レビュー
ゲーム性能が高くなり,電力あたり性能はCore i9を圧倒
AMD Ryzen 9 9950X,Ryzen 9 9900X
刷新されたCPUアーキテクチャ「Zen 5」を採用するRyzen 9000シリーズの16コア32スレッド対応「Ryzen 9 9950X」と,12コア24スレッド対応「Ryzen 9 9900X」の2製品が,8月23日に国内発売となる。税込のメーカー想定売価は順に,11万9800円,8万8800円だ。
本稿では,これら上位2モデルのゲーム性能を,速報的にまとめていく。
Ryzen 9 9950X |
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ゲーム性能に限れば,CPU性能が占める割合はあまり大きくないとはいえ,究極の高フレームレートを狙うゲーマーや,1台のPCでゲームのプレイと実況配信をこなしたい人なら,ハイエンドCPUの導入は必須だ。Ryzen 9000シリーズの上位2モデルが,そんなトップクラスの性能を求めるゲーマーの要求に答えられるのかを見ていこう。
前世代との表面的な差はあまりないRyzen 9 99xxシリーズ
Ryzen 9000シリーズのエントリークラス「Ryzen 5 9600X」のレビューでも説明したが,Ryzen 9000シリーズとは,新世代のZen 5アーキテクチャを採用することで,クロックあたりの命令実行数(Instruction Per Clock,IPC)を従来比で16%も引き上げたCPUだ。Zen 5における改良点の詳細は,西川善司氏の技術解説記事を参照してほしい。
今回テストするRyzen 9 9950X,Ryzen 9 9900Xの主なスペックを,用意した比較対象とともにまとめたのが表1だ。
前世代にあたるRyzen 7000シリーズ上位2製品と見比べても,違いが非常に少ないことが分かるだろう。目に付く違いは大きく2つで,ひとつはベースクロックである。Ryzen 9 9950Xのベースクロック4.3GHzは,前世代にあたる「Ryzen 9 7950X」に比べて200MHz,Ryzen 9 9900Xの同4.4GHzは,前世代の「Ryzen 9 7900X」に比べて300MHz低い。
もうひとつの違いはTDP(Thermal Design Power,
それ以外のカタログ上の違いは驚くほど少ないが,解説記事で説明しているとおり,コアやキャッシュに大きな改良を加えたことで,IPCの最大16%向上に成功したと理解しておけば十分だろう。
Ryzen 9 9950X,Ryzen 9 9900Xは,既存の「AMD 600」シリーズチップセットや,Ryzen 9000シリーズと同時に発表となった「AMD X870」シリーズチップセットを搭載するSocket AM5のマザーボードで利用できる。なので,Ryzen 7000シリーズからのアップグレードを考えるユーザーもいると思うが,上位2モデルに関してはアップグレードに若干の注意点がある。
Ryzen 9000シリーズでは,「AMD PPM Provisioning File Driver」によるCPUコアの一時停止(コアパーキング)を積極的に利用しているようだ。具体的には,CCD×2基構成となるRyzen 9 9950X,Ryzen 9 9900Xでは,ゲームに代表されるレイテンシ重視のアプリケーションを実行中に,必要がない場合は,片方のCCD側のCPUコアを積極的に停める方向で制御しているらしい。
AMD PPM Provisioning File Driverはもともと,片方のCCDにだけ「3D V-Cache」を搭載する「Ryzen 9 7950X3D」や「Ryzen 9 7900X3D」において,ゲーム中に3D V-Cacheを載せていないCCD側のCPUコアを停止させることで注目されたドライバだ。
しかし,Ryzen 7000シリーズやRyzen 9000シリーズにおいては,3D V-Cacheを搭載していないモデルであっても,「AMD Chipset Driver」インストール時に,AMD PPM Provisioning File Driverもインストールされる。詳細はあまり公開されていないのだが,AMD PPM Provisioning File Driverは,コアパーキングだけでなくWindows内部のCPU管理情報の変更を行っているからだろう。
問題は,CPUを別のものに交換しても,Windows側のプロビジョニング情報が更新されない点だ。該当するケースは少ないとは思うが,8コア以下のCCD×1基モデルから,12コア以上のCCD×2基モデルへのアップグレードを行う場合や,CCD×2基モデルでもコア数が異なるCPUに交換を行う場合に,これが問題となる。
たとえば,Ryzen 9 9900XからRyzen 9 9950Xに交換すると,Windowsには12コア時の情報が残ってしまうので,6基の物理コアしかアクティブにならず,ほかのコアはパーキング状態になってしまう。同じことはRyzen 7000シリーズからのアップグレードでも起こる可能性があり,そうなると正しい性能を発揮できなくなるわけだ。
これを防ぐ確実な方法は,Windowsの新規インストールだ。一方,絶対確実とは言い切れないのだが,CPUを交換する前にAMD Chipset Driverをアンインストールしたうえで,さらにデバイスマネージャのシステムデバイスからも「AMD PPM Provisioning File Driver」を削除しておく。そしてCPU交換後に,AMD Chipset Driverを再インストールするという手順で,コアパーキングの齟齬を防げるようだ。
ポイントは,CPUを交換する前にアンインストールしておくという点。CPU交換後にアンインストールしても,現在のシステム構成がWindows側のプロビジョニング情報と異なっているために,インストール前の状態に戻らないことがあるようだ。
ただ,AMDがこの方法で防げると明言しているわけではないことに注意してほしい。あくまで筆者が調べた限りということなので,確実に防ぎたいのならWindowsの再インストールを行ういうことは覚えておいていただきたい。
標準設定状態で,ゲーム性能を競合と比較
では,テスト環境を説明しよう。
今回は,表1に挙げたCPUのゲーム性能を横並びで比較する。なお,Ryzen 5 9600Xのレビューでは,マザーボードの電力リミットを引き上げるオーバークロック機能「Precision Boost Overdrive」(PBO)によるオーバークロック状態でもテストしたが,今回は時間的な都合もありオーバークロックのテストは割愛した。
使用した機材は表2のとおり。基本的に,Ryzen 5 9600Xのレビューで使用した機材と共通である。マザーボードのUEFI(BIOS)も,Ryzen 5 9600Xのレビューと変わっていない。
なお,8月9日頃から,一部のマザーボードメーカーが,第14/第13世代Coreプロセッサの故障問題に対応する新しいマイクロコードを含むUEFIの提供を開始した。今回のテストで使用したASUSTeK Computer製のZ790搭載マザーボード「ROG MAXIMUS Z790 FORMULA」では,βバージョンとして修正マイクロコード入りの新しいUEFIが同社フォーラム上にアップロードされている。
しかし残念ながら,今回のテストにはギリギリのタイミングで間に合わなかったため,この修正マイクロコード入りUEFIは使用していない。そのため,CPUの故障を防ぐ「Intel Baseline Profile」を適用した設定のままでテストを行った。故障問題さえクリアになれば,よりアグレッシブな設定を行うことで,性能を多少は上乗せできる可能性がある。したがって,Intelファンには不満かもしれないが,時間的に間に合わなかったのでご了承いただきたい。
そのほかは特記すべき点はなく,Ryzen 5 9600Xのレビューと変わらない。使用した360mmの大型ラジエータ搭載液冷クーラー「ROG RYUJIN II 360」は,積極的に冷却を行う「Turbo」プリセットで統一している。
実行するベンチマークテストは,Ryzen 5 9600Xのレビューと共通だ。改めて説明しておくと,4Gamerベンチマークレギュレーション29に準拠しつつ,CPUレビュー向けに手を加えた内容となっている。
3DMarkは,次期レギュレーションを先取りする形で,UL Benchmarksが推奨するCPU性能テストとして「CPU Profile」テストを採用した。さらに,旧世代のDirectX 12テストである「Time Spy」に変えて,新たなDirectX 12ベンチマーク「Steel Nomad」「Steel Nomad Lite」を加えている。「Fire Strike」に関しては,Fire Strike“無印”のみをテストしている。
ゲームテストの解像度は,3840×2160ドット,2560×1440ドット,1920×1080ドットの3種類で行い,画質は高負荷よりの設定を採用する。ただ,すべてのタイトルで超解像技術を用いて,レンダリング負荷を低減させている。Ryzen 5 9600Xのレビューと同じ設定を採用しているが,それぞれの設定については,各タイトルでも注記する。
前世代に対しおおむねゲーム性能が向上
「3DMark」(Version 2.29.8282)で,CPU性能を物理シミュレーションによって測定する「CPU Profile」テストから見ていくことにしよう。
CPU Profileでは「Max threads」から「1 thread」まで6パターンでテストを行う。Max threadsは,CPUが実行可能な最大スレッド数で実行される。したがって,実行可能なスレッド数が多いCPUほど有利で,実行可能なスレッド数が同じならCPU性能が高いほどスコアが高くなる。「16 threads」以下は,スレッド数を決め打ちで実行するもので,今回テストしたCPUは,すべて16スレッド以上の実行が可能だ。
結果はグラフ1のとおり。
前世代と比べると,Ryzen 9 9950Xは,Ryzen 9 7950Xに対して9〜19%程度,Ryzen 9 9900XはRyzen 9 7900Xに対して8〜15%程度の性能向上を示した。ブーストクロックはどちらも前世代と変わらないので,IPC 16%向上というAMDの主張を考慮するとおおむね妥当だが,Ryzen 9 9900Xは,もう一頑張りほしいといったところか。
競合に比べると,Max threadsでは32スレッドの実行が可能なRyzen 9 9950Xがトップになるのは当然として,16 threads以下は,少し興味深い結果が見られる。まず,16 threadsでは,Core i9-14900KがRyzen 9 9950Xを1%強ほど上回っている。Core i9-14900KはP-coreが8基しかないので,16 threadsでは一部のスレッドが省電力向けのE-coreに割り当てられるか,P-core上のHyper-Threadingで実行されているはずだ。
一方のRyzen 9 9950Xは,物理コアが16基あり,Windowsは可能な限り物理コアあたり1スレッドを割り当てようとすることを考えると,Core i9-14900Kが健闘しているというか,Ryzen 9 9950Xのスコアが意外に低いと言えなくもない結果だ。
さらに,Core i9-14900KのP-coreに収まる2〜8 threadsだと,Ryzen 9 9950X/9900Xは,Core i9-14900Kに10%前後の差をつけられている。ただ,その差はスレッド数が少ないほど小さくなり,1 threadになると,Ryzen 9 9950X/9900XがわずかながらCore i9-14900Kを上回るスコアを残した。
「シングルスレッドだと競合を上回るが,スレッド数が増えると及ばない」という傾向は,ミドルクラス市場向けのRyzen 5 9600Xでも見られたものだが,上位モデルでもその傾向は変わらないわけだ。
もうひとつ注目できるのは,16 threadsにおけるRyzen 9 9950XとRyzen 9 9900Xのスコア差だろう。Ryzen 9 9950Xが順当に上回るものの,その差は約3.5%だ。前世代のRyzen 9 7950XとRyzen 9 7900Xの差はさらに,低く1%にも届かない。
Ryzen 9 9900XやRyzen 9 7900Xの物理コア数は12基しかないので,16 threadsでは半分の8スレッドが,SMTで実行されている理屈になる。物理コアが16基ある上位モデルとほとんど差がないということは,Ryzen系のSMTは非常に効率が高いようだ。
続くグラフ2は,Fire Strikeの総合スコアとGraphicsおよびPhysics scoreである。
総合スコアでは,Ryzen 9 9950Xがトップとなり,続いてRyzen 9 7950X,Ryzen 9 9900Xと順当な順番だ。
CPU性能を見るPhysics scoreに注目すると,Ryzen 9000シリーズの前世代との差は8〜9%程度で,CPU ProfileのMax threadsとほぼ同じで,理屈どおりと言ったところ。異なるのはCore i9-14900Kとの差で,Ryzen 9 9950Xだと約2%ほどの差しかない。使用する命令セットの違いが,CPU Profileとの違いになっているものと推測できる。
ちなみにGraphics scoreだと,Core i9-14900Kが他に比べて圧倒的に低いが,これは従来からFire Strikeに見られていた傾向で,結果的に総合スコアでもRyzen勢が有利という形になっている。DirectX 11世代の古いテストでもあるため,最新世代の非対称マルチコアCPUだと,どうしてもおかしな結果が出てしまいがちだ。
グラフ3は,DirectX 12ベンチマークであるSteel Nomadの結果をまとめたている。
GPUの描画負荷が高いSteel Nomadだと,強いて言えばCore i9-14900Kがやや高いが,おおむね横並びといっていい結果だ。描画負荷が軽くてCPU性能差が出やすいSteel Nomad Liteも,ほとんど横並びと言っていい程度の違いしかない。Core i9-14900Kがやや低いので,GPU負荷が軽い局面では,Ryzen勢が有利かもしれない程度のことは言えるだろう。
グラフ4は,DirectX 12 Ultimateの性能を測る「Speed Way」の結果だ。
レイトレーシングを含む非常に重いグラフィックスをレンダリングするSpeed Wayでは,GPU性能がすべてを決めると言える。強いて言うならCore i9-14900Kがほかよりやや低いが,有意な違いと言うほどではない。
以上,3DMarkの結果を概観すると,CPU単独の性能を測るテストでは順当に前世代から性能を上げているらしいと言える。ただ,トップエンドのRyzen 9 9950XとCore i9-14900Kの性能差は小さいようだ。また,Steel Nomadの結果を見る限り,今回の5製品におけるゲームの性能差は極めて小さいのではないかと予想できそうだ。
ゲームテストの1本めは,「Call of Duty: Modern Warfare III」(以下,CoD:MW3)の結果を見てみよう。CoD:MW3では,グラフィックス品質を「極限」に設定したうえで,「アップスケール/シャープニング」で「DLSS」を選択し,「NVIDIA DLSSプリセット」設定を描画負荷が軽い「パフォーマンス」としてテストを実行した。
結果はグラフ5〜7のとおり。
平均フレームレートに注目すると,3840×2160ドットではCore i9-14900Kがほかよりやや低い程度で,2560×1440ドットでは,僅差ながらRyzen 9 9950XとRyzen 9 9900Xが好成績を収めている。
ただ,CoD:MW3ベンチ終了後に表示されるパフォーマンス概観によると,2560×1440ドット以上の解像度では,GPUボトルネックが90%以上になる。つまり,フレームレートを支配しているのはGPUのスループットで,CPUはほとんど影響を与えてないのだ。したがって平均フレームレートに見られる差は,必ずしもCPUが原因とは言い切れない。
一方,1920×1080ドットでは,CPUボトルネックが70%前後に跳ね上がる。つまりフレームレートの差の多くを,CPU要因が占めるわけだ。1920×1080ドットの平均フレームレートを見ると,Ryzen 9 9950XとRyzen 9 7900Xが並んで優秀な結果を残し,次点はCore i9-14900Kとなる。
ただ,Core i9-14900Kは3つの解像度で最小フレームレートがRyzen勢に比べて明らかに低い。最小フレームレートはゲームの快適さを左右するので,平均フレームレートがCore i9-14900Kに届かなかったRyzenも,ゲームの快適さでは上回ると見ていいだろう。
続く「バイオハザード RE:4」では,グラフィックス品質を「限界突破」としたうえで,GPUを用いた超解像技術「FidelityFX Super Resolution 2」を「Performance(速度重視)」に設定して,描画負荷を下げている。
グラフ8〜10がその結果だ。
どの解像度も平均フレームレートの傾向は似通っていて,Core i9-14900Kがトップ,続いてRyzen 9 9950X,Ryzen 9 9900Xが続く順となった。カプコン製のゲームエンジン「RE Engine」は,Intel製ハイエンドCPUで性能が伸びる傾向が以前から見られるので,今回もそういう結果になったというところだろうか。Ryzen 9 9950X,Ryzen 9 9900XはCore i9-14900Kに届いていないものの,前世代に対しては順当に性能を上げている。
次の「Fortnite」では,グラフィックス品質として「最高」プリセットを選択したうえで,「アンチエイリアス&スーパー解像度」に「DLSS」を選択。さらに「NVIDIA DLSS」設定で,最も描画負荷が軽い「パフォーマンス」を選択した。
結果をグラフ11〜13にまとめている。
Fortniteの平均フレームレートは,3つの解像度でばらつきがあり,3840×2160ドットではCore i9-14900Kがやや低く,ほかは横並び。2560×1440ドットは,Ryzen 9 9950Xがトップで次点がRyzen 9 7950X。1920×1080ドットではトップがRyzen 9 9950Xで,次点がCore i9-14900Kとなっている。
どの解像度でも共通しているのは,Ryzen 9 9950XがCore i9-14900Kと同等か,多少上回る平均フレームレートを記録していること。Ryzen 9 9900Xは,Core i9-14900Kと同等といえるか微妙だが,前世代のRyzen 9 7900Xよりは,フレームレートをあげている傾向があるとまとめられるだろう。
続く「Starfield」では,グラフィックス品質のプリセットに「高」を選択して,「アップスケーリング」に「DLSS」,「アップスケーリング品質のプリセット」に「パフォーマンス」を設定したうえで,「フレーム生成」は「オフ」で計測した。
結果はグラフ14〜16だ。
Ryzen 5 9600Xのレビュー時と同様に,Starfieldでは,DLSSを有効にすると解像度ごとのフレームレート差が非常に小さくなる。Starfieldは,ユーザーによる操作が必要なタイトルということもあって結果にばらつきが大きいが,どの解像度でも,Ryzen 9 9950XとRyzen 9 7950Xが,ほかよりやや高いフレームレートを残す傾向があるようだ。
今回の結果とRyzen 5 9600Xレビュー時の結果を考え合わせると,Starfieldは,CPUで実行可能なスレッド数が多いほど,シンプルにフレームレートが上がる実装になっているのでは? という気がする。前世代のRyzen 9 7950Xが比較的優秀だったり,Ryzen 5 9600Xレビュー時にCore i5-14600Kが優秀な理由は,それで説明できよう。
ざっくり言えば,StarfieldにおけるRyzen 9 9950X/9900Xのゲーム性能は,前世代とあまり変わっておらず,Core i9-14900Kより優秀。Ryzen 9 9900Xは,Core i9-14900Kに届いていないとまとめられよう。
「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク」(以下,FFXVI黄金のレガシー ベンチ)では,グラフィックス品質のプリセットを「最高品質」に設定したうえで,「グラフィックスアップスケールタイプ」として「NVIDIA DLSS」を選択。さらに「適用するフレームレートのしきい値」として,「常に適用」を選択することでGPU負荷を下げる設定を採用した。
グラフ17に総合スコアをまとめている。
前世代と比較すると,Ryzen 9 9950Xは,Ryzen 9 7950Xに対して4〜8%程度,Ryzen 9 9900Xは,Ryzen 9 7900Xに対して1〜5%程度のスコア向上を記録した。Ryzen 9 9950Xはまずまずだが,Ryzen 9 9900Xは向上率がやや低いのが気になるという結果だ。結果的にRyzen 9 9950XはCore i9-14900Kに届かなかったものの,前世代よりは高いスコアを残せるようになっている。
グラフ18〜20に,FFXVI黄金のレガシー ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめておこう。
グラフのとおり,中/低解像度の平均フレームレートでは,Ryzen 9 9950XがCore i9-14900Kを上回る。ただ,Ryzen 9 9950Xは最小フレームレートが有意に低く,総合スコアでもCore i9-14900Kに届かなかった。平均フレームレートだけを見れば,Ryzen 9 9950XやRyzen 9 9900Xは,前世代よりもかなり性能を上げていることが分かるだろう。
次の「F1 23」では,グラフィックス品質のプリセットに「超高」を選択。「アンチエイリアス」には「NVIDIA DLSS」を,「アンチエイリアシングモード」は「パフォーマンス」というGPU負荷を軽減する設定を採用した。
F1 23の平均および最小フレームレートは,グラフ21〜23となる。
F1 23は非常に美しい形になっていて,ほとんど横並びの3840×2160ドット以外では,Ryzen 9000シリーズが順当に前世代よりフレームレートを伸ばした。Ryzen 9 9950Xは,Core i9-14900Kよりもわずかに高いフレームレートを記録している。CPUの新製品は,こうあるべきという感じのグラフだ。最小フレームレートにも問題はない。
「Cities: Skylines II」では,グラフィックス品質のプリセットとして「中」を選択するととともに,「アップスケーラー」として「NVIDIA DLSS Super Resolution」の「最大パフォーマンス」を選択して,GPU負荷を下げている。
結果はグラフ24〜26のとおり。
Cities: Skylines IIもDLSSを有効化すると,解像度ごとのフレームレート差が非常に小さくなるタイトルだ。それを踏まえてグラフを見ると,どの解像度も共通して,平均,最小フレームレートともに,Ryzen 9 9950X/9900Xが前世代に届かなかった。
解像度ごとにばらつきがあるとか,Ryzen 9 9950XとRyzen 9 9900Xで異なる傾向があるなら,測定時の問題とも考えられなくないのだが,3つの解像度で共通の傾向が出た以上,Cities: Skylines IIとRyzen 9 9950/9900Xとの間になにか問題があるのだろうとの疑いが出てくる。
ひとつ思いつく要因として,コアパーキングの機能がフレームレートに影響を与えている可能性を疑ったが,後述する消費電力から判断するに,コアパーキングが積極的に働いたとは思えない。おそらくは別の要因だ。いずれにしても,Cities: Skylines IIの結果は奇妙なので,Ryzen側のドライバやゲーム本体のアップデートによって,傾向が変わる可能性がありそうだ。
以上,ざっくりとテストを見てきたが,Cities: Skylines IIのような例外を除くと,Ryzen 9 9950XとRyzen 9 9900Xは,前世代よりもゲーム性能を上げていると言える。Ryzen 9 9950XがCore i9-14900Kを上回ったと言えるかは微妙なところだが,少なくとも匹敵するゲーム性能を持つことは間違いないようだ。
電力性能比は前世代とほぼ同程度
いつものように,各ベンチマーク実行中の消費電力を見ておこう。ベンチマークレギュレーション29に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力をまとめたのがグラフ27だ。
Ryzen 9 9950Xは,3DMarkのCPU Profile実行時に約217Wを記録した。Core i9-14900Kほどではないにせよ,ピーク時の消費電力はかなり大きい。一方のRyzen 9 9900Xも,ピーク時の消費電力は前世代を上回った。
ゲームでは,Ryzen 9 9950XがStarfield実行時に約195Wを,Ryzen 9 9900XはCities: Skylines II実行時に約212Wを記録している。いずれもピーク消費電力は,前世代をかなり上回っていると評価できる。軒並み200Wを超えてくるCore i9-14900Kに比べれば,かなりマシといえるが,性能向上の分だけ,ピーク消費電力は高いと見ていいだろう。
次のグラフ28は,アプリ実行中の典型的な消費電力を示す消費電力中央値である。
Ryzen 9 9950Xは,Cities: Skylines II実行時に約153W,Ryzen 9 9900Xも同タイトル実行時に約137Wを記録した。Cities: Skylines IIは,両CPUの成績が不自然に振るわなかったタイトルだ。先に触れたようにコアパーキングが影響しているとすれば,逆に消費電力中央値は下がるはずなので,消費電力中央値が比較対象よりも有意に高いにも関わらずフレームレートが出ないとなると,何か他の異常動作が起きていると判断せざるをえない。
そのほかの結果を概観すると,Ryzen 9 9950X/9900Xは,前世代と同程度かやや高い程度の消費電力中央値とまとめていいだろう。Core i9-14900Kは,Starfieldの消費電力中央値が低いのが目立つものの,これは測定時にアイドル状態結果が紛れ込んで中央値が下がった可能性が考えられる。Starfieldを除くと,Core i9-14900Kの消費電力中央値はかなり高めで,その点ではRyzen勢が総じて優秀と言っていいだろう。
消費電力計測の最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テストの実行時におけるシステムの最大消費電力をグラフ29にまとめておこう。
システムの消費電力では,GeForce RTX 4090が支配的となるので,CPUの影響はわずかだ。Ryzen勢の間に大きな差はなく,最大650W前後を記録した。それに対してCore i9-14900Kは,最大で約722Wを叩き出したので,Ryzen勢はシステム消費電力でも優秀と言えようか。
競合と戦えるゲーム性能を獲得したRyzen 9 99xx
前世代のハイエンドであるRyzen 9 7950Xは,ゲーム性能ではCore i9-14900Kに届かなかったので,Ryzen 9 9950XがCore i9-14900Kを超えるとは言えないまでも,比肩するゲーム性能を獲得したインパクトは大きい。極端に高い性能を持つわけではないが,Core i9-14900Kに比べれば,電力や熱的に扱いやすく,ゲーマーの検討に値するCPUと言える。
Ryzen 9 9900Xも,前世代に対しては順当に性能を上げている。消費電力はRyzen 9 9950Xよりも穏やかで,おおむね高いゲーム性能を持つので,電力性能比を重視するなら魅力的な選択肢になりそうだ。
電力性能比は,期待したほど前世代から向上してはいないが,原因のひとつとして,CPUクーラーがあるかもしれない。テストでは360mmサイズの大型ラジエータを備えるクーラーを,実用上最大(騒音的な意味で)の冷却といえる設定で使用している。Ryzen 9000シリーズのクロックは,前世代から引き続いて「Precision Boost 2」と呼ばれるアルゴリズムで制御されており,CPUの温度に応じてクロックを引き上げるので,大型クーラーが威力を発揮するほどクロックが上がり,消費電力も高まる理屈だ。
TDPに見合うような冷却システムを使えば,その分だけ性能が抑えられるが消費電力は穏やかになるだろう。カタログ上のTDPと本テストの結果に乖離があるように見えるのには,そうした理由があるかもしれない。
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