているほか,Ryzenシリーズのオーバークロック機能である「Precision Boost Overdrive」(以下,PBO)を使えないなど,主として熱の制約による制限が課せられていたわけだ。
第2世代3D V-Cacheでは,第1世代の制約を撤廃したのが特徴だ。といっても発想はシンプルで,3D V-CacheをCCDの裏に実装したのである。
これにより,CCDとヒートスプレッダの間に余分なものが挟まることがなくなり,AMDによると前世代の3D V-Cacheに比べ,熱抵抗を約46%も削減できたという。厳密に言えば,シリコンダイの裏から逃げる熱というのもあるので,3D V-Cacheがない標準モデルに比べれば熱抵抗は高くなると思われるが,かなりの低減に成功したのは確かだろう。
その結果,Ryzen 7 9800X3Dは前世代であるRyzen 7 7800X3Dに比べて,ベースクロックは500MHz,ブーストクロックは200MHz引き上げられたほか,PBOを含めたオーバークロック機能をフルサポートする初の3D V-Cache搭載CPUになった。
動作クロックが引き上げられたことから,従来の3D V-Cache搭載モデルと同様に大幅なゲーム性能の向上が得られるだけでなく,高性能な8コアCPUとしてクリエイターやビジネス用途にとってもコスト対性能比に優れたCPUであると,AMDはアピールしている。4Gamer読者にとっては,ゲーム性能が最重要だろうが,一般的なアプリケーションの性能も大幅に引きあげられているのならば,朗報と言えるのではなかろうか。
前世代および上位モデルとRyzen 7 9800X3Dのゲーム性能を比較
Ryzen 7 9800X3Dの特徴は以上で,それ以外は,既存のRyzen 9000シリーズと違いはない。
チップセットドライバは,Version 6.09.25.044および以降でRyzen 7 9800X3Dに対応する。ちなみに,Ryzen 7 9800X3Dと直接の関係はないのだが,AMDによるとこの新しいチップセットドライバでは,これまでRyzenユーザーの悩みの種だった「AMD PPM Provisioning File Driver」(以下,Provisioning Driver)に,大幅なアップデートが加えられているそうだ。
Provisioning Driverとは,CCDを2基搭載するRyzenプロセッサでシステム遅延が重要なゲームのようなアプリケーションを実行する場合,片方のCCDに実装されているCPUコアを停止することで,システム遅延の悪化を防ぐ機能を担っている。CPUコア数が半分になってしまうが,ゲームではコア数よりも遅延のほうが重要というわけだ。
厄介なのは,OSやドライバソフトをそのままにCPUを交換すると,Provisioning Driverが認識しているCPUが変わらない点だ。そのためCCD×2基のRyzenからCCD×1基のモデルにCPUを交換すると,機能するCPUコアが頻繁に半減してしまい,十分な性能が得られなくなってしまう。
AMDは,Provisioning Driverの誤認識を避けるために,CPUを交換するときはOSを再インストールすることを推奨していた。そもそもCPUは頻繁に交換するものではないので,このトラブルに遭遇する頻度は低い。
とはいえ,Ryzen 7000シリーズ以降は,チップセットドライバをインストールするときに,Provisioning Driverも自動でインストールされることが問題を複雑にしている。Ryzen 7000シリーズからRyzen 9000シリーズに乗り換えるユーザーにとって,Provisioning Driverが落とし穴になる可能性があるからだ。
AMDも問題を認識していたので,チップセットドライバのVersion 6.09.25.044以降に組み込まれているProvisioning Driverは,CPUを交換しても正しく機能するようになったそうだ。そのため,基本的にはCPU交換にともなうOSの再インストールは必要ないとのこと。CPUを交換した場合でも,Provisioning Driverの削除および再インストールを行えば,交換後のCPUを正しく認識するという。
本題に戻ろう。Ryzen 7 9800X3Dの性能を検証するにあたり,今回はRyzenシリーズから,同じRyzen 9000世代の最上位モデル「Ryzen 9 9950X」と,直接的な前世代にあたるRyzen 7 7800X3Dを比較対象として用意した。また,Intel製CPUは,最新世代の最上位モデルである「Core Ultra 9 285K」を用いる。Core Ultra 9 285Kは,ゲーム向きとは言い難いCPUだ。Intel CPUのゲームキングは,依然として前世代の「Core i9-14900K」かもしれないが,今回は最新CPU同士の比較で進めていく。
先述のとおり,Ryzen 7 9800X3Dは,オーバークロックが可能になったことが特徴のひとつでもあるので,標準設定だけでなく,PBOを用いた軽めのオーバークロック設定もテストしている。AMDのレビュワー向け資料を参考に,ブースト時の最大動作クロックを+200MHz高めて,ブーストクロックの持続時間を調節する「PBO Scalar」を有効とした。
PBO Scalarの設定値は,UEFIで設定する必要があるが,これもAMDから指定されている上限となる10x(10倍)としている。
使用した機材は表2のとおりだ。今回はAMDからマザーボード,メモリ,SSD一式が指定されているので,Socket AM5プラットフォームに関して4Gamerとして独自に用意した機材はCPUクーラーと電源のみ。なので,あまり語るべきことはなかったりもする。
メモリは,G.Skill International製のDDR5-6000に対応するAMD EXPO対応メモリモジュール「TRIDENT Z5 NEO RGB」(容量16GB×2,製品型番:F5-6000J2836G16GX2-TZ5NRW)が指定されている。そのため,Core Ultra 9 285Kを含めて同じメモリモジュールを使用した。メモリ設定には,DDR5-6000設定のEXPOプロファイルを採用する。
CPUクーラーは,いつものとおり,ASUSTeK Computer製の大型液冷CPUクーラー「ROG RYUJIN II 360」を,積極的に冷却を行う「Turbo」プリセットで使用した。
実行するベンチマークテストは,4Gamerベンチマークレギュレーション30に準拠するが,3DMarkでは,UL BenchmarksがCPU評価向けに推奨する「CPU Profile」をテストしている。
ゲームテストの解像度は,3840×2160ドット,2560×1440ドット,1920×1080ドットの3種類。画質は高負荷よりの設定を採用するが,すべてのタイトルで超解像技術を用いて,レンダリング負荷を低減させたうえで,CPU性能の違いを引き出す設定とした。具体的な設定は各タイトルで触れていくことにしたい。
また,先述のようにAMDは,Ryzen 7 9800X3Dについてゲーム以外の一般用途でも卓越した性能を発揮するとアピールしている。なので今回は,追加のテストとしてUL Benchmarks製の総合ベンチマーク「Procyon Professional Benchmark Suite」からオフィスアプリケーションの性能を測定する「Procyon Office Productivity Benchmark」(以下,Procyon)と,MAXON Computer製の3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R23」を実行した。
Procyonは,実際に「Microsoft Office」を駆動してドキュメントの制作を実行するテストだ。動画の組み込みなど複雑なタスクを含むベンチマークなので,一般アプリの体感的な性能を正確に測定できる特徴がある。また,おなじみのCINEBENCH R23で,Ryzen 7 9800X3Dの演算性能を確かめられるだろう。
高いゲーム性能を持つRyzen 7 9800X3D
Ryzen 7は「R7 xxxx」,Ryzen 9 9950Xは「R9 9950X」,Core Ultra 9 285Kは「Core」を省略して表記することを断ったうえで,まずは「3DMark」(Version 2.29.8294)から,CPU性能を物理シミュレーションによって測定する「CPU Profile」を見ていこう。
CPU Profileでは,「Max threads」から「1 thread」まで6パターンでテストを行う。Max threadsは,CPUが実行可能な最大スレッド数で行うテストパターンだ。したがって一般的には,実行可能なスレッド数が多いCPUほど有利になる。16 threads以下は,スレッド数を決め打ちで実行するテストパターンで,今回テストしたCPUは,すべて16スレッド以上の実行が可能だ。結果はグラフ1である。
主役のRyzen 7 9800X3Dが8コア16スレッドのCPUなので16 threads以下を主として比較することになる。Ryzen 7 9800X3Dにおいて,PBOの効果はスレッド数が少ないテストほど,わずかだが見られるようだ。PBOは,熱および電流でクロックを制御するので,CPU全体にとって負担が軽くなる少ないスレッド数のテストほどクロックが上がりやすい。理屈どおりと言っていいだろう。
Ryzen 7 9800X3Dを,前世代のRyzen 7 7800X3Dと比較すると,PBOなしで約1.25倍前後,PBO有効では1 thread時で約1.29倍に達している。コアアーキテクチャの刷新と動作クロックの向上をあわせて,Ryzen 7 9800X3Dは,前世代の1.25倍〜1.3倍くらい性能というのが,ひとつの目安となりそうだ。
CPUコア数が多いRyzen 9 9950XやCore Ultra 9 285Kが,16スレッド以上でRyzen 7 9800X3Dよりも高いスコアを残すのは当たり前として,8スレッド以下で比較すると,Ryzen 7 9800X3Dは,Ryzen 9 9950Xよりも約5%ほど低く,Core Ultra 9 285Kに対しては,最大で約10%ほど低いスコアに留まった。Ryzen 7 9800X3Dはブーストクロックがやや上位モデルより低いので,シングルスレッドでも上位モデルには届かない結果だ。
続くグラフ2は,Fire Strikeの総合スコアとPhysics scoreをまとめたものである。
Fire Strikeの総合スコアを,前世代のRyzen 7 7800X3Dと比べると,PBO無効で約1.04倍,PBO有効時で1.06倍弱となった。結果的に,総合スコアでは上位モデルのRyzen 9 9950XやCore Ultra 9 285Kを上回っている。
一方,CPU演算性能を測定するPhysics scoreだと,前世代比で1.2倍前後のスコアを残している。全体に先のCPU Profileの結果とおおむね整合性が取れていると言っていいだろう。
続くDirectX 12ベンチマークであるTime Spyの総合スコアがグラフ3だ。
どちらのテストもCore Ultra 9 285Kがトップになっているが,描画負荷が高いTime Spy Extremeでは,前世代のRyzen 7 7800X3DよりもRyzen 7 9800X3Dがやや高い程度に留まる。一方で,フルHD解像度相当のTime Spyだと,Ryzen 7 9800X3Dが上位モデルのRyzen 9 9950Xを上回る結果を残すといった具合で,少し傾向が変わっていた。
その理由だが,Ryzen 7 9800X3は,Time Spy ExtremeにおいてCPU scoreが振るわないためだ。Time SpyのCPU testは,無印だとSSE3命令セットを,ExtremeではAVX2命令セットを使うという違いがある。なので,SSE3命令セットを得意とするRyzen系のCPUは,Time Spy無印の成績が高い傾向にある。
前世代と比べるとRyzen 7 9800X3DはおおむねTime Spy Extremeで約1.07倍程度,Time Spyだと約1.05倍程度となっている。PBOの効果はほとんど見られなかった。
グラフ4は,DirectX 12ベンチマークであるSteel Nomadの結果だ。
グラフのとおり,描画負荷が軽いSteel Nomad Liteでは,Core Ultra 9 285Kのスコアが低いことを除くと,Ryzen勢が1%以内の差で横並びになった。ゲームグラフィックスの描画性能に絞れば,GPUが性能の大部分を担うためにCPUの差は小さいという結果だろう。
3DMarkの最後は,DirectX 12 Ultimateの性能を測る「Speed Way」だ。結果はグラフ5である。
スコア自体は1%以内で横並びだ。レイトレーシングを含む重いグラフィックを描くSpeed Wayでは,GPU性能がスコアの大部分を担う。Steel Nomad以上に横並びになるわけだが,強いて言うなら,Ryzen 7 9800X3DのスコアがRyzen 9 9950Xや前世代のRyzen 7 7800X3Dにわずかに届いていないのが気になるところだ。とはいえ,誤差と言ってもいい程度ではある。
以上,3DMarkの結果を見てきたが,Ryzen 7 9800X3DのCPU演算性能は,前世代のRyzen 7 7800X3Dよりも,20〜25%程度高くなっているようだ。その性能差が,ゲームにどの程度の差となって現れるかがポイントになるだろう。
というわけでゲームのテスト結果を見ていくことにしよう。
1本めの「Call of Duty: Modern Warfare III」(以下,CoD:MW3)では,グラフィックス品質を「極限」に設定したうえで,「アップスケール/シャープニング」で「DLSS」を選択して,「NVIDIA DLSSプリセット」設定を描画負荷が軽い「パフォーマンス」としてテストを実行した。結果はグラフ6〜8となる。
すべての解像度でトップになったのは,前世代のRyzen 7 7800X3Dだった。Ryzen 7 9800X3DのフレームレートはRyzen 9 9950XやCore Ultra 9 285Kに比べれば十分に高いが,前世代には届いていないという格好だ。
どうしてこうなったかは不明だが,もしかするとゲーム側の対応が関係しているかもしれない。というのも,Core Ultra 9 285Kのスコアが,前回のレビューより1割程度向上しているからだ。これは,ゲームのアップデートにともなうもののようで,CoD:MW3がCore Ultra 9 285Kに対応した結果として,1割程度の性能向上が得られたのだろう。同じようにCoD:MW3がRyzen 7 9800X3Dに対応すれば,より高いフレームレートが得られるようになる可能性がある。なので,今回の結果は,参考として見ておいたほうがいいかもしれない。
次の「バイオハザード RE:4」では,グラフィックス品質を「限界突破」としたうえで,GPUを用いた超解像技術「FidelityFX Super Resolution 2」を「Performance(速度重視)」に設定して,描画負荷を下げている。結果はグラフ9〜11だ。
グラフのとおり,ほとんど横並びになる4K解像度を除けば,Ryzen 7 9800X3Dがほかを圧倒する結果を残した。前世代のRyzen 7 7800X3Dと比較すると,2560×1440ドットで約1.05倍前後,1920×1080ドット時には約1.08〜1.09倍高い平均フレームレートを残している。
PBOの結果もしっかりと見られるようで,2560×1440ドット以下の解像度で平均2フレーム程度は,PBOの効果で高くなっているようである。
「Fortnite」では,グラフィックス品質として「最高」プリセットを選択したうえで,「アンチエイリアス&スーパー解像度」に「DLSS」を選択。さらに「NVIDIA DLSS」設定で,最も描画負荷が軽い「パフォーマンス」を選択した。なお,Core Ultra 9 285Kでは今回も依然としてFortniteが起動しないためにスコアはない。
結果はグラフ12〜14となる。
Fortniteでも,Ryzen 7 9800X3Dは好成績を残しているが,バイオハザード RE:4とは異なり,PBOの効果はほぼ見られないか,やや逆効果になっている。前世代のRyzen 7 7800X3Dと比べると,平均フレームレートでおおむね1.03倍〜1.07倍程度高い。また,Fortniteで好成績を記録したRyzen 9 9950Xと比べても4K解像度で横並びになる以外は,約1.03倍程度高い平均フレームレートを記録した。Ryzen 7 9800X3Dは,Fortniteでも優秀と言っていいだろう。
次の「Starfield」では,グラフィックス品質のプリセットに「高」を選択して,「アップスケーリング」に「DLSS」,「アップスケーリング品質のプリセット」に「パフォーマンス」を設定したうえで,「フレーム生成」は「オフ」で計測した。
結果はグラフ15〜17だ。
Ryzen 9 9950Xが全解像度で低いのが目立つが,これはおそらくコアパーキングが機能して,コアの半分が停止した影響だろう。Starfieldは,コア数が多いほどフレームレートが高くなる傾向のタイトルだからだ。Ryzen 9 9950Xでコアパーキングが機能したとすれば,Ryzen系はすべて8コア相当で動作したことになる。
それを踏まえてRyzen 7 9800X3Dの平均フレームレートは,前世代のRyzen 7 7800X3Dと比較すると,2560×1440ドットでは1.1倍以上,1920×1080ドットではPBO無効時で約1.1倍,PBO有効時には約1.15倍という結果になった。Core Ultra 9 285Kを含めても,Ryzen 7 9800X3Dがほかを圧倒したと言えよう。
次の「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク」(以下,FFXVI黄金のレガシー ベンチ)では,グラフィックス品質のプリセットを「最高品質」に設定したうえで,「グラフィックスアップスケールタイプ」として「NVIDIA DLSS」を選択。さらに「適用するフレームレートのしきい値」として,「常に適用」を選択することでGPU負荷を下げる設定を採用した。
グラフ18が総合スコアである。
Ryzen 7 9800X3Dは,全解像度で高い成績を収めていて,これが4K解像度の総合スコアかと目を疑うほどだ。Ryzen 7 9800X3Dでは,PBOの効果がはっきりと見られるのもFFXVI黄金のレガシー ベンチの特徴で,2560×1440ドット時にはPBO有効で,約1.08倍もスコアが向上している。
前世代と比較するともっとも差が大きい1920×1080ドット時にPBO無効で約1.15倍,PBO有効で約1.18倍とまさに圧倒的だ。Ryzen 7 9800X3Dは,新世代のFFXIVキングといっていいだろう。
グラフ19〜21に,FFXVI黄金のレガシー ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめている。
平均フレームレートは総合フレームレートの傾向と,おおむね整合性が取れていると言えよう。Ryzen 7 9800X3Dは,最小フレームレートがほかに比べて有意に高いことも特徴で,非常に快適にゲームをプレイできるはずだ。
続く「F1 24」では,グラフィックス品質のプリセットに「超高」を選択。「アンチエイリアス」には「NVIDIA DLSS」を,「アンチエイリアシングモード」は「パフォーマンス」というGPU負荷を軽減する設定を採用した。
F1 24の平均および最小フレームレートをグラフ22〜24にまとめている。
Ryzen 7 9800X3Dの平均フレームレートは,ほかを圧倒していると言っていい結果だ。前世代と比較すると4K解像度ではほぼ横並びだが,2560×1440ドット時で約1.02倍〜1.03倍,1920×1080ドットでは約1.11倍〜1.12倍で,PBOの効果もわずかに見える。Ryzen 7 9800X3Dは,最小フレームレートも非常に高いので,快適にゲームをプレイできるだろう。
ゲームテストの最後となる「Cities: Skylines II」では,グラフィックス品質のプリセットとして「中」を選択するととともに,「アップスケーラー」として「NVIDIA DLSS Super Resolution」の「最大パフォーマンス」を選択して,GPU負荷を下げている。
結果はグラフ25〜27のとおりだ。
Cities: Skylines IIは,フレームレートが上がりにくいタイプのゲームだが,Ryzen 7 9800X3Dの平均フレームレートは,前世代のRyzen 7 7800X3Dに対して2560×1440ドット以下ならば約1.16倍以上という高い伸びが見られている。結果的に,Cities: Skylines IIで好成績を収めたCore Ultra 9 285Kをも上回る平均フレームレートを記録した。ただし,PBOの結果はほとんど誤差範囲内と見ていいだろう。
以上,テスト結果を見てきたが,CoD:MW3を除いて,Ryzen 7 9800X3Dはほかを圧倒する平均,最小フレームレートを記録した。すでに述べたとおり,CoD:MW3は,ゲーム側がRyzen 7 9800X3Dに対応することでフレームレートが伸びる余地があるだろう。Ryzen 7 9800X3Dは,現時点での最高のゲーム向けCPUとまとめていい結果ではなかろうか。
上位モデルに匹敵する一般アプリ性能が期待できそう
ゲーム以外の2つのテスト結果も見ておこう。グラフ28は,Microsoft Officeの性能を見るProcyonの総合スコアをまとめたものだ。
Ryzen 7 9800X3Dの総合スコアは,PBO無効時で7700台,PBOを有効にすると7900台となり,上位モデルのRyzen 9 9950Xをわずかに上回るスコアを記録した。前世代からの伸びは,PBO無効で約1.02倍だが,PBOを有効にすると実に約1.1倍に達している。Ryzen 9 9950Xは,Procyonにおいて非常に好成績を収めるCPUなので,それに匹敵するスコアを記録したRyzen 7 9800X3Dは,非常に快適にMicrosoft Officeで作業できるCPUと言っていい。
ところで,Core Ultra 9 285Kのスコアが振るわないのが目立つが,Core Ultra 9 285Kは細かい操作でのレスポンスがあまり良くない,有り体に言うともたつく印象で,それがProcyonの低いスコアに現れているようだ。Core Ultra 9 285Kは,演算性能が極めて高い一方で,直線番長的な性格のCPUのようである。
次のグラフ29は,CPUを使用して3Dのレンダリングを行うCINEBENCH R23の総合スコアをまとめたものだ。
CINEBENCH R23では,Core Ultra 9 285Kが直線番長ぶりを発揮してほかを圧倒した。16コア32スレッド対応のRyzen 9 9950Xに対しては,Single coreでは約1.03倍だが,Multi coreは実に約1.2倍のスコアを叩き出している。
主役のRyzen 7 9800X3Dは8コアCPUなりの結果といえるが,前世代に対してはSingle coreで約1.2倍,Multi coreでは実に約1.25倍のスコアを残している。CPU Profileで検証した結果と一致すると言っていいだろう。コア数が多い上位モデルほどではないせよ,CPU演算寄りの処理を,前世代より快適にこなせるCPUになったことは間違いない。
Ryzen 7 9800X3Dの消費電力はかなり高い?
最後に消費電力やCPUの温度を見ておこう。ベンチマークレギュレーション30に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力をまとめたのがグラフ30だ。
Ryzen 7 9800X3Dが,ゲームで最も高いピーク消費電力を記録したのは,Starfield実行時で約140Wだった。それ以外のほとんどのゲームでも,100Wを超えるピーク消費電力を記録している。ほとんどのゲームで70W前後を記録するRyzen 7 7800X3Dに比べると,倍増まではいかないまでも,ざっくり1.5倍くらいになった。
ゲームだと,PBO有効,無効の差はごくわずかのようだが,ゲーム以外では,Procyon実行時にPBO有効で,約17Wも高い約167Wを記録する。また,ProcyonとCINEBENCH R23では,Ryzen 9 9950Xをも上回るピーク電力を記録しており,Ryzen 7 9800X3Dは,決して省電力なCPUとは言えないようだ。
次のグラフ31は,アプリ実行中の典型的な消費電力を示す消費電力中央値である。
Ryzen 7 9800X3Dは,中央値もかなり高めだ。Starfield実行時には,PBO有効時で約132W,無効時で約129Wを記録した。Ryzen 7 9800X3Dの公称TDPは120Wなので,許容できる範囲ではある。しかし,ほとんどのゲームを中央値50Wでプレイできてしまう前世代のRyzen 7 7800X3Dに比べると,倍増に近いのではなかろうか。
ただ,操作中のインターバルやシングルスレッドの処理が長いProcyonやCINEBENCH R23では,Ryzen 7 9800X3Dの中央値が目立って高いわけではない。つまりRyzen 7 9800X3Dは,ゲーム実行時の消費電力が極めて高くなっている一方,適度にインターバルが生じる一般のPCオペレーションにおける消費電力は,それほど高くはなっていないという点は押さえておいていいだろう。
消費電力計測の最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テストの実行時におけるシステムの最大消費電力を,グラフ32にまとめておく。
ゲーム実行時に注目すると,やはりRyzen 7 9800X3Dのシステムの最大消費電力は,前世代のRyzen 7 7800X3Dに比べおおむね20Wほど高くなっている。ゲームプレイの消費電力は,性能なりに高いと結論していいだろう。ただ,ゲーム以外のアプリならば,それほど極端に消費電力が高くなったわけではない。
今回は,システム情報表示ソフト「HWiNFO64」(version 8.14)を使ってCINEBENCH R23実行時のCPUパッケージ温度も記録したので,その結果も最後に掲載しておこう。CINEBENCH R23のMulti coreを30分間連続実行して,その間の最大よび平均温度をグラフ33にまとめている。パッケージ温度である点に,注意してほしい。
Ryzen 7 9800X3Dのパッケージ温度は,PBO無効時平均で約85.6℃,PBOを有効にすると平均約87.1℃,最大は90℃を超えてきた。前世代比だと数℃高いが,第2世代3D V-Cacheだからこそ,CPU温度を高くできる設計になっているので,温度が高くなるのは織り込み済みといえる。
Ryzen 9 9950Xは,やけにパッケージ温度が低いが,ここはHWiNFO64が正しいパッケージ温度を取得できているか疑問だ。一方のCore Ultra 9 285Kは,パッケージ温度が最大100℃に達していて驚いたが,消費電力からすると妥当とも言える。直線番長らしいCPUというところだろうか。
2024年のゲームキング。しかし消費電力はかなり上がった
問題は消費電力だろう。ゲーム実行時の消費電力が,Ryzen 7 7800X3Dの1.5倍前後になっている一方で,フレームレートは1.5倍になっているわけではない。したがって,フレームレートあたりの消費電力という点では,Ryzen 7 7800X3Dのほうが上だ。この点をどう考えるかで,Ryzen 7 9800X3Dの評価が決まるだろう。
ただ,Ryzen 7 9800X3Dでは,コア電圧を詳細に最適化する「Curve Optimizer」などによるカスタマイズが可能だ。今回のテストでは,クロックを上げるPBOを試したが,逆にクロックを押さえ気味にしてコア電圧を下げれば,高いゲーム性能を維持したまま,Ryzen 7 7800X3D並の電力性能が狙えるかもしれない。そういう点でカスタマイズしがいのあるCPUとも言えそうだ。
AMDのRyzen 7 9800X3D製品情報ページ
- 関連タイトル:
Ryzen(Zen 5)
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